『リーン・アナリティクス』の著者、アリスター・クロール氏をゲストに招いて開催されたGrowthCon#1のイベントレポート。スタートアップにはなぜ「アナリティクス(分析)」が必要なのか?その概念と実践例を丸一日費やして日本のスタートアップに伝授した。
あなたがコミットする企業・チームに、アナリストの役割を担っている人はいるだろうか?
プロダクトやサービスの開発をどう行っていくべきかについて、シリコンバレーや国内の第一人者を招き、実践者や専門家から直接学ぶ機会を提供するGrowthCon#1 「LEAN ANALYTICS実践ワークショップ」 が10月24日、シリコンバレー/サンフランシスコを拠点に活動するグロース戦略専門チームAppSociallyの主催で開催された。
第一回目となる今回のゲストは『LEAN ANALITICS(リーン・アナリティクス)』の共著者でもあるALISTAIR CROLL(アリスター・クロール)氏。
スタートアップの創業者やエンジニア、大企業の新規事業開発部門に身をおく参加者が多く集まった本イベント。講演とワークショップ、公開メンタリングが行なわれたが、本レポートではアリスター氏の講演部分をピックアップ。
「スタートアップが成功確度を高めるには、ハスラー・ハッカー・デザイナーに加えて、アナリストの存在が重要になる」と語る同氏から、リーンスタートアップ、リーンアナリティクスの概念・実践例を学ぶ。
【記事ハイライト】
・No DATA, No LEARNING
・メトリックスの種類と捉え方
・リーンアナリティクスのフレームワーク,どのステージ(段階)にいるのか?
・スタートアップは本当に自分のビジネスモデルを理解しているか?
・注力するメトリックはたった一つであるべき。(OMTM-One Metric That Matters.)
・スタートアップにとっての"普通”を知る
・リーンアナリティクスのサイクル
・スタートアップのアナリストに必要な4つのスキル
【プロフィール】
アリスター・クロール ALISTAIR CROLL
シリアルアントレプレナー・『LEAN ANALITICS(リーン・アナリティクス)』著者。20年に渡り、サイトパフォーマンス、ビックデータ、クラウドコンピューティング、スタートアップ支援などの事業に携わる。現在、カナダ・モントリオール在住。
リーンスタートアップとは、「解決策だけでなく、何が課題かも不明確」な人や組織にとって有用となるものです。まるで禅問答のようですが、まずは「何を知らないかを知る」ところからはじめなければなりません。
リーンのアプローチは「解決しなければならない問題である可能性がある」というポイント(スペース)を見つけ、様々な特定の解決策を試していきます。繰り返し、繰り返し、テストしていくのです。
まずアイデアがあり、それに基づいてプロダクトを作ります。そこからプロダクトに関する正確なデータを集め分析することで学び、新たなアイデアにつなげていく。これがリーンのサイクルです。
このサイクルを回す上で欠かせないのが、必要なデータを計測し、把握すること。自分たちが目指す場所にどうやって到達できるか、分析(アナリティクス)することでその道筋のヒントを得ることができます。
リーンの考えが、なぜスタートアップで重要になるのかにも言及しておきましょう。スティーブ・ブランク(Steve Blank)はスタートアップを「安定的で、持続可能なビジネスモデルを追求している段階の組織」であると定義しています。これは非常に的を射ているものですね。
例えば美容室や個人レストランは既にビジネスモデルが存在しています。それは単なるスモールビジネス。スタートアップだと名乗りながら、もしビジネスモデルがないのであれば、それは単なる「趣味(Hobby)」に過ぎません。
スタートアップにおけるアナリティクスの役割とは、「適正なプロダクトを、適正なマーケットに、届ける手法を見つける(しかも、資金がなくなる前に)」ということなのです。
メトリックス(指標)には、Qualitative(定静型)、Quantitative(定量型)、Exporatory(探究型)、Reporting(報告型)という4つの種類があります。
よいメトリックスは、Understandable(理解可能)、Comparative(比較可能)、A ratio or rate(割合)、Behavior changing(行動を変えるもの)であること。特に4つ目の「行動を変える」というものにフォーカスしてください。
情報の中にもLagging(過去・現状の情報)とLeading(先行情報、先行指標)があります。これらはまさに「成長」がどこから来るのかという部分に深く関わる指標です。また、データには独立しているものと相互関係を持っているものもあります。
データ分析する際、そのデータをどう切り取るのか、どんな側面にフォーカスするのか、ということに気を配らなければなりません。複眼、Cohort(集団)という視点を入れてデータを分析すると、新しい事実が見つかることもあるでしょう。
数多くのスタートアップを長年見てきて気づいたのですが、どんなスタートアップでもEmpathy(共感)、STICKNESS(粘着質のリピートファン)、VIRALITY(口コミによる拡大)、REVENUE(マネタイズ)、SCALE(拡大)という5つのステージを必ず経験するんです。
Empathyが最初のステージです。課題の存在、ニーズの有無、市場の大きさを冷静に把握しなければなりません。そのニーズは自分で作り上げたものではないのか?といった問いを何度も続けるのです。
STICKNESSのステージは、課題を解決する方法と、ユーザーがお金を払ってプロダクトを使い続けてくれる方法を見つけ出した段階です。ここで需要なのは「穴のあいたバケツ」と表現されるように、離脱する顧客以上に新しい顧客を獲得できるか。"粘着質”の高い、継続利用してくれるファンの存在がキーとなります。
VIRALITYは顧客自身が新しい顧客を連れてくる段階。口コミですね。アプリ、サービスの機能に組み込まれている場合もあります。例えばSkypeの場合、相手もSkypeを使っていないと利用できませんよね。ここで問題となりのは、一人当たりどれだけ多くの人にプロダクトを勧めてくれるのか、そのスピードはどれくらいか?ということです。
次はREVENUE。ユーザーから入ってくるお金を、新しいユーザーの獲得に投資できるのかという段階です。
この4つのステージを満たせば、最後はSCALE。ここまでくると、自らのビジネスモデルを追求するのではなく、どれだけ大きくしていくかということにフォーカスしていきます。
この順序を間違えると大抵の場合、悪い結果になる可能性が高いんです。例えば、継続利用してもらえないのに口コミだけ広がっても、サービスの成長には繋がりにくいですよね。口コミの仕組み化や口コミしたくなるサービスにするよりも前に、お金を使って新しいユーザーを獲得しても、1人は1人にしかならない。彼らはなかなか口コミをしてくれないユーザーとなってしまいます。
私はスタートアップのビジネスモデルをE-Commerce、2-sided market、SaaS、Mobile app、UGC、Mediaの6つのアーキタイプに分類しました。みなさんのビジネスモデルもどれか一つ、もしくは組み合わさった領域に該当しているのではないでしょうか?
E-Commerce、2-sided marketは売買が成立した時や広告、SaaS、Mobile appは契約や購入タイミング、UGC、Mediaは広告やクリックスルーのタイミングでお金が入ってくるモデルです。
ぜひご自身のビジネスモデルのダイアグラムを描いてみてください。ダイアグラムはスプレッドシートではなく、こんなチャートであるべきです。デイブ・マクルーア氏が提唱し、GrowthHackのモデルでもあるAARRRモデルを基に、考えてみましょう。
重要なのはシンプルであること。自分のビジネスモデルを知り、仮説を立てるときに最も有用なツールとなるはずです。きちんとデータがとれていれば、それを基に適切な打ち手を取れます。どんなデータがとれていないのかも一目瞭然です。
ステージとビジネスモデルを理解すれば、たった1つの適切なメトリックにフォーカスを当てることができるんです。
「なぜ1つか?」よく聞かれます。答えは、「Yes, one」。
よくわかります。スタートアップにとって一つのメトリックスにフォーカスを当てるというのはとても難しいことだって。しかし、一つのメトリックに絞ることさえできれば、その問題は解決に向かうはずです。
例えば、トラフィックの問題を解決すると、今度はコンバージョンの課題が出たりすると思います。メトリックというのはストレスボールみたいなものです。握りつぶすと、次の課題が見えてくるんです。
次に「線引き」についてお話します。
「このデータはいい数字なのか?」「悪い傾向なのか?」ということを把握するためには、「普通」を知っていなければいけませんよね。nomalな状態が何であるかを知らなければ、間違った選択を取りかねません。
例えばスタートアップならば、週次5-7%の成長が求められるとYcombinatorのポール・グレアムは述べています。もしいま、その状態でない場合は、プロダクトをどう伝えていいのかわかっていないかもしれませんし、本当の問題を見つけられていない、市場が5%の成長を支えられないのかもしれません。
リーンアナリティクスのサイクルはKPIを定めるところから始まります。ビジネスモデルとステージから線引きを行ない、潜在的に良くしていけるポイントを見つけ出します。そこから仮説を立て、結果を測定し、期待を満たしているかをチェックしていきます。
ここまでくると出てくる結論は4つです。まずは成功したとき。素晴らしいですね。新しいKPIを設定します。次は良くない結果。諦めてしまう。もしくはサービスをピボットします。3つ目は新しい線を引く事。ちょっと卑怯な気がするかもしれません。一つ正当化される時は、顧客からその声が上がった時です。4つ目はもう一度チャレンジすること。
こちらのスライドをご覧ください。
私はサービスのプロモーションをしたい訳ではないんです。知っていただきたいのは、これだけ多くのアナリティクスツールがあるということなんです。特定のメトリックに特化したものやここに挙げられないものもたくさんあります。
自分のビジネス、サービスにあったツールを見つけてください。
500 StartupsのDave McClure氏はスタートアップに必要な役割・メンバーとして、
・ハッカー(プロダクトを作る)
・ハスラー(プロダクトを売る)
・デザイナー(ユーザー体験を設計する)
を挙げましたが、私はこの3つに加え、物事を計測するアナリストの存在が最重要であると確信しています。
最後に、ジョブディスクリプションとも言えるアナリストに求められるスキルをお伝えしたいと思います。
・Math…数学の基本的な素養。必ずしも統計のプロである必要はありません。基本的な分析ができるだけでも大きな武器となります。
・Engineering…エンジニアリング。小さなテストを自ら実践できるスキルです。
・Skepticism…懐疑的であること。正しいと証明できるまでは、間違っているのはないかと疑う姿勢です。
・Narrative…物語として語れる(Story telling)こと。データを理解するだけでなく、それをコミュニケーションを通じて伝えられるか。
以上です。ありがとうございました。
アリスター氏の講演資料はこちら
http://www.slideshare.net/aerodynamic/growthcon-japan-october-24
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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