働く女性を応援するイベント「ELLE Women in Society」が開催され、トリップアドバイザー代表の原田静織さんなど3人の女性ビジネスリーダーが「IT時代の働き方」を語り合った。3人とも、しなやかなバネで困難を乗り越え、柔軟かつ創造的にキャリアを切り開いてきた人物だ。彼女たちが考える、IT時代の幸せな働き方とは。
働く女性を応援するためのイベント「ELLE Women in Society」(エル・ウーマン・イン・ソサエティ)が2015年6月13日(土)、六本木アカデミーヒルズで開催された。ビジネス、音楽、文学などさまざまな分野で活躍する女性たちが登壇し、約1,000名の女性来場者とともに、「幸せになる働き方」について考えた。
3人の女性ビジネスリーダーによるセッションでは、90年代初頭にweb業界で起業した末松弥奈子さん、トリップアドバイザー代表の原田静織さん、HUB Tokyo代表の槌屋詩野さんが登壇。自身のキャリアを振り返りつつ、ITが可能にする新しい働き方について語り合った。
3人が歩んで来たキャリアは、三者三様だ。しかし共通するのは「環境変化」や「不都合な状況」に直面したとき、柔軟かつ創造的にキャリアを塗り替えてきたこと。
例えば末松さんは、妊娠をして身体が思うように動かなくなり、立ち止まった。しかしそこで「残業がない会社の設立」を発想。「24時間働けるのがかっこいい」と思っていた自分の価値観を、さっと塗り替えた。
一方、原田さんは、「時代がITバブルなだけで、自分自身は何もできない」と自己を客観視した経験を持つ。それ以来、「社長になるという最終目標から逆算して、必要な経験を積み上げていった」。「自分が本当に納得できるサービスかどうか」にこだわりを持つ槌屋さんは、会社員時代、会社の中を自ら変えて、自分が売りたいものを売れる環境を作っていった。
環境は常に変化していく。一方で、日本の働く女性を取り巻く環境は、依然として厳しい。働きやすい社会が実現されることが望ましいのは言うまでもないが、それを待ってただ立ち尽くしているわけにもいかない。今を生きる女性たちにとって、変化や困難に対するしなやかなバネ、”創造的な適応力”を身につけることは、幸せな働き方を手に入れるヒントになりそうだ。是非、以下に続く3人のトークを参考にして欲しい。
<登壇者プロフィール>
末松(神原)弥奈子:
ツネイシホールディングス株式会社 代表取締役専務 / 株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役会長
広島出身。学習院大学大学院修士課程修了。同年、ウェブサイト制作会社設立。黎明期のウェブに携わる。2001年、株式会社ニューズ・ツー・ユーを設立。ネットPR支援サービス「News2uリリース」やニュースリリースポータル「News2u.net」を提供。
原田静織:
トリップアドバイザー株式会社 代表取締役
中国上海生まれ。上海外国語大学日本語学科卒後1996年に来日。青山学院大学経営学部卒業後、IT企業を中心にビジネスデベロップメント&マーケティングを経験。2013年9月より現職。
槌屋詩野:
株式会社HUB Tokyo共同創設者&代表取締役
NGO勤務を経て、シンクタンクにて事業プロデューサーとして活動。その後、途上国などでのソーシャルビジネスを担当する。2012年に起業し、Impact HUBの東京拠点「IMPACT HUB Tokyo」を設立。
※プロフィール参照元 ⇒ http://womeninsociety.elle.co.jp/
トークセッションは3人の自己紹介からスタート。続いて司会者より「これまで歩んできたキャリア」について質問があり、話は展開していった。
末松:
私はこの20数年、キャリアプランってまったく考えたことがないんです。とにかく田舎に帰りたくなかったので、とりあえず社長になったらいいかなと。1993年に最初の会社を作ったのですが、当時、webサイトを作る仕事というのがすごく新しかった。誰もやったことがない業界だから飛び込みました。会社を大きくするとか、自分のキャリアプランとかはまったく考えておらず、次から次へと来る仕事をひたすらやっていただけ。
ふと立ち止まったのは結婚して妊娠したとき。それまでは「24時間働けることがカッコいい」と思ってやっていたけど、妊娠してからは自分の身体が思うように動かなくなって、仕事の仕方を変えないといけないな、と思いました。それで、新しく「残業のない会社」を作ろうと思って。ニューズ・ツー・ユーを設立しました。キャリアプランを考えたのではなくて、常に、自分の目の前の環境に適応してやってきたんですよね。
原田:
私はもともと起業志望でしたが、キャリアを積もうという意識になったのは、友人のスタートアップに参加したのがきっかけです。そのとき、「このまま起業したら自分は失敗する」と思いました。「時代がITバブルなだけで、自分自身は何もできない」ってことに気づいたんです。だから、「最終的に社長になるために何が必要なのか」ということ考えて、それを一個一個、経験してくことにしました。セールス、マーケティング、経営企画というように。性格的に緻密に計画立てていくほうではないのですが、キャリアに関しては割と慎重にやってきましたね。
私にはポリシーが2つありまして。1つは、「3年後自分がどうなっているか」を必ず想像してからスタートすること。もうひとつは、「ネガティブ転職」はしないこと。結局そこで逃げると次のキャリアでも同じ問題に直面するので。必ず、全盛期の一番自分がやりきったと思う瞬間に、次のパスに行くようにしてきました。
槌屋:
大学を出てNGOに入ったとき、先のキャリアはよく見えていない状況でした。ただ、「自分が納得するもの以外は売らない」ということだけは決めていました。会社や組織よりも、自分が本当に納得するものを提供できるのかを重視していた。シンクタンクにいたときも、会社の中を少しずつ変えていって。気がつくと、自分のチームができて、自分の売りたいものを売れるようになっていました。それで海外でのソーシャルビジネス立ち上げの仕事をするようになり、しばらく海外で仕事をした後、日本に戻って起業しました。
― 個人としても経営者としても、いろいろな決断を迫られることがあると思います。「失敗と不安」にはどう対処していますか?
末松:
やらなかったことのリスクを考えますね。失敗したらしたで、「経験」は残りますから。
原田:
どうせ生きているのであれば、いろいろあったほうが楽しい。ずっと成功だけだったら、つまらないんじゃないかな、と考えます。
槌屋:
やらないことで人生が無駄になるリスクのほうが大きい、と考えます。
― 経営者として、女性として、皆さんにとってのITとは。
末松:
経営者として、ITがなかったら困るという実感がすごくあります。移動時間のコストは非常に大きいですが、その大部分がテレビ会議で解決します。私の会社では、病気で通勤できないスタッフが、テレビ会議やチャットを使って、在宅で仕事をしています。それで業務が滞るということはありません。また子育て中の人は、子どもが熱を出したときなど、在宅ワークができると便利ですよね。最低限ルールを守る文化がある会社なら、ITを使って自由度の高い働き方が可能になるはずです。
原田:
IT企業でインターンをしていた頃、「これは世の中を変える大きな力だ」と思って毎日眠れないほど興奮したのを今でも覚えています。ただ、「サーバー」「パソコン」「ソフトウェア」とかって、女性からすると全然セクシーじゃないんですよ。その点、トリップアドバイザーは生活に溶け込んでいて、心底楽しいなと思う。これからも、「ITをいかにセクシーにしていくか」を心がけていきたいです。
槌屋:
今、私は軽井沢に住んでいて、週に2、3日必要なときだけ東京に出てきています。それで仕事は十分回ります。ロンドン、サンフランシスコのデザイナーとスカイプで打ち合わせて、そのまま仕事が始まるというスピード感もある。これがなかったら、今より全然仕事が面白くないでしょうね。また、英語ができれば、ITで世界が格段に広がります。今まで「日本女性」という輪の中に制限されていたものが、ITの力でとっぱらわれてきているなと感じます。
― 最後に、会場の女性たちへメッセージをお願いします。
末松:
「やるべきことをやってから、やりたいことをやりましょう」ということです。まずは上司や仲間の期待に応え、目の間にあるやるべきこときちんとやることが、適応能力を高め、自分のキャリアにつながっていきます。また今は、どんどん社会環境が変わるので、不安はいくらでも出てきます。しかし不安にばかりフォーカスすると、今やるべきことを見失ってしまう。目の前にあることをちゃんとやっていれば、不安の中でもきちんと意思決定ができるはずです。不安に気を取られすぎないでください。
原田:
女性っていうのは、「美しくあるべきもの」ではなく、「そもそも美しいもの」だと思います。だから「女性はわがままに生きていいんだ」と言いたいですね。仕事、恋人、人生選び、どれにおいても、わがままでいてもらいたい。キャリアについていえば、個人的には、自分の趣味がそのままキャリアになることがベストだと思っています。それが、究極のわがままかな、と。
槌屋:
女性はいろんな期待を背負って生きていますよね。両親から、子どもから。その期待に応えなきゃと思うあまり、「自分の期待」を忘れてしまうことがあります。ですから、自分が本当は何をしたい人間なのか、自分が自分に期待することは何か、腹の奥まで探っていくことを忘れないで欲しい。そうすればきっと、自分の能力が開花するのを感じるはずです。日本はセルフエスティームが低い女性がすごく多いなと感じます。その点を、今後の人生の中でぜひ思い出して欲しいなと思います。
(おわり)
文 = 柳澤明郁
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