2016.07.28
心を見える化!? 心温計を開発した未踏スーパークリエータの視点|ドイツ人工知能研究センター 石丸翔也

心を見える化!? 心温計を開発した未踏スーパークリエータの視点|ドイツ人工知能研究センター 石丸翔也

心が可視化できる!?そんな夢のようなツールを開発したのが石丸翔也さん(24歳)だ。現在、ドイツ人工知能研究センターで勤務中。国内では未踏スーパークリエータにも認定された。どんな思いで開発を?どうテクノロジーと向き合っている?その考え方に迫った。

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心を可視化する?!心温計を開発した石丸翔也

日々の行動ログをもとに心の状態を定量化し、体温計のように手軽に可視化する。

そんな新しい概念を具現化したツールが「心温計」だ。歩数・心拍数といった身体的な行動量だけでなく、読書や会話といった認知的・社会的な行動量をも測定。それらの多面的なデータに基づいて心の状態を推定する。

心温計

心温計の概要ページより

この「心温計」を企画・開発したのが石丸翔也氏だ。発表されたのは、IT分野で突出した人材を発掘・育成する未踏事業(※)。そこで彼は「スーパークリエータ」、つまり"より優れた"IT人材として認定されたのだ。

石丸氏は現在、ドイツにあるカイザースラウテルン工科大学・ドイツ人工知能研究センターの研究員として勤務。同時に博士号の取得を目指す。彼の研究分野は、テクノロジーによって人の認知的能力を向上させる「オーグメンテッド・コグニション」で「心温計」の開発もその研究の一環だ。

例えば、ウェアラブルセンサーやカメラを利用して人の動きを記録する。データから、人がどのような行動を取り、どんなことを考えているのかを推定することで、コンピューターが人の意思を汲み取り、行動を支援するような仕組みを作っています。

こう石丸氏は語る。国も注目する若手クリエーター石丸翔也氏とは何者なのか?テクノロジーに対する考え方とそのキャリア観に迫った。

(※)未踏事業(未踏IT人材発掘・育成事業)とは、突き抜けた才能を持つITイノベーターを発掘・育成するためにIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が行っているプロジェクトです。
未踏事業のWebページはこちら/未踏事業のPDF資料はこちら(4,5ページ)


[プロフィール]
石丸翔也
1991年愛媛県生まれ。2016年大阪府立大学大学院博士前期課程修了。株式会社はてなや株式会社paperboy&co.(現:GMOペパボ株式会社)などでのインターンシップやアルバイトを経て、現在はドイツ人工知能研究センター(DFKI)研究員及びカイザースラウテルン工科大学リサーチアソシエイト。2014年より慶應義塾大学KMD研究所リサーチャー。2016年より大阪府立大学客員研究員。経済産業省・情報処理推進機構より2015年度未踏スーパークリエータに認定。

未来予知の先にある、より良い行動を示したい

― 認知的能力の向上について研究されているということですが、その分野に興味を持った経緯とは何でしょうか?


人の「未来予知」みたいなことがしたい、そう思ったのがきっかけですね。たとえば、いまと同じ行動を続けていくと「A」という結果が待っていて、ちょっと行動や生活習慣を変えるだけで「B」という未来があるかもしれない。日々のデータをうまく見ていけば先のことを考えて行動できますよね。そうやって未来を予知することが結果的に人の生活をより良くできるのではないかと考えています。

もちろん「予知すること」がゴールではありません。未来を鑑みたその先の、人の行動を変えたい。3~4年ほど前に「人の行動や思考を変える」というテーマでいくつかアプリを作っていた時期がありました。自分の近未来に起こり得る状況を提示して、リスクに気づいてもらうことを目的にしたものです。

kotodama

寝坊ツイートをするbotサービス

例えば、「寝坊して会社や学校を遅刻した」みたいな失敗ツイートをたくさん集めて、絶望度順に並び替えたものを夜中にタイムラインに吐き出すTwitter Botなどです。夜更かししている人たちはタイムラインに流れてくるツイートを見て「あ!早く寝ないと自分も明日遅刻するかも!」と思いますよね。そのツイートはもしかしたら明日の自分からのメッセージかもしれない。「人の行動が変わる」そういう仕組みをつくることが面白かった。このアプリも、その仕組みを意識的に入れていました。

今のテクノロジーは、一時的な能力増強でしかない

― 石丸さんが思う理想のテクノロジーについても伺いたいのですが、どう捉えていますか?


身に付けている瞬間だけじゃなくて、人が自分たちの体力・知力作りをする段階から支援していく。そのテクノロジーに頼りきることなく十分な力を発揮でき、人間とコンピューターが両方とも成長していくのがテクノロジーの理想だと思います。

テクノロジーの歴史を振り返ると、乗り物のように人間の「身体的な能力補助」を目的とするものが生まれ、コンピューターの登場は「認知的な能力補助」に大きく貢献してきました。これからは「補助」だけではなく、「能力自体を拡張させるもの」が必要とされてくるのではないでしょうか。

パソコンが普及してから漢字を書けない人が増えてきたという話を聞きますよね。もしかしたら、コンピューターがどんどん賢くなっていくのに頼ってばかりいて、人間の認知的な能力は少しずつ低下しているのかもしれません。

ただ「漢字は変換して調べればいい」「計算は電卓を使えばいい」という意見もありますが、それはあくまでもコンピューターによる補助です。一時的な能力の増強でしかありません。それよりも、例えばコンピューターが人間の勉強に対する理解度や集中度合いをリアルタイムに計測することで、その人が効率よく知識を獲得する仕組みを作るなど、人とコンピューターの双方が賢くなるような未来をつくりたいと思っています。

目指しているのは振り子のような存在

― 開発したプロダクトを事業として実現する選択肢もあると思うのですが、なぜ研究者になったんですか?


開発者と研究者の間を、振り子みたいに行ったり来たりしたいと思っているんです。というのも今、情報工学の分野では、開発と研究の垣根ってどんどん曖昧になってきています。企業の中でもディープラーニングをはじめとする機械学習を実際に製品やサービスに組み込んでいるところが増えていますし、研究者も自分たちの考えているアイデアをプロトタイプとしてサクッと実装する能力が求められている。なので、両方の力が必要だと感じているんです。開発と研究を比べると今の自分には研究の能力が不足しているので、まずは研究者になることにしました。

また、今所属している研究所は以前にインターンで来た経験があったり、指導教員の推薦があったり、すごい追い風に乗っている感じがあったのも研究者を選んだ理由です。後になってから海外の研究所で働こうとすると、敷居は今よりもっと高くなります。今なら受け入れてくれる人たちがいる。じゃあこのチャンスは乗るしかないと思って決めました。もしダメだったら日本に帰ってもいいかなっていう気持ちも少なからずありますし、後押しにもなっています。


― 振り子のような存在。それは、ずっと研究者でいるわけではないということですね?


3年は動かないと決めています。博士号を取ることが直近のゴールなんです。ドイツでは博士号の取得に少なくとも3年から5年かかると言われているので、その間はドイツで研究に集中するつもりです。博士号取ったあとは、もしかしたらベンチャーに就職しているかもしれないですね。

(おわり)


文 = 大塚康平


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