グラフィックレコーディングの第一人者、清水淳子さんの思考整理メソッドを徹底解剖! 情報過多の時代にこそ知っておきたい「情報の取捨選択」「自分で考える」「判断軸をつくる」「ひらめきを逃さない」それぞれの方法って?
自分の言いたいことが、言葉にならない。相手に伝わらない。
仕事でも、プライベートでも、多くの人が感じたことのある「もどかしさ」ではないでしょうか。たとえば、会議。意見を求められた時にも「いいと思う」その理由や根拠が言葉にできない。社会人3年目の私(取材者)も、現在進行形で同じ悩みを抱えるひとりです。
どうしたら「なんとなくいいと思う」から抜け出せるのか。自分の考えを言葉にできるのでしょうか。
そんなことをモヤモヤっと考えていると、Twitterでこんなユニークな投稿を発見。
自分のぼんやりした興味をまとめるために試してみたプロセス。
— 清水淳子 (@4mimimizu) 2017年8月28日
1◆今気になってることをハガキサイズの紙に何でも書きまくる。
2◆似てるものを集めて順番にファイルに整理。
3◆その内容をA4一枚にキーワードのつながりで可視化。 pic.twitter.com/toQbFoLg0p
グラフィックレコーダーの清水淳子さんは、ヤフーで働くUXデザイナー。その傍ら、Tokyo Graphic Recorderとして、個人的にも活動(※)。会議の「対話」や「議論」を、図式や絵などで可視化する「グラフィックレコーディング」というコミュニケーション手法を日々研究。日本で広く知られるきっかけをつくった第一人者でもあります。
(※)著書に『Graphic Recorder—議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(ビー・エヌ・エヌ新社)
いわば「物事を整理し、わかりやすく描いて伝えるプロフェッショナル」。そんな彼女が普段大切にしてるのが、情報をインプットするだけではなく、その情報に対して「どのように自分の意見や軸を持つか?」ということだそうです。
いまの時代、情報過多の時代と言われていて。さまざまな人の意見や解釈にふれられることは素晴らしいことなのですが、SNSなどで情報を大量に浴びすぎると、ノイズのようになって、物事の本質や自分の意見を見失ってしまうことがあるように思います。
そういう環境で、どうすれば「わかったつもり」にならずに、自分の中から生まれた考えに出会えるか?ここに、私は結構悩んでいて…。そこで、 普段グラフィックレコーダーとして、人々の議論をまとめているように、どうにか自分のあたまの中で巻き起こっている思考も可視化できないかと考えて、いろいろな方法をチャレンジしています。
一体どんな風に自分のあたまの中を整理している? 教えて、清水さん!
準備編! 情報インプット・ストックはどうやればいい?
【1】まずは自由な感覚で情報をインプット。その理由を探る。
【2】ひらめきは自分宛てにMessengerで送ってストック。
【3】情報が生まれる場所を遡ってみる。
実践編! まる1日つかって、3ステップで思考整理を。
【1】ハガキサイズの紙に書き出し、頭の中をからっぽに
【2】ファイルに整理して、じぶんの思考の図鑑をつくる!
【3】A4の紙に、キーワードのつながりを構造化する!
なぜ「自ら考える」が大事? 情報の洪水に流されず「自分」を発掘しよう
思考整理にも、まずは“素材”と“下ごしらえ”が大事(料理のように)。というわけで、情報インプット・ストックについて伺いました。通勤時間やちょっとした休憩、空き時間でインプット。ただ、そこにもポイントが?
何で情報収集してる?
Twitter やFacebookなど。SNSでの情報収集の場合、デザイナー、編集者、研究者など各領域のプロフェッショナル・専門家をフォロー。画像やイラストなどはPinterestで、インプットしていくそうです。
ここまで聞くと特別な情報収集はしているように感じませんが、インプットした情報の使い方にポイントがあるのだとか。
[1]自由な感覚で「インプットした情報」の理由を考えてみる。
情報をインプットする時はあまり頭で難しく考えずに、「好きだな、素敵だな、心地いいな」とか「なんか苦手だな、変だな」など、何かしら感覚的に心が動いたものを集めているとのこと。そして同時に「なぜそう思うのか」。その理由を言語化しているのだそう。
情報をインプットしてると、充実感はあるのですが、それだけだと自分でなにも考えていないのと同じ。好き・嫌いと思う、タネが自分のなかにあるはずなのに見落としてしまっているんです。「なんとなく」で終わらないように、「なぜ好きと感じるか?苦手と感じるのか?」感覚の具体的な理由を考えてみることを心がけています。
このトレーニングをしていると、たとえば、デザインの提案をクライアントにする時にも、役に立ちます。「なぜこれがいいのか?」と言われて「なんとなく」ではなにも伝えることができません。毎日、いろいろな共感や違和感を感じながら、その理由を言語化していくクセをつける。そうすることで、曖昧な感覚も説得力をもって相手に伝えられるようになった気がします。
20代前半の頃は「なんでこれがいいと思うの?なんでこっちはダメなの?」と聞かれても、なかなか自分で考えてることを伝えられず、3週間ぐらい考えてやっと言葉にできるくらいのスピードでした。
最初は、時間をとって落ち着いて考えてみてもいいと思います。2~3ヶ月たって、ふと「あ、だから好きだったんだ」って思い出したり、気づけることもあります。繰り返して続けていくことで、だんだん早く理由を見つけられるようになる気がします。
[2]ひらめきは自分宛てにMessengerで送ってストック
情報を集めているうちに、浮かび上がってくるアイデアやひらめき。そのメモを、清水さんはとてもユニークな方法でストックしていました。
facebookメッセンジャーで自分宛に送っています。間違って人に送らないように、自分宛てに送るものは背景をピンクにしています。
なぜ、こういったやり方をしているかというと、アイデアや自分の考えは、湯気のようなものだと感じていて。あとで思い出そうとしても思い出せないことがほとんど。なので、消える前に素早く捕まえる努力と工夫をしています。
パソコンのEvernoteやテキストエディットでもいいのですが、立ち上げに時間がかかったり、文章として綺麗に書こうとしすぎたり、タグ付けルールを考えたりしていると、思いついたことが直感的に書けなくなってしまう危険があります。なので、スマホのメッセンジャーが好きです。しかもUIが吹き出しになってるので、話し言葉で、気の向くままに、自分と会議をしているように、エモーショナルに思考の断片が残せます。
綺麗にまとまってなくても、こうではないか?こうあるべきでは?こうだったらいいのに、もしかしたらこういうことがあるかも?とか。そういうアイデアや、ふと感じた気持ち、調べたいことのキーワード、どんなに些細なことでも、スピード重視でメッセンジャーに書き留めています。
[3]その情報が生まれる場所まで遡ってみる。
「いい情報の見つけ方」にも清水さんなりのひと工夫がありました。
何か、ひとつ「いいな」と思う情報を見つけたら、なるべく元ネタを探るようにしています。たとえば、オススメの本をシェアしてくれてるひとがいたら、その本を実際に読んでみることはもちろん、その作家さんが辿った人生や勉強してきたことや、どんな人に影響を受けてるのか調べてみる。また、その本をオススメしてくれた情報の発信者は、普段は、どのようにして、その情報を発見したのか考えてみる。そんな風に、情報に触れていると、思わぬ発見がしやすくなるような気がします。
いよいよ実践!日々の情報インプットで自分の中に色々な考えがストックされてきたら、あたまの中を整理していきます。清水さんは半年に1回ほど、意識して時間をつくっているのだそう。さっそく思考整理…と、その前にどんな道具を必要なのでしょうか?
用意する道具って?
※括弧内は清水さんが使用している文房具。ご参考までに!
・黒ペン
(プレイカラー2 【黒】 WS-TP-33 トンボ(Tombow) )
・蛍光ペン(2~3色)
(ステッドラー 蛍光ペン 固形蛍光マーカー テキストサーファーゲル 264-S 5色セット PB5 ステッドラー)
・ハガキサイズ用紙※大量にあるとよりいい
(ミューズ はがき用紙 ポストカードパック PK-008 KMKケント紙 #200 30枚入 2冊セット)
・ハガキを入れるファイル
(コクヨ ファイル ポストカードホルダー 固定式 A6 60ポケット 最大120枚収容 青 ハセ-30NB コクヨ(KOKUYO))
・A4サイズのプリンター用紙3~4枚
今まで10年くらいいろいろな文房具を一通りチャレンジしてきて、ちょっとした文房具マニア状態ではあるのですが…日々使う文房具は、「どんどん書いて失敗しても悔いのないコスパ」「いつでもどこでも買い足せる」この2つの条件が揃ってると使い易いという結論に辿り着きました。そういう意味で、そこらで出に入らない高価でレアなノートや万年筆よりも、コンビニや駅ビルでサッと購入できる気軽なペンやノートがオススメです。
高価でレアなノートや万年筆は、もちろん素晴らしい書き心地なのですが、たとえば、何かふと思いついた時に、お気に入りの万年筆を持ち歩いてなかったら、それだけでやる気がなくなって、ひらめきが消えてしまうかもしれない。こだわるがあまり“その道具がなければ思考が深められない”となっちゃったら本末転倒ですよね。
大事なのは、いつ生まれるかわからない思考をいつでも書き留められる環境にしておくこと。文房具はあくまでもツールと考えています。
[1]ハガキサイズの紙に書き出し、頭の中をからっぽに
そして、これまでストックしていたひらめきやアイデアを、とにかく頭が空っぽになるまで発散していくという段階へ。
3~4時間くらいたっぷりとって、自分が集中できる場所で、リラックスしながら楽しくハガキサイズの紙に書き出していきます。私の場合だと、facebookメッセンジャーにストックしていたものを一度全部コピーして、テキストエディタにペースト。それを眺めながら、だいたい200枚~300枚くらいに書きました。
ハガキサイズの紙にしているのは、書き始めるでの「気軽さ」があるからです。最初からA4のノートに書こうとすると、どうしても「埋めなくちゃ」と、気を負いすぎちゃうんです。ハガキサイズくらいだと、たった1文の些細なことでも、書き留めたくなります。ハガキでも大きいと感じる人は、名刺サイズや、単語カードのようなサイズでもいいと思います。
もしも絵がうまくかけない場合や、なにも書くことが思い浮かばないで手が止まってしまう場合は、はじめにひとこと、キーワードだけでも大丈夫です。とにかく思考をカードに変換していくことが大事です。無心になって、今自分の中にある思考をカードに載せていきましょう。
不要なものや無駄なものが生まれてしまっても、あとで避ければ大丈夫です。キーワードだけになってしまった情報不足のカードも、全部書き終わると「これってどういうことだろう?」って考える余裕がでます。すると「こういうことか!」と理解が進んで、図解できたりします。
また、重要な部分には色をつけたりすると、後で読み返したときに一目で内容がイメージしやすくなります。
[2]ファイルに整理して、じぶんの思考の図鑑にする!
次はハガキを整理して、共通項、キーワードをポストイットに書き出していきます。200枚~300枚の膨大な量のハガキを整理していく。そのポイントとは?
いきなり細かく整理しようとしても、しんどくなってしまうので、まずは、大きな机の上で、トランプの神経衰弱のようにカードを広げてみます。全体像を眺めながら、似たものを近づけて、まとまりをつくっていくのがオススメです。
まとまりがうまくできない場合は、最初はざっくりと、5~7くらいの大きなまとまりにしておいて、そのあとに、その中で細かく分けて、ファイリングして、ラベリングしていくといいと思います。ファイリングしておくことで、自分の思考が図鑑のように冷静に眺めることができるようになります。
[3]A4のノートに、キーワードのつながりを書く!
最後のステップは、ハガキを分類することで見えてきたキーワードを、A4サイズの紙に整理していきます。
まずは、さっき図鑑にしたものを眺めながら、一番大きなまとまりのキーワードを細い黒ペンで書きます。次に、図鑑の中で出てくるすべてのキーワードを、大きなキーワードの周辺に書いていきます。この時に興味が強いものは大きく書くなどしてもいいですね。図鑑の中のすべて並べ終わったら、関連性のあるもの同士を線でつなげてみます。
そしてさらに特に気になってるものは太いペンで囲で強調していきます。また、つなげてる最中に思いついたことも、どんどん細いペンで書き足します。そして、最後にテーマごとに蛍光ペンで色分けしてみると、完璧ではありませんが、自分の頭の中の全体像が可視化されます。
たとえば、私の場合は「人類の歴史(黄色部分)」、「時代背景(ピンク部分)」、「デザインの役割の変化(黄緑部分)」、「視覚言語(青部分)」この4つが、一番大きなまとまりでした。それを基本軸として、それぞれどうつながっているか?を考えながら描いていきました。そうすると、「時代背景の変化とともに、デザインの役割も変化してきているのでは?その役割を担っていくためには、視覚言語という考え方がひとつ大事になってくるかもしれない。それは人類の歴史の中でどんな意味を持つのか?」そんな風に、ばらばらだったキーワードのがつなげてみると、ざっくりと自分の思考が浮かび上がってきます。
いきなり厳密に構造化して完成を目指すのは難しいので、まずは、自分の直感のままに、書いて試してみると良いと思います。紙に書くのが、緊張してうまく書けない人は、ポストイットに書いて、あとから並べるなどしてもよいと思います。
思考を可視化した図鑑や、一覧表の使い方ですが 、私は、人に見せながら、意見や感想をもらって、言葉を付け足してみたり、つながりを再定義して、どんどんブラッシュアップしていくのを楽しんでいます。他にも、図鑑をネタ帳として、ブログにどんどん内容を深めた記事を書いていくなども面白いかもしれません。
最後に、この作業を通して見えてきたことを清水さんに伺いました。
そもそも、これをやろうと思ったのは30代になって、やりたいこと、思いついたアイディア全部に、好きなだけ時間を使うことができない、時間は有限なんだな、と当たり前のことにやっと気がつき始めたからなんです。
「デザイナーとして、これからの10年で自分が極めていきたい領域はなにか」これをしっかりと可視化することで、日々流れてくる情報に影響を受けすぎないで、本当に試してみたいことに集中して、もっと上手に時間を使えるようになれたら嬉しいですね。
なにに時間を使うのか、なににお金を使うのか、誰に相談するのか。そうしたひとつひとつをわたしたちは日々、仕事や人生のなかで、選択して積み重ねていると思うんです。自分の考えを掘り起こして可視化してみたことで、これまで漠然としてた判断軸がはっきりしたので、今までよりも、自信と確信を持って、ものごとが取捨選択できるようになるかもしれないですね。
自分のあたまの中の思考を、自分で可視化していく作業は、奥が深く、とても難しいです。今回やってみたプロセスも、まだまだ完璧ではないので、これからもいろいろ楽しみつつ、実験していこうと考えています。もっと詳しく勉強してみたいは、こちらの2冊がオススメですので、こちらもぜひ!
『分類脳で地アタマが良くなる 頭の中にタンスの引き出しを作りましょう』石黒 謙吾
『発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))』川喜田 二郎
いつでもどこでも、スマホやPCで情報にアクセスできるようになったからこそ、意識して少しずつのあたまの中にあるアイデアのタネを「見える化」していく。
良いなと思う情報ひとつ、湯気のように浮かび上がったアイデアひとつ、そのひとつひとつを怠けず、楽しく見えるようにしていくことが、混沌とした頭の中をすっきりさせていく近道なのかもしれません。
文 = 野村愛
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