2016.08.09
マネーフォワードに学ぶ「カスタマーサポート」が発揮すべき価値。プロダクトへ本音で改善提案も。

マネーフォワードに学ぶ「カスタマーサポート」が発揮すべき価値。プロダクトへ本音で改善提案も。

カスタマーサポートの仕事は顧客対応だけではない。ユーザーに良いプロダクトを届けるためなら、データ分析や、プロダクトへの改善要望も行う。エンジニアと連動するマネーフォワードのカスタマーサポート。彼らが生み出す価値とは?

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カスタマーデベロップメントはベンチャーにとっての最重要課題

カスタマーサポート(以下、CS)と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、たとえばコールセンターのような、マニュアルに沿って顧客の問題解決をしていくという姿。しかし、個人向けの自動家計簿アプリやビジネス向けのクラウドサービスを提供しているマネーフォワードのCSはそれとは一線を画している。

先日行われたイベント「MoneyForward Meetup(CS×エンジニア)」では、マネーフォワードが目指す本質的なCSや、エンジニアとの連携体制について語られた。「究極的にはCSはいなくなることがベスト」というマネーフォワードが求めているCSの存在価値とは何なのだろうか。

そもそも、マネーフォワードのCSは創業期のカスタマーデベロップメントの施策として始まったという。カスタマーデベロップメントとは、ユーザーが本当に求めているものは何かを見極めてサービスやプロダクトそのものを改善していくことだ。

瀧さん

取締役兼Fintech研究所長 瀧俊雄さん

創業期のCSを一手に担っていたという創業メンバーの1人で取締役の瀧さんはカスタマーデベロップメントの必要性について下記のように語った。

ベンチャーでは、ユーザーがなにを求めているのか、仮説を立てて試行錯誤していくことが重要。そのとき、一番情報を集めやすいのがCSです。私はとにかくユーザーの声を聞くようにしておりまして、年間1万5千件くらい、ひとりで問い合わせを受けていました。

当初は、瀧さんひとりの”属人的な体制”で対応していたCSだったが、サービスが大きくなり、ユーザーが増えてくれば、それでは決して追いつかない。多数の顧客を抱えるまでに成長した現在のマネーフォワードのCSは、どのような存在価値を提供しているのだろうか。

目指すは問い合わせ「0」。プロダクト推進型のCSとは?

高橋さん

「MFクラウドシリーズ」サポート部署 部長 高橋陽一さん

最初に登壇したのは、ビジネス向けサービス「MFクラウドシリーズ」のCSチームのマネジメントを担当している高橋陽一さん。

高橋さんいわく、そもそもCSという存在は「扱う商材やフェーズによって提供すべき価値は違う」という。それは、問い合わせの内容はもちろん、ユーザーの年代もまったく異なってくるからだ。

たとえば「MFクラウドシリーズ」であれば、確定申告や企業の経理など、専門的な知識が必要になる。たしかに、ユーザーと同じ言葉を使い、同じレベルで話せなければ、問題解決はできないだろう。

CSが目指すべきはもちろん顧客満足度の向上だが、高橋さんはその方法について大きく2種類に分けて考えている。

●顧客対応特化型:膨大な数の問い合わせにも応答率100%を目指す。そのうえで、顧客対応のなかに、世間話などの別の価値を提供することで顧客満足度を上げていく。
●プロダクト推進型:問い合わせをもとにプロダクト自体を改善させていくことで、そもそもの問い合わせ数を減らし、その結果として顧客満足度を上げる。

マネーフォワードが目指すのは後者のプロダクト推進型のCSだ。それでは、開発もデザインも行わないCSがプロダクトを改善させるためには、具体的にどうすればいいのか。マネーフォワードで行っているのは「ソリューション型の対応」と新機能の「試食会」という制度だという。

ソリューション型の対応について高橋さんはこう話した。

ユーザーから『〇〇ができるか』という問い合わせがあったとき、たとえそれができなくても『できません』と言ってしまうとそこで終わってしまう。ユーザーが求めている結果に近づける代替案を提示していくことで、現状のプロダクトに足りない部分が見えてくるんです。

そして、マネーフォワード内で「試食会」と呼ばれているのが、CSメンバーによる新機能の試験制度だ。エンジニアは、試食会で挙がったCSからのフィードバックをもとに、正式リリース前に機能の修正や微調整を行う。

普段、ユーザーの方と接していると、すごく細かい部分まで気にする方もいらっしゃいます。試食会のときはそんなユーザーになりきって憎まれ役を買って出ることもあります。

CSとエンジニアが密に連携をとることで、ユーザーニーズに沿ったプロダクトの改善が可能になる。CSの仕事は決して顧客対応だけではない。開発者の一員としてプロダクトを磨いていく”職人”的な役割こそ、CSの本質だという。

CSが感謝されるというのは本質ではないと思います。感謝されるべきはプロダクトそのものであるべき。問い合わせがあること自体を恥じる、という意識が必要だと考えています。

CSの積極的なコミットがプロダクトの改善につながる

竹下さん

「MFクラウドシリーズ」担当 竹下晴基さん

続いて、「MFクラウドシリーズ」のCSとして問い合わせ対応を行っている竹下晴基さんが登壇。竹下さんは、一年前まで市役所の公務員として働いていたという異色の経歴の持ち主だ。

チャットでリアルタイムな問い合わせ対応をしているという竹下さんは、すばやく正確な問題解決を一番にこころがけている。その実現のために、チャットによる問い合わせ対応はとても適しているという。

たとえば、キーワードを入れると解答例が表示されるショートカットは、対応までの時間の大幅な短縮につながります。また、最適なヘルプページのリンクを送ることができるのも大きなメリットです。ヘルプページは24時間365日対応可能ですから。

ヘルプページに誘導することで、アクセス状況や離脱箇所といった情報の収集につながる。また、マネーフォワードのCSは、なんと自らSQLを叩き、情報を参照して業務の効率化や改善につなげているという。そして、プロダクトを改善させるためには、CSの積極的なコミットが重要だと竹下さんは話す。

CSはユーザーに一番近い存在だからこそ、常にユーザー目線で意見を提供すべきです。CSにしかわからないユーザーの”肌感”のようなものをプロダクトマネージャーやエンジニアに伝えるようにしています。

竹下さんも、前に登壇した高橋さんも、お客さまに的確な回答を行うことを前提とした上で、いかにお問い合わせ自体をなくせるかを常に考えていくことが重要であること、そして究極的な理想は自分たちCSが必要なくなることだという。そのためにCSという枠組みを超え、エンジニアと密に連携をとり、開発者の一員としてプロダクトに積極的にコミットしている。

CSの本質的な価値は「プロダクトの開発者」としての意識

登壇者の皆さん

左から、高橋さん、谷口さん、奥沢さん、細谷さん

パネルディスカッションでは高橋さんに加え、個人向けの自動家計簿サービス「マネーフォワード」のCSチームのマネジメントを行う奥沢さん、同サービスを担当するエンジニア細谷さん、「MFクラウドシリーズ」のエンジニア谷口さんが登壇。モデレーターは瀧さんが担当した。

CSとエンジニアが密に連携をとることが重要だという話があったが、実際にどういったコミュニケーションをとっているのだろうか。

MFクラウドシリーズでは、常に2、3人のエンジニアがCSチームの横で仕事をするようにしています。実際にCSが電話対応をしているのを聞きながら論点を整理して開発を行うわけです。(谷口さん)

マネーフォワードは、エンジニアが日替わりでCSチームの真ん中に座り、実際にユーザー対応を行っています。(細谷さん)

こういった工夫が功を奏したのか、CSとエンジニアのコミュニケーションが活発になり、お互い忌憚ない意見が言い合えるようになったという。普段からコミュニケーションをとっているからこそ、ダメ出しや要望も遠慮せず言うことができるのだろう。そしてそれが、さらなるプロダクトの改善につながるのだ。


さらに、来場者からも多くの質問が寄せられた。その一部をご紹介。

「これだけ高いレベルを求められるCSだが離職率はどれくらいなのか。」という質問に対し、次のように回答した。

離職率は低い方だと思います。ただCSで活躍する人が他の部署に異動することがあります。プロダクト理解が深く、ユーザーが求めることを誰よりも知っているので、営業や企画の部署でも活躍できるんです。(高橋さん)

続けて、離職者が出ないように取り組んでいることを話した。

採用の際に、能力やキャラクター、スキルなどが被らないように意識しています。同じような特徴の人が集まると長所が発揮できず、ここにいる意味を感じられなくなります。メンバーが成果を出して、次の高みに臨むモチベーションが湧いて、その結果、多角的にCSチームのスキルを広げていけるような体制を意識して作っています。(高橋さん)

「新機能の追加などのアップデート時、エンジニアとCSのやり取りにおいて、意識していることは何か」という質問に対しては次のように回答した。

エンジニアからCSへの事前説明が無いまま、試してもらうことを意識しています。大きな変更なら事前に説明がありますが、小さな変更の場合はユーザーも説明を受けないまま使います。このままリリースしたらユーザーはどう思うのか、という視点でCSには見てもらいたい。それを踏まえて、説明が無いと分からないからガイドを作らなければいけないとか、UIをこうした方がいいとか。そういった改善点が見えてきます。(谷口さん)

CSはユーザーと一番近い距離にいる存在。その知見はカスタマーデベロップメントには欠かせないものだろう。一般的にCSという職種は、顧客の方だけを向きがちだが、エンジニアやプロダクトマネージャーなど開発側の人間としっかり向き合い情報交換をすることが、プロダクトのさらなる改善につながり、結果的に顧客満足度の向上にもつながる。

そのためには、CS自身がプロダクトの開発者の一員としての自覚をもち積極的にコミットすることが求められる。リソースが少ないベンチャーのサービスにおいて、そんなプロダクト推進型のCSこそがもっとも理想的なのではないだろうか。

(おわり)


※近年、顧客満足(Customer Satisfaction)を高める手段のひとつとして「カスタマーサクセス」という概念も広がりつつありますが、今回のイベントにおけるCSという表現は「カスタマーサポート」を指すものとして用いています。


文 = 近藤世菜
編集 = 大塚康平


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