クラウドワークスのデザイナー 上田和真氏。PCとの一貫性を無視し、使いづらいスマホアプリ設計をしてしまった失敗がある。なぜ失敗に陥ってしまったのか。使いやすいアプリを作るため、そこから学んだ教訓とは?
※2017年6月に開催された「UX Failcon 〜先人たちの偉大な失敗と成功〜」よりレポート記事をお届けします。
「PCメインのサービスなのに、PCとの一貫性を無視して好き勝手にアプリを作ってしまい、その結果、めちゃくちゃ使いづらいアプリにしてしまったんですよね」
こう語るのは、会員数140万人以上のクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」のiOS/Androidアプリのサービス改善、UIデザインを手がける上田和真氏だ。
同氏は、クラウドワークスの仕事を受注するクラウドワーカー向けのアプリに「仕事検索機能」を追加するプロジェクトでの失敗談と、そこから学んだ教訓を語ってくれた。
「新機能をリリース後、DAU(デイリーアクティブユーザー)を8倍くらい伸ばすことに成功し、社内からの評判も良かったです。ただ、AppStoreのレビューに『最低限、サイトと同じ仕様にしてほしい』という意見が投稿されていて……。当時はいちユーザーの意見として認識する程度で重要視していなかったのですが、クラウドワークスが2017年1月に策定した『UXガイドライン』と照らし合わせてみると、すごく逸脱してるんですよね」
そのガイドラインの内容は、“デバイスが変わっても行動を迷わず取れるようにする”というもの。プロジェクトの成功に浮かれていた上田氏だったが、新機能を改めて振り返ってみると、ウェブとアプリでユーザー体験が大きく異なっていることに気づいた、という。
大きな違いとなっていたのが「検索体験」。ウェブ版のクラウドワークスではディレクトリ型の検索を導入していたが、アプリ版ではフィルタリング型の検索を導入。さらには、ウェブ版と違うアプリ独自のカテゴリー分類にしてしまった。
「例えば、某ファッションECでは、ウェブとアプリでUIデザインは違えど、検索の項目やカテゴリーの内容も一致しています。それも踏まえて、改めてクラウドワークスに寄せられていたユーザーの定性的な意見を見てみると、『パソコンで確認できる内容が、アプリでは確認できません』といった声が多く挙がっていました」
なぜ、そんな状況になってしまったのか——上田氏曰く、問題の原因は大きく2つに集約されるという。まず1つめが、目先の数字に囚われてしまったこと。当時のアプリチームは、DAUの目標を達成するために臨時でプッシュ通知を打って特効薬的に数値を伸ばす、ということが日常化してしまったいた、という。
2つめが、チーム内で「ウェブ版のクラウドワークスのUIってイケてないよね。新しいUIを考えようよ」という意見が多く挙がってしまったこと。その結果、アプリはサービス全体の一部にもかかわらず、ユーザーが使い慣れたUIを無視して新しくUIをデザインすることになってしまったそうだ。
「問題は判明したものの、組織体制の変更もあり、アプリの改善に着手することはできませんでした。そこで、この反省を仕事を発注する発注者向けのアプリを新しく開発する際に活かしていくことにしました」
まず、上田氏が行ったのはウェブの仕様の整理。文言を含め、さまざまな仕様を調査し、チームに共有していくことに。
もうひとつ行ったのが、ユーザーストーリーの定義。ウェブの仕様も踏まえ、開発の要件を洗い出し、アプリで提供すべき機能を定義。そのプロセスをへて開発を進めることで、ウェブと一貫性のあるアプリに仕上がったという。
「この失敗を通して、自分が学んだのは数字だけに囚われることなかれ、ということ。本当に気付くのが遅かったなと、反省しています」
「もうひとつは、複数デバイスを展開する場合、アプリはあくまでユーザー体験の一部であり、一貫した設計を意識せよ、ということですね。今後の教訓として、各デバイスがお互いを補完し合う、一貫性を持ったユーザー体験の提供を心がけていこうと思います」
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