山本さくらさん(27)は「ぶっとんだプロジェクト」を裏方で支える名脇役。明和電機が仕掛けた「ロボット結婚式」も、彼女の活躍ナシには実現しなかった。ユニークなのは「肩書き」を持たず、指名でオファーがくること。アート、ロボット、ファッションと分野を越境する彼女は何者? そしてなぜ仕事が集まる?
山本さくらさん(27)は、常に「ぶっとんだプロジェクト」の渦中にいるといっていい。
たとえば、アート・ユニット『明和電機』において、ロボット同士の結婚式『ロボ婚』を企画した立役者だ。
最近では、古くなった家電を使った音楽イベント『エレクトロニコス・ファンタスティコス!』にもコミュニケーターとして参加。(アーティスト和田永によるプロジェクト)
とてもおもしろいのは、仕事のオファーが絶えない彼女の名刺に「肩書き」がないということ。時にはアーティストのマネージャー、時にはイベンター、時にはプロデューサー…一体何者なのだろう?
「昨日、やっと大きなイベントの本番が無事が終わりました!」
取材当日、私の目の前に現れた彼女の表情に、疲れの色は微塵もない。むしろ、彼女の目の輝きから心の底から楽しんでいることが伝わってきた。そこには、純度の高い「好き」を貫き、仕事と人に、愛を注ぎつづける、並々ならぬパッションがあった。
ー ロボット結婚式をはじめ、これまで「ぶっとんだ企画」に携わっていますよね。肩書きも持たれていないとか?
そうなんです。いつもなんて名乗っていいかわからないんです。
ー そういったなかで、どう仕事の幅を広げてこられたのでしょう?
シンプルに心から「興味がある、やってみたい」と思ったこと、心惹かれる人や出来事に出会ったら、「もっと見たい!そのためにはどうすればいいんだろう?」と考えるようにしています。あとは自分で「やらせてほしいです」というお話をし、それが仕事になっていくことが多いですね。自分ができることは何か、その都度考えて取り組むというか。
ー す、すごい行動力ですね。なかなかできることじゃないと思います。
たとえば、もともと、ファッションブランド「シアタープロダクツ」で当時プロデューサーをされていた金森香さんに学生の頃から憧れていて。
その頃のシアタープロダクツって私にとって特別なファッションブランドでした。服で構成されたテントを作ってお店にしたり、AR技術を用いて家の中でも楽しめるファッションショーをしたり。お店の壁をすべて椅子でつくったり、真夜中にセールを開催していたり。
お金をかけて派手な何かをする訳ではないんですけど、日々の生活に潜む「ちょっとした驚き」や「ときめき」をファッションをメディアにして伝える。すごいブランドだなと、大好きだったんです。
こういった企画を仕掛けているのは誰なんだろうと調べていったら、プロデューサーとして金森香さんのお名前があった。この金森さんって人が「シアタープロダクツ」が他とは違う企画を仕掛けられる理由なんじゃないか。とにかく「金森さんと話がしてみたい」と、彼女が講師をしていたワークショップに参加して。「インターンから勉強させてください」とお願いをしたんです。金森さんが見ている世界を、少しだけでも私も見てみたいと思ったんです。
ー ある意味で「弟子入り」に近いのかもしれませんね。彼女と働くことでどういったことが学べたのでしょうか。
作家たちを支える裏方的なシゴトのおもしろさに気づかせてもらったような気がします。イチからプロジェクトの制作や広報など教えていただいたし、知らないことばかりで新鮮だったし、楽しくて楽しくてしょうがなかったですよね。
裏方の仕事って多岐に渡って一言では説明できないんですけど、たとえば公演の「ちらし」を配る時、その配り方や、配るエリアひとつにしても、努力とセンスが問われるとてもクリエイティブな仕事だと思います。
金森さんはシアタープロダクツだけではなく、NPO法人ドリフターズ・インターナショナルという団体の理事もやっているのですが、そこでバイトもしながら、金森さんのアシスタントとして2年半働きました。
ー そのシアタープロダクツでの2年半を経て、次のキャリアが…「明和電機」というのも変わっていますね。
これは偶然だったんです。明和電機の社長のTwitterで「マネジメントスタッフ募集」の文字を見て。
「マネジメントスタッフ」という職種に興味があったし、アート業界で仕事をしてみたいと思っていたタイミングで。あとは面談で社長にお会いし、「ここで社長と働きたい!」と思いました。想像していたよりも柔和で飄々とした方で、でも作品は尖った作品も多かったのですごく興味が湧きました。
ー 明和電機時代に印象に残っている仕事とは?
とくに思い出深いのは『ロボ婚』というイベントを、社長と一緒に企画したことですね。
雑談をしているとき、社長から出てきたアイデアだったんですけど、新しい明和電機が見れるかもしれない、と思って、企画しました。
社長のアイデアを、雑談のなかから取りこぼさないようにしていく。どうすればカタチにできるか考える。とにかく社長のアイデアを最大化するのに必死でした。結局、『ロボ婚』に関しては、社長と何度も打ち合わせをしながら企画の骨子に関わらせていただきました。
イベントの最後に、はじめて社長から「これは山本さんの企画です」って言われたことが凄くうれしくて…今でも鮮明に覚えていますね。
ーなぜ、土佐信道さんはそのような言葉をかけてくれたのだと思いますか?
本当のところはご本人に聞いてみたいとわからないのですが…私があまりに真剣だったというのはあるのかもしれません。単純に「楽しいだけ」のものにしたくなかったんですよね。
いつか来る未来に対し、未来はどうなるのか。来場者のみなさんが想像する余白を残したい。エンタメの楽しさ、アートでできる問題提起のバランスは凄く考えていたし、むずかしいポイントでもありました。
ある意味、この企画は、自分自身へのチャレンジだったかもしれません。通常の仕事内容はいわゆるマネージャー業務が主で、何かを自分から企画するといったことはほとんどありませんでした。ただ、明和電機をやめる最後の仕事だったので、「この企画は自分が1からやった」と思えるものを残したい。そうしないと次のステージにはいけないと思っていました。
ですがいざやってみると、わからないことも多く、ロボットばかりの企画だったのでメカトラブルも多発し、本当に大変でした。
でも、できあがるものがすごいから。これは『ロボ婚』に限ったことではないのですが、毎回、感動してしまうんです。そうすると、また次の世界が見たくなってしまって、新しい作品に向けて頑張る。その繰り返しです。
ーアートプロジェクトにもいくつか関わっていると伺いました。
ちょうど昨日まで、岡山でファッションショー企画に携わっていました。障害のある人や、年老いた人、車いすの人、健常者の人、さまざまな「ウォーキング」にスポットライトをあてていく。「オールライトファッションショー」というショーでした。
先にも少しお話しした「NPO法人ドリフターズ・インターナショナル」が主催しており、プロデューサーの田中みゆきさんと金森香さんで企画しました。これまでもいくつかその団体のプロジェクトの仕事をやらせていただいております。
先日開催した『エレクトロニコス・ファンタスティコス!』は、たまたま知り合いから和田永さんとwiredの若林恵さんのトークに誘われて、行ってみたら、人手が足りてないから手伝わない?とその場でお誘いいただいて。和田永さんの、プロジェクト拠点が近所だったのもあって「あ。じゃあやります」という感じで始まりました。
ー そういう感じで仕事がはじまることもよくあるんですか?
そうですね。面白そうって思ったら、その時の自分の仕事量を考えながらではありますが、なるべく参加します。まだまだいろんな知らない世界がある、それを見てみたいという欲求はすごく強いのかもしれません。
ー すごくユニークなのはファッション、ロボット、アートと分野をまたにかけていることですね。
たしかに「この分野しかやりたくない」といった制約はないかもしれません。私は自分の分野ではないところへ行って、世界が広がって行くことがすごく好きだし、おもしろい。日々の活動ってそこに原点があるのかもしれません。
ずっと同じ場所にいると「その世界では当たり前」と思うものに価値観がとらわれてしまうこともあって。ただ、異なる領域、新しい世界に足を踏みてみると、当たり前だと思っていたことが根底から覆される。こういった経験にこそ大きな意義を感じるんですよね。
ー ちなみに、現在ではロボットやアートの仕事が多いのでしょうか?
いえ、今でもシアタープロダクツの仕事を一部やらせていただいています。私の最初のキャリアはファッションだし、「ファッション的感覚」を忘れたくないと思っているんです。
ー 「ファッション的感覚」というと?
最近だと、服のあり方ってすごいスピードで変わりつつあるけれども、本来的にファッションは直感的で儚いところが美しいと思っています。この感覚は、どんなことにも共通して「ときめき」を与えられると私は思っていて。ファッションの仕事は継続したいと思っています。
ファッション業界って、ちょっと特殊で、一瞬の直感的な「可愛い!」がとても大事な世界です。だから、サイクルがすごく早い。1年間に秋冬/春夏とコレクションがあります。その年2回のコレクションに加えて、最近は、その間に新作を発表するブランドも増えていますね。プレコレクションと言われるもので、3ヶ月で次のトレンドに移り変わっていきます。いつも新鮮です。
ーそして、今は?
今はフリーランスなのですが、シアタープロダクツで広報の仕事やアートプロジェクトで制作の仕事をしながら、メインは家庭用ロボットを開発しているGROOVE Xという会社で働いています。
明和電機で「ロボ婚」をやったときに感じたのは、これからロボットはきっと身近な存在になってくるということ。ロボットがまわりにいることで、人の行動や欲求が、変わってくると思うんです。もちろんそれはロボットに限ったことではないのですが、ロボットって人が感情移入しやすい点が面白いと思っていて。そういったことを想像しながら、未来を作って行くことに参加したかった。
ー わからないことだらけの分野にいく。不安はありませんでしたか?
わりと「怖いもの知らず」というか、飛び込んだら、世界が広がっていくことを知っているので。わからないことに距離をとってしまって、世界を狭めてしまうことのほうが私にとってはこわいです。
むしろ恐れずに話をすればできることは多いし、違う視点を持っているからこそ、違う言語を話しているからこそ、できることってたくさんあると思っています。
ー はじめての経験を増やす…20代の半ばを過ぎるとなかなかできない気もして。
それって凄くもったいないことですよね。「自分にはその経験がないし」とか、「できるとは思わないし」とか。言語や価値観が違うってとても素晴らしいこと。
はじめは「丁稚奉公」みたいな感じだっていいと思うんです。雑用でも何でも引き受ける、諦めずについていく。コミュニケーションを諦めないのは大切なことかもしれません。
(おわり)
(2017年11月28日 18:04/文章を一部訂正させていただきました。※CAREER HACK編集部)
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