2017年3月にリリースされた『メルカリ UK版』。これまであまり語られることがなかった同プロダクトの開発について、マネージャーである木下慶さんが徹底解説!どんな体制でやっている? 現地のマーケットって? UIのポイントは? 使っているツールとは?
[プロフィール]
株式会社メルカリ プロダクトグループ マネージャー 木下 慶 Kei Kinoshita
メルカリのUS版、UK版のプロダクトマネージャー。NTTデータでのSE職、ランサーズでのエンジニア・プロダクトマネージャー職を経て、2016年メルカリに入社。筑波大学大学院コンピュータサイエンス専攻修了。
[目次]
・『メルカリ UK版』UI変遷とは?
・UK市場におけるプロモーション・競合環境について
・UKならではのプロダクト開発体制とは?
・2つに分かれる開発プロセス。OKRを活用
・プロダクト開発に用いているツールとは?
・ユーザビリティテスト&ゲリラインタビュー
・日本とUK、プロダクトの決定的な違いとは?
・日本人のPMは海外で通用する?そのために大切なことは?
※2017年11月14日に開催された「Japan Product Manager Conference 2017」よりレポート記事をお届けします。
まず「Mercari Europe」のオフィスですが、イギリスのロンドンにあります。観光地にも近いビジネス街の中心地。2016年9月頃に会社を立ち上げ、2017年3月にプロダクトをローンチしました。当時はほとんど今の日本版のUIと同じでした。
その後、2017年5月くらいにUIをガラッと変えて。当初はUS版のUIをそのまま移植しており、ちょうどその頃に私もUKへと行きました。そしてUK独自のUIになったのは、ここ最近。現地のニーズを聞いたりとか、細かな改善をしたりして、半年かけて現在に至ります。
※最新のUIではありません
プロモーションに関しては、ロンドンだとかなりオフラインの広告が使われているんですよね。私たちは最初、オンライン広告をメインにしていたのですが、ユーザー数が増えていくにあたり、地下鉄・駅(現地では「Tube」と総称)の広告なども使うようになりました。
続いて、ロンドンにおける競合環境。CtoCサービスはいくつかあるのですが、メルカリのような「全ジャンルを取り扱う&配送モデル」のサービスはなく、ヨーロッパでも大きなプレイヤーはいません。もちろん『eBay』などはありますが、モバイル特化しているものはまだまだ少ないといえます。
その他、「服」や「ブランド品」などジャンル特化のショッピングサービスや、手渡しする形式のサービスはあります。米国で言う『craigslist』のイギリス版みたいなものとして『gumtree』、『shpock』、この2つがメインプレーヤーと言われてますね。
ここでは「Mercari Europe」におけるチームをご紹介していきます。まず大きなファンクションとして4つあります。
・Marketing
・Product(Team1/Team2)
・CustomerSupport
・Corporate
それぞれにVP(Vice President)がいます。まずユーザー獲得を担っていくのが「Marketing」チーム。「Product」チームは、API、iOS、Android、デザイン、データ分析をするBI(Business Intelligence)、そしてQA(Quality Assurance)と、PM(Project Manager)が各チームにいるカタチです。
UKならではのチームの特徴として、かなりのダイバーシティであるということ。ロンドンはさまざまな国から人が集まってきているんですね。数えてみたら10カ国、それぞれバックグラウンドを持つ人たちがいました。そのうち2カ国は香港と南アフリカなので、ヨーロッパ以外からも来ています。
「Product」チームにおける「Team1」と「Team2」はお客さまが利用する「フロー」によってチームを分けています。
Marketingチームが、ダウンロードをしてもらうまでのオンライン・オフラインマーケティングの両方を担当。PMは一貫性を保つために全体のUXも見ています。そしてプロダクトチームは「アプリストア」から先で2つに分かれています。
Product Team1
[Onboarding]→[Listing(出品)]→[Search(検索)]→[Purchase(購入)]までを担当
Product Team2
[Transaction]→[Rating]、つまり売る方と買う方の間での取引開始から評価するまでを担当
私は「Team1」のPMだったので、マーケティングチームと共に動くこともありました。全体のUXを見るため、購入後の取引進行がスムーズにできるよう「Team2」とも一緒に課題や打ち手を考えていくことも多かったです。ちなみに「CRM」はメール配信であったり、休眠会員を掘り起こすところを担っています。
開発プロセスとしては大きく2つあります。
1つ目は、クオーターごとに行う大きめなものです。まずクオーターの終わりに、次のクオーターのOKRを設定。「Key Result」といういくつかの定量的なゴールを設定し、それに対して何をやっていくのか、主に経営層が決めていきます。その定量的なゴールを決めるための分析をBIチームと一緒にやっていくというカタチです。
[参考記事]
OKRとは? グーグル、Facebookも活用する目標+成果「OKRメソッド」徹底解説!
なぜメルカリは、プロダクトチームのリソースを90%以上もUS版に割くのか?
そこで決まったOKRをもとに、どんなプロダクトを作るのか、PM全員で話し合い、ロードマップを引いています。これは日々アップデートしていくものです。
PMは計4名いて、役割を分担しています。それぞれが「OKRを実現する機能」を担い、それを詰めていくのが2つ目のプロセスです。さらに詳細な分析やスペックを書く。ここはPMとBIで担当していって。そのスペックをもとに、UIをつくったり、フローつくったり、デザイナーと一緒にプロトタイプしてつくっていきます。
なによりも重要視している部分としては、お客さまの声を聞き、どういうものを求めているのか、フォーカスしていくということ。たとえば、UI案、プロトタイプについて必ずお客さまの「声」を聞くというフェーズを入れています。このフェーズはエンジニアとデザイナも一緒に行ないます。複数つくっては検討し、リリース後は再びBIとモニタリングしていくといった流れです。
ここでは「Mercari Europe」での開発フローと、その際に用いるツールを説明します。
ロードマップ作成
「Google Slides」
コピーしてどんどん柔軟に書き換えれるところが気に入っています。使い方としては横軸がタイムライン、縦軸にバリューポジションをおいていく。各PMごとに色分けし、いつ誰が何をリリースする予定か1枚で分かるようにしています。PM同士はロードマップを見ながら「daily」と「weekly」でMTGを実施。そこで進捗確認や「ここ先にやったほうがいいんじゃない?」などリソースの調整をしていくという流れですね。
分析
「Looker」「Google BigQuery」「GoogleAnalytics」
データを「Looker」で全て見れるようにしています。「Looker」は細かい数字でも自分たちで定義して観測ができて便利です。日々のモニタリングはそこで行います。アプリ内のすべての行動を可視化できるため、ABテストの結果もパターンごとに比較が可能。テストパターンごとの行動の比較も可視化できます。
仕様とチケット
「Confluece」「Jira」
「Jira」のチケットはストーリーをベースに作ります。それを実現するためにタスクに落とし、行動をすべてタスク化していく。「Jira」のカンバンは、どの案件のチケットか?一元管理されている状態になっています。仕様は「Confluence」に記載し、「Jira」と連携させています。
プロトタイピング
「Sketch」「InVision」
「Sketch」で作ったものを「InVision」に入れ、フローをつくるカタチにしています。
MA&CRMツール
「Appboy」
Webのコンソール画面からプッシュ通知やメールが送れます。メルカリのAPIから「Appboy」のAPIを叩いて、機能に紐付いたプッシュ配信や、メルカリのDBとの同期もできる。また一度も商品を買ったことのないお客さまなど、サービス情報を用いたセグメントの作成、セグメントごとの通知設定ができるツールです。
▼ユーザビリティテスト
私たちが実際に行なったユーザビリティテストについてもお話します。1回あたり2日かけて実施しました。ブースを2つに分け、片方はお客さまと質問者、もう片方に私たちが待機。そのようにして操作や回答の内容をモニタリングしていきます。
5名以下だったり数名を対象に行なってしまうと意見や結果に偏りが出るので、対象は10名ほど。何人かから共通したフィードバックが得られたら、それを課題と認識し、優先度の考慮に役立てていきました。私たちが開発において何より大事にしているのは「お客さま理解」。スピードは犠牲になりますが、お客さまの声を聞き、実際の操作を見てから、機能をつくるようにしています。
▼ゲリラインタビュー
これはUXリサーチャーの方と協業をしていた時に教えてもらって面白かったものです。ゲリラという名の通り、街中に出て、急にそこにいる人に話しかけるという方法です。10分くらいで話を聞いていきます。インタビュー対象は10数名ほど。ロンドンにはフランクな人が多いので、急に話しかけても対応してくれる人が多いです。質問としては「メルカリを知っているか」「普段どういったところでモノを買っているか」「どういう仕事をしているか」「何歳くらいか」など。メルカリに限らずさまざまな質問をしていきました。
ここで、日本とUKにおけるプロダクトの違いについてお話します。現地で感じたのは、きちんと調査を踏まえ、現地の人の感覚、行動様式にフィットしたUIにすべきだということ。冒頭で少しお伝えしましたが、当初、日本のUIを踏襲していたものから、少しずつUK独自のものへと変更を加えました。その詳細をお伝えさせてください。
たとえば、サイト内の「写真」の表示について。ロンドンの若い方々は「服」が好きで、とてもおしゃれ。なので「写真」をより大きく見せるようにしました。
写真1枚あたりをより大きくするために、それまで「横3列」で表示していた一覧ページのデザインを「横2列」へと変更。詳細ページは、パッと見で多くの写真が目につくよう、ファーストビューで関連する写真を全てが表示されるようにしています。
また、ロンドンをはじめヨーロッパの方々は「セキュリティ」についてものすごく気にします。治安という観点からも日本はかなり安全な国ですよね。ただ、ロンドンはいろいろな国のバックグラウンドを持つ人が集まっている。基本的には「危ない」「疑おう」という意識を持つ人が多い傾向にあると思います。それはアプリに関しても同じ。
そこで、ペイメントの方法を最初に提示し、「既存のセキュアなペイメントが使えること」を明示するようにしました。プロフィールページにもメールや電話番号、Facebookログイン済みなど「認証バッチ」を付けています。そうすることによって「こういう手段で認証されているので安全ですよ」と伝わるようにする。
また、「誰が出品しているのか」「その人は信頼できるのか」が気にされるポイントでもあるため、タイムラインにも出品者の情報を表示するようにしています。
最後に、日本生まれ、日本育ち、ヨーロッパに行ったことさえなかった私が、どうやって海外でプロダクトを作っていったか。何を大事にしていたか、共有させていただきます。
まず、関わる人たちをみんな巻き込んでプロダクトを作っていくということ。ユーザーインタビューにしても、プロトタイピングにしても、エンジニアやデザイナーと一緒につくっていくということを実践しました。
自らの信念を強く持ち、プロダクトをつくっているメンバーが多いのも、「Mercari Europe」の特徴です。ですから、決まったことだけをただお願いするのでは、全く納得してもらえない。なぜこれがやるべきなのか。どういったデータやお客さまの声をもとにしているのか。「事実」をちゃんと伝えていく。ここは意識してやっていました。
具体的にとっていたコミュニケーションは次の通りです。
・Slackは高頻度でやり取り(適宜口頭でも話す)
・毎朝スタンドアップミーティング
(プロジェクトによってはそれ毎のミーティング)
・週1回のスプリントミーティング
・プロジェクトのはじまりにはキックオフ
・終わったら振り返りでKPT
そして本当に使いたいものかどうか、課題解決になるものを定義していく。徹底したのは、ロンドンにおけるお客さまの文化や行動様式、普段使ってるアプリの調査でした。
現地にいる日本人にもけっこうヒアリングをしました。なぜ日本人なのか。それはロンドン人にきいても「ロンドン人らしさ」がわからないと思ったから。日本に住んでいる私たちに「日本人らしさ」をきいてもなかなか答えづらいですよね。
また、できるだけ現地の人たちの生活感を体験するようにもしていました。そこからわかってきたのは、先にもお伝えしたロンドンの地下鉄・駅の広告からアプリをインストールする人たちが多いということ。そして意外だったのが「何でもデリバリーする」という人が多いことです。
お店で買い物をしていると、アプリやWEBで注文し、店舗で受取っている方をよく目にしました。メガネや服など、日本ではあまりないものも店舗受取をしていく。『ocado』というネットスーパーを活用し、生鮮食品もデリバリーする人も多いようです。
今回、メルカリの木下氏が語ってくれたのはUKにおけるプロダクト開発。同時にチームのあり方やツール、ユーザビリティテストなど国内での展開はもちろん、あらゆるマーケットを狙うプロダクト開発に活かせる話も多かったのではないだろうか。ぜひ参考にしていただきたい。
文 = CAREER HACK
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