FUJI ROCK FESTIVAL ‘17出演を果たした大阪発のバンド『neco眠る』。ドラムの三木章弘さん(29)には、デザイナーの顔もある。音楽活動と会社員の両立は、一見難しそう。しかし、三木さんは「楽しいからやっているだけ」と涼しい顔。彼のように自分の気持ちに正直に生きるにはどうすればいい?
今回注目したのが、2012年に人気バンド『neco眠る』*へドラマーとして加入した三木章弘さんだ。実はミュージシャンとして活動する傍ら、大手ゲーム会社にてデザイナーとして働く三木さん。
「平日は会社員、週末はミュージシャン」という日々を送っている。
さらに、今は休止中だが、別のバンドを掛け持ちしていたり、個人でアーティストとしてライブペイントの活動したり、ファッションブランドも主宰していたり……といった過去も。
何足ものわらじを履きこなす三木さんだが、本人は「自分が楽しいと思うことを自分が楽しいと思える人たちとやっているだけです」と、極めて事もなげな様子。「二兎を追う者は一兎をも得ず」。先人の言葉も、三木さんは我関せずといったところか。
キャリアの選択肢が増え、やりたいことにチャレンジしやすくなったこの時代。自分の”楽しさ”に正直に生きていくためのヒントが宿った三木さんの言葉を届けたい。
<Profile>
三木章弘 Akihiro MIKI
1988年、北海道生まれ。京都市立芸術大学ビジュアルデザイン専攻卒業。大手ゲーム会社で働きながら、グラフィックやアパレルのデザイン制作、グラフィティーやデジタル×アナログのアート活動、ファッションブランド『MARVELOUS INK』の主宰なども行なう。2012年に『neco眠る』に加入。
― まず「会社員とバンド」、なぜ2つともやることに?
あんまり深く考えていないんですよね(笑)。ただ「あ、バンドやりたいな」っていうノリで。たまたまTwitterで「neco眠るの活動を再開したいのでドラムを募集します」って投稿をみつけて、DMを送ってみたのがきっかけ。
「とりあえず会いましょう」となり、スタジオでも入るのかと思ったら、飲み屋に連れて行かれて。ベロベロになるまで飲んで「じゃあ頼むわ。ある程度ドラムが叩けりゃ、そんなに難しくないから」と、加入が決まりました。
― けっこう軽いノリだったんですね(笑)ちなみに就職が2011年、『neco眠る』への加入が2012年。会社員としては1年目ですよね。仕事との両立に不安はなかったんですか?
特になかったです。「会社員なので土日しかバンドはできない」ということは伝えていましたし「そのくらいのペースでやろうと思っているから大丈夫だよ」という話になっていたので。だから、言葉を選ばずに言うと趣味みたいなものですね。
ただ、やるからには手を抜きたくない。できないことがあると逆に燃えるタイプなんですよね。ドラムの話をすると、『neco眠る』加入当初は結構苦労して。僕はどちらかといえばパワーヒッター系でロックっぽく叩くのですが、前のドラマーは手数を増やしてテクニカルに叩くタイプだったので。ドラムのプレイを見せずに加入を決めた弊害ですよね(笑)。
でも、「手癖の範囲内でやれることだけやる」なんて超つまらないじゃないですか。だから、腹をくくりました。
― バンドマンにとって、会社か、バンドか…2択になりがちですよね。
そもそも僕にとっては「就職=バンドを辞める」ではなかったんですね。
大学卒業してバンドメンバーがバラバラになってしまったので、仕事一本の時期はありましたけど、1年も経たないうちにドラムもやりたくなって。仕事しているだけじゃおもしろくなくなって、結局色々やり始めてしまいました。絵を描きたくなったし(笑)。
― 頭がごっちゃになったりしないんですか?
仕事に支障をきたすことはありませんね。僕のなかではアウトプットを変えているだけなんです。イメージとしては、三木章弘という多面体があって、面の見せ方を変えている感覚。色々な面があるけど、物体自体は僕なので、むしろほとんど一緒です。
逆の言い方をすると、僕の人生において「何か一本に絞る」という選択肢がないのかもしれません。
たとえば高校時代。美術とバンドに加えてボート部の活動にもかなり力を注いでいたんです。顧問の先生からは「さすがに3つは無理やから、バンドをやめて学業と部活に専念しろ」みたいなことを言われたこともありました。でも、僕は「それは先生ができないだけで、自分はできるから」と。やりたいからやる、やめる必要はない、と考えていました。
― 何というか……すごいですね……!
いやいや、むしろ僕はどれかひとつで生活していけるとは思っていないんですよ。フリーランスでやっていける自信はない。同世代でもドラムも、デザインも、アートも、僕よりすごい人はたくさんいます。
ただ、好きなものだとしても自分ができないのはものすごく悔しいじゃないですか。少なくとも同世代のおもしろい人たちとは対等に渡り合いたいから、やるしかないですよね。何かやっている方が楽しいので。
― いろんなことに挑戦する三木さんの軸って何なんでしょう?
「自分がおもしろいと思う人たちと楽しいことをしたい」という気持ちは強いです。別のジャンルの人にもおもしろいと思ってもらわないといけないな、と。
『neco眠る』もそうですけど、自分の活動をキッカケにおもしろい人たちと出会ってしまって、仲良くなるとその先にはもっとおもしろい人がいて……というある意味“おもしろ沼”みたいなところにハマっているのかもしれませんね(笑)。
だから、僕は作品を通じて伝えたい思想みたいなものはないです。単純に「おもしろい」と思えたことをやっていることが好き。ライブペイントにも通じるんですが、僕は最終的な完成作よりも、描いている過程やパフォーマンスが好きなんですよ。
それって、最終的なアウトプットのみが評価されがちなデザインとは逆ですよね。いろんなことをやりながら、クリエイターとしてのバランスをとっているような感覚です。
― なんかすごく自然に活動の幅を広げられてて、仕事も並列に置かれているというか。
そうかもしれません。あとは“仕事が忙しいだけの人”になるのは嫌なんですよね。たとえば「ゲームをつくっているデザイナーです」と自己紹介しても、僕の全てが伝えられるわけではない。多面体なのに、一面しか見られずに判断されてしまうんです。
その反動で、社外のデザイン活動やバンド活動の比重が大きくなっているのかもしれないです。入社1〜2年目の頃は、デザインの力を磨きたくて、朝まで飲み歩いて知り合った人やお店のショップカードやフライヤー、名刺、グッズなんかをつくっていました。代わりにお酒を安くしてもらうという物々交換スタイルで就業規則の穴を突いていましたね(笑)。
― 「三木さんは何者なんですか?肩書きは?」と聞かれたら、どう答えていますか?
「え?普通の人間ですよ(笑)」って。わかりやすい肩書きみたいなものは、今まさに探しているところですね。でも、きっとまだまだわからないだろうから、これからも自分が”何者か”を追いかけていきたいです。それに、これから興味を持つことが出てきたら、新たな“面”が出てくるかもしれないですね。
― 最後に教えてください。三木さんのようにマルチに活動しようとしても、なかなか最初の一歩を踏み出せないと思うんですが……何が三木さんの背中を押しているのでしょうか?
そうですね……特別な人と自分の間に線引きをしないようにはしています。たとえば、ステージと客席の間とか、無意識に境界線を引いてしまいがちですけど、それが諦める言い訳になってしまうんです。逆に、自分の延長線上に彼らがいるだけだと思えば、やるべきことはクリアですよね。頑張れば、いわゆる「天才」にはなれなくても、ある程度のところまではいけると思います。
まぁ、僕もバンド加入直後に『EGO-WRAPPIN’』のお二人と会ったとき「超ファンなんで、一緒に写真撮ってください!」ってミーハー丸出しで言っちゃってましたけど(笑)。
― (笑)。いろんな生き方が選択できる時代だからこそ悩む人も多いですが、三木さんの言葉がいろんな人の背中を押してくれるような気がします。刺激的なお話、ありがとうございました。
文 = 田中嘉人
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