料理にも「音声アシスタント」の時代がくる?! 日本最大(*)の料理レシピ投稿・検索サービス『クックパッド』がまたおもしろいサービスをスタートさせた。ある1人のエンジニア料理男子が「料理中に音声でレシピが知りたい」という思いを形にするまでとは?
(*)料理レシピ数日本No.1(クックパッド社調べ)
料理をしている時は、両手は何かと塞がるもの。そんな時にレシピや調理方法など「音声」で教えてくれたら便利では? こういったアイデアを形にし、リリースしたのが、クックパッドで働く山田良明さん(26)だ。実は彼、管理栄養士の資格も持つという異色なキャリアの持ち主でもある。
たしかに、『Google Home』や『Amazon Echo』などスマートスピーカーが流行っている昨今。料理 × 音声アシスタントはすごく相性が良さそうだが…山田さんはこう振り返る。
「じつは、そう簡単ではなかったんですよね。野菜の切り方、調味料を入れるタイミングなど、そもそも既存のレシピって画像や文字、映像などで見たほうがわかりやすい。ビジュアルがあったほうが便利。音声には音声に適した形があるので、料理の体験のどこからどこまでを「音」がサポートしていくか」
山田さんがぶつかった壁とは? そこから見えてきた料理の未来に迫ってみよう。
※ 実際に体験させていただいたクックパッドがリリースしたAmazon Echo版。冷蔵庫などに残っている「食材」を伝えると、その場で作れる料理を『Amazon Echo』が教えてくれる。
ー Amazon Echo用のクックパッド、ちゃんと音声が応えてくれて驚きました。まずは、つくろうと思われたきっかけから教えてください。
音声アシスタントが話題になりはじめた頃から、「これは料理のときに役立つぞ」と思っていたんですよね。海外の事例を見ていると、腕立てなど筋トレに活かしたり、車の運転に活用したり、手が離せないシーンで使えるさまざまなサービスがありました。この流れは日本にも来るよなって。ぼくは普段から料理をするのですが、料理でも手が離せないシーンっていっぱいあるんですよね。
もうひとつ、エンジニアとしても、スマートスピーカーにどんな可能性があるのかチャレンジしてみたかったというのもあります。なので『Amazon Echo』が発表され、実際に日本で発売されるまで、地道に調査したり、エミュレーターで自分なりに手を動かしたり、自主学習みたいなことを続けていたんです。
そこから「社外に向けてスマートスピーカーの勉強会がしたいんです」とCTOに伝えたら「プロジェクトにしたら?」と。CTOのはからいでプロジェクトがスタートしました。
ー 会社として大々的にやろうというよりも現場発信、山田さんの自主学習がきっかけというのもおもしろいですね。
もちろんクックパッドとして進めていく新規サービスもありますが、けっこうエンジニア個々人からはじまるプロジェクトもありますね。最近だと画像解析を使ったサービスとして『料理きろく』というものもリリースしています。これは、スマホの中に蓄積された写真のデータを自動的に抽出し、どんな料理をいつ作ったか、カレンダーにちりばめてくれるというもの。それぞれのエンジニアが気になっている技術発信でやってみるカルチャーはあるかもしれません。
ー 音声アシスタントの話に戻ってしまうのですが、現在の形に至るまで紆余曲折もあったと伺いました(笑)どのようなプロセスで開発されていったのでしょうか。
海外をはじめ、いろんな事例はあるのですが、実用的なものはまだ少ない。なので、まずは自分たち流で、音声アシスタントのプロトタイプをつくるところからスタートしました。
そこで編み出したのが、チーム内で親しみをこめて「Alexaごっこ」と呼んでいる会話型の検証方法です。「Alexa役の人」にもキッチンに立ってもらって料理をしていくというもの。「Alexa役の人」に質問をして、それに答えてもらう。ただそれだけです(笑)。ものすごくシンプルですが、機能を決めていく時に役に立ちましたね。
― そのシミュレーションで何が得られたのでしょうか。
一番の大きな収穫は、音声のみのやりとりで便利になる作業は思っていたよりもかなり限られているということに気づけたことですね。
はじめは音声での補助ってかなり万能だと思っていたのですが、ぜんぜんそんなことはない。料理を視覚情報一切無しで作るのって、料理に対する相当な知識が無いと出来ないんですよね。
料理をはじめるところから終わるところまで、スマホを見たり、検索するシーンはどこか。音声で代替できるのはどこか。数パターンのシナリオを検証していって。ぼくらの現時点での結論としては、料理における音声アシスタントは、スマホの代替を目指すのではなく、スマホと補完しあっていく関係であるということ。こうして実際に下記の機能を実装していきました。
・手元にある材料をAlexaに伝える。
・Alexaが「食べ方」の選択肢を3つ出す
・Alexaに「食べ方」を伝える。
・Alexaが「レシピ」をスマホに送る
ー 山田さんご自身、管理栄養士の資格を持つエンジニアというキャリアもユニークですよね。それも今回の開発につながっている?
どうなんでしょう…料理に対してある程度知識を持っているという意味で役に立っていると思います。技術をユーザーの役に立てるにあたって、その知識を持っていることは強みになると思うので。
ただ、僕にとってプログラミングや技術は手段であって、目的ではないと思っていて。いかにユーザーの役に立つことができるかを大切にしています。
もちろん管理栄養士からエンジニアになったのは、それだけで食べていけるか不安だったというのもあります(笑)同時に、栄養士の業界ってめちゃくちゃアナログ文化で不便に感じる瞬間が多かったんです。栄養士って作った献立の栄養価計算をするのですが、学校では手書きする必要があってとても非効率。その自動計算ソフトを自分でつくってみたことがあったんですよね。
ー 世の中を便利にしたいというのが根幹なんですね。それでは最後にこれからの展望について伺わせてください。
音声ってまだまだ可能性がありますし、ここはもっと突きつめていきたいと考えています。いまの5歳の子たちが15歳になった時には、音声での操作、音声のインターフェイスは当たり前になっているはずです。そのためにも大切なのが、体験をつくるということだと捉えています。スマートスピーカーって、ユーザーにいかに話しかけてもらうか。話しかけてくるか。そこが大切です。そのためにも、やっぱり音声だけで完結させるのではなく、さまざまなIoTやアプリケーションとの組み合わせがポイントになると考えています。音声だけの世界に閉じるのではなく、もっといろんなものと連携させていきたいですね。
(おわり)
文 = まっさん
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