2018.08.17
広野萌と考えるデザイナーのこれから|事業ひいては産業へ貢献するために

広野萌と考えるデザイナーのこれから|事業ひいては産業へ貢献するために

「デザインは事業に格段にインパクトを与える!」こう力強く語ってくれた『FOLIO』広野萌さん。彼はデザイナー出身、FOLIO社の創業者の一人でもある。彼はどう経営レイヤーで仕事が任されるようになったのか。一緒に「デザイナーのこれから」について考えた。

0 0 32 2

【連載】「デザイン経営」の実践
2018年5月に特許庁より発表された『「デザイン経営」宣言』。そこには「デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。(中略)その価値や意志を徹底させ、それが⼀貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が⽣まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する⼒になる。」と記載されている。実際の現場で、どのように進めていけばいいのか。そのヒントを探るべく、デザインの視点や思考を経営に取り入れ、実践している企業に学ぶ、シリーズ連載企画です。

スタートアップで「デザイン経営」を実践する

「人工知能」「観光」「寿司」…あなたが好きなテーマは何だろう?

いきなりだが、これはオンライン証券サービス『FOLIO』で選べるテーマ例。“好きなテーマに自動で少額から気軽に投資ができる”というのが売りだ。

2018年8月にはリブランディング、証券サービスとは思えないポップなデザインへ。若いユーザーにとってより投資を身近なものにするサービスとして期待が集まる。

folio FOLIOは2015年の創業からこれまで91億円の資金調達。LINEとの資本業務提携などを経て、2018年8月8日に正式リリースされた。

「デザインの力によって、ユニークなユーザー体験をつくりだし、ブランドの力を高めたい」

こう語ってくれたのが同社でデザイン責任者を務める広野萌さん。26歳という若さでデザイン責任者であることにも驚きだが、ユニークなのはCDO(Cheif Design Officer)という立場で、経営陣と肩を並べて仕事をしているところ。

いかにして彼は経営陣の信頼を得ていったのか?

デザイナーが経営に対してインパクトを与えていくために大切なこととは?

「デザイナーのこれから」と題して、3つのポイントを伺うことができた。

広野さん FOLIO CDO 広野萌
早稲田大学文化構想部卒業後、新卒でヤフーにデザイナーとして入社。UX推進部や経営企画などを経て、2015年にFOLIOを共同創業。CDO(Cheif Design Officer)としてFOLIOにおけるサービス設計からコーポレートブランディング、プロダクトマネジメント等を担ってきた。1000人のデザイナーが集まるカンファレンス「Designship」を主導、代表をつとめている。

「デザインの重要性」を語り続けよ

広野さん_1

どうすればデザイナーの地位をあげていけるのか?

このテーマについて聞こうと考えた時、真っ先に思い浮かんだのが、FOLIO社の広野萌さんだった。

「デザインの力で金融業界に革命を起こす!」

そう高らかに宣言した伝説のプレゼンが脳裏に焼き付いていたからだ。

21億円調達の『FOLIO』デザイン責任者が吠えた夜。金融に「デザイン」で革命を! 広野萌の熱き思い

彼は業界に革命を本気で起こそうとする若き旗手。1000人のデザイナーが集まるカンファレンス「Designship」を主催するなど、業界をまたぎ、デザイナーたちの地位を引き上げていくための取り組みも行なう。

まずはじめに「社内でデザイナーの地位が低いと感じた時、どうすればいいか」という質問をぶつけてみた。


憤りは痛いほどわかります。ただ、憤っているだけでは状況は好転しない。本質的に考えてみて、そもそもビジネスにどのような課題があり、デザインで何が解決できるのか。言語化して提案していく必要があります。あえて言いますが、もしかしたら別にそのビジネスにおいて、デザインは重要じゃないかもしれない。

FOLIOの4人目としてスタートアップに参加した広野さん。当初から「いかにデザインが重要か」を語り続けてきた。

FOLIOの構想を代表である甲斐から聞いたとき、デザインがこのビジネスにおけるキーになると確信しました。多くの日本人に投資という行為を「自分ごと」化させる、デザインの力が。

これは概念の再構築にも近いものだ。

創業メンバーの中でも金融出身者であるCEO・COOの両名はめちゃくちゃ優秀だったんです。ただ、いくら金融工学等を駆使してすぐれた商品を提供しても、それだけでは流行らない。なぜなら、そもそも日本人にとって投資というのは、胡散臭くて難しくて手が出しづらいものだから。リスクが少ないとか、テクノロジーがすごいんだと声高らかにいっても素人にとってはてんでわからない。だからこそ、伝えるイメージや体験の質こそが重要になる。投資というカタいもの、むずかしそうなものを身近にする。わかりやすく伝えたり、楽しそうだと感じさせたり。これはデザインによって実現できる世界なのだと、初めて代表の甲斐と話したときも熱弁したのをよく覚えています。

机上の空論で終わってはいけない

広野萌

重要なのは “とにかくアウトプットを出す” という行為だ。

デザイナーだからこそ “アウトプット” で自らの価値を伝えるべきです。たとえばサービス設計において、画面遷移図をみせるよりも、プロトタイプ作って実際に触ってもらう方がサービスの価値は伝わりやすいですよね。体験で判断をしてもらえるアウトプットをいち早く作れるのが、僕らデザイナーの特権とも言えます。

FOLIOを作る時も大量にアウトプットしたという。

まずはひとりで様々なコンセプトを考え、それをもとにひとつずつUIを設計し、プロトタイプを大量に作ってましたね。

当初はロボアドバイザーも含めた投資に関する様々なサービスのアイデアを出してはUIを作ってみ、アイデアを出してはUIを作ってみ……を繰り返していました。その大量のアウトプットの中で生まれたのが、現在の「身近なテーマで投資対象を選べて、ショッピング感覚で投資が楽しめる」というサービスアイデアです。さらにそこから100以上のUIパターンをつくり、現在の形へと進化していきました。

FOLIOはゼロイチに近いもの、デザイナーとして自由に作れたといってもいい。ただ、つくるべきもの、お題が決まっているケースもある。そのような時はどう対応すればいいのか。

僕なら、まずは相手が求めているものを忠実につくります。ただ、それだけでは面白くないから、自分でも勝手にアイデアを練り込んで作ってみる。それを押し付けるのではなく、一案として持っていって、検討の土俵にあげてもらう。そういう空気を作り出す。組織によっては根回しのような動きも大切かもしれない。僕もヤフー時代にそれを経験しています。本質的な仕事じゃないと感じてしんどいですし、泥臭い行為ですが、アイデアを採用してもらうためには重要なことだとも、僕は考えます。

越境して学び続ける

広野さん_3

最後に伺えたのが、デザイナー自身が「顧客体験(UX)とビジネス両方の設計ができる存在になっていくべき」という広野さんの考えだ。

理想は、そのデザインによってどれだけ利益を生み出せるかも含め、デザイナーが考えられることだなと。そのためには顧客体験(UX)はもちろん、世の中の収益構造(ビジネスモデル)を理解することが欠かせません。僕も日々勉強しているけれど、壁は高い。特に金融サービスのビジネス設計は、素人が簡単に学べるものないなと痛感しています。

ただ、彼の心は折れていない。

「デザイナーは数字に弱い」というのは、プロダクトの質と事業戦略が独立して考えやすかった時代のあるあるであって、これからは違うと考えます。顧客体験と事業戦略を同時に語れるデザイナーが増えれば、デザインの価値はもっと上がる。そのために僕自身も、ビジネスを語るのを諦めたくないですね。

そもそもデザイナーとしての役割について彼はどう捉えているだろう。それは人事でもあり、広報でもあり、経営者でもあるのかもしれない。

僕はそんなに「デザイナー」という役職に限定的な意味を感じたことはなくて。強いて言えば、デザイナーはアウトプットがどのような形であれ、人の心を動かしていく存在だと思うんです。それは相手がユーザーだろうが、社長だろうが、株主だろうが変わらない。

例えば、そもそも良いサービスを作るためには、開発チームや会社をうまく機能させる必要がありますよね。会社をうまく機能させるためには、円滑な組織が必要。そのために僕は、極端にいえば自分に関係ない飲み会の幹事だってやるし、バックオフィス業務にも積極的に関わっていく存在であり続けたいと思っています。

どういう組織をつくるかという点ではデザインの力が意外と活かせるものです。でも組織論については素人のため、『失敗の本質』(旧日本軍がいかにして負けたか)や『ティール組織』など、今までの自分だったら全く縁がなさそうな本を最近読んで勉強しています(笑)

研究し続けていく。領域を超えていく。これからの時代のデザイナーにとって欠かせない素養といっていいかもしれない。広野さんは「AI・データ時代に向けてデザイナーに求められるのは、越境して学び続けるという姿勢」だと語ってくれた。

これからの時代、ハード、ソフト、ネット、AI・データなど様々な技術を統合した上での包括的な顧客体験を設計する存在が求められるようになるはずです。デザイナーと呼ばれる職業の中でも、職人的ではなく、人々の生活の一部をデザインするような人たちは、それぞれの業界に閉じこもっている場合ではありません。暗黙にもそびえ立つ壁を壊して、オープンに学び合っていく。そのために今回『Designship』というイベントを企画しました。なによりも自分がプロダクトデザイナー・グラフィックデザイナーの友人と話をして、ものすごく刺激をもっらたことがきっかけ。あえて大げさに言いますが、「わびさび」という概念を生み出したこの国ならではの「デザイン」の力は、日本最後の武器だと思っていて。だからこそ、業界の垣根を超えて、ノウハウや意識を共有しあって、日本の産業を盛り上げていきたいです。

広野さん_last


文 = まっさん


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから