「芸人のみなさんには、スベることをおそれず、思う存分にやってほしい」そう語ってくれた佐久間宣行さん。テレビ東京の人気番組『ゴッドタン』のプロデューサーだ。芸人たちがのびのびと収録に臨み、爆発的な笑いが生まれる。そこには佐久間Pの覚悟、そして「実績」と「スキル」で信頼を勝ち得るスタンスがあったーー。
テレ東 佐久間宣行プロデューサーのシゴト哲学
・AD時代「お弁当づくり」もお題だった
・「一人ネタ会議」はExcelで
・自分の「好き」を信じない
・あえて「通らない企画」も出す!?
・芸人がスベっても怖くない場づくりを
・名物企画こそ封印しよう
毎週、欠かさずおもしろいテレビ番組をつくり、お茶の間(最近ではスマホ)に届けていく。そこにはきっと想像を超える大変さがあるのでは。 特にどうやってネタや企画を練っていくのか。佐久間さんは、AD時代までさかのぼって企画のコツについて教えてくれた。
僕は入社1年目の時に、ドラマの担当だったんですよね。はじめは「ADの仕事ってくだらねぇな。つまんねぇな」ってずっと思っていたんですよ。「俺のやりたいクリエイションとはつながっていない」と思っていたし。いま思うと新人が何言ってるんだって感じですよね(笑)
そんなダメダメな姿勢を見直す出来事があったんです。
ドラマのなかで急に「お弁当がほしいな」となったんです。国仲涼子さんが演じるサッカー部の女子高生マネージャーが先輩にお弁当をつくるシーンを撮影しよう、と。
僕、居酒屋でずっとバイトしていたので、ディレクターから「すぐお弁当を作って」となりました。もう…文句たらたらですよ。なんで俺が女子高生のお弁当をつくらなきゃいけないんだよって(笑)
ただ、作らなきゃいけない。考えるんですよね、自然と。「16歳の女子高生がつくるお弁当って何だろう」って。
「女子高生だったら、きっと完璧なお弁当はつくれない」
「冷凍食品も入ってるんじゃないか」
「サッカー部だから、サッカーボールのおにぎりにしたらどうか」
時間がないなか、自分なりに必死で考えて。急いで現場にお弁当を持っていって。「すごくいいよ!」って監督も役者さんもすごく喜んでくれたんですよね。さらに「台本も変えよう」となりました。
お弁当ひとつが台本まで変える。この時、お弁当をつくる仕事もクリエイションなんだなと気づいたんです。ちょっとした作業ひとつにもアイデアを入れる。そうすることで番組が良くなっていくこともあるんだなと、大きく意識が変わりました。
それをきっかけに、自分自身も楽しく仕事ができるようになったし、だんだん任せてもらえる仕事が増えていきました。
テレビの番組プロデューサーが、どう企画を練っているのか。ぜんぜん想像もつかないもの。佐久間Pはネタのアイデア出しをExcelで行なう。その方法もユニークだ。
アイデア出しをするとき、僕はよくExcelを使っています。
一番左の列に「スポーツ」とか「恋愛」とか「お笑い」とか、定番ジャンルを書き出す。そして、その次の列に、自分の頭の中にパッと思いついたキーワードを書いていくんです。
スポーツ | 明石家さんま | 恋愛 | 野球 |
お笑い | ラーメン |
グルメ | 映画『君の名は。』 |
マクロを組んでおいて、単語がランダムで組み合わせるようにしています。で、組み合わせから1個ずつ番組の企画書を書く。
たとえば、「恋愛野球」とか「眼鏡武道」とか、よくわからない組み合わせが出てきたとしても、掛け算によって脳内が刺激されます。
あとは「自分の強み」と「市場にないもの」の組み合わせを探ることもしています。僕の場合、カルチャーが大好きだから、スポーツ番組と組み合わさったらどうなるかな?とか。無理やりブレストすると、企画が生まれるチャンスがつくれます。
カルチャーとお笑いが大好きで強みにしてきた佐久間P。ただ、フレッシュなコンテンツに触れて、「好き」をアップデートしつづけるのもポイントだ。
自分の好きなものは武器になります。ただ、アップデートする努力をしたほうがいい。フレッシュなコンテンツに触れたほうがいい。そうすることで、今の時代を反映したものができていきます。
いつまでも昔の「好き」のままだと、自分の足を引っ張ることに。アイデアの種としても昔、自分が好きだった作品が出てきてしまう。「ノスタルジー」が目的ならいいと思うのですが、そうでないのであれば、途端に面白くなくなってしまう。時代に合っていない。
これって芸人さんでも同じなんですよね。オードリーの若林くんが言ってたんですけど、若林くんが4~5年前のある時、「悟空じゃねーか」とツッコんだら、全然ウケなかったと。その後、バナナマンの設楽さんが似たような状況で「ルフィじゃねーか」とか言ったら、ドカンとウケたらしいんです。
たとえ、ツッコミ一つとっても、アップデートしないと、「ジャンプ黄金世代の例え」しか出てこないという。「北斗の拳じゃないんだから!」とかみんなポカンなわけですよね。キン肉マンだけはね…未だに連載してるから大丈夫ですかね(笑)
企画・ネタの出し方について赤裸々に語ってくれた佐久間さん。あえて「ボツ」になる企画を出すことも? 一体なぜ…?
AD時代、週1回の企画会議があったのですが、僕はあえてこれは通らないだろうなっていう企画も出していました。
企画ってもちろん実現するために出すもの。でも、スタッフのなかだけでいえば「名刺」になるじゃないですか。
僕は死ぬほど「音楽」と「舞台」「お笑い」が好きでした。だから、通らないだろうなって思いつつも、毎回1本はサブカル系の企画を入れていた。ディレクターやプロデューサーに「そんなの流行っているのか」と気づきがある。それが狙いでした。
するとチャンスは巡ってくるもので。「とにかく芝居とお笑いに詳しいやつが奴がいるぞ」と噂になり、お呼びが掛かったんです。もし僕が「通る企画」ばっかりを考えていたら、今、ゴッドタンみたいな番組はやらせてもらえなかったと思います。
フリーランスで生きていくと、自分のキャラって考えるじゃないですか。サラリーマンも、やっぱりキャラって考えないといけなくて。「俺の得意分野はここだよ」っていう名刺は、常に出していったほうがいいと思っています。
そして話は『ゴッドタン』の制作舞台裏に。台本を無視した芸人たちの暴走や珍事もおもしろさのひとつ。「偶然に生まれる笑い」をどうつくっているのだろう?
とにかく芸人たちがおもいっきりやれる、スベっても怖くないような場作りを意識しています。スラムダンクでいうと、桜木花道が必ずリバウンドを取ってくれるから、みんなが安心してシュートを打てる。それに近いというか…世代的に伝わりますかね(笑)
ただ、番組をはじめた当初は、芸人さんたちとの信頼関係もありませんでした。そのなかでやったのが、編集はめちゃくちゃ頑張ること。「たとえ数字がふるわなくても、佐久間の番組に来たらオンエアは必ず面白くなる」と言われたかったんです。
だから、最初の1クール、2クールの『ゴッドタン』は20何本あるけど、すべて僕が編集をしていました。僕の場合、自分の強みが「編集」だから「佐久間が編集するからどんなにスベっても大丈夫」と安心してもらえる。ここが大きかったなと思いますね。
『ゴッドタン』といえば『キス我慢選手権』や『マジ歌選手権』、必ず数字がとれる名物企画だ。ただ、佐久間Pは自らそれらの企画を乱発しない。むしろ封印するようにしている。
『キス我慢選手権』ってじつは3~4年に1回しかやっていないんですよね。よくやっている企画でも半年に1回くらいしかやらないようにしています。
お笑い番組は特別なんです。フレッシュさというか、やっている側の人間が飽き始めたら、途端につまらなくなってしまいます。
ヒットした名物企画をずっと続けていくよりも、芸人さんに「今日はどうなるか分からないですけど、新企画です」と言って渡す。
ゴッドタンがスタートして10年経った今も、番組の収録を楽しみにしてくれる。遊びに来てくれる芸人さんたちがいる。作り手が楽しみ続けるためにも、ヒットにすがらないのは大事なことだと思います。
※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をCAREER HACKにて再編集したものです。
撮影:加藤潤
文 = 野村愛
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