『KARTE』運営のPLAID(プレイド)代表・倉橋健太さん。じつは、過去に事業撤退、チームの解散を経験している。『KARTE』リリースまでの3年間に迫った。
CXプラットフォーム『KARTE』。
いまや多くのWEBやアプリのサービスに実装され、ユーザーとのコミュニケーションに欠かすことのできない存在となっている。
運営元 プレイド 代表の倉橋健太さんは『KARTE』に込めた想いをこう語る。
「短いスパンでその価値が変動してしまうような事業ではなく、これまで世の中にはなかった新しく“サステナブルな価値”をつくり出したかった。この気持ちは独立したときからずっと変わっていません」
この言葉に滲むのは、創業後1年目で事業撤退した悔しさ。
「じつは創業初期に一度、チームを解散し事業をリセットしたことがあるんですよね。飲食系のスマホアプリをメイン事業に据えていました。リリースしピッチイベント等にも出ていたのですが、撤退。リリース後に、取り組み続けることができなかったんです」
『KARTE』リリースに至る3年間を振り返ってもらった。
創業当時、メンバーは倉橋さんを含めて4名だった。
満を持してリリースした飲食系アプリ。リリースまでモチベーション高く取り組めた。しかし、徐々にその歯車は狂っていく。
「メンバーの誰一人として、その自社サービスの開発に専念できていなかった。僕はECのコンサルも並行してやっていたし、エンジニアは他社で受託開発にも関わっていた。サービス開発に専念できない理由を、自分たち自身で作ってしまっていた。個人としても、チームとしても腹がくくれていなかったんです」
そして、アプリリリースから半年。倉橋さんは大きな決断をする。
「飲食系アプリをクローズし、すべてを白紙にする。そう決めました」
記憶を辿るように言葉にする倉橋さん。チーム一丸で取り組んだ1年間を自ら否定する。当時の心境についてこう振り返る。
「会社の資金がなくなっていくこと、誰かに相談できなかったことも、もちろん辛かったです。だけど、一番辛かったのは、自分たちが『やろう』と決めたことをやりきれなかったこと」
本当にこの事業でいいのか。そこには葛藤があったに違いない。
「迷いもあったし、リスタートに不安もありました。ただ、そこから圧倒的に学び、勇気を持って捨てることで次が見える、次に進むことができるとただ信じていた。なので、そこまで悲観的にはならなかったですね」
こうして事業撤退を経験した倉橋さん。次なる事業を模索していた。突破口になったのは、CPO(Chief Product Officer) 柴山直樹さんとの出会いと言っていい。
「楽天時代の同期の紹介で、新大久保のタイ料理屋で柴山と出会いました。彼とは会った時から、昔から知ってるかのような感じで。雰囲気もマインドもすごく波長があった。一瞬で打ち解けた感覚がありました」
2人はディスカッションを重ね、一気に『KARTE』構想へとつながっていった。
「当時柴山は、神経科学やロボティクス、その後、統計や機械学習といった分野の研究室に在籍していました。ディスカッションしていくなかで、最先端の技術に触れることができた」
その時はたと気づいたのが「世の中で使われている技術」と「研究領域の技術」のギャップ。
「これまで僕らが使用してきたようなサービスの基盤となっている技術と、研究領域で取り組まれているような技術。そこには大きなギャップがあると感じました。最先端で研究されている技術レベルや、今後の針路を知り、『とてつもなく大きなパラダイムシフトを起こせるかも?』と考えました」
倉橋さんの実現したかった世界とはーー。
「エンドユーザー1人ひとりが本当に望んでいる体験をできる限り正しく効率的に提供できる世界を実現したい。もともと単純なA/Bテストやメールマーケティングのようなエンドユーザー目線ではない取り組みが溢れていることに違和感があったんです。もっと本質的なところで、かつシンプルに、エンドユーザーの体験を良くしたい」
世の中に溢れる情報のなかから、自分に適した情報を見つけ出す。そこにはセンスやリテラシーが求められる。情報の非対称性をいかに解消するか。そして、日常生活を豊かにしていくか。これが『KARTE』構想の起点になっていった。
また、近い価値観を持つ柴山さんの存在こそが、倉橋さんのビジョンを支えた。
「こういう言い方をすると少し照れくさいですが、お互いが考えていることをお互い全力で信頼している感覚があります。柴山とは、世の中に対して大きな価値を生み出したいという気持ちが共通していた。そしてそれぞれのビジョンの交点に我々の事業がある。だから、彼と事業を始めて以来、ゴールがブレることは一度たりともありませんでした」
この出会いを通じ、倉橋さんが学んだことがある。
「苦しい時、きつい時に、一緒に頑張ってくれたとか、助けてくれた人っていうのは、本当に大切な存在。合理性じゃなくて、感情や、夢だとかそういうところをずっと応援してくれていた人もいる。事業成長の裏では、いつも誰かに助けられてきた。自分自身が、圧倒的にコミットし、信じ、進み続けることが仲間への責任だと思います。大切な人との時間をこれからも一番大切にしたいですね」
プレイド初の資金調達は2014年5月。これは倉橋さんにとっても大きな一歩だった。
「まだプロダクトをローンチしていなかったので、資金調達で初めて第三者の評価を得ることができたと感じました。ビジョンを含め、取り組みそのものに価値を感じてくれる人が出てきたということ。すごく嬉しかったですね」
こうして自信を得た倉橋さん。『KARTE』誕生までの2011年~2014年を振り返り、得たものについて伺えた。
「個人的な感覚ですが、正しいと思うことに持てるエネルギーを全力で注ぐべき。意思決定の軸もそこに置くべきで。そのためには、大きいリスクを取ることもあって、人から心配され反対されることもあります。
ただ、「大きく捨てる」とか「大胆に踏み込む」といったような、明らかに難易度が高い選択肢は大きなチャンスです。リスクテイクしたアクションを正解にできれば、結果としてはるかに大きなチャンスがまた訪れる、そんな循環を感じています。プロダクトに関する意思決定においても、それを繰り返してきました」
ただ、それは「無闇にリスクをとればいい」という考え方とは違う。
「僕は“こうあるべきだな”って思った事に対し、正直に選択してきただけなのかもしれません。目指す遠い未来から逆算したときに、目的に対して正しく向き合う。かつ、一定の合理性がある。自分が許容できる最大限の「正しいリスク」であれば、思い切って取った方がいい。
会社や事業が大きくなるほど計画的にとか、手堅くいこうとかしてしまう。けど自分も会社も社員も、リスクを取らなくなる、確実性を選ぼうとすることが、逆にリスクです。今も可能なだけそこには抗っています。取るべきリスクをとっているなら、時に大きくミスしたとしても、それを正解に変えられるはず。リスクを取りながら前に進むことができれば、その人個人の可能性も会社の輪郭も、絶対に大きくなると信じています」
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