2019.06.27
誰にでも、意見をぶつける。日本屈指のフェスの企画制作をしてきた男

誰にでも、意見をぶつける。日本屈指のフェスの企画制作をしてきた男

森正志さんは『ap bank fes』や『ロック・イン・ジャパン・フェスティバル』など、国内屈指のフェスにおける企画制作を手かげてきたイベントクリエイターだ。下積み時代から貫いてきたのは、相手が誰でも臆せず意見や考えを伝えていくこと。そこには「愛される音楽ライブをつくるためにベストを尽くす」というスタンスがあった。

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「フェス」づくりに情熱を|森正志の企画論

フェス・イベントクリエイターである森正志さん。

音楽業界の名だたる大物たちと一緒に、「フェス」づくりに情熱を燃やしてきた。

とくにOORONG-SHAで小林武史さんの社長室として共に仕事をした日々が、彼の仕事観に大きな影響を与えた。


「あの7年間が、今の自分を作っていますね。とにかくいろいろな種類の無茶振りの嵐なんですよ(笑)つくった農場やレストランで突然イベントをやることになったり」


そんな時、森さんが大切にしてきたことの一つ。


「『自分自身が納得できるもの、説明ができるものを作る』と、決めています」


関わる全ての人に愛されるフェスや音楽ライブを生み出したい。そのために一切の妥協をしたくない。そこには彼が貫く信念があった。

+++森さんが企画制作に携わった「日比谷音楽祭」の様子。

どんなひとにも「リスペクト」と「率直な意見」を。

当時27~8歳くらいで「ap bank fes」の制作統括を務めていた森さん。小林武史さん、櫻井和寿さんや大御所スタッフを前にしても、決して怯まず、考えや意見を述べてきたという。そこには、いち作り手として、良いものをつくる執念があった。

ぼくが若かった頃から携わっていた「ap bank fes」についてちょっとお話させていただくと業界トップの巨匠だらけの環境だったんですよね。小林武史さんや櫻井和寿さんはもちろんのこと、音響や照明などステージスタッフも。

彼らと仕事を進めるのって、ただならぬ緊張感があって(笑)そのとき、いつも心に決めていたのが「自分の考えを自分で伝える」「単なるイエスマンにならない」ということでした。

違うと思った時には「それは違うと思います」としっかりと伝える。

同時に「なぜなら、こうだから」としっかりと自分なりの理由も説明できるようにしておく。その方が、もしも自分が間違っていたとしても、教えてもらえるし、わからないこともきちんと理解ができる。

ちゃんと企画していることを「自分の言葉で伝えられるかどうか」が大事だと思うんです。

+++森正志  THE FOREST代表 / フェス人生の一歩を踏み出したのは大学1年生。はじめて参加したフジロックフェスティバル’98。会場の熱気、高揚感...一瞬で心を奪われたと語る。その影響でコンサートやフェスのアルバイトをはじめ、卒業後は、コンサルティングの会社に就職。フェスへの熱が冷めることなく、社会人2年目には「rockin'on」のフェス事業部に転職。2004年~の2年間「ROCK IN JAPAN FES」「COUNTDOWN JAPAN」の制作を経験、小林武史率いる「OORONG-SHA」へ入社。7年間「ap bank fes」の制作統括を担当、小林武史社長室などを経て2012に独立。現在は、新規フェスの立ち上げをはじめとした大小さまざまな野外フェスの企画、制作だけでなく、ライブツアーの演出、舞台監督、ステージデザインなど、仕事は多岐に渡る。

大物や力のある人を目の前にすると、周りの空気でひるんで意見が言えなかったり、言いなりになる傾向があるけど、それでは関わる意味がないと思うんです。本当に良いものを作るためには、ときには楯突く、というか自分の意見を言うことを恐れちゃいけない。何も考えずに言いなりになったり、雰囲気に流されてはいけない。

「お前なんで俺が言ってることに反抗するんだよ!」って言われることもあるんですよ。とくに小林さんとはよくケンカをしました(笑)めちゃくちゃ怒られたりもして。

でも、ちゃんと意思があって、理由があれば、きっと相手に伝わる。小林さんから「あの時、お前一人だけ反抗してたよな。でもあれも正しかったと思う」と言ってくれることもあって。そういう時ってすごくうれしかったですね。

+++「小林さんはよく『とにかく来た球を打て』『水流れるが如しだろ』と言っていました。これって真理だと思うんです。来た球をちゃんと見てバットを振れば当たる。きちんと反応する。正解の「公式」なんてありません」

下積み時代に学んだ、「言葉を尽くす」大切さ

小林武史さんのもとで7年間で、とくに「言葉選び」大切さを痛感したという。

小林さんって「言葉選びの天才」なんですよ。名だたるアーティストの曲に対しても、我々スタッフに対しても、もっと良くするためにどうあったらいいのか、をちゃんと伝えることができる。抽象的なイメージも、きっちりと言葉でもって伝えられる。

よく誤解されがちなんですが、この時選ぶ言葉は専門用語である必要はありません。むしろ要求されているのは「高い解像度」を持っているかどうかです。

仕事の幅が広がれば広がるほど、当然わからないことも増えていきます。僕も未だにわからないことばかりですから。

じゃあ、自分がわからない領域を専門にしている人と仕事をするとき、わからないなりにも、多くの言葉を尽くしていく。言葉にして伝えること、伝えることを諦めない。

きちんと言葉によるコミュニケーションがなされていないと、自分が企画したはずなのに、いつの間にか他の人のものになっている、なんてことも起こりえます。それって結構不幸というか、だんだんつまらなくなってしまうと思うんですよね。

感謝を伝えるっていうこともそうだし、来年再来年と次のステップアップに行く時に、ちゃんと反省点とか良かったところを言葉にできるか。

今自分たちがどこにいるとか、なにがあったのかを言葉にできないと次に行けないと思うので。どれだけの言葉が用意できるのかって大事。

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気分屋や天才たちとの仕事では、「整理整頓」を心がける

森さんが「企画」で大切にしているのは、相手の好みや思考の中に「軸」を見出すということ。彼はもともとコンサル会社出身者。「整理整頓からはじまる企画術」について語ってくれた。

企業の偉い人は気分屋が多いし、アーティストはいろいろアイディアやイメージを思いついてしまうし、プロジェクトや関わる相手が大きいと外野や関係者も多いから、言ってることや話がころころ変わる場合がある。するとプロジェクト進行の過程で企画がブレるんですよ。

なので、アーティストの今の好みはどんなものか、今回のツアー、またはフェスにおいては、なにが大事なのか。整理整頓してあげる。「森さんってコンサルタントみたいですよね」、とよく言われて。それもそうで、もともとコンサルティング会社で働いていたから(笑)

「整理整頓が得意だと思うので、ちょっとアーティストと会って考えていることを整理整頓をしてもらってもいいですか?」というオファーをもらったこともありました。これまでになかった職種かもしれない(笑)

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じゃあ整理整頓って何かというと、

「何のためにやっているのか」

「何をしたいのか」

「それをやるためにどういう手法を使っていくか」

机の上に並べて取捨選択を共有していくこと。例えば10個の選択肢が存在していたときに、まずは目指しているゴールをみんなで見える状態にして、それぞれの選択肢の優先順位をラベリングしていく。やっていることはシンプルですが、やっていない方がかなり多い。

いろいろなアイデアがあるなかで、アーティスト自身がそのアイディアを「選ばなかった理由、やらない理由」を説明できるようにしてあげる。そのための材料を用意して、組み立てることを意識しています。

「企画だけして丸投げ」は絶対できない

森さんのこだわりとして、仕事のクレジットに必ず「企画制作 FOREST」を入れてもらう、というものがある。大切なのは「制作」が入ること。そこには「つくるまでがプロの仕事」という信念がある。

僕は最初から最後までフェスの会場にいるように心がけているんですよね。誰かに義務付けられているわけではないけど、誰よりも実行部隊でありたい。

企画ってよく宙に浮くんですよ。「めちゃくちゃいいアイデアだ!…で、誰がやるの?」ってなりがち。

少なくとも自分で企画したら、自分が思い描いていた通りになるかどうか、またはそうするためにディティールを詰めるところまでやる。それが最終的な仕上がりを左右する。フェスは本当に多くのスタッフが関わるし、「細部に宿る」と思ってるので「ただの丸投げ」では絶対に良いものになりません。

たとえば、舞台の照明さんたちをはじめ、施工や装飾、その他スタッフの皆さんはプロフェッショナルですよね。彼らには彼らとしての仕事がある。どんな企画を実現したいかは、企画する人がプロとして描いて、明確にし、伝える。これが役割なのだと思っています。

どんなことを実現したいか、はっきりしていれば、それぞれの領域のプロフェッショナルたちに対し、「よくわからないので任せます」ではなく、具体的な指示ができるはず。丸投げなのか、プロとして信頼した上で指示を明確にその役割を任せているのか、ぜんぜん違うものですよね。

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その仕事は、自分として世に出して恥ずかしくないか?

最後に紹介したいのが、森さんの仕事へのスタンス。「あらゆる仕事は、過去の自分の仕事を否定することからはじまる」。これは、小林武史さんの背中を誰よりも近くで見続け、染み付いたものだという。

僕が扱っているのはパッケージ商品ではなく、生ものです。現場を見て、計画を変更したり、リハを見た上でブラッシュアップしたり、調整したりすることも当然あります。

これって小林さんと一緒に仕事をしていたからこそ、思い切ってやれているんだと思うんです。

僕らの仕事は、いつだって自分たちが一度やったことを全否定するところから始まる。たとえば、毎年やっているフェスにしても、まわりが絶賛してくれたとしても、自分のなかでは「去年は全然ダメだった」「今年はもっとこういう風にしなきゃダメだ」と、ゼロから組み上げる。その勇気や根性が問われていると思っています。

もちろんそれってちゃぶ台をひっくり返すことでもあるから、しんどい。それでも、やればやるほど面白いものができるし、やればやるほどにこだわりも強くなっていく。自分の仕事として世に出す上で恥ずかしくないか?制作の過程でぜひ問い続けてほしいです。僕もずっと問い続けていければと思います。もちろん完全に満足して出せることなんてそうそうないですけど、それでも問い続けるようにしています。

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※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をキャリアハックにて再編集したものです。
*「企画メシ」の記事一覧はこちら

撮影:加藤潤


文 = 千葉雄登
編集 = 野村愛


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