ゾウ、チーター、サッカー選手、過去の自分まで...過去に走った記録と一緒に「かけっこ」ができる。2013年夏、山口県の商店街に誕生した、夢のようなメディア・アート「スポーツタイムマシン」。仕掛け人である犬飼博士さんに、子どもも大人も熱狂する楽しい企画をつくるヒントを明かしてもらった。
2013年夏、山口県にある商店街に、突如現れたメディアアート『スポーツタイムマシン』。「山口情報芸術センター[YCAM]10周年記念祭」の展示作品のひとつであり、約4ヶ月の期間中に3000人を超える人達が遊んだ。
スクリーンに映し出されるのは、実在するチーター、ゾウ、サッカー選手の影。さらには、過去に走った自分自身も。
「よーい、どん!」の合図で、過去に走った記録が再生され、一緒にかけっこできるのだ。
このプロジェクトを仕掛けたひとり、犬飼博士さん。「運楽家」を名乗る彼は、スポーツとゲームを融合し、新しい「遊び」を作り続けている。人々はなぜ彼の作り出す「遊び」に夢中になるのか?彼のクリエイティブな発想に迫ったーー。
【プロフィール】犬飼博士(いぬかい・ひろし) 1970年愛知県生まれ。映画監督・山本政志に師事したのちゲーム監督に転身。人と人がつながるコミュニケーションツールとしてのビデオゲームにこだわり対戦型ゲームだけを制作。コンピュターゲームのオリンピックとも言えるWCGやCPLの日本予選を主催し世界大会に参加。近年はIT(ゲーム)とスポーツの間に生まれた情報社会のスポーツ「eスポーツ」や、空間情報科学をテーマとした展示「アナグラのうた消えた博士と残された装置」(2011日本科学未来館)など、小さなビデオ画面だけに収まらないフィジカルな作品を制作している。
犬飼博士さんの企画の源泉は、常に「楽しい」「おもしろい」という衝動からはじまる。
物心ついた頃から、何にでも飛びついていました。
たとえば小学生の頃に公園で遊んでいたら、アニメのキャラクターのコスプレをした大人たちが集まってて、「なんだあれは!」と思って、後をついていったんですよね。
そしたら、大きな会場の前に人だかりができていて、いわゆる「コミケ」が開催されていました。会場の中に入り込んでみると、みんなが自作の漫画を販売している風景を目の当たりにして。
そこで何を思ったか。「自分も作品をつくって売りたい!」と、小学生ながらに思ってしまったんです。
そこから友達と集まって本をつくって、家の近くにあるコピー機で少ない小遣いを使って5冊くらい印刷して。「よし!売るぞ!」と意気込んで会場にいくんだけど、当時コミケって年に2~3回しか開催されてなくって。それを知らなかったんです。「コミケ」という言葉さえ知らなかったから、いつ開催されるのか誰にも聞けず...毎週土日に通い続けてました。
他にも、好きな絵師さんにファンレターを書いて、わざわざ自宅のポストまで自分で自転車で届けにいったり。ゲームセンターにもハマって、親のお財布からこっそりお金を盗んでやってたな...いやいや、ほんとやっちゃだめですよ(笑)やりたいことに関しては、手段を選ばずに没頭してしまうのは、子ども頃から変わっていません。
続いて話は、犬飼さんの企画書のつくり方へ。「楽しい体験をつくりだしたい」というピュアな思いが常に真ん中にある。
僕にとっての企画書は、色んな人を巻き込んで楽しい体験をしたい。その時間を作るためのものなんです。
たとえば、いま注力して取り組んでいる「未来の運動会」もまさにそう。2020年のオリンピックの開催と同時にできたら面白いなとおもって、東京都に提案したこともありました。お返事はいただけず叶わなかったのですが、未来の運動会を広めていきたいと思っていまも活動をしています。なぜかというと、もうこれが何回やっても超面白いからなんですよね。ただただ楽しい、おもろい。そんな瞬発的な欲求だけが、ずっと核心にある。
僕が作りたいのは、世界そのものなんです。「未来の運動会」というイベントではありません。こういう世界がきたら良いじゃん、楽しいよ!、面白いよ!って提案しているんです。そんなスタンスで企画をつくっています。
だから僕個人としては、ずっと「遊んできた」感覚に近いんですよね。企画をしてきた、というよりも。遊んでいたら、今までたまたま生きてこられたってことです。コレを仕事というのかもしれませんが遊びの専門家が仕事したら修行が足らないとも思います。
企画書に落とし込むとき、犬飼さんは「言葉」選びに神経を張り巡らせるという。
企画書をつくるとき、まず一番に考えるのは「誰に向けて書くのか?」です。
相手が自分と一緒に企画を実行していく上で、なにが条件になっているのか、どんなメリットがあるのか。企画書は、相手とのコミュニケーションするために存在するものだと捉えています。
普段の会話も同じですよね。「抽象的で分からない」って言われたら、もっと具体的に話をしなくちゃいけない。人によっては技術の説明が重要になる人もいれば、スポーツの話が重要になる人もいる。
そのためにも、企画書を書く時に「言葉」って大事だなと思います。どんな考え方をしているのか、どういう説明の仕方がいいのか。誰に届けるのかによって選ぶ言葉は変わります。
企画を実現するためには、多くの人の協力が欠かせない。犬飼さんは納得度の高い企画書をつくるために、「過去を徹底的に調べまくる」と「未来を予測する」いうのを実践している。
完成度の高い企画を作るためのコツは、過去をできるだけ調べて、未来を予測すること。これに尽きると思います。
人類はどうだったか、宇宙はどうだったか。できるだけ遠くの過去を徹底的に調べること、それと今の状態を線で結び、その線の先に見えてくるできるだけ先の未来を予測します。この未来は自分の希望を含みます。その線を過去から未来までできるだけ長くすると、今やらなければならないことが精度高くバックキャスティングできるようになります。
これで今するべき行動、つまり企画に確信が持てるようになります。
もともと、ものづくりのキャリアは映画監督としてスタートした犬飼さん。新人時代、師匠に学んだ「予想外を考える」姿勢は、企画づくりの基礎となっているという。
映画監督の師匠に、企画書を渡すとき、いつも「犬飼どう?」って感想を聞かれていました。最初は、「最高ッス!」って返事をしていたら、監督からこう言われたんです。
「『最高ッス!』じゃないよ、ボケて返してよ。最高なのは知ってる。おもしろいこと言えよ」って。
この言葉を聞いて、ハッとさせられました。真面目に働いてたら、おもしろいことなんて考えられないんだなって学ばせてもらったように思います。
だからこそ、「予想外をいかにおこすか」をデザインすることが企画には大事だと思っています。たとえば、35万人の人が使うだろうなと思って、本当に35万人が使ったらおもしろくない。100万人がやりましたとなったら、「あ!」となりますよね。面白いというのはそういうこと。企画者の予想をも裏切る可能性を仕込まないといけないと思います。
思ったとおりのことが起きて終わる企画なんかイマイチってことです。徹底して調査・予測して決めた企画を実行してみたら、予想つかない結果がおきるのが面白い。予想通りだったら真顔で反省しちゃいます。
逆説的に言えば作者も参加者も次が予測できない状態をいかにキープするかコツになってくるとも言えますが、人間が身につけるられる程度のコツなんかに頼ってたらすぐ飽きると思います。
最後に語られたのは、「運楽家」という唯一無二の肩書を名乗る犬飼さんのキャリアについて。スポーツとゲームを融合していく、そのインスピレーションは、「鉄拳」を6時間し続けた日々の中で生まれた。
映画監督を辞めて、次にゲームの制作会社に就職しました。一時期、毎日ゲームセンターにこもって、「鉄拳」を1日6時間くらいやってたんです。仕事を終えて、夕方の5時くらいから夜の12時くらいまで。
夢中で鉄拳をしながら、ふと気づいたんです。ゲームセンターで100円と入れてレバーを操るという行為は、映像を作る行為なのだろうと。今でいうYoutubeの「ゲーム実況」というと解りやすいと思います。
ゲームをプレイをするたびに、ドラマが生まれるわけです。自分が主人公になって、対戦する相手との関係性によっても戦い方が変わる。つまり、人と人との関係性、文脈とかも全部ちゃんと自分の中で紡いでデザインすることが、プレイをする中にあると思うんですよね。
だから、カメラを置いておくだけで、面白いシーンが撮れるんですよ。その「関係性」が浮き彫りになっていく。
だんだん「鉄拳をしている様子」を撮ることに夢中になってきて、勝手にビデオテープをつくって、友達に配ったんです。「これ、おもしろくない?」って。そしたら、知的所有権に引っかかるということで、ナムコに怒られました(笑)
僕はそうしたことを経て自分の世代の特徴はこのコンピューターを使った表現なのだろうと整理できたのです。過去の映画のような映像表現をコンピューターを使ってするのではなく、コンピューターを使わなければできないリアルタイムの映像生成と、インタラクションに集中するようになっていったのです。
そしてコンピューターを生み出した情報科学も対戦も「ゲームという現象」を通じて行われていることだと理解が進み、ビデオゲームだけではなくもっと「広義なゲーム」に集中するようになっていったのです。そのゲームは人間や宇宙の解っていない謎の領域を体験させてくれる鍵なのだろうと思います。
※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をキャリアハックにて再編集したものです。
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撮影:友田和俊
文 = 野村愛
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