2019.08.15
鳴る音すべてに意図がある。NONA REEVES 西寺郷太の企画論

鳴る音すべてに意図がある。NONA REEVES 西寺郷太の企画論

ポップ・ソウル・バンド ノーナ・リーヴスのボーカルをつとめる西寺郷太さん。アーティストでありながら、音楽プロデューサーや作詞・作曲家として幅広いジャンルの楽曲制作を手掛ける。数々の「いい音楽」を世におくり出してきた西寺さんが大切にしていることとは?

※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をキャリアハックにて再編集したものです。
*「企画メシ」の記事一覧はこちら

日本随一の「マイケル研究家」、西寺郷太からのお題

今回の講義では、西寺さんから事前にある課題が出されていた。

10日間でマイケル・ジャクソンの好きな1曲を見つけて、その理由をA4一枚でまとめてください。

バンドからアイドル、シンガーソングライター、ジャニーズまで。ジャンル問わずさまざまなアーティストのプロデュースを手掛けてきた西寺郷太さん。NONA REEVESのボーカルであり、音楽プロデューサーであり、作詞・作曲家であり、そして「マイケル研究家」でもある。

「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」といったベストセラー本も執筆。しかし、彼がこのテーマを選んだのには、ある大きな理由があった。

「マイケルって、めちゃくちゃ“企画でメシを食ってる人”だと思うんですよね」。

彼がマイケル・ジャクソンから学んだ、企画の本質とは。そして、いい音楽を生み出すために西寺さんがやっていることって?課題への熱いフィードバックから垣間見えた、西寺郷太の仕事スタンスをお届けしたい ──。

【プロフィール】西寺郷太(NONA REEVES のシンガー)
1973年生まれ。97年ワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビュー。音楽プロデューサー、作詞・作曲家としてSMAP、V6、鈴木雅之、私立恵比寿中学、ゴスペラーズ、岡村靖幸、藤井隆、YUKIなど多くの楽曲を手掛ける。執筆した「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」(新潮文庫)「マイケル・ジャクソン」(講談社現代新書)、「プリンス論」(新潮新書)は、いずれもベストセラーとなった。

企画とは、「楽しくて、世の中を良くするもの」

「(企画メシを主宰する)阿部さんから講師をやってほしいと頼まれたとき、正直、えっオレ?って思いましたよ」と笑顔で話す西寺さん。課題の内容に入る前に、「そもそも企画とは何なのか?」を考えるところから講義はスタートした。

直接は仲の良い木村綾子さんからだったんですが、この講座に誘われた時、まずタイトルにドキッとしたんですね。『企画でメシを食ってゆく』って意図的にドギツいネーミングじゃないですか。

引き受けてまず最初に、改めて「企画」っていう言葉の意味を辞書で調べてみたんです。そうしたら「企画=目新しく好ましい物事の内容を具体的に考え、実現に向けて手はずを整えること」って書いてあったんです。

「目新しく好ましい物事の内容」、あーこれは面白いなと。悪事を「企画する」ことって、きっとないんですよね。たしかにそう言われてみれば「殺人事件を企画する」とかも、聞いたことないな、と。

企画ってやっぱりどこか楽しいもので、かつ世の中をちょっとでも良くしていこうとするもの。そういった意味でいうと、「音楽」と「企画」って通じるものがあるよな、と。

少なくとも僕にとっては。音楽に関して、純粋に楽しいものであっても、メッセージを持って何かに抗議するものであったとしても、僕自身は少しでも世の中を良くするものって考えてるんです。だから。阿部さんや木村綾子さんが誘ってくれたことも「繋がるなぁ」と勝手に納得したりして(笑)。

それに音楽って、結局すべてが「企て」なんですよね。

たとえ同じメロディーでも、違う歌詞が乗ることでまったく違う曲になる。作曲、作詞そして編曲、歌手、演奏者。グループなのか、ソロなのか、バンドなのか。どれか一つ変わるだけで聴こえ方や印象はガラッと変わります。なぜその音にしたのか、その言葉にしたのか、その楽器を使ったのか、使わなかったのか。そこには必ず意図がある。

わかりやすく言えばアイドルの場合、どんな事務所なのか、でイメージが湧いたりもしますよね。曲そのものだけじゃなく、歌う人の髪型や服装、ダンスもすべて「企画ありき」。その一つひとつに意図があって作品は完成しています。僕は音楽家ですから、今回は音楽を追求して企画力を磨く、気づく、そんな講座になればなぁと思いました。

企画はピンチ、逆境、時代の変化から生まれる

そもそも西寺さんは、なぜ今回マイケル・ジャクソンをテーマに課題を出したのか。それは決して、彼が「マイケルの本を執筆しているから」だけではない。

僕、マイケルって相当な「企画者」だと思っているんです。

例えば、ショート・フィルムと呼ばれた映画的なプロモーション・ビデオや、ムーンウォーク、前傾姿勢に倒れる「アンチ・グラヴィティ」ダンスなど、これまで世に知られていなかった多種多様なダンスに「名前」をつけた人でもあります。貧しい大家族に生まれた彼は、結果的に年間売上高1億ドルを超えた最初のエンターテイナーになりました。なんでも最初に成功させた人を後に皆が真似するので気づきづらいんですが、マイケル以上に“新たな企画でメシを食っていた人”っていないだろうなって。

強調したいのはマイケルが大きな企画を成功させたとき、そこにはいつもピンチや逆境、時代の変化があったということです。

たとえば、マイケルはジャクソン・ファイヴとしてデビューしています。当時、広まったカラー・テレビに、花柄のカラフルな服を着たアフロの黒人の可愛い子どもたちが、すごい歌とダンスを披露して人種の壁をまず一旦は壊しました。

でも、チャイルド・スターは必ず大人になってゆきます。特に11歳でデビューしたマイケルは声変わりを経験し、キー的にも歌詞のテーマ的にもヒット曲がそのままでは歌えなくなっていきました。

そこに危機感を持って、自ら新しい仕掛けを考え続けていたのがマイケルだったんですね。歌詞や歌い方を時代とともに変え、衣装やヘアスタイルを変えて。自分たちで作詞作曲プロデュースが出来るように、とレーベルも移籍。ジャクソン・ファイヴという栄光のグループ名さえ、移籍のトラブルで捨てざるを得ませんでした。

でも、それ以上に「このままでは飽きられる」というピンチを常に抱き前進した。マイケルは彼自身の企画でキャリアの危機を乗り越えてきたんです。

例を挙げると、80年代初頭、アメリカではMTVというケーブルテレビチャンネルが大流行していたのですが、流れるのは99%白人ミュージシャンの音楽と映像ばかり。もちろん今も黒人差別はアメリカの大きな問題として消えてはいませんが、当時は今以上に世の中のあらゆる場面でわかりやすい差別が存在していました。ティーンが読む雑誌なども完全に人種で分断されていたんです。

不公平な境遇の中で勝つためには、白人中流以上の家庭が有料でチャンネル加入していたMTVがどうしても流すしかないような、とにかく圧倒的に魅力的なミュージックビデオを作る必要があった。前人未到の場所で、企画と鍛錬で壁を壊していくしかない。そんな中で生まれたのが、「ビリー・ジーン」「今夜はビート・イット」や「Thriller」のミュージック・ビデオだったんですよね。

特にマイケルは、「Thriller」の制作に映画と同規模の予算をかけました。長さは14分。「そんなに長いミュージックビデオなんて誰も見ないよ」って、もちろんレコード会社は難色を示したんです。シングル「Thriller」は、アルバム『Thriller』がリリースされた約一年後に満を持して作られたんですね。マイケルにはビジネスとしてもヴィジョンがあって、情熱的だったんですが、レコード会社は制作費をそんなに出せない、と。

そこでマイケルは、制作費の半分を自分で持つと言いました。そして「その代わりにビデオグラムの売上を僕にください」と。当時、VHS、βなどのビデオやレーザーディスクなどハードが各家庭に浸透してたんですが、パッケージ、ソフトが足りなかったんです。

その結果、ビデオ・パッケージになった「Thriller」は大ヒット、マイケルのビジネス感覚の正しさが証明され、他のアーティストたちも、レコード会社もビデオ制作に本気で力を入れ始めた、というわけです。そして、黒人、有色人種の映像がエンターテイメント界で普通に広まり、愛されるようになりました。その後のヒップホップの隆盛を知る人には、信じられないでしょうが。

いい企画には、ピンチや逆境をひっくり返したり、時代を動かしたりできるパワーがある。課題を通してマイケルの様々な企てに触れることで、それを感じ取ってもらえたらうれしいと思ったんです。

今回、企画生のために手書きの資料を用意した西寺さん。本気で「企画でメシを食っていきたい」と集まった仲間たちに、本気で向き合った。

「自分の土俵」じゃないときこそ、真価が問われる

講義中盤、話は課題に対するフィードバックへと展開していく。

10日間でマイケル・ジャクソンの好きな1曲を見つけて、その理由をA4一枚でまとめてください。

「すみません、正直、ちょっとがっかりしました」と、静かに口を開いた西寺さん。企画生たちは、真剣に、そして少し悔しそうな表情で彼を見つめた。

確かにこのテーマ、めっちゃ難しかったと思います。マイケルに興味がない、好きじゃないという人も多いだろうし。ただ「興味がないジャンルに対してどう追っていくのか」。不条理かもしれませんが、企画を通してその熱意が見たいと思っていました。

例えば、みなさんが役者だった場合、与えられた役がどんな性格や職業であったとしても、一応全力でやってみますよね?仮に自分に向いていない、これは自分の土俵じゃない、と思っても、1回は真剣にお題にトライしてほしかった。

僕も突然通行人を呼び止めて宿題を出してるわけじゃないですし(笑)。お題をくださいと言われたから、考えて出しました。なので、その気持ちをなんとか読み取ってほしいんです。いい企画って「誠実さ」から生まれる気がするんですよ。

たとえば僕はミュージシャンでプロデューサーですけど、アイドルの仕事の場合、依頼されて初めてその名前やグループを知ることも多いんです。でも正直、そんなことは結果には、まったく関係なくて。どんな相手でも、どんなジャンルでも、曲を作るときには準備の段階で、相手のことを調べ尽くしてプロファイルした上で作詞作曲します。この工程が変わることはありません。

制作チームや本人たちが「これまでと全然違うものにしたい」とオーダーされたとしたら、意図的に調べないこともあります。どちらにせよ、プロとして関わる以上、知っていようがいまいが、好きでも嫌いでも、僕としては全力でトライして、依頼者にとって最高の仕事をしようと思うだけ。

スタートラインは好きでも嫌いでも、詳しくても詳しくなくても良い。与えられた時間の中で徹底的に調べて、それでも「好きじゃない」と感じるならば相手に正直にそう伝えたって良いんです。今回だって、僕は皆さんにマイケルのファンになってほしかったわけじゃない。

じゃ、例えばマイケルが嫌いだとして。10日間、なんとか聴いたり、出来るだけ触れてもその中で「あ、これは好きかな」「知らなかったな」ってことが出てくると思うんです。

「企画」を仕事にするとなれば、必ずしも自分の得意分野ばかり担当できるわけではない。苦手なものと向き合うときほど、相手への優しさが求められるのではないでしょうか。今回で言えば、授業にくる僕ですよね。講師のバックボーンや想い、狙いを少しでもわかろうとする。相手の土俵に入って、まず真剣に戦う姿勢を見せる。僕は皆さんが、自分のエリアから一歩外へ踏み出す姿が見たかったんです。

企画は相手への「プレゼント」。気持ちを贈ろう

厳しくも丁寧に、熱意を持って一人ひとりの課題に言葉をおくった西寺さん。最後に、今回提出された課題の中から、読んでうれしい気持ちになったものをいくつか紹介してくれた。

僕、『MICHAEL JACKSON BY ROCK A THEATER』っていうマイケルのオフィシャルアパレルブランドでオーガナイザーをやっているんですけどね。

そんなに知られていない情報なんですが、課題の中でこのアパレルブランドについて言及してくれた人がいて。驚きましたね。やっぱり単純にうれしかったです(笑)「あぁ、ここまで調べてくれたか」って。「それですよ」と。

ちょっとしたことなんです。もちろん、マイケルでも西寺郷太でなくてもいい。ただ、10日間でマイケルのことだけじゃなく、西寺郷太という人間のことも考えたり、調べてくれた人は、他の講師が来られても、どんな内容でも一定のリサーチを出来る人だと思うんですよ。それが、寿司職人であれば、一回食べに行くとか。スポーツ選手であれば、試合を観るとか、作家なら本を読む。例はキリがないですけどね。

もしかしたら、そういう行動って一種のごますりなのかもしれない(笑)。でも、企画のプロとして「メシを食う」のがこの講座の目標だとしたら、クライアントや会社、個人の想い・歴史を出来るだけ細かく知って、そこへのリスペクトや正直な感想を伝えて嫌な気持ちになる人はいないんじゃないか?って思うんです。

まず「企画を贈る相手を、喜ばせられるか」。結果的に冷徹な意見を言うにしてもね。まずはビジネスをする上で、すごく大事なスキルだと思いますよ。

もう一つ、企画書に「自分」の要素を入れるのも大切だなと。何人かは、「自分とマイケルの楽曲との出会い」を書いてくれた人がいました。これは大変うれしかったです。

今回、僕が知りたかった、反応を見たかったのは、その曲が世の中で薄っぺらくどう思われているかではない。その曲を選んだ、“あなた”の気持ちを知って、それをテーマに授業がしたかったわけです。

企画を贈られる相手、今回で言うと僕は、正直この中にいる誰よりもマイケルのことは詳しいです。だからこそ、僕が知らないこと、つまりあなた自身の想いや感想を教えてほしいと思ったんですよね。

どんなことでもまずは相手のエリアに入った上で、そこに自分にしか渡せない要素を加えてゆく。そうやって相手と「私」の真ん中にある、これまでにないもの。世の中をちょっとでも良くするものを見つけるのが、企画の醍醐味なんじゃないかな、と。

撮影:加藤潤


文 = 千葉雄登
編集 = 長谷川純菜


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