noteを書いてみたいけれど、うまく書けない、自信がない……どうしたらいい? そんな問いに、コピーライターの阿部広太郎さんと向き合いました。思わず筆をとりたくなる、「書くことを楽しむための考え方」のヒントをお届けします。
最高に美味しいご飯を食べたとき。
母と久しぶりに会ったとき。
モヤモヤが溢れたとき。
共感してほしいことがあるとき。
誰かのnoteを読んだとき。
ふと、自分の思いを書き綴ってみたくなる瞬間がある。
でも誰にも読んでもらえないかもしれない。「言葉もうまく出てこないし、もういいや」と、書きかけたnoteを削除。
そんなときが私にもある。
コピーライターの阿部広太郎さんは見透かしたように、こう語ってくれた。
「書くのって大変だし苦痛だし、正直楽しいことだけではないと思うんです。正解がないから難しいし、長時間椅子に座っていると肩と腰もしんどくなるし…」
「・・・でも」と少し間をおいて阿部さんは続ける。
「人が書きたいと思い至るのはいつも、“心が動いた瞬間”なのだと思います。言葉にすることで、心の中にある本当の思いに迫ることができる。書いた文章から、新しい出会いが生まれたり、人に喜んでもらえたりもする。白紙には無限大の可能性があって、そこから何かにつながる扉をつくるイメージを持っています」
阿部さんが教えてくれたのは、「書くことを楽しむための考え方」。一度でも、自分の思いを言葉にしたいと思ったことがあるすべての方へ。
この文章は誰に向けて書いているのか。「ペルソナ(ユーザー像)は誰か考えましょう」とあらゆる場で言われていますよね。でも僕は、書くのはまず自分のためでいい、「一番大切にすべき読者は自分だ」と常に思っているんです。そこに自分がいるかどうかが、とても大切。ライターの先輩、田中泰延さんが著書「読みたいことを、書けばいい。」(ダイヤモンド社)でも伝えています。
誰かに何かが届くとき、その広がり方は同心円状ではないでしょうか。その円の中心には自分がいることを忘れてはいけません。
第一読者は自分です。だからまずは、自分自身が書いて嬉しいと思えるものを書く。第二読者は最初の相手。つまり、友人でも、家族でも、フォロワーでも、この人に最初に読んでもらいたいなという人がいるはずです。その人が同じく読めて嬉しいと思ってくれるかどうか。気持ちがつながれば、第三、第四とバトンはつながり、まだ見ぬ読者へと届くものになるはずです。
目に見えないものを気にしたって、正直きりがない。先の先の先の遠くにいる誰か、知らない人の視線を気にして、ちぢこまってしまって、自分が伝えたいことを押し込めてしまうのはもったいないなと。誰かなんていないんです。誰かの役に立とうと思いすぎる必要はないと、僕は思います。
もちろん仕事となれば文章を完成させなければいけないし、納品もしなければいけない。相手から「こうしてください」「ここを修正してください」と言われる場面もあるでしょう。
でも、自分の気持ちを置き去りにしてしまってはしんどくなるだけ。僕も広告の仕事を続ける中で、やはり「自分」がいない瞬間はつらさが勝ってしまっていました。
自分の一番のお客さんは自分。一番のお客さんは、やっぱり大事にしてほしいと思います。
書くことは、光を当てること。Lightingでもあると思っているんです。
様々な捉え方ができる中から「この部分を知ってほしい」という部分を自分で見つけて、その魅力がちゃんと伝わるようスポットを当てる。
イメージとしては、「カメラ」と同じなのかなと。どこを映し出していくか、その角度は自分で選べますよね。言い換えれば、自分が見たいもの、伝えたいことを自由に切り取っていい、むしろ切り取ることに意味があるのだなと。
視点の部分で一つテクニックもお伝えすると、書くときは「寄り」と「引き」のふたつの目線を使い分けられるといいと思います。
ある一定の目線からだけ書かれている文章は、単調なものになりがちです。寄れば寄るほど、その奥底にある感情やどんな気持ちが芽生えているのかに光を当てることができる。同時に「引きの目線」を持つことで、いま何が起きているのか、その状況を的確に説明することが可能になります。どこに光を当てるのかを選び、寄りと引きの目線を織り交ぜて書いてみる。これを意識するだけで、文章に深みが出てくるものです。
もし取材や対談といった誰かが話した言葉を文章にする機会があれば、「言葉をそのまま書けばいい訳ではない」ということをぜひ意識してみてください。
5年ほど前、映画監督の松居大悟さんと対談をして、みずから文字起こしをして、その様子を記事にまとめたことがありました。対談を執筆するはじめての経験で、いまだに忘れることができない思い出です。
僕は記事を書く際に、その場で話されたことを出来る限り忠実に書き起こす形で構成をしたんです。自分なりに「よく書けたんじゃないかな」と思って、完成した記事を松居監督にお送りして。
すると、かなりの赤字とともに返ってきました。そして、「これはこういう意図で言いました」と丁寧に書き添えてくれてました。松居監督とは友人でもあり、言いづらかった部分もあるかもしれないのですが、その時にちゃんと伝えてくれたことに本当に感謝していて。
その時はじめて、あぁ、記事を書くって、ただ「まとめること」ではないんだなと気づけたんですね。その場の空気感も含めて、相手が何を伝えたかったのか、言葉の奥にある思いまで汲み取るのが構成する僕の役目だったんだと。
その場で話されていたことを自分なりに解釈した上でメッセージにしたり、言葉を補足して伝わりやすくしたり、時には順番を前後させたり、話し手の表情や言い方を丁寧に描写したり…当然、まとめるだけでは届かないんですよね。記事を書く際の基本姿勢、一番の醍醐味を、身を持って学んだ出来事でした。
最後にみなさんに伝えたいのは、「遠慮しなくていい」ということ。自分の内面を吐露するには勇気が必要だと思います。誰かに見てもらうとなれば、どこまで書いていいのか迷うこともあるでしょう。
でもね、遠慮のない気持ちこそが感動の素なんだと思います。本当に言いたかったことが、世に放たれる。その奥に感じられる勇気。そして、ここまでは書いても大丈夫、ここまで書いたら伝わるというチューニングは後からいくらでもできる。だからまずは一度出し切ってみて欲しい。自分の中でリミットを勝手に決めてセーブをしたり、遠慮をしないで欲しいんです。
一番大切にしてほしいのは、自分、そして最初の相手に、その瞬間の気持ちを忘れさせたくないという強い気持ちを持つこと。
文章は誰にでも書けますが、その文章はあなたにしか書けない。自分の心情や内面を吐露するように言葉にしたっていいし、外の世界で起きたこと、見聞きしたことを中心に言葉にしてもいい。アプローチや文体に正解はない。それらはすべて「人格」ですから、人と比べたり、遠慮したりする必要ないんです。
ただその一方で、配慮をすることは忘れないでほしい。ここで言う「配慮」とは、優しさがそこにあるかどうか、読み手にとって読みやすいかどうかを考えているか、といったこと。書くのは自分のためで良いですが、届けたい人がいるのであれば、自分勝手に書いてはいけない。
たとえば文章の冒頭に掴みを用意したり、時には写真を挟んだり、言及していることにリンクを貼ってあげたり。相手の心に触れる上で、優しさを細部まで込めることは忘れないで欲しいと思っています。
※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて、コピーライターの阿部広太郎さんが主宰する連続講座「言葉の企画」の模様をキャリアハックにて再編集したものです。
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撮影:小田周介
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