0→1のプロダクト開発を多く手掛けてきた、10Xの矢本真丈さん。いかにプロダクトで世の中にインパクトを与えるか。プロダクトマネージャーには「気づき」が必要だと語ってくれた。誰もが困っているのに、カタチになっていないものを。矢本さんから1年目PMに贈るプロダクト開発論!
全2本立てでお届けします!
[1]PMは、未来を生きる人であれ。まだ解決策のない「負」に気づく訓練法
[2]若手PMこそ、「書くチカラ」を磨け。
ー まず最初に、矢本さんの考える「駆け出しPMに必要なこと」を教えてください
「どれだけのインパクトを与えるプロダクトがつくりたいか」を描くことですね。PMが描いたもの以上のプロダクトは絶対に生まれません。そしてもし「大きいインパクトを」と考えるのなら「自分だけが知っている気づき」がマストだと思います。
ピーター・ティールの名言に「What important truth do very few people agree with you on? (賛成する人のほとんどいない大切な真実とは?)」というものがあります。これを個人的に「Non-consensus right」と呼んでいます。
「みんなが良い」と思っているものは、多くの人が簡単に参入できるため、自然と競争は激しくなります。自分だけが得た気付きからスタートしたプロダクトは、その時点では極めて小さなマーケットしか存在しないかもしれませんが、独占できる可能性があります。「将来大きくなる市場に気づき、リスクを背負って賭け、独占する」ことこそ「大きなインパクト」の前提。
にも関わらず、気づきのないまま、いきなりプロダクトをつくりはじめてしまう人がとても多いように思います。
当たり前のことですが、プロダクトをつくることが目的化してはダメ。ユーザーだって、誰もプロダクトを求めているわけではありません。探してすらいないことのほうが多いです。
ただプロダクトを創るだけだったら個人の趣味でいいはず。PMは、未来を予測し、欠けているものに「気づく力」、そしてそれらに大きなリスクを使って賭けていく胆力が必要だと思います。
ー どうしたら「気づき」を得られるのでしょう?
気づきを得るためには、「気づくための訓練」が必要かなと思います。
ある事象を見たときに、事象が発生している因果関係、携わる人の気持ち、インセンティブの構造、システムの相互関係など...1面だけでなく、複数の面から一つの事象を深く理解しないことには「自分だけが知っている事実」に到達するのは難しいと思います。多面の情報を自らとりにいき、「現実でおきている事象と、理想の間のギャップがなぜ生まれているか」を思考する人にだけ、「気づきのチャンス」があります。
あともうひとつ、気づける人と気づけない人の差は単純な「知識量」にあることも多いと思っています。人間が受動的に受け取る情報量ってじつはそんなに変わらない。けれど、情報から気づきが生まれるかは「知識量」そして知識からくる「メタ認知力」によって左右されます。
仮に「Uber」というプロダクトを知ってる人は、「Airbnb」を見たときに「Uber の旅行版だ」と捉えられる。さらにこれらの成功要因を理解している人は「旅行版C2C、タクシー版C2CもXやYの理由で上手くいっている。このXやYは今の食品配送の問題解決に適用できるのではないか。」とアイデアの予測検証ができます。何も知らない人だと新しい何かを見たとしても、現実の中から「課題を見出し、捉えること」や「解決できると認識すること」自体が難しい。それだと「次」が読めない。
気づく力を身につけていく上で手っ取り早いのは、自分を「現場に晒し、体験知を得ること」。たとえば、近年「インスタでモノが売れている」と言われますが、そのことを深く理解できる人って実はすごい少ない。理由は、日本においてインスタでモノを実際に売ってみたり、買ってみたりしている人が相対的にかなり少ないから。ECといえば楽天、Amazon、Yahoo!というのが多くの人にとっての現状です。
だけど、実際に「自分がなんかつくってストーリー出したら、5分のストーリーで10個売れました」みたいな経験があったら、要因が言語化できるかは別にせよ、「これは絶対来るな」って気づくじゃないですか。体験知から得られる学びは直感的に吸収しやすいんです。しかもほとんどの人が行動していない場合、その体験知自体が希少になり、「賛成する人のほとんどいない大切な真実とは?」の答えに近づく材料になると思います。
ー 気づきを得て、そこから「ビジネスとしての可能性」を見極めるにはどうしたらいいでしょうか?
ひとつお伝えすると、ヨコとタテで比較することをおすすめしています。
ヨコの比較というのは、他の国や別の産業と比較することです。
たとえば、日本国内のオンライン小売市場を未来を予測したいときに、世界一のECマーケットを持つ中国をみてみる。
中国の小売市場におけるEC化率は、どれだけオンライン向きの商材でもだいたい20%程度に収まっています。車よりも先にモバイルが普及し世界で最もEC化率が高い「テクノロジー先進国」にも関わらず、「すべての小売が80%をECで売る」みたいな世界にはなっていない。これってようは、人間の限界だと思っていて。これが普遍的な行動動態を掴むヒントかなと思います。
モバイルが進化し、配送の柔軟性が高く、どれだけ便利になったとしても、店舗で実際にものを見て買いたいニーズは消えないどころか、大半を占める。OMO(Online Merges with Offline)によって「ブランドがパパママストアの棚への進出」を加速させているのも、その背景がある。翻って、日本の小売のEC化率は約6%。さらにクルマの普及が完了しオフラインでの小売の勝者はすでに固定されてつつある。商材やエリアなどにより様々な前提の違いはあれど、中国と比較するとまだまだECの成長余地のほうが大きいのでは、と意味づけができるようになります。
タテの比較というのは、時系列で過去、現在、未来を比較することです。
たとえば、小売産業はそもそもどういう生い立ちできたのか。過去20年の推移をみたときになにが起きているのか。どんな要因で変化が起きているのか辿ってみる。特に大きな構造の変化は「政治、経済、法律、技術」の変化によってもたらされることが多い。この4つの観点から産業の推移をみてみると、今後の予測が立てやすくなると思います。
(つづく)
取材 / 文 = 野村愛
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