2020.02.18
迫りくる競合、フィンテック黎明期。マネーフォワードが向き合ったあらゆる矛盾|辻庸介

迫りくる競合、フィンテック黎明期。マネーフォワードが向き合ったあらゆる矛盾|辻庸介

まだ“Fintech”という言葉が一般化する前、2012年に創業。人々と「お金」の関係性を捉え直し、その課題解決に取り組んできたマネーフォワード。2017年には東証マザーズ市場へ上場。創業者でありCEOの辻庸介さんは、創業期から拡大期、そして現在に至るまで「矛盾」と向き合い続けてきた。

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全2本立てでお届けします!
[1]迫りくる競合、フィンテック黎明期。マネーフォワードが向き合ったあらゆる矛盾|辻庸介
[2]「しんどいときこそ鼻歌を」マネーフォワード 辻庸介の怒らない仕事スタンス

あらゆるフェーズで「矛盾」と対決する

「上場3年目を迎えて」というタイトルで、マネーフォワード代表取締役社長の辻庸介さんはnoteを書いた。その書き出しでは「矛盾」という言葉が繰り返されている。

「経営は矛盾の超克だ。経営者は、常に矛盾と向き合い、その矛盾を超え、こたえのない解を探し続けなければいけない」

尊敬するある経営者の方から、このようなことを言われました。

振り返れば7年間、どのフェーズにおいても「矛盾」は山のようにあり、その矛盾を超えて、いくつもの判断を下し、実行していかなければなりませんでした。

2012年に設立したマネーフォワードは「お金」を事業領域に、個人から法人まで、さまざまなサービスを生み出してきた。オンライン家計簿やクラウド会計といった、今でこそ数多くの事業者が取り組むものたちも、逆風の吹く黎明期のなかで育ててきた。

7年間に経験した、あらゆるフェーズでの「矛盾」。辻褄の合わない苦しみを、彼はどのように考え、今日まで乗り越えてきたのだろうか。創業期、事業の拡大期、そして現在に至るまで聞いていった。

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【プロフィール】マネーフォワード 代表 辻庸介 京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー株式会社、マネックス証券株式会社を経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立。新経済連盟の幹事、経済産業省FinTech検討会合の委員を歴任。

昔のほうがよかった……なんて本当か?

「創業期ってピュアなんですよ。プロダクトだけがあればいいから。それだけにフォーカスして、シングルファクターで進めてしまうのは大きな有利です」

ミッションに「お金を前へ。人生をもっと前へ。」を掲げるマネーフォワードらしく、辻さんも常に前だけを見て走ってきた。だからこそ、昔のことを美談にはしない。

「あの頃は良かった、みたいな議論は嫌いなんです。『俺たちが若い頃はこうだった』って話す人もいますけれど、世の中は完全に進化していて、これだけ便利になって、色んな課題を解決している。本当に比較して考えているのかな?と。それに、今を生きる人にも失礼だと思っていますから、僕は『前のほうが良かった』とは絶対に言わないです」

2012年の設立から携わる、取締役執行役員の瀧俊雄さんとも「あんなしんどい頃には二度と戻りたくない」と、よく話すそうだ。ところが、この「前のほうがよかった」という矛盾は、ことベンチャー企業の創業期においては起こりがちなのだという。

「創業期は少人数ですし、自分たちがプロダクトに関与しているのが楽しいですよね。でも、事業が上手くいったら人も増やさないといけない。成長するのは良いことなのに、『なんだか組織が大きくなっちゃった』『自分の知らないことが増えて寂しい』という声が出たりする。成長しなければ死んでしまうベンチャーにもかかわらず、成長すると小さな頃が良かったと思ってしまう。これも矛盾のひとつでしょう」

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「わからない」の壁にぶつかる

組織の成長は、いわゆる「30人の壁、50人の壁、100人の壁、300人の壁」というベンチャー企業における人材の課題ともいえる。10人ほどまでは価値観も共有しやすいが、組織の拡大と共に入社年次にバラつきが出て、足並みが揃わないことも増えてくる。

辻さん曰く、この時期には「わからない」という言葉が、会話のお尻に付きがちになる。

社長が何を考えているのか、わからない。
会社の向かう方角が正しいのか、わからない。
プロダクトの方針とマネタイズが、わからない……。

特にサービスとユーザーの利便性、そしてマネタイズは相反する時がある。そこで、いかにバランスを取るのかを考えるのは、いつでも起きる「矛盾」の事例だ。ここで成すべきなのは、足並みの揃わない組織で「自分の価値観」で処理せずに、会社の価値観を定義することだったと辻さんは振り返る。

「今は様々な事例や記事があるので、ミッション、ビジョン、バリュー、カルチャーの大切さを知って、どの企業も早めに設定するようになってきていますよね。でも、当時の僕らに、その情報はまだ行き渡っていなかった。お互いのコミュニケーション不足や理解不足がもとで、相手の発言が理解できなかったり、意思決定に疑問が起こったりすることになる」

矛盾だらけのミッション/カルチャー

マネーフォワードとしても価値観の言語化に取り組んだ。ところが、辻さんを始めとした創業メンバーが初期に定めたミッションやカルチャーは、自ら振り返っても「矛盾がすごかった」という。

「いちばんひどかったのが『Work hard、しかし家族を不幸せにしない』というもの。ただでさえ両立が難しいものに加え、家族を『幸せにする』のではなく『不幸せにしない』ですから。いかに僕らが追い込まれていたかが、如実に表れていますよね……」

浸透させようとしたが、10以上と項目が多いせいで覚えにくく、ポジティブな言葉の無さから、社員からは内容の見直しを提案された。新しい案にも大事にしていることを盛り込んだが、これでは多すぎて伝わらないと言われて、数を絞り込んだ。

ただ、再設定後は価値観の共有化ができ、組織運営も楽になった。創業者だけでミッションやカルチャーの制定を行えなかったことも、ともすると「矛盾」のひとつかもしれない。思いの強さでいえば、創業メンバーに勝る人はそうそういない。なぜ、その決断ができたのか。

「思いがあることと、伝えることは別物です。僕は伝え方が大事だと気付かされたんです。結局、僕が思いの丈を書いたとしても、実際に伝わらなかったら意味が無い。組織運営において受け皿となるメンバーが理解でき、しっかり使えるように変えていかないと。むしろ、思いが強すぎることが邪魔になってしまう」

現在のマネーフォワードは、ミッション、ビジョン、バリューを合わせても5項目に収まっているのには過去の教訓があったのだ。

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コミュニケーションの失敗を招く「高すぎる期待値」

辻さんは拡大していく組織運営の傍ら、会社は数度の資金調達を経てきていた。2015年頃には累計で30億円近くの投資を受けている。経営の焦りから、社内のメンバーを叱責してしまう経験もあり、社内の雰囲気が淀むことさえもあった。

「課題が解決しない苛立ちが根本にありました。あとは求めるクオリティに対してのアウトプットへの不満ですね。振り返れば、その時はシンプルにチームの能力が足りていなかったんです。もちろん、僕をはじめとしてもっと勉強しなければいけなかったし、チームを強くすることを考えなければいけなかった。当時の社員には申し訳ないと思っています」

競合他社のサービスも勢いを増し、外圧的にスピードが重視されてもいた。「他社がもし1日でも早くリリースしたら、メディアの食いつきも異なる」という実体験を持っていたからこその求めだったが、クオリティとのバランスが難しい。ただ、それを成し遂げるためのチームの強化は、一朝一夕ではいかない。

「今なら課題の分解を先に行い、相手の状況をもっと理解しようとするでしょうね。その上で、相手との信頼関係を構築し、ディスカッションするはずです。僕のほうが情報量や経験値もあって正しいと思える時と、逆に僕にはわからないこともある。ケースバイケースで納得できるようにやり方を変えるべきで、議論の課題も違うこと整理できればよかったです」

まずは課題を因数分解することで状況を整理した上で、情報量や経験値のズレを鑑みた上で、納得のために議論する。そこから次につながるリアルな打ち手が見えてくるのだ。

「エグゼキューション能力は、その人によって違います。マネーフォワードは創業メンバーから極めてエグゼキューション能力が高い人を集めていたので、どうしても期待値が高くなっていました。でも、100mを30秒で走る人に『10秒で走れ』と言っても難しい。それぞれの良さを不足を知って、無理を言わずに良さを活かす……と、今では思えますけれど、当時は難しかったですね」

「捨てない」からこそマネジメントが大事

振り返って聞けば、無理難題を話している印象はない。ただ、常に走り続けなければ「会社が無くなる」という焦りから、エグゼキューション能力が高いメンバーでも罠にはまってしまう。

「その頃の精神状態は異常で、常に切羽詰まっていて……まぁ、今も切羽詰まってはいます(笑)。やるべきことは数多いのに、リソースは少ない。『優先順位を定めて、捨てることを決めましょう』なんて、よく言うじゃないですか。いやいや、それで捨てて、失敗したらどうするの?捨てないで少しでもやろうよ!と思っていました」

「この考えが良いのかはわからないけど」と前置きして、辻さんは「捨てない」と考えた根拠を話してくれた。確かに賛否両論は分かれるかもしれないが、この考えがあるからこそ、マネーフォワードは最前線で走り続けられてきたのかもしれない、とも感じさせた。

「捨てるというのは、自分たちのチームの能力を80だと見ていて、100のことをやらないといけないから、20を切ろうという考え方じゃないですか。でも、僕は自分のチームが今は80でも、100を出せると思っています。基本的に、人は自分の能力を過小評価しているんじゃないでしょうか。自分を信じれば出来ることはもっと多くなる。そのクオリティやスピード、可能性を引っ張り出して上げるのが、上長の役割なのだと考えています」

辻さんが焦りから語気を荒げてしまったように、個人任せに「もっと早く、もっと良いものを」と発破をかけるだけでは、実現は難しい。この理解をしたからこそ、マネジメントの大切さを実感できているのだ。

数々の「矛盾」を乗り越えながら、形作られてきたマネーフォワード。現在になってわかった「社長の役割」や、次なる壁への立ち向かい方などに、話は続いていく。

>>>「2」「しんどいときこそ鼻歌を」マネーフォワード 辻庸介の怒らない仕事スタンス


編集 = 野村愛
取材 / 文 = 長谷川賢人


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