チャンネル登録者数61.8万人を突破した『テイコウペンギン』。YouTubeアニメ制作を手がけるPlott 代表の奥野翔太さんはどのようにコンテンツと向き合ってきたのか。ヒットコンテンツの共通項と共に伺った。
全2本立てでお送りいたします。
【1】『テイコウペンギン』がヒット! 奥野翔太がYouTubeアニメに勝機を見出すまで
【2】YouTubeアニメの戦い方とは?チャンネル登録61万『テイコウペンギン』仕掛人が明かすヒットの裏側
YouTubeアニメを主戦場とするスタートアップ『Plott』の勢いがとまらない。
・『テイコウペンギン』
・『秘密結社ヤルミナティー』
・『混血のカレコレ』
・『全力回避フラグちゃん!』
など、ヒットを飛ばす。とくに『テイコウペンギン』は、チャンネル登録者が驚くべきスピードで増やしてきた。
ブラック企業で働く毒舌ペンギン、腹黒パンダ、理不尽上司のやりとりは、ブラック企業に勤めたことがない人がみてもにやけてしまう。とくに「社畜に寄り添うゆるキャラ」というキャッチコピーには親近感が…。
このコンテンツ誕生のきっかけについて『Plott』代表の奥野翔太さんはこう解説する。
「2018年頃から『テイコウペンギン』のようなアニメ動画やマンガ動画の市場はじわじわと伸びてきていたんです。ただ、YouTube上で見るとメジャーな作品が主流。キャラクター次第でYouTubeで戦えると考えました。まずはTwitter上でキャラクターをつくっている人を探し、声をかけ、仲間になってもらったんです。そのキャラクターをYouTube上で立たせ、アニメ化していきました」
そもそもYouTubeアニメとは?
奥野翔太さんはどのようにコンテンツと向き合ってきた?
ヒットするコンテンツの共通項と共に伺った。
――まずYouTubeアニメについて伺ってもよろしいでしょうか。
「YouTubeアニメ」というのは、YouTubeファーストなアニメのことを指してます。
今YouTubeでは「漫画動画」や「バーチャルYouTuber」などの市場が急速に拡大していて。
ただ「漫画動画」は情報を伝えるメディアとしての側面が大きく、「バーチャルYouTuber」はタレントとしての側面が大きい。「アニメ」としてコンテンツを楽しんでもらおうという意図で僕らはコンテンツを創っているので「YouTubeアニメ」と呼んでいます。
―― 作り方のコツはあるのでしょうか?
表面的にはたくさんあると思います。テンポを良くする、起承転結をつくる、キャラ設定を作り込む…とか。ただ、身も蓋もないのですが、結局それって「テクニック」にすぎなくて。
ヒットした要因や法則ってあとから何とでも言えてしまう(笑)でも、一つひとつの動画をつくっている時って、クリエイターたちの「これこそがオモシロイものなんだ」という「エゴ」であり「こだわり」ですよね。それをカタチにしていっているだけで。言ってしまえば、そこに「魂」がのっかっているか。たとえ。作ったものが万人ウケしなくても、目の前のひとりに刺されば、一定層に広まっていく。
まずはつくり手である社員やクリエイターが楽しみ、その上で視聴者の方が楽しんでくれる。そして株主さんがハッピーになったらいい。
ぼくは経営者なので、作品づくりにはほとんど口出しはしていません。当然、僕自身もマンガやアニメが大好き。日々いろんなコンテンツを消費していますが、社員たちには遠く及ばない。僕より詳しく、目の肥えたメンバーたちの発想を活かしたほうがよっぽどいいもの生まれます。結局、僕にとって一番のユーザーは社員なんです。つくり手の熱量を大事にしないといいものができないので。
――制作クリエイターは社員として社内にいるんですね。どうしてもコンテンツビジネスでは数字も意識せざるを得ないと思うのですが、KPIは設けていますか?
一応、サムネイルのクリック率とそこからの視聴率は重視しています。ただ、それがKPIかと言われると違う気がして。そもそも「目標」を決めてしまうと制作クリエイターにストレスを与えてしまう。結果的にコンテンツがつまらなくなる。こういった矛盾をはらんでいると思うんです。やはり数字より、つくり手の魂のほうが大切だと思っています。
補足しておくと、何も「経営において数字を見ない」というわけではないです(笑)作品づくりに集中してもらうために、クリエイターには余計な数字のプレッシャーをかけないようにしている、という話ですね。
また、それでいうと「バズを狙う」という発想もないんですよね。一発のホームランを狙うのではなく、一定数見られるコンテンツをコツコツつくって、チャンネルを育てていく。グロースさせていくのが僕らの基本スタンス。そのためのグロースの戦略を考え抜いていきます。
以前、Vtuber事業をやっている時に痛感したのですが、素晴らしいコンテンツをつくっているのにマーケティングに無頓着な会社ってじつは多くて。でも、それだと勝負ができない。
いいコンテンツをつくり、マーケティングも抜け目なくやれば、コンテンツが強い会社はもっと上を目指せるはず。僕らはコンテンツのスタートアップでありながら、マーケティングに強いIT企業でありたいと思っています。
チャンネル登録者数120万人のキリンさんというインフルエンサーさんと共同で制作した『秘密結社ヤルミナティー』。チャンネル登録者数22万2000人まで伸びた。
――一方で、ある程度チャンネル登録者数が増えると炎上リスクも出てくると思うのですが、どのような対策を?
そもそもYouTubeの審査基準ってすごく厳しいので、性的あるいは暴力的な表現を含んだコンテンツはすぐにBANされてしまう。そんな中、僕らのコンテンツはわりとコミカルなので炎上やBANのリスクは少ないのですが、それでも「暴力」「いじめ」「差別」「エロ」的な表現がないかはチェックするようにしています。
―― 最後に今後の展望を教えてください。
直近では、『テイコウペンギン』などのキャラクターのIP展開をしたいと思います。僕らはライセンス事業を見据え、YouTubeというプラットフォームの中では、他のマンガ動画のチャンネルに比べて予算を投下してきました。
おかげで各チャンネルが順調に伸びてきました。グッズ販売、広告、コミック、ゲームなどライセンスを使っていろんな展開ができると思っているので、いまからワクワクします。
もっと中長期的な目標でいうと、よりYouTubeアニメ市場を盛り上げていきたい。スマホファーストなアニメって世の中にまだ多くはありません。YouTubeアニメが盛り上がれば視聴者も増えると思っているので、多くのプレイヤーに参入してきてほしいですね。
もしかすると気後れする領域に感じるかもしれませんが、YouTubeアニメってまだまだプレイヤーとして参入できる障壁が低いと考えています。
役者やタレントさんがYouTuberをやると代替できないですよね。やる方も疲れてしまうと思うんですけど、アニメの場合は属人性がない。もし、新しいアイデアや他にやりたいことができたら、別のチャンネルを立ち上げることもできます。補足をすると、最近では、ヒカキンさんがアニメをやってたり、ラファエルさんが漫画動画チャンネルをやってたりもしますよね。
最も可能性を感じるのは、「実写でできないことがアニメならできる」ことです。たとえば、「大地震が起きたときに備えて」といった企画を実写でやろうとしたら、セットもロケも大変です。再現も、CGもなかなか難しい。
でも、アニメなら実写ほど制作費をかけずに、大地震の様子を再現できます。ある意味、表現力も高いし、表現の幅も広い。もし、参入したい人がいれば、『テイコウペンギン』と共同チャンネルをつくることもできるので、ぜひ仲間を増やしたいですし、多様な業界からコラボしたいという方々とつながっていきたいですね。
>>>【1】『テイコウペンギン』がヒット! 奥野翔太がYouTubeアニメに勝機を見出すまで
取材 / 文 = 田尻亨太
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