2017.12.15
「ぼくは何者でもなかった」 無名だった若き写真家が、インターネットで見つけた生きる道

「ぼくは何者でもなかった」 無名だった若き写真家が、インターネットで見つけた生きる道

いま注目の若手写真家が「yansuKIM」さんだ。「撮るだけで終わりたくない」と語ってくれた。彼が「表現していく」にこだわる理由とは? これから歩んでいく未来に、どんな思いを馳せるのか。独立から約半年、大きく飛躍していこうとする25歳のクリエイター、等身大の姿に迫った。

0 0 50 10

ぼくは何者でもなかった

「ぼくは何者でもなかったんです。写真の才能があったわけでもないし、写真を学んだこともない、飲食店のバイトをしていた普通の大学生だったんです。ただ、いろんな人に支えてもらいながら、好きなことを好きなようにやらせてもらって、幸せ者だと思います」


こう語ってくれたのは「yansuKIM」さん(25)。独立まもなく、仕事の可能性を広げている若手フォトグラファーのひとりだ。SNSでの発信をコツコツと続け、今では指名される存在へ。そして、写真にとどまらず、動画・映像制作といったフィールドにも挑戦する。

やんすさんの作品

彼が大切にしてきたのは「おもしろそう」「やってみたい」と心が揺さぶられた瞬間を逃さないということ。飛び込んでいく。まずはやってみる。素直になり、多くの人たちから貪欲に学びとるというスタンス。

彼は取材の後半、これからは写真だけでなく「アートディレクション」にもチャレンジしたいと語ってくれた。これから歩んでいく未来に、どんな思いを馳せるのか。25歳のクリエイター、等身大の姿に迫った。

「記憶に残る人」になりたい。

やんすさんの写真

ー やんすさんは独立してすぐ、仕事の幅を広げられていてすごいですよね。どうやって仕事を増やすことができたのか、迫っていきたいと思います。


正直、写真や映像など「作品」でいえば、ぼくよりも優れている人たちって世の中にむちゃくちゃたくさんいると思うんです。ただ、確かにその人たちとぼくは多分ちょっと違っていて。違うからこそ、いろいろなお話をいただけているのかな、と。

そう思った時に、やってきたのことはすごくシンプルで。自分の熱意をちゃんと相手に伝えていく。一緒に仕事をしたい人がいたら「一緒に仕事がしたい」と言うし、その人のことが好きだと思ったら「好きです」って言う。

知りたい、とにかく話したい。やってみたい。こういった思いが伝わるかどうかがすごく大切なものだと思っています。


ー 「素直さが武器だった」ともいえますね。ただ、なぜそれが大切だと?


逆にいえば、それくらいしかぼくにはないと思っていたんです。写真や映像の専門学校にいたわけでもないし、何か賞をとったわけでもない。自分は何も成し遂げれてない。生み出せてない。何者でもないというコンプレックスがずっとあって。だからできるだけ素直でいようと心がけています。

ただ、それって「自分のことしか考えないこと」ではなくて。たとえば、有名なプロの写真家の方に「作品を見てください」って自分の作品集をいきなり持っていく若い人って結構多い。はじめはぼくもそうでした。

でも、それは相手には何もメリットもないですよね。時間を奪うことですし、場合によってはすごく失礼になる。だから、どうすれば相手の時間を奪わず、記憶に残してもらえるか。相手の立場に立って喜んでもらえるか。

もし記憶の片隅にでもぼくがいるスペースがあれば、いつかご縁があり、タイミングがあったときに「作品を見せてほしい」って言ってもらえるかもしれない。だから自分から「作品を見てください」とは言わないようにしているんです。


ー 記憶に残る。その方法はどのようなものがあるのでしょうか?


人それぞれなんでもいいと思うんです。たとえば、「名刺がかわいい」とか「気が利く」とか「いつも作品について感想をくれる」とか「連絡したらすぐにつかまる」とか。

ひとつ共通して「記憶に残る人」って相手のことを考えてコミュニケーションがとれる人。温かさがある人。ぼくもそんな記憶に残る人になりたいという憧れがずっとあるのだと思います。

SNSで「好き」を発信しつづけ、見つけた居場所

やんすさんの写真

ー もうひとつ、やんすさんは作品やスタンスなどnoteやTwitterでよく発信していますよね。それは自分を売り込むため?


そこまで計算はしていないですね(笑)なにより、自分が「好き」だと思うものを発信し、共感してもらえるインターネットがすごく好き。自分をたくさんの人に知ってほしい。だから、SNSに関してはできるだけ素のままを発信するようにしています。「フォロワーを増やそう」「仕事につなげよう」とやっているわけでもないんです。

ただ、フォトグラファーはもっと自己発信すべきだといった考えはずっとありました。少なくともInstagramのアカウントは持っていたほうがいいよなって。

写真をやっている人でも、セルフプロモーションが上手じゃない人もいて。…じつはぼくもSNSで「自分」を発信するようになった時、初めは笑われていたんです。同じ写真をやっている人にも「フォトグラファーがSNSで何を言ってるんだ」って。


ー 作品を撮る人のなかには、SNSを毛嫌いする人もいる、と。


そうなんですよね。自分からアピールするのはかっこわるい、恥ずかしい、馬鹿にされるのがこわい、やり方がわからない…いろいろ理由はあるのだと思います。ただ、ぼくはそれを強みにしてやってくることができた。Twitterのフォロワーも少しずつ増え、自然と自分の名前で仕事ができるようになっていきました。

ぼくらの本当のお客さんって、自分のお母さんであったり、隣の家に住んでいる人であったり、世の中にいる「一人ひとり」なんですよね。世の中にいるみんながお客さんなのだから、SNSで直接知ってもらったほうが早い。そもそもどんな作品を撮る人なのかわからなければ、仕事はお願いできないですもんね。

やんすさんの写真

3年間ずっと「目玉焼き」「ソーセージ2本」「食パン」「コーヒー」が朝食だというやんすさん。それを365日撮影。noteにまとめ、いつしかそれが代名詞に。「好きだから続けられている」「ぼくにしか撮り続けられないものになった」と彼は語る。

次に挑戦したいのは「アートディレクション」

やんすさんの写真

ー やんすさんのお話を伺っていると「好き」を大切にされている印象があります。素人目線で恐縮ですが、作品にもやんすさんの「好き」が滲み出ているように感じます。


ありがとうございます、照れくさいですね(笑)でも、たしかに被写体のことをもっと知りたい、愛着を持って撮りたいといった気持ちは強いかもしれません。

ヘンな人だと思われてしまうかもしれませんが…人でも、モノでも、動物でも、話しかけながらシャッターを切るんですよね。料理にも「かわいいね!」って話しかけて撮るし(笑)

やんすさんの写真

ー 料理に話しかけるんですか!? おもしろいですね。あまりシステマチックじゃないというか。


そうなんですよね。ぼくはシャッターを切るまでがすごく楽しいタイプで。どんな物語があるか。どう「撮影」という工程までたどり着くか。プロセスをみんなで楽しめるか。愛着を育んでいくといってもいいのかもしれません。

たとえば、クライアントから「商品を撮影してほしい」と依頼があった時も、どんな人たちが、どんな思いで関わって生まれた商品か。商品が生まれた背景、作り手の思いとじっくり向き合いたい。

女性を撮影するときも同じで、どんなタイプの方なのか。お話をしながら、相手を知ることではじめて「その人らしいさ」「かわいさ」が写り込んでくる。コミュニケーションによってにじみ出るもの、人が介在することで可能性の広がる「なにか」がつくれるんじゃないか。つくっていきたいと考えています。

やんすさんの写真


ー ちなみに最近では写真からフィールドを広げて、映像にもチャレンジされていると伺いました。どういった経緯で?


株式会社噂の長谷川哲士さんと村山辰徳が声をかけてくださったプロジェクトですね。資生堂さんと一緒に担当させていただいたのですが、企画段階から参加・提案することができ、本当の意味でみんなでつくることができました。なにより企画からの映像制作という新しい分野にチャレンジできて、本当にうれしかったです。

縦型動画のミュージックビデオ形式で商品のプロモーションという、あまり無いやり方。手探りのなか、みんなで模索しながらクリエイティブに落とし込んでいきました。みんなでワイワイ言いながらつくれるって本当に楽しいです。

だから、必ずしも「写真」である必要はぜんぜんなくて。料理でも、音楽でも、場所でも、いろいろな可能性を見ていきたい。いろんな人に出会いたい。自分のなかにある「わくわく」にいつも素直でいつづけたい。これが根本にあるものなのだと思います。

やんすさんの写真

資生堂のプロジェクト『モアリップス』における、サイトの写真、プロモーションビデオの撮影を担当。ソロやグループで活動している女性ラッパーを一つのユニットにして一曲、モアリップ用のプロモーションビデオを制作した。

まわりにはいつも応援してくれる人がいた

ー やんすさんが、そんな風に新しいコト、未知なるフィールドにも飛び込んでいけるのは、なぜでしょう。こわくないのかな、と。


こわいと思ったことはないですね。まわりにいつも「やってみたら?」と応援してくれる人たちがいて。背中を押してくれる人たちとの出会いがあるから。そういったご縁がなかったら、たぶんぼくはフォトグラファーにもなっていなかったですし、大学にもたぶん入れていませんでした。

ぼくには師匠と呼べる人が10人くらいいます(笑)「物撮り」だったらこの人、「人物の撮影」だったらこの人、人との向き合い方・コミュニケーションだったらこの人、生き方だったらこの人…って。お世話になった人たちによって、ぼくという存在はつくられている。そういった人たちに近づきたい。ここが原動力にもなっていると思います。

ただ、当然ですが、自分から何もせずに「応援だけしてほしい」というのはただのわがまま。「やってみたい」という気持ちをまっすぐに伝えてきたし、「やりたい」という自分の気持ちにウソをつかず、自信を持って発信してきたつもり。そして、相手の立場でモノゴトを考えてできることをやらせてもらう。そういう熱意って必ず伝わっていくと思うんです。だから特別なスキルや実績がなくたってやっていけるし、新しい挑戦だってしていけるのだと思います。


ー 「何者かにならなきゃいけない」という焦りは多くの若い人が感じるもの。ただ、そのためには誰かに必要とされる。まずは相手のことを思いやる。応援してもらえる人になる。ここを忘れちゃいけないのかもしれないですね。すごく大切な示唆をいただけたと思います。本日はありがとうございました!


文 = 野村愛
編集 = 白石勝也


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから