チャンネル登録61.8万人(2020年3月現在)を誇るYouTubeアニメ『テイコウペンギン』。運営元Plott 代表が奥野翔太さん(24)だ。「スキルもお金もなかった」と語る彼は、なぜヒットを飛ばせた? 漫画『キングダム』の武将に憧れ、「オモシロイ」で天下を獲るーーまっすぐな志がそこにはあった。
全2本立てでお送りいたします。
【1】『テイコウペンギン』がヒット! 奥野翔太がYouTubeアニメに勝機を見出すまで
【2】YouTubeアニメの戦い方とは?チャンネル登録61万『テイコウペンギン』仕掛人が明かすヒットの裏側
YouTubeアニメ『テイコウペンギン』が人気だ。
2019年1月のリリースから半年でチャンネル登録者数30万人を突破。
2020年3月現在、61万8000人にまでその数字を伸ばす。
この仕掛け人であり、運営元のスタートアップPlottの代表が奥野翔太さんだ。
「大学2年までサークル活動に勤しむいわゆる普通の学生でした。起業したときも学生だったのですが、あまりにお金がなくて。家賃2万7000円のアパートに2人で住んでいたんですよね。まわりの学生よりも貧乏だったかもしれません(笑)」
そんな彼だが、YouTubeでヒットアニメを仕掛け、U25起業家として注目される存在に。
その軌跡を追った。
―― 『テイコウペンギン』ヒットの裏側を伺う前に、そもそも起業をされたようと思ったきっかけから教えてもらってもいいでしょうか。
大学2年までは普通に学生生活をおくっていたのですが、大学3年から週6でインターン先の企業で働くようになって。そのとき、初めて経営者の人たちに触れたんですよね。
まず「あ、資本主義って面白い」となって。ビジネスって資本主義という名の戦場で、経営者という武将たちが争う戦いなんだ!『キングダム』だな!って。自分も武将になりたいと思ったんです(笑)
インターンでは営業、マーケティング、採用…いろいろやらせてもらって。大学4年になって、高校時代の仲間と2人で「エンタメ領域で一発ぶち当てる!」とだけ決めて起業することにしました。
―― 勝算は見ていた?
いえいえ全く(笑)むしろ無謀でしかなかった思います。最初はお金もなかったので、東京よりの埼玉にある家賃2万7000円のアパートを2人でルームシェアして、ギリギリの生活をしていました。
でも、ワクワクのほうが大きくて。エンタメ領域のなかでもゲームを仕掛けようと思っていたのですが、その理由も「みんなが熱狂するゲームをつくろう!」という気概だけ。
とにかく寝食を忘れてがむしゃらに働くことだけしていました。
当然うまくいくわけもなくて。あと「ゲーム」を選んだのも良くなかった。当たり前ですが、ゲームって大企業が何億円というお金を費やして作って、ようやくヒットさせられるかどうか。お金もスキルもない素人が気合いだけでやろうとしていたので…。
情報系の学科にいたからプログラミングには自信があったんですけどね…。ゲームもつくれるだろうと…たかをくくってたいのですが。無謀でした。
―― 実際にゲームはつくれたのでしょうか?
Unityを独学で勉強して、3〜4ヶ月かけて形だけ動くゲームを2〜3個つくることはできました。ただ、あまりにもしょぼくて(笑)
共同創業者と焼肉屋で「このクオリティじゃとても勝負できないよなぁ…」と。その場で解散が決まりました。
ただ、どうしても僕のなかでは「エンタメ領域で成功したい」という想いが捨てられなくて。一人で動画メディアを始めたんです。今で言う「くつざわ」さんみたいな、SNSで発信する「ミニコント」みたいなのをやりたいと。
自らチラシをつくって、劇場まで足を運んで、芸人さんに直接声をかけて、Twitterで芸人さんにDMしまくって…。
最終的に30人くらいの芸人さんが集まって、オーディションさせていただいたんですけど…ここでも満足のいくコンテンツは作れませんでした。
結局、3ヶ月くらいでその動画メディアは閉じてしまった。
振り返るとたった1人で奮闘してたあの頃が一番辛かったですね。
―― 心は折れなかったのでしょうか?
辛い時もありましたが、心は全く折れてなかったです!(笑)ただ、うじうじ悩んでいても仕方ない。なぜ、うまくいかないのか、自分なりに考え、とにかく動くことにしました。
そもそも僕…東京に全く知り合いがいない中で1人で出てきて、横のつながりもほとんどなく、何も知らなかったんですよね。
で、やっぱり「スタートアップ村」に入って、一緒に会社をやる仲間や信じてくれる投資家へのアクセスを得ないとダメだなと最新のエンタメを学びながら、スタートアップのコミュニティにも入れるARのスタートアップ「Graffity」で働くことにしたんです。
ノウハウを勉強しながら、VTuberを自分でやろう、と。そこで再び独立することにしました。
当時はキズナアイちゃんみたいなVTuberが流行っていたんですけど、男性のVTuberはいなかったので、男性版を出したらウケるんじゃないかぁ…と思って。アニメ好きの聖地である池袋の乙女ロードで一日中聞き込みしたり、市場調査してたりして。
そうこうしている間に、VTuber市場があっという間に立ち上がってしまって。方向転換を試行錯誤しながら、Instagram、TikTokで「縦型ドラマ」を作って配信したりもしましたね。ちょうどそのあとくらいに、Tokyo XR Startups(※)からお誘いをいただけた。アイデアを見せにいったところ、「全然ダメだね」とボコボコにされて(笑)
改めてVTuber市場に参入し、1年間運営したのですが…やはり正面から戦っていくのは厳しいと、さらに考え直すことにしました。…こう振り返ってみてもかなりいろいろと迷走しましたね(笑)
(※)gumi 國光宏尚さんが運営するVR・AR・MRなどのXR領域のスタートアップに出資するインキュベーションプログラム
―― 時間軸でいうと、YouTubeアニメをスタートさせたのはいつ頃だったのでしょうか。
2018年3月TokyoXRstartups参加し、2018年5月VTuberの事業をスタート。2019年1月にYouTubeアニメをスタートさせ、今やっている『テイコウペンギン』のような感じのアニメに行き着きました。
2019年頃から『テイコウペンギン』のようなアニメ動画やマンガ動画の市場はじわじわと伸びてきていたんです。ただ、YouTube上で見るとテレビでやってるようなメジャーな作品が主流。スマホファーストな作品を作れば戦えると考えました。まずはTwitter上でキャラクターをつくっている人を探し、声をかけ、仲間になってもらったんです。そのキャラクターYouTube上で立たせ、アニメ化していきました
今は『テイコウペンギン』は15名体制でつくっていますが、当時は4〜5名のスタッフでやっていて。
当時はまだ並行してVTuberのマネジメント事務所もやっていたので、リソースはカツカツでした。
―― お話を聞いていると不屈というか、とにかくバイタリティがすごい。何がそうさせているのでしょうか?
シンプルですよ。やるからには天下を獲りたい。
僕は高校時代から『キングダム』が大好きで(笑)武将に憧れていて。大学2年の頃立ち上げたフットサルサークルも「大学で一番大きなサークルにしてやろう」という気概でやっていました。
あとは誰かの人生のページに挟まれる人でありたい。経営ってみんなをハッピーにする仕事じゃないですか。必死に知恵を絞って、身体を動かし、社員をはじめとしたステークホルダーを幸せにする。これって最高だと思うんです。
さっきお話したサークルは、最終的には150人規模にまで成長させることができたんですよね。ただ、組織としては未熟だった。サークル運営を後輩に引き継いだ時に、かなり苦労させてしまい、すごく後悔と反省をしたんです。組織をつくりきれていなかった。だからPlottでは、みんながハッピーになれる組織をつくりたいですね。
>>>【2】YouTubeアニメの戦い方とは?チャンネル登録61万『テイコウペンギン』仕掛人が明かすヒットの裏側
取材 / 文 = 田尻亨太
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