2020.04.15
ホテルを避難場所に。医療従事者はじめ「家が安全でない人」のためのシェルター化計画│龍崎翔子

ホテルを避難場所に。医療従事者はじめ「家が安全でない人」のためのシェルター化計画│龍崎翔子

休業が相次ぐホテル業界。「家から出てはいけない時代」にホテルは何ができるのか?ミレニアム世代向けホテル経営の旗手、龍崎翔子(24)さんを取材。伺ったのは、奇しくも彼女が「HOTEL SHE,全施設で臨時休業」の発表直後。龍崎さんは「次なる時代のHOTEL構想」を打ち立てるーー。

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L&Gグローバルビジネス
「HOTEL SHE, KYOTO」「HOTEL SHE, OSAKA」など全5つのソーシャルホテルを運営。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、4月5日から4月24日までの臨時休業を発表している(4月2日時点)。

ホテル業全体で生き延びたい

「欲を言うと、ホテル業全体で生き延びたい。」

2020年4月1日。こうした言葉とともに綴られた、noteが公開された。

noteを書いたのは、龍崎翔子さん(24)。京都、大阪など全国にホテルを展開する『L&Gグローバルビジネス』の代表だ。

彼女が綴ったのは、ホテル業界の現状。そして「未来」への決意表明だ。

ホテルが苦難に立たされる時代に、どのようにして生き残っていくのか、その構想とは。

HOTEL SHE/LTER(ホテルシェルター):家が安全ではない人とホテルをマッチングさせるプラットフォーム。
・スーパー、ドラッグストアなど不特定多数の人に会う職業の方
・医療従事者など感染リスクのある方
・家族に高齢者がいる方
をはじめ、「必ずしも家が安全な場所ではない方」を守るために生まれたプロジェクト。



"『家から出てはいけない時代』のホテル生存戦略"より

「ホテルの非日常」をオンラインで届けていく

ー noteを拝見しました。『家から出てはいけない時代』のホテル生存戦略の1つとして、「ホテルが家に来る」というコンセプトを打ち立てられていました。具体的には?

リアルの場でやっていたホテルから、オンライン上の架空のホテル『HOTEL SOMEWHERE』に引っ越しました。

ライフスタイル提案メディア『HOTEL SOMEWHERE』

もともと私達のホテルは「メディアとしてのホテル」を理念として運営されていました。たとえば客室にレコードプレーヤーや置かれていたり、ラウンジでシーシャを楽しむことができたり。衣食住、そして音楽や娯楽を通してゲストにとって新鮮なライフスタイルや価値観を提案する、「空間型メディア」であるとホテルを捉えてきたのです。

画面越しでしか接することができない、雑誌やTVなどとは違い、受け手の生活の一部として五感で感じながら楽しんでもらえるところに、空間型メディアとしてのホテルのおもしろさがあると思うのですが、このような状況下では必ずしも「オフライン」である必要はないんじゃないかなと。

そう考えて、オンラインで日常をドラマチックにする情報をお届けするライフスタイル提案メディア『HOTEL SOMEWHERE』をリリースしました。

今後は、月ごとにテーマを設けて「体験」を提案していきます。例えば、レコードプレーヤーをお客様のご自宅にお届けしてアナログレコードを楽しんでいただいたり、ワッフルベーカーと一緒に、"ホテルスタイルの朝食"を楽しめるレシピをお送りしたり、といった生活提案型のサブスクもしたいですね。

つまり、オンラインを活用してお客様の日常にお邪魔しながら、日常を非日常に。もっとドラマチックにしたい。外出自粛で日常生活に閉じ込められてしまう今だからこそ、挑戦したいと思いました。

「未来に泊まれる宿泊券」を購入できるプラットフォーム『CHILLNN』。すでに100件近い宿泊施設が参画し、今後も増えていく予定。

「未来に泊まれる」宿泊券を販売

私たちのホテルだけでなく、ホテル業界が一丸となって、どうにか生き延びられないか。そこから、新しいサービスも生まれました。

それが、「未来に泊まれる宿泊券」の販売サービスです。もともと開発中だったホテル予約プラットフォーム『CHILLNN』に、新しい機能を付け加えて1週間でリリースしています。

実は、残念なことに廃業せざるを得ないホテルや旅館も出てきてしまっています。このままでは、安心して旅行ができるようになった時に、大好きなホテルがなくなっているかもしれない。そんなことは絶対に嫌だと思いました。

「いつか泊まりたい」と思うホテルがある方に、『CHILLNN』を使って今から予約をしておいていただく。未来の自分へのギフトとして、チケットを購入いただけると嬉しいなと考えています。

家が安全でない人のため、ホテルがシェルターになる

ーもう一つ、noteで書かれていた「ホテルを家にする」はどういうことでしょうか?

「Stay home.Stay safe」と言われていますよね。ただ、家にいることが必ずしも安全じゃない、という人も一定数いるんじゃないかと思っています。

たとえば、 ご自身に感染リスクがある医療従事者の方。また、ご家族に高齢の方がいて、「自分が感染源になってしまうかも…」と不安に思う方もいます。それに、虐待や家庭内暴力…とまではいかなくても、家庭内不和を抱える方もいる。

そんな中、ホテルに何ができるのか。そこで考えた結果、いま急ピッチで進めているのが、このような方々の帰る場所、過ごす場所となる、ホテルのシェルター化計画、『HOTEL SHE/LTER(ホテルシェルター)』です。

公衆衛生の専門家などの指導のもとで、安全な隔離生活を送るためのホテル「HOTEL SHE/LTER(ホテルシェルター) プロジェクト」をスタートさせた。

私たちが運営するホテルだけでなく、全国のホテルや旅館を巻き込んで業界全体で連携しながら進めたい取り組みです。

ホテル側としても、宿泊者が減る中で「お客さんを受け入れたい」というニーズがある。「いつもの半分、4分の1でもいいから、固定費を回せるだけの収入が入ってきたら…」そう願う事業者は少なくないと思うんです。だからこそ、私達が宿泊施設と仮住まいを求めている人をマッチングしていきたいと考えています。

家が安全ではない人のために「#stayHOTELstaysafe」と強く伝えていく。いくつかある事業案の中でも、ここは特に力を入れています。

待ってるだけじゃ、ホテルを取り巻く状況は良くならない

ーどのアイデアもおもしろいですが、それが果たしてビジネスとしてうまくいくのか…?という疑問も残ります。

もちろん正直、うまくいくか私もわかりません。今は走りながら考えている段階です。ただ、これだけの有事においてどうすればいいか。危機が過ぎ去り、好転するのをただ祈って待ち続ける?それをする勇気はまだ私にはありません。

まだうまくいくかわかりませんが、「うまくいくかわからないから」といって何もしないのは違うと思っていて。どのような環境になってもサバイブできる会社を作らなければいけないと思っています。

それに、ホテル業界には大規模事業者もいますが、ほとんどが中小企業です。そしてその多くが、存続することに手一杯、という状況に置かれています。

ただ、そこに応える策が、まだないんですよね。みんな模索している。何らかの形でホテル業界の役に立てる可能性が少しでもあるなら、動かなきゃと思うんです。

個々ではわずかな力しかないかもしれませんが、業界として連携できれば、新しい仕組みが生まれるかもしれない。もしかしたら未来のインフラになれるかもしれない。コロナショックが終わった後にも今までと変わらず素敵なホテルや旅館に泊まれる旅をするために、業界全体で環境に適応し、生き延びていきたいと思います。

龍崎さんは「早く事業を軌道に乗せるためにも、エンジニアさんやUI・UXデザイナーさんの力が必要です。その他、ホテルや旅館、医療従事者の方や企業さんなど、私達の取り組みに賛同してくださる方がいればぜひタッグを組んでいければ」と語ってくれた。

「新しい社会のあり方」を考え続ける

ーホテル以外にも、多くの業界が苦難の時代を迎えています。その中で頑張ろうとしている人に向けて、メッセージがあればお願いします。

そうですね、私も毎日相談したり悩んだりの連続なのですが、「自分たちが持つリソースをいかに使っていくのか」が大事になるのかなと思っています。

たとえばホテル業なら、大勢の人が同時に生活できる空間と設備があります。食事を生産する厨房もあれば、洗濯をできるランドリーもある。シェフにハウスキーパーにコンシェルジュに「生活」という芸術を作るプロフェッショナルも集まっているます。このように、私たちが持っているリソースを切り出し、柔軟に捉え、組み合わせ方を変えることで成立するビジネスもあるはずだと信じています。

そして、もう少し違う視点で考えると、今って多くの人が自宅にこもり、同じような生活様式を送っている。しかもそれが、全世界で同時に行われている。これってすごいことだと思うんです。

これだけ文化や価値観、生活様式が多様化して、たとえ隣の家に住んでいる人であっても接する情報も、聞いている音楽も違う時代において、みんなが同じ感情を共有している。こんなこと前代未聞だと思います。

そう考えると、今の状況って見方によってはチャンスともいえるんじゃないかな?と。世界が、新しい社会のあり方を考えるべき時間に来ている。社会のインフラになるサービスもここから生まれていくはずだと思います。

今はスクラップのタイミング。だから、身体的にも、ビジネス的にも生き延びることが何よりも大事。そして近い未来、ビルドするためのパワーを蓄えたいと思っています。

今から、世の中にどんな新しいアイデアやサービスが誕生するのか楽しみにしつつ、私達も自分たちの進むべき道を進んでいければと思います。


文 = 越智良知
取材 / 編集 = 平野潤


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