2020.05.27
コロナの影響で、経理もフルリモートに。SmartHRがペーパーレス決算のためにやったこと

コロナの影響で、経理もフルリモートに。SmartHRがペーパーレス決算のためにやったこと

2020年3月27日から、全社員リモートワークとなったSmartHR。経理チームも即フルリモート化した。いかに「ペーパーレス月次決算」を短期間でできたのか。ポイントは社員のバックオフィス業務への理解と、協調性の高さ。代表の宮田昇始さんと、経理担当の稲毛槙子さんに伺った。

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+++稲毛 槙子|2017年10月にSmartHRへ参画。月次決算から支払い管理、債権管理など、子会社3社を含めた経理の日常業務を担当している。

経理のリモートは無理だと思っていた

ーなぜタイトなスケジュールの中、スムーズにリモートに移行できたのか掘り下げて伺えたらと思います。もともとのSmartHRにおける経理業務は、どういった体制で運用されていたのでしょうか?

稲毛さん:
経理チームでは、SmartHR本体と子会社3社の経理実務業務全般を担当しています。たとえば、月次決算、支払い管理、債権管理…といった部分です。よく社外の方からは「SmartHRは経理もさぞかしスマートなのでは」と言っていただくこともあるんですが、…お恥ずかしながら全くそうではなくて。

実は今まで経理業務はバリバリ紙運用でした。各部署の上長承認など、ハンコ運用の部分もあったんです。

というのも、スタートアップだとよくある話なんですが、売上や従業員数がどんどん増える一方、バックオフィスの体制が追いつかないまま…ということはよくあって。弊社も例外ではありませんでした。

たとえば2019年1月頃は100名前後だった従業員は、1年半後の今、200名以上に増えている。ただ、経理業務を会社の成長スピードに合わせて設計できていたかというと、そうでもなくて、未整備だったり対応しきれていなかったりする部分も多かったんです。業務の特性上、物理的なものを扱うことも多いので、経理がリモートなんて…正直「無理だ」と思っていました。

ワークフローツールの導入を1ヶ月前倒しで

ー経理業務をフルリモートに移行する上で、実際にやったことを教えて下さい。

稲毛さん:
経理は毎月のルーティン業務として月次決算があります。リモートの指示がでた数日後には3月月次を締める作業が始まってしまうため、ペーパーレス月次決算に向けて業務のやり方を根本的に変更しなければいけなくなりました。

紙の請求書提出・回収を、クラウド上で完結させる。申請の仕方を切り替えていく。そこで行なった1つ目の取り組みが、ワークフローツールの導入です。

実はSmartHRの子会社が開発中のツールがあって、新型コロナウイルスに関係なく、もともと5月から導入予定ではありました。それが急遽リモートになったため、1ヶ月前倒しで導入していくことにしたんです。

新しいツールの導入は、各チームへのオペレーションに、少なからず影響が出てくるものだと思います。事業スピードを落とさないようにするには、影響を最小限に抑える必要がある。なのでツールの導入には少し慎重になっていたんです。ただ、もう迷っていられないとなって。最終的には突貫工事で導入に踏み切りました。

ワークフローツール上では、入力項目をシンプルにして、「申請者・承認者が分かりやすく使えて、負担を減らすために意味のない項目を作らない」ことを意識していきました。

絶対に動かせない、スケジュールの「おしり」

稲毛さん:
もう一つ、時間が限られている中で徹底したのがスケジュール管理です。

「3月27日から強制リモートになります」と社内で発表されたのが3月26日。3月中に可能な限り、リモートでもいつも通りに月次決算ができる状態に整えておくこと。そして、4月は月次決算作業に集中し、いつもと同じスケジュールで月次決算を締める必要がありました。だからこそリモートによって対応が必要になったタスクと、定例タスクの両方のスケジュールを見える化した上で、期限を決めて進捗管理をしていました。

+++稲毛さんのnote「SmartHRの経理がフルリモートでペーパーレス月次決算をやってみた」より


同時に、タスクの進捗共有と、クラウドへのデータアップロードも徹底していました。定常的なタスクは、Googleスプレッドシートで。その他、スポット的なタスクにはAsanaも使っています。

+++稲毛さん「エビデンスは紙で確認できないので、上記を徹底しました」

実際やってみて分かったのは、思った以上にリモートでもできたということです。限られた時間と環境の中でやるべきことと、期限が決まったことで「どうすればできるか?」と工夫するようになった。「できないだろう」と思っていたのは固定概念だったなと思います。

リモートでプロジェクトを進める上で、特に難しかったポイントは?

ー「ペーパーレス化プロジェクト」を社員の皆さんと進めていく上で、工夫したポイントをあえてひとつあげるとしたら?

稲毛さん:
あえてひとつあげるとしたら…テキストコミュニケーションの工夫でしょうか。

Webに移行するオペレーション組みや準備はできました。ただ、そこからがスタートで。

実際に社員の皆さんに実行してもらわなければ、経理業務は進みません。新ツール導入で今までとフローが変わる。さらに、その告知から回収までをすべてリモートでやり取りして進める…となると、「前より面倒になった」「使いにくい」といったアレルギー反応も起きて当然です。

そこで経理として、社員に協力してもらうために、伝え方を工夫する必要性がありました。

具体的には

・フロー変更や、依頼の理由をセットで伝えた
「なぜその申請が必要か」「どういう意味があるのか」など理由をセットにして、分かりやすく簡潔に伝えました。

・適切なタイミングでアラートメッセージを送る
経理関連の書類は項目の抜け漏れなどがあると困るので、あらかじめチェックしてほしい点を明らかにするようにしました。細かな点は少ししつこいかな?と思うくらいに【念のため確認です】のような枕詞をつけてアラートメッセージを送って、認識の相違がないように徹底しました。

・オンライン懇親会で質問・相談しやすい関係性を
最近入社された方も含めて、そもそも「今まであまり話したことがない方」も当然いらっしゃる。いくら「分からないことは気軽に聞いてくださいね」と伝えたとしても、なかなか相談ってしづらいものですよね。そこで、「あの人なら聞きやすい」と思ってもらえるよう、オンラインで懇親会を開催しました。
ちなみに、懇親会の時は弊社のデザイナーが作ってくれたバーチャル背景を使用しています。Slackのアイコンと入社タイミング、部署名などが入っているので、自己紹介をした後も視覚的に認識してもらえて覚えてもらいやすいのでとても便利です。

実際にやってみた結果、フロー変更を伝えた直後から社員が行動を変えてくれて。なおかつ、社員の中には「こうするともっと分かりやすい!申請者側は便利になる!」とフィードバックしてくれる人も多かったのが印象的でした。

結果的に、百数十件あった請求書は期日までに回収できました。承認証跡をしっかり残した状態で、会計処理までをスケジュール通りに完了できたんです。

+++

現場に権限委譲する潔さを

ーリモートで働く人が増えた中で、「うちも困っている」という会社さんは多いと思います。リモート移行の準備はすごいスピード感だと思うのですが、なぜSmartHRはできたのでしょうか?

稲毛さん:
現場の判断で進められるという部分が大きかったように思います。たとえばスタートアップでも、「最終的にお金を動かす権限は社長が持っている」ことって珍しくないと思うんです。さらに業務フローそのものを大幅変更するとなると、どうしても相談したり承認を待ったりすることが出てくると思います。

ただ、SmartHRでは基本的に現場に権限移譲をしているので、現場で判断して前に進めていけました。

宮田さん:
というのも、必ずしも自分が社長だからといって、最終決裁者にならなくてもいいと思っているんです。

そもそも私は採用段階で「自分よりも専門家の人を採用する」という考え方なので。私よりも絶対に稲毛さんの方が経理業務に詳しいんです。だからそこは専門家にお任せした方がいいと考えています。

稲毛さんだけでなく、そういった専門家がチームに揃っているので、彼らにまるっとお任せしています。権限移譲の代表的な例として、僕1人では会社のお金を1円も動かせない状態ということもあって(笑)経理という部分では、稲毛さんやCFOの玉木さんの権限の方が全然あります。

日頃からドキュメンテーション化をクセ付けるべし

ー実際にリモートでお仕事されてみて、経理に限らず「これはリモートワークをする上で重要」だと感じたポイントはありますか?

稲毛さん:
今回思ったのは、日頃からドキュメンテーション化しておくことの重要性です。

実は、オフィスで働いている時って、俗人的に業務を進めても成り立つんですよね。それに、隣の人に「ねぇちょっといい…?」と聞けば解決できることも多い。

ただ、そこで何の記録もしていないと、次に誰かが同じことで躓いても、また聞くことから始めないといけないですよね。特にこういった有事の場合、その都度「これってどうなっていたっけ?」と確認するのは非効率です。

だからこそ普段から面倒くさがらず、ドキュメント化しておくのが大事だと思います。

ー なるほど…!ドキュメント化する上で「書く力」が求められてきそうです。「ドキュメンテーション力」を上げるおすすめの方法があれば教えてください。

宮田さん:
SmartHRの社員や、私がやっていることを3つご紹介します。

【1】冒頭に概要を一言で
SmartHRの社員は、日頃からメモや議事録をしっかり取ってくれています。ちょっとしたミーティングでも必ず議事録を取る。考えていることをメモに残す。そして社内のDocBaseという議事録共有ツールに投稿していて、これまでには社員が残した3万以上ものメモが溜まっています。

その中で1つポイントがあって、多くの議事録の冒頭に「これはなに?」という見出しがあり、一言で何についてのメモなのかわかるようになっています。これによって自分が読むべきか、読む必要がないのか一目でわかるので議事録を活用できます。

【2】書き出す前に、伝えたいことを10行に
ブログを書く時によくやるのが、まずは最初に10〜20行程度の箇条書きで骨子を作ることです。10行なら、書き進めるうちに「あれ、何を伝えたかったんだっけ…」と迷うことも防げる。後から軌道修正もしやすいです。

【3】小さくアウトプット、早めにフィードバックをもらう
10行にまとめたら、とにかく早く誰かに見せるんです。「伝わるか」「公開して良い情報か」という部分をフィードバックしてもらう。何千字の記事だと読むほうも大変だけど、10行だと早く伝わってフィードバックもしやすいんです。

私もブログを書くときには必ず書き出す前、社員にメモを見せ「この要素も加えたほうが伝わりやすい」「これは蛇足では?」といったフィードバックをもらいます。

+++「無駄なものが完全にそぎ落とされてしまうと、SmartHRの企業文化を継続していくのが難しいと思うんです」SmartHRでは、2月末から休止していた「週1シャッフルランチ」を4月30日に再開させたそう。また、「Remo」を使ったオンライン飲み会も実施。新入社員にとっては、他部署の社員と交流する機会にもなったという。

新しい働き方を作るために。会社制度も見直した

ー最後に、全社をリモートワークにする上で、SmartHRが会社として取り組んだことがあれば教えていただきたいです。

宮田さん:
はい、社員の努力だけでは限界があるため、会社として制度面でも見直しをかけた部分がありました。

たとえば、

・フレックスタイム制の「コアタイム」を廃止
以前は、10時15分~16時をコアタイムとしていましたが、強制リモートワーク期間中は廃止しました。在宅で働く上で、今までと状況が変わってしまう方も出てくると考えたためです。

・「スライドワーク」の導入
お子さんがいる社員だと、「どうしても日中に集中して仕事ができない」という方もいる。朝早い時間や、お子さんが寝た夜に時間を分けて働いてもいいように、まだトライアル段階ではありますが「スライドワーク」という働き方を導入しました。

・「リモートワーク環境を整える手当」を導入
社員がそれぞれの状況に応じて、快適なワークスペースを整えるための手当をつくりました。ディスプレイ、椅子、Wi-Fi、変換アダプタなどの設備費に充てられます。

・「5〜6月の通勤手当」を廃止、「リモートワークお願い手当」を導入
強制リモートワーク期間の5〜6月は、通勤手当を廃止し、全社員に一律1.5万円の「リモートワークお願い手当」の支給を決めました。通勤手当の平均額は14,062.3円(4月分実績)でしたので、「キリよく15,000円で!」となりました。

+++稲毛さんの自宅のワークスペース。ディスプレイはリモートワーク手当で購入したそう。

と、ここまで偉そうにお伝えしてきたのですが、じつはコロナウイルス以前の弊社は、リモート非推奨だったんです。まだ世の中にないプロダクトをつくる工程では、対面の方がコミュニケーションが取りやすく、結果効率よく良いものができると思っていたので。

ただ、今回思った以上にリモートでもできると分かり、今はコロナウイルスの終息後もある程度リモートを活用していくことも考えています。

最初から全てがうまくいくはずはないので、トライ&エラーを繰り返して少しずつ改善しながら、リモートでの働き方の形をつくっていければいいのかなと。この逆境を、「変えるきっかけ」ととらえて、進んでいきたいですね。


文 = 林玲菜
取材 / 編集 = 平野潤


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時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に

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