彼女はバックオフィスにおけるキャリアを切り拓く、先駆者と言っていいかもしれない。クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRの執行役員、副島智子さん。人事労務を中心としたキャリアを経て、プロダクト開発・CX(カスタマーエクスペリエンス)チーム責任者へ。彼女はなぜ職種の枠を超えて活躍できるのか?
< プロフィール >
副島智子 株式会社SmartHR 執行役員・プロダクトマネージャー
株式会社キノトロープでバックオフィス業務を5年経験。その後、MSD株式会社(旧万有製薬)にて人事労務として約3年勤務。カフェ・カンパニー、ネットコンシェルジェを経て、SmartHRにジョイン。プロダクトマネージャ兼CXチームの責任者を担う。
バックオフィスのキャリアを、アップデートしていく。株式会社SmartHRで執行役員として働く副島智子さんは、そんな開拓者といっていいかもしれない。
彼女がユニークなのは、人事労務としてスペシャリストの道を歩んだ後、2016年3月にSmartHR(旧KUFU、当時メンバー7名)に参画。カスタマーサポート、さらにはプロダクトマネージャーを務めてきた。2017年7月にはCX(カスタマーエクスペリエンス)チーム*を立ち上げた。
なぜ、彼女は「人事労務」という専門性のある領域から、プロダクト開発や、ユーザー体験をデザインする役割にまで自身の職種を拡張することができたのか? そこには、日本中の企業に蔓延する「労務業務の負」を解決したいというまっすぐな思いがあったー。
(*) CX(カスタマーエクスペリエンス)…導入をサポートするCS(カスタマーサクセス)に対して、CXはユーザーとのコミュニケーションをスムーズにして、満足度を高めることを目的としている。人事労務の専門性が求められ、ユーザーからの問い合せにも素早く対応。SmartHRの利便性向上に寄与している。
ー もともとキャリアとしては人事労務としての道を歩まれてきたと伺いました。そこからSmartHRではエンジニアたちと共にプロダクト開発を?
そうですね。プロダクトマネージャーという役割で開発に携わっています。もともとは「なんでもやります」といって入社しました。コードを書くこととデザインすること以外はなんでもやる!と(笑)。バックオフィスも担っていましたし、これまでの経験をもとにユーザーさんや社内メンバーとのやりとりをする中で、自然な流れでこの役割を担うことになっていったところが大きいです。
入社してすぐホントにいろいろとやりました。そういったなか、カスタマーサポートとして企業様への導入支援をしながら、エンジニアに「こう改善したらどうか」というプロダクトにおける提案もずっとしていたんですよね。
それまで社員5,000名規模の製薬会社であったり、ベンチャー企業で管理部門の統括を経験してきたのですが、SmartHRとの出会いがとにかく衝撃的で。ただ、すばらしいプロダクトであると同時に、人事労務の現場を経験した人間としては物足りない部分も少なくありませんでした。
たとえば、従業員本人しかわからない情報なのに、SmartHRの管理者しか入力できない設計になっていたり、雇用保険の番号が不明といった場合の対応がSmartHRの中だけで完結しなかったり。従業員数が多い会社さんだと人事労務担当者と従業員は遠隔でやり取りすることのほうが多い。「このままだと業務フローを止めてしまいそうだな」など、いろいろと改善点も見えてきました。「それならエンジニアと一緒にプロダクトを作ろう」と。
ー お話を伺っていると「職種」ではなく、いかにSmartHRの利便性を高めることができるか?という「目的」を最重視されているようにも感じます。
そうともいえるかもしれません。ただ、SmartHRのメンバーのなかで、私しか人事労務を現場で経験したことがなかったからこそ「目的」を最重視して、開発現場に伝えることが必要だと思った、というのも正直なところです(笑)
ー ユーザー目線でプロダクトを改善させていく。理想の循環、開発体制ともいえそうですね。
そうですね。ただ、当然、私はプロダクトの開発なんてやったことがない(笑)正直、はじめの頃は苦労しました。たとえば、エンジニアと直接仕事をすることも初めてだったんです。コミュニケーションのとり方ひとつとっても、全然ダメでしたね。
開発会議では「こうすべき」という解決策のみ、いきなり伝えていたりして。なぜそれが必要なのか、そもそもの「課題」を定義し、みんなで同じ方向を向く。ここを掴んでからはエンジニアのみんなとも少しずつ足並みが揃ってきたと思います。
ー続いて副島さんのキャリア、バックグラウンドについても伺わせてください。人事労務をはじめ、管理部門での実績もキャリアもお持ちで…...なぜ「SmartHR」だったのでしょう。入社されたときのメンバーは数名というベンチャー企業ですよね。
シンプルに「SmartHRのサービスが、心から私がほしいと思っていたもの」だったからです。人事労務として現場で仕事をしていたころから、自らエクセルの関数をつくって、事務処理の自動化はやっていたんです。社員番号をいれたら、その社員の情報がでるみたいなものを作って。
ただ、年末調整などは、どうしてもアナログな紙の処理が残ってしまう。社員の数だけ必要な書類を印刷し、渡しては回収、またそれをチェックして…...全部Webでできたらどれだけ便利だろうと常に思っていました。SmartHRは、そういった入社手続きや年末調整に必要な書類の手書きから、提出までを一貫してクラウド上で行うことが出来ます。同じようなことを考えてつくっている人たちがいる。それがわかってすごくうれしかったですし、もっと広まってほしい、広めていきたいと強く思いました。
ーたしかに、企業がオンラインで利用できるクラウド型のソフトウェアであれば、日本中の人事労務担当者を支えていくことができる。
そうなんですよね。私自身も自分が経験してきたことを活かして、できるだけ多くの人に人事労務の煩雑さから開放されてほしいという思いはあって。
特に、中小企業やベンチャー企業の人事労務って兼務している方々も多い。労務の実務にしてもすごく大変なんですよね。目の前の仕事でいっぱいいっぱいだったりもして。労務に関して正しい情報が得られず、社員が損をしてしまうかもしれない。
だから私自身が、どのような規模の会社の社員であっても損をすることがないよう、何かできることはないか。ここは常に考えていることです。
ーバックオフィスの方は受け身の方が多いイメージでしたが、お話を伺ってると副島さんは自らアクションして状況を変えているようにも感じます。
確かにバックオフィスって「やって当然」と思われていたり、褒められることが少なかったり、裏方の仕事という印象がありますよね。同時に私自身は、管理部門こそ能動的に動いていくことってすごく大事だと思っているんです。そうすることで、自分たちの仕事も進めやすくなるから。
たとえば、常に従業員とコミュニケーションをとって情報を把握しておく。あの人が入院した、あの人には子どもが産まれそう、とわかったら、手続きや準備を先回りしてできますよね。会社としてどんな手続が必要で、どんな情報を提供してほしいか。事前に伝えておくと必要な情報もスムーズに揃います。
これは人事労務に限らないかもしれませんが、優秀な管理部門のメンバーっていつも先回りして自ら情報を集めていたり、働きかけている。そして、これまで自分自身では経験していない手続き、処理が発生したときにもどんどん調べて、冷静に、正しく対応していく。ある種、会社の最後の砦として、責任を持ってやれる方が活躍していけるのだと思っています。
ー 主体者としてのマインドがあるか。そこが副島さんが「管理部門」という枠を超えた活躍にもつながるいるといえそうですね。
そうだといいのですが…...私は性格的にも、とにかく中途半端が嫌いというのもあるかもしれません(笑)
ー 最後に伺わせてください。副島さんがこれまでのキャリアを振り返り、仕事において最も大切にしてきたことはなんですか?
「成し遂げる」ということでしょうか。例えばいろいろな環境での人事労務経験はありますが、すべてのパターンの手続きを経験したり、事象を経験できているわけではありません。でも、自分が経験したことのない事象が発生した場合でも、「やったことがないから」という理由で自分の足を止めるのではなく、あらゆる情報や手段をつくして事態を収束させることって大切だと思っています。
キャリア形成の視点で考えても「この職種しかしたくない」というマインドがあまりないんですよね。そう考えると…もしかしたら常に誰かの役に立ちたいという気持ちは根本の部分にあったかもしれません。貢献っていうと大げさですが。べつにプロダクトマネジャーであろうと、CSやCXであろうと、SmartHRを便利に使ってもらいたいという想いは一緒です。
ー 副島さんの場合はそれが、業界全体というか、向き合っている課題がすごく大きいもののように感じます。
バックオフィスって、日々膨大な処理を行っていくので、目の前の仕事に集中してしまいがち。それは仕方のないのことなのかもしれません。自分の作業の効率化を図っていくのも大切な観点ですし。同時に、会社全体としてどうすればムダが無くせるか、当たり前だと思っているフローや仕組みから、どうより良いものに変えていくか。ここに気づいて、課題解決していける職種だと思うんです。そのためには、自分の目線をあげていけば、できることも増えるはずです。
ー 極端にいえば「偉くなって変えちゃえばいい」ということですか?
極端ですが、たしかにそれを目指すというのもアリですね(笑)管理部門の現場を経験していた方々が企業の経営側を担っていくとすごくおもしろいと思うんです。現場の視点で会社を変えていける可能性も充分にあると思います。
ー バックオフィスの現場を経験してきた方々がスタートアップ企業の経営側を担う。副島さんのようなロールモデルが増えていくことで、多くの方にとって新たな活躍の場が広がる可能性を感じました。本日はありがとうございました!
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