2020.06.18
まるでそこにいるかのように。吉藤オリィ氏と考える、ウィズコロナ時代の「分身ロボット」コミュニケーション

まるでそこにいるかのように。吉藤オリィ氏と考える、ウィズコロナ時代の「分身ロボット」コミュニケーション

新型コロナウイルス感染拡大防止を受け、急速に広まったZoomなどのオンラインツール。しかし、そのコミュニケーションには何かが足りない…? そんなモヤモヤを晴らすべく、分身ロボット『OriHime』開発者、吉藤オリィさんにお話を伺った。

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全2本立てでお送りいたします。
【前編】まるでそこにいるかのように。吉藤オリィ氏と考える、ウィズコロナ時代の「分身ロボット」コミュニケーション
【後編】僕らは新型コロナで「外出しない選択肢」を手に入れた。吉藤オリィ氏と考える「寝たきり後」の人生戦略

用事がなくても使える、コミュニケーションデバイスを

まずテレビモニター、ディスプレイでのコミュニケーションに関して興味深い話があります。

「テレビ電話」や「Zoom飲み」でもそうですが、モニターから離れる時、ほとんどの場合が、映像をオフにするか、接続を切りますよね。たとえば、実家のおばあちゃんとオンラインでつながり、モニターで会話している最中、放置し、いきなり掃除機はかけません。そろそろ眠い、食器を洗う、お手洗いにいく、その都度、必ず「オフ」の状態にします。

ですが、リアルの場だと、そう簡単にオフにはできません。たとえば、おばあちゃんがリアルに遊びに来ていて、いちいち「食器を洗うので、見えないところに隠れてほしい」「帰ってほしい」とは言わないですよね。

つまり、オンラインでオフラインと同じコミュニケーションを取るには、たとえ用事がなくても使えるデバイスが必要なのです。

用事はないが、そこいる。当たり前に存在している。これはすごく重要だと思っています。

この感覚は、新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う巣ごもりがなければ、理解されないままだと思います。常に寝たきりの状態、外出ができない人たちが持っていた感覚です。

オンラインから、リアル空間に「いる」を持ち込む

その点、『OriHime』は「そこにいる」「ここにいる」という存在感を、オンラインからリアル空間に”持ち込む”デバイスです。同じ時間、空間に自分の分身を存在させ、参加させることが出来る。ここがディスプレイのオンラインツールとの決定的な違いといえます。

ディスプレイと違い、存在感があり、受け手も普段とリアル空間に近い感覚でコミュニケーションが取れます。喜怒哀楽も表現でき、見る方向なども自分で操作ができます。

リアル空間において『OriHime』を置いてコミュニケーションする。これはつまりオンラインとオフラインの人たちが共存できるようにするということ。これも分身ロボットのひとつの役割なのです。

「ここにいていい」居場所を、どれだけ作っておけるか

「ただそこにいていい」という居場所をどれだけ作っておけるか。これは私の人生において重要なテーマだと思っています。

私は小学生の頃、自分のクラスに自分いることに違和感を抱いていました。私は不登校で保健室登校をしていたのですが、教室に行くと「今日は珍しいね、なんで来たの?」と言われていました。自分のクラスは居場所であるはずなのに、そこは自分の居場所でなくなってしまったんです。

もし、自分のクラスに、隣のクラスの人が平然といたら「なんでいるの?」となりますよね。それは、そこが「居場所」ではないから当たり前です。同じような感覚でした。

「居場所」は、本来、ただそこにいていいはずの場所ですが、参加の仕方によって、はじかれてしまうことがある。世の中と繋がっているには、用事がなくてもいられるか。「いることが当たり前だ」とされる居場所と、そこに参加するための手法が大切なのです。

分身ロボットは「場」を共有するプラットフォーム装置になる

たとえば、そこまでの用事がなくても、「ちょっと声を聞きたい」と誰かに電話をしたとします。そこでもやはり「どうしたの?何の用?」と聞かれますよね。相手がたとえ家族だとしても、です。これは、自分と会話する相手との関係性の問題ではなく、デバイスと手法の問題だと私は捉えます。

いま、私たちがオンラインでコミュニケーションを取るために使っているデバイスの多くは、用事があるコミュニケーションに特化したものです。目的なく使うために設計されていない。だからこそ、目的のないコミュニケーションで使う際に、違和感があるのだと思います。

コミュニケーションにおいて平等の機会を作るためには、同じプラットフォーム上にお互いが存在していることで初めて成り立ちます。

たとえば、Twitterをやっていない人にとって、Twitter上でのコミュニケーションは参加しにくい。Zoomの上で何かをするとき、家にパソコンがなかったり、そもそもZoomをやったことのない人には難しい。

みんなが外出自粛し、巣ごもりしている期間は、全員が同じ状況にいて、同じプラットフォームを持っている。だからこそ、Zoomでのオンライン飲みもやりやすかったと思います。ですが、これからは、みんながパソコンの前にい続けるわけにはいきません。

外に出られるようになったら、きっと外出し、飲食店などにも行くようになるわけです。たとえば、焼肉屋でおいしい肉をみんなで食べる。そのような状態になった時、焼肉屋で行われているパーティーにZoomでは参加がしづらい。なぜなら、存在しているプラットフォームが違うから。

焼肉屋さんをはじめ、リアル空間というプラットフォーム上にいた場合、「そこにいる」「ここにいる」という確かな存在感が重要です。

たとえば、無菌室にいる人、老人ホームにいる人たちは、私達と同じ世界、同じリアル空間にはいるはずですが、外を歩いても出会う事はありません。目に入らなければ「いない」という感覚になります。たとえ、オンラインツールなどデバイスを使って電話で声だけ聞くなど「場」に参加しても、みんなと同じコミュニケーションを取ることは難しい。その「存在感」の部分を補うのが『OriHime』だと捉えています。

オンライン上では、誰しもがバリアフリー

ここ最近は、モニターの前にいればコミュニケーションが成り立つようになってきましたが、この先もずっとみんながモニターの前にい続けるわけではないと思っています。

ここ最近は、モニターの前にいればコミュニケーションが成り立つようになってきましたが、この先もずっとみんながモニターの前にい続けるわけではないと思っています。

2020年5月、神奈川県庁が運営する2施設で、コロナ感染者へのケアを行なうサポートツールとして『OriHime』導入が発表され話題となった。神奈川県に感染者が滞在するホテルにて、直接会話が出来ないなか、『OriHime』を通じて相談に乗ったり、ストレスの緩和などに活用されているという。

たとえば、外出ができるようになったとしても、親の介護や育児、障がいなどの理由で、外出ができないままの状態の人もいる。そういう人がどうやって社会に参加するのかを考えないといけない。

OriHimeを抱えてもらえれば、家から出ることが出来ない人でも遠足に行けたりします。分身ロボットカフェのような、OriHimeを使い寝たきりのままでも働けるようなものを組み合わるのが必要です。

オンライン上だと、多くの人はバリアフリーである、というのも私の持論です。身体障害を持っていても、Facebookはできます。また、自分の身体でウェイトレス・ウェイターの仕事ができなくても、分身ロボットを遠隔で操作すれば物が運べて、働ける。ALSの患者さんのように目しか使えなくても、今何がどこにあるのか分かるデバイスを組み合わせることで、コントロールができるようになるのです。

>>>【後編】僕らは新型コロナで「外出しない選択肢」を手に入れた。吉藤オリィ氏と考える「寝たきり後」の人生戦略

※本記事は、5月26日に実施した公開取材『コロナ時代を生き抜く方法』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます

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取材 / 文 = 白石勝也


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