2020.07.08
「テレワークがつらい…」の正体、そして対処法|井上一鷹

「テレワークがつらい…」の正体、そして対処法|井上一鷹

多くの企業で進んだリモートワーク・テレワーク。一方で「なかなか仕事に集中できない」「成長実感が得られない」「キャリアが不安」といった声も。一体この不安の正体とは? 「集中力」と「働き方」のプロフェッショナル、井上 一鷹さんにお話を伺った。

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全3本立てでお送りいたします。
【1】「テレワークがつらい…」の正体、そして対処法|井上一鷹
【2】集中力はつくれる。テレワークで活躍するための必勝法|井上一鷹
【3】「何でやってるんだろう」は危険信号。やりたいことで人生を埋め尽くす、井上一鷹のキャリア論

【プロフィール】井上 一鷹|ジンズ Think Lab Gエグゼクティブディレクター 兼 Think Lab取締役
慶應義塾大学理工学部卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルに入社し、事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略に携わる。2012年、ジェイアイエヌに入社。社長室、商品企画グループマネジャー、R&D室マネジャーを経て現職。「集中」を測るアイウェア「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」のプロジェクトリーダー。株式会社Think Labを立ち上げ、取締役へ就任。算数オリンピックではアジア4位、数学オリンピックでは日本のファイナリストになった経験を持つ。著作に『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』がある。

憂うことなど何もない。働き方の「選択」を楽しもう

オフィスワーカーを中心に働き方がガラッと変わった時期。私自身もそうなのですが、これまでにないような「不安」や「疲れ」を感じています。そしてしばらく続きそうで…。この「ニューノーマルな働き方」とどう向き合っていくべきなのでしょうか。

緊急事態宣言中、在宅勤務しかできなかった時には「なんとなく不安」「新しすぎてしんどい」「同僚と顔を合わせられなくて働きづらい」という声をよく聞きました。

ただ、コロナによって起きた本質的な変化は「選択肢が増えた」だけなんです。なので、憂うことはほぼ無い。テクノロジーにより、働き方が進歩・進化しただけ。事実ですし、そう捉えるのはどうでしょうか。

「月刊総務」編集長の豊田健一さんのお話がとてもおもしろくて。

僕らは、もとを辿れば魚類。魚類から哺乳類になり、人間になった。

でも、今も魚類は生き残っています。テレワークもそう。あくまで1つの枝葉でしかない。ポジティブな部分は受け取り、ネガティブな部分は避ければいい。

一般的に起きている問題としては、選択肢が増えたことに順応できておらず、恐れているだけ。「新しいこと」に感じる漠然した不安です。あとは「在宅勤務しかできないのか」という「瞬間」を憂いていただけ。

憂うべきものは憂えばいいのですが、本質的な変化はどこにあるのか、分けて考えるべきです。よく言っているのは「選択を楽しめ」です。このスタンスで走れれば良いことしかない。

今は急に黒船が来てしまった、幕末みたいな状態です。その時代を楽しんで輝ける人は、単純に変化を楽しめる人だと思うんです。変化を楽しめる人は、選択することが楽しい人です。一方で「選べない人」「人に決めてもらった方がラク」という人には、つらい時代になるかもしれません。

そもそも新型コロナによって起きた「働き方の変化」は、もともと言われていた部分が加速しただけ。新しい世界が来たのではなく、「いつかデジタルシフトするよね」と言っていたもの。非連続でなく、連続したものが急激に加速した、と捉えたほうがいい。その結果、起きていることが非接触な働き方、テレワーク・リモートワークです。

また、「ウィズコロナの話」と「アフターコロナの話」は分けて考えましょう。「在宅勤務しかしちゃいけない」は、選択肢を固定化されたウィズコロナの話。アフターコロナ、つまりコロナが落ちついたあとも「在宅勤務」が選べる時代になると思います。

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「強制在宅ワーク」はしんどい?快適?

そもそも、いわゆる強制での「在宅ワーク」がしんどく感じるのはなぜでしょうか。

あえて極論に近いことをいうと「クリエイティブワーク」をする人は「快適」と感じ、「タイムワーク」な働き方をしている人は「しんどい」と感じると僕は思います。

1時間でどんな価値を生み出すか。クリエイティブワーク発想の人に「自ら選択している人」が多い。

一方、タイムワーク発想の人は、会社に対して、8時間の労働時間を提供し、「時間を売ること」で対価を得ている人です。会社に「いること」に存在価値を見出す。ですので、何かを自発的に発想するより「決めてもらったことをしっかり進めたい」といった感覚の人が多いと思うんです。当然、決まったことを推進することに得意さを持っていたり、そんな自分が好きだったりする。もともと働き方を決めてこなかったタイプだから「働き方を決める」にもストレスを感じるのだと思います。

日本人は基本的にマジメですよね。「会社にいる」ことで貢献している気持ちが醸成できていたのかもしれない。そもそも家にいながらにして「存在感」を人に表現するのも難しい。家に居続けると「私は会社に、そして社会に貢献しているのだろうか」と、ふとした瞬間に不安になります。「1人」が増幅装置になってしまって、内省をしてしまう。さらに「在宅勤務」が選択できた場合、「その選択した自分」に責任が向き、自己肯定感が持てない。

もしかすると、強制在宅ワークで「快適になった」「めちゃめちゃ生産性が上がった」「成果もあがって、いいことしかない」という人は半分以下かもしれません。

大事なのは、そういったタイムワーク発想の人を否定しない、ということ。進化とは多様性です。日本の産業を支えている8割の人間はマジメで、生産的に働く、オネストに働いている人たちです。

その人たちのいい部分は残しつつ、自己肯定感を持って働けるようする。そのために働き方を「選べること」が大事だと思っています。

働き方も、ミッションも、主業と副業のバランスも、どのパターンもアリの時代になる。まずは「選ぶストレス」を感じないように進化する。一説によれば変化に強い種が生き残る、とも言われています。順応性を持っていきましょう。

いくつもの「ミッション」を持つ人が活躍する時代

もう一方の「クリエイティブワーク発想の人」に共通する部分もあるのでしょうか?

そうですね。「イントレダイバーシティ」という研究があり、それが参考になるのですが、一人の人間の中に、複数のミッションに対する強いコミットがかけ算された時に、新しいイノベーティブな仕事ができる、という研究結果が発表されています。

ユニークなのが、法政大学、永山晋先生の研究で。「オリコンチャートで直近10年単位でミリオンセラーを出すアーティストには、どのような共通点があるか」を調査したそうなんです。

結論、ボーカル、作曲・作詞、複数の楽器が演奏できるアーティストがミリオンセラーのヒットメーカーになる、と。

1つの会社、1つのミッションに対して「のみ」突っ走るのは、イノベーティブな仕事に向かないのかもしれません。



+++ note『【62,000字】 コロナが変える働き方〜集中のプロ井上一鷹が語る〜【最新版をWeb全文公開】』より。「もともと私はJINSの中で、Think Labワークスペース事業のみを見ていたんです。ただ、コロナのおかげでデジタルシフトが進み、間の時間が生まれた。だから今はJINS社内のいろんなミッションに勝手に入るように。そして、複数のミッションに携わることで、本業に対する思考もクリアになっていく印象があって。いくつものミッションをもつことでシナジーが生まれいい効果がもたらされるのでは、と最近考えています」

撮影:栗原洋平


文 = 白石勝也
取材 = 平野潤


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