2020.06.24
コロナショックで勝つSaaS、3つの条件|前田ヒロ

コロナショックで勝つSaaS、3つの条件|前田ヒロ

新型コロナウイルス感染拡大防止で進む、企業のリモートワークやコスト削減。導入が進んだSaaS、解約が進んだSaaSと明暗が分かれ始めている。コロナショックはSaaSにどんな影響を与えたのか。SaaSスタートアップに特化したVC 前田ヒロさんに解説してもらった。

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全3本立てでお送りいたします。
【1】コロナショックで勝つSaaS、3つの条件|前田ヒロ
【2】新型コロナで変わる「法人営業」のあり方|前田ヒロ
【3】「SaaSにしか投資しない」と決めた日、あるVCの志|前田ヒロ

事業継続、リモート、コスト削減…いずれかに刺さるサービスで勝負せよ

いわゆる「コロナショック」による、とくにスタートアップのSaaSへの影響について教えて下さい。

かなりいろんな影響が出ていますね。

わかりやすいのは、お客さんの頭の中の優先順位が一気に変わったということ。今までは事業拡大や、経済が良い中での事業推進が中心でした。

インバウンドによって外国人がたくさん来ていたり、オリンピックに向けた事業もありました。そういったときの優先順位と、今(2020年6月現在)はまったく違います。 リアルで人と会えず、誰も日本に入ってこない。リモートで頑張らないといけない状況で、業績にも影響が出始めている。経営における優先順位が変わってしまいました。

具体的には、

【1】事業継続
【2】リモートワーク
【3】コスト削減

この3つが、企業経営における優先順位になった、という感覚です。

ここに当てはまるサービスはリード数、成約率、成約金額とかなりいい方向に変わっています。多くのSaaS、強いサービスはこの3つのキーワードに当てはまるともいえます。

より本質に近づいていますし、いいきっかけになった、と捉えることもできます。

SaaSのスタートアップにしても、市場が好調な時に放置していた課題、成長しているからまぁいいやとなっていた問題に目を向けざる得ない。自分たちの組織はどうあるべきか、ビジョンはどうあるべきか、この環境でどう成長するか、どんな価値を提供したいのか。できるのか。少なくともSaaS業界の経営者にとっては良い契機なのだと思います。

「使いこなせないサービス」が解約される

とくに打撃を受けている業界×SaaSでいうと?

業界でいえば、ホテル業界、旅行業界などは打撃を受けているので、そういった事業者に提供しているSaaSで見ていくと受注が伸び悩み、解約も多いと思います。ただ、それ以外の業界では、そこまで影響が大きくありません。飲食業界で見ても意外とSaaS事業者としては大きな変化はないと見ています。

事業継続、リモートワーク、コスト削減にとって「必要だから使う」が欠かせない。中途半端に「あるといいな」というサービスは解約されてしまうのでしょうか?

そうですね。とくに今回の件で解約が進んだケースでいうと「使い勝手が悪い」は大きく影響しています。つまり「お客さんが使いこなせずに解約した」という理由での解約ですね。オンボーディングが失敗してしまったり、フォローアップが悪かったり、本来使いこなせたら機能したものが、使えずに「やめる」という意思決定になることは多いです。

答えは、顧客が持っている

「役に立つ」けど「使えない」では意味がない、と。その「使えない」はどう解消していくと良いのでしょうか?

顧客に寄り添った体制にする、積極的にフィードバックを求めていく。ここに尽きると思います。できる限り距離感を縮めていく。たとえば、悩み事を発散できるような場、交流できる機会を作ったりするのも効果的だと思います。お客さん同士がつながってもいいですよね。

唯一、たとえば製薬や素材開発など、知財や情報を共有しないことが優位性になる業界、業種だと顧客同士のコミュニケーションは難しいかもしれませんが、たとえばコールセンターの部長のコミュニティやカスタマーサクセス、人事のコミュニティは直接的に競合になりません。逆にノウハウを共有し合ったほうが自分たちのポジションが盛り上がりますよね。自分たちにとってメリットが大きければ、コミュニティは生まれると思います。

相談できることは価値になりますよね。強いプロダクトや、解決に近道ができると、自然とユーザー同士が強いつながりが生まれるのかもしれません。そういう場を作ってあげるのが重要ですね。コミュニティは自然に生まれることはあまりなくて。コミュニティの顔となる人物や、運営する組織は必要です。そうでないと熱量がたまらないし、拡散されなかったりします。

お客さんが他のお客さんから知見をもらえるし、悩み事を語り合う場でもあります。そういうのは良かったりしますね。

コンテンツで差がつく時代に

どんどんオンラインシフトが進むなかで、どう顧客との距離を縮め、接点を持ち続けていくといいのでしょうか。

どの業種、職種でも言えることとしては「コンテンツ」の時代になるのかなと思っています。

世の中みんな忙しくなってきていますし、よりSaaSプロダクトも増えていて。この先1年くらいは、競争環境が厳しく、さらに限られたリソースと予算で戦わないといけません。そうなった時に重要なのが、いかに「プル型」が進められるか。

顧客のアテンションと信頼を勝ち取るために、良質なコンテンツを出し、よい口コミ効果をあげていく。良い事例を出す、良いイベントを出す、良いイベント交流の場を作るなどが欠かせないと思います。

ちなみにBtoB、SaaS業界において「良質なコンテンツがつくれる人」の共通項はあるのでしょうか?

言語化しづらいのですが、タイムリーにものごとを発信し、タイムリーに動けることが重要だと思います。

「いま刺さる言葉・訴求」と「1か月後に刺さる言葉・訴求」は全く違ってくるはず。たとえば、もう「新型コロナウイルス」はBtoBの文脈において顧客が興味のひかれるキーワードではないかもしれません。タイミングよく、スピーディーに「言葉」と「訴求」が出せるか。それらを進められるのか。ここが良質なコンテンツ、企画を仕掛けられる人の共通点だと思います。

事業継続、リモートワーク、コスト削減は前提。そこからより優先度の高いこと、顧客の関心事は何かを探していく。業界・業種によっても違いますし、中小企業、大企業によっても違うので、寄り添って言葉を探し、ワードを取りにいくのが重要です。

ウィズコロナ時代に求められるSaaS

直近の動向、戦い方について伺ってきました。もう少し中長期で見た時、SaaS業界の展望をどう捉えているか教えて下さい。

まず新型コロナウイルス感染拡大、防止のためのさまざまな動きはとても大きなきっかけを与えてくれていると思います。

たとえば、企業活動全般におけるクラウドへの移行、オンラインシフト、デジタルシフトが加速しました。今はその真っ最中ですよね。

コロナ前には後回しにされていた、いや、後回しにできたことがコロナによって緊急性が高くなりました。リモートワークをはじめ、さまざまな業務をオンラインでやらざるを得ない状況に。また今後、第2波、第3波が来る可能性も高い。「今のうちにオンラインシフトを進めておきたい」という企業の声が多く耳に入ってきます。

こういったなか、SaaSに求める基準が変わりました。リモートワークがどんどん加速し、週に2,3回しかオフィスに行かない働き方が定着するかもしれません。その行動に合わせて、プロダクトを設計していかないといけないですね。

そして、どんどん求められるレベルも高くなっていく。たとえば、メルカリ、LINE、TikTokなど、普段スマホで使うtoCアプリがサクサク動いて当たり前の時代、BtoBのプロダクトも同じ基準が求められていくと思います。「BtoBのプロダクトはつまらない見た目、遅くてもいい」といった時代は終わり、toCに近いUI、UXが求められていく。

すべての業界・業種にSaaSが存在するのは必然的に起こると思うし、本当にインフラになっていくと思います。



全3本立てでお送りいたします。
【1】コロナショックで勝つSaaS、3つの条件|前田ヒロ
【2】新型コロナで変わる「法人営業」のあり方|前田ヒロ
【3】「SaaSにしか投資しない」と決めた日、あるVCの志|前田ヒロ

※本記事は、6月8日に実施した公開取材『コロナ時代を生き抜く方法』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます

【ダイジェスト版(5分)はこちら】

【ノーカット版(62分)はこちら】


取材 / 文 = 白石勝也


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