新型コロナウイルス感染拡大防止の影響により、外出自粛が続き、「日常」は様変わりした。ウィズコロナ時代をどう生き抜くか。「我々は外出しない新しい選択肢を手に入れた」と語ってくれたのは分身ロボット『OriHime』開発者である吉藤オリィさん。オリィさんが見据えるのは「寝たきり後」の人生のロールモデルだ。
全2本立てでお送りいたします。
【前編】まるでそこにいるかのように。吉藤オリィ氏と考える、ウィズコロナ時代の「分身ロボット」コミュニケーション
【後編】僕らは新型コロナで「外出しない選択肢」を手に入れた。吉藤オリィ氏と考える「寝たきり後」の人生戦略
新型コロナウイルス感染拡大防止の影響により、家から出ることの出来ないつらさは多くの人が、身を持って体感したと思います。そして、今回の件で多くの方がZoomなどを使って「オンラインで何かする」という経験ができたのはよかったと感じています。
この選択肢を一度でも手にできた。たとえ、外出がしやすくなったとしても、外出ができない人たちが参加できるためには何が必要か、発想していく契機になったはずです。
気をつけなければいけないのは、コロナが収束したときに、そのまま元の状態に戻ってしまうことです。今回は3~4ヶ月だけでしたが、この外出自粛が10年続く、そう考えたらどうでしょうか。
コロナ前の時代と、オンライン上でのコミュニケーションをハイブリット化し、いかに新たな選択肢にしていくか。コロナを経験した私たちに課せられた使命ともいっていいと思います。
私たちには1つ避けられないものとして老後があります。75歳が平均健康寿命、85歳が平均寿命。そこには10年の隔たりがあるのです。長生きすれば誰もがいつか高齢化し、寝たきりになる。若者たちは自由に外に出られますが、自分は外に出られない。そういった未来が必ずやってきます。「ただベッドに横になっている」という以外の人生の選択肢がなかったら、最悪ですよね。その孤独感を解消する事が、私が15年やっている研究の目的です。
いざ自分が寝たきりになった時に、昔と同じように外出することはもちろん、新たに人と関わる手法を学ぶのは、かなり大変なことです。
そうなった時、Zoomのようなツール、テクノロジーを知っておくことで社会にうまく入っていける可能性は十分にあり得ます。『OriHime』のような外出をできない人が活用しているものを人生にうまく取り入れていく。
今回のことで得た「オンラインを活用する」という選択肢を持ち続けた状態で、今から老後の人生の選択肢を増やし続けていく。選択肢は自分が経験しないと身につかない。外出できない今だからこそ、どうオンラインで楽しむのか。得たものを、いかにこの後の世界で応用し続けるか、私たちは考える必要があります。
眼しか動かせないALS患者の榊さんがOriHime eyeを使い、視線入力で描かれた最新作がこちら。
— 吉藤オリィ@対孤独の研究者 (@origamicat) October 8, 2017
おそらく、眼だけでここまで絵をかける人はおらず、人類未踏の領域。人の可能性を更新しているのは痺れる。 pic.twitter.com/y6HEG7cmC8
画像はオリィが開発した視線入力の装置『OriHime eye』にて榊浩行さん(2020年5月27日逝去)が視線入力だけで描いた絵画。「こういった「絵を描く」といった文化的なことから、日頃のコミュニケーションまで、視線入力だけでできるようなツールを作り、実際に現地に行って患者さんへ提供することが私の仕事の一環になっています」とオリィさん。「今回の新型コロナウイルスにより意思伝達装置の設置、ALSの患者さんに訪問できなくなったのは、1つの障害でもある「現地に行かずに、遠隔で開発するための方法をつくっています」
現在、『OriHime』を使って、駄菓子の販売されている方がいます。分身ロボットの店員も、寝たきりの人だけでなく、外に出られない方がやってもいい。これはいずれ老後を迎える全人類の解決策、ロールモデルになるだろうと思っています。
人生において「最悪」とは何か。自分が選択したくなかった選択肢をつかまされることだと私は思います。つまり「それしか選べなかった状態」が最悪なのです。反対の状態は、選択肢が選べること。選んだ結果、必ずしも思い通りにはいかない。ただ、自分の意思で選んだかどうかが大切なのです。おみくじも自分で引いたら納得できますが、友人が引いて「凶」だったらふざけるな、となりますよね。やはり選べることが大事だと思います。
私はよく「できないということに価値がある」、と言います。
できないことができるに変わった、私はこうやって変えた。ここに大きな価値があると思うのです。
たとえば、「日本語」は生まれてからずっと使っている。だけど、英語はネイティブではないから、途中で勉強しないといけない。つまり「できないものをできるようにする」には、英語の学習方法について学ぶ必要があります。
その過程を学んだ人は、英語がまだできない人に、英語の教え方、覚え方を教えることができます。私たちは日本語を話せますが、どうして日本語ができるのか?と聞かれても、日本語が話せなかった経験がなければ、教えられない。つまり「もともとできること」ではなく、「できないものをできるようにする」のほうが価値がある、と。
また、たとえば、目が悪く、視力が低いケース。目をトレーニングして、目が良くすることだけが正義ではない。メガネで視力が補正してもいいわけです。
我慢と根性でやるのではなく、テクノロジーをうまく融合させながら、できないことをできるに変えていく。これは価値です。
右手が動く人は左手でペンを持ちませんが、右手を怪我すれば左手でペンを持つようになります。
直接会えるなら、多くの人はZoomなどのは使わなかったわけですが、会えないから使うようになった。何とかしようと私たちは選択肢を1つ手に入れたのです。この選択肢は老後や入院など、家から出られない人にとって必ず役に立つはずです。
具体的にはこういったこともできるようになるかもしれません。Aさんは「身体は寝たきりだけど世渡り上手で、どんな人とも仲良くなれる人」。一方で、Bさん「外には出れるが話すのが苦手でものづくりは好きな人」だとします。
その2人をオンラインでつなぎ、話すときにはAさんにお願いする。まわりから見たらBさんはコミュニケーションも上手く、ものづくりもできる人になれる。これも“キャリアハック”になる。寝たきりの人も、外の世界とつながり、天井を眺め続けるより楽しい老後が過ごせるかもしれません。
>>>【前編】まるでそこにいるかのように。吉藤オリィ氏と考える、ウィズコロナ時代の「分身ロボット」コミュニケーション
※本記事は、5月26日に実施した公開取材『コロナ時代を生き抜く方法』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます
【ダイジェスト版(6分)はこちら】
【ノーカット版(66分)はこちら】
取材 / 文 = 白石勝也
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