クリエイターの名刺代わりともいえるポートフォリオ。しかし、ドラクエのムービー制作などで知られる『神風動画』は選考でポートフォリオを重視しないという。「大事なのはコミュニケーションスキル」と語るのは代表の水崎淳平氏。彼らの採用基準から、これからのクリエイターが磨くべきスキルの本質を探っていく。
▼《神風動画》徹底解剖第2弾
一つの仕事で必ず一つの実験を。気鋭の映像制作会社が実践する“カミカゼ仕事術”
「アニメーション制作は企画・演出から受ける」こういった仕事に対する信念を持つ『神風動画』。
同時に、下積みを経験しなければ監督になれず、若手の育成が進まない業界全体の現状にも危機感を抱いているという。
「若い感性を持った20代が監督になれる土壌を作りたい」と語る代表の水崎さん。
一方で全員が全員、監督になれるわけではない。監督になるための資質として欠かせないのがコミュニケーション能力だという。
業界のトップランナー『神風動画』の採用手法から、アニメーター、CGクリエイターだけではなく、IT・WEB・ゲームにも共通して必要とされるスキルの本質を探る。
― 若いスタッフにも演出を任せたい、というお話がありました。今の若いクリエイターに足りないと思う能力は何でしょうか?
ずばりコミュニケーション能力ですね。
演出をするということは、デザインワークなどに対しても指示を出すということ。動画や原画の経験が浅いスタッフがデザイナーに指示を出すと、現場から「あいつは何もわからないくせに」と不満が出てきます。
でも、それは仕切り方に問題があるからだと思います。わからないことを謙虚に質問ができたり、お願いをするときに配慮があったり。
ちゃんと相手の視点に立って進め方を考えればスムーズに進められるはずです。
じつは、神風動画で新しいスタッフを採用する時も似たようなところをみているんです。
書類選考の段階ではポートフォリオは送ってもらわず、どのような封筒を使うか。書類をどう書いてくるか。なぜ神風動画でなければならないのか。思いを伝えようと配慮があるか。こういったポイントを見るだけでも、応募者は半分くらいに絞られます。
あとは面談する時にポートフォリオを持ってきてもらって、ちょっと意地悪かもしれませんが、特にルールは設けずにプレゼンをしてもらうこともあって。
あまり話してしまうとネタばれになってしまうので言いませんが(笑)説明の仕方とか、準備とか、もろもろ細かいところは見ていますね。
もちろん、絵の技術もある程度のレベルでクリアしてほしいですが、会社に入ってからでも絵は上達しますし、上手いヘタはあまり気にしないですね。
― 勝手な印象で恐縮ですが、アニメーションの世界だと、絵は上手いけど、コミュニケーションが下手という人もいるのでは?
私も同じイメージがあって、アニメ以外のことに全く興味が向かないという人は、たとえば、学生時代に友だちや恋人と遊ぶよりも、アニメを見る時間のほうが長いこともあるでしょう。そうなると、どうしても対人のコミュニケーションが苦手という人もいますね。
ただ、苦手でもアニメ以外のところには興味を持ったほうがいいし、もし、監督を目指すのであれば、コミュニケーション能力を高めなければいけないと思います。
― 話は少しそれますが、水崎さん自身はどんな子どもだったのでしょう?アニメばかり見ていた?
父親が自衛隊で飛行機のメカニックをやっていたこともあって、メカが大好きだったんですよ。プラモデルをつくったり、絵を描いたり。
でも、別にアニメが好きというわけではなかったですね。普通の家庭の子どもと同じくらいしか見ていなかったと思います。
ただ、絵は好きだったので、芸大に行ったものの、卒業してもフリーターをやったり、バイトでWEBデザインを教えたり、広告ポスターを作ったり、ゲームのCGを作ったり…ぜんぜん道は定まっていませんでしたね。
ただ、中学生の時に観た『AKIRA』だけはずっと心に残っていて、いつかあんなカッコいい映像を作ってみたいなぁと。
― 広告やWEB、ゲームなど多岐にわたって経験してきたからこそ、いまの神風動画のスタイルがあるのかもしれませんね。
確かに、いろいろと雑多にやったからこそ、アニメーションのセオリーを壊すアプローチができたのかもしれません。
アニメのことが好きすぎる人、それだけしか見てこなかった人は、どんなに環境が劣悪でも「アニメの仕事ができているから幸せ」と思ってしまう傾向があるのかもしれません。そして挑戦の幅も狭くなる。
私の場合、やっぱり早く帰りたいし、遊びたい(笑)
自分たちにしかできない企画・演出で勝負できれば、仕事とプライベートのバランスを保つことができる。
そのためにも日々の挑戦と成長が不可欠だと考えています。
倖田來未「Go to the top」MV (C)2012 avex entertainment inc.
― 社内で笑い声が聞こえたり、ゲームしている人がいたり。みなさんかなり楽しそうに働いていますね。
作っている私たちが楽しもうというのは、常に心がけているところですね。
よくスタッフに話すのは、「やっていてワクワクしないカットだったらやめよう」ということ。
自分たちが楽しくないと感じたら、それは観てくれる人も楽しくない。
楽しいと思うカットならストーリーがつながっていなくても、気にせず作ってみます。
あとは「5分後」などテロップを入れたりして、なんとか後でつじつまを合わせればいいかなと(笑)
― そういった進め方、雰囲気、あらゆるところがアニメーションの会社っぽくないという印象です。
神風動画を立ちあげる前に広告、ゲーム、アニメといろいろな業界で働いてきて、全ての良いところをミックスしようと作った会社なんです。反面教師にしたところもあるし、取り入れたところもある。
もしかしたら若いうちは、いろいろな世界を見て、最終的に「これで勝負していく!」と焦点を絞ってみてもいい。
そうすることで業界のセオリーや慣習を壊す新しいクリエイター、そして新しい作品が出てくるのかもしれませんね。
― 「広い視野を持ち、さまざまな業界の良いところを取り入れる」アニメーションの世界に限らず、重要な部分ですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました!
(おわり)
[取材・文]白石勝也 [撮影]松尾彰大
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