「クライアントを待たせてでも作品に妥協しない」と語るのは、尖った映像表現が注目される『神風動画』代表の水崎淳平氏。圧倒的なオリジナリティを手に入れるために、彼らは「超えるべきハードルをどの作品でも必ず一つ設定する」という。IT・WEB・ゲーム業界でも参考になる“独自性を確立する方法”に迫った。
▼《神風動画》徹底解剖第1弾
『JOJO』OPムービーを生んだ“ホワイト”な職場―カミカゼ流働き方の極意。
『自分たちでスケジュールや価格の主導権を握る』IT・WEB・ゲームのみならず、クリエイティブな職種・業態に関わる方であれば、理想のスタイルと言えるのではないだろうか。
クライアントワークを中心とする会社でありながら、同スタイルを確立しているのが、新しい映像表現で観るものを魅了する『神風動画』だ。
「全ては作品づくりをこだわり抜くため」と語る代表の水崎さん。
いかにして理想ともいえる今のポジションを築いてきたのか。そして、どうすれば、彼らのような圧倒的なオリジナリティを獲得できるのか。仕事の真髄に迫るインタビュー第2弾!
― オンリーワンの存在になれば、スケジュールや価格の主導権を握れるというお話がありました。一体どうすれば自分たちだけの武器を見つけられるのでしょうか?
今、自分達ができることだけにすがってもいても武器は見つけられません。だから、どんどん新しいことにトライするべきですね。
ただ、超えたいハードルをたくさん設けると転んでしまう。だから一個一個クリアしていくことがポイントです。
神風動画がスタートした初期の頃には、自社作品でアニメを作っていて、手書きでも難しい「瓦礫がバラバラ崩れる表現」をまずはCGで作ってみようとチャレンジしました。
それなりに上手く動かせるようになってきて、じゃあ次はキャラも出してみようと挑戦が始まる。「でも、表情を描くのは難しいからマスクつけよう」と言いながら(笑)
そして、次はマスクを外して表情まで描いてみる。こうして地道にハードルを超えていくことが大事だと思います。
― ハードルを設定するのは、クライアントワークでも?
そうですね。たとえば、仕事を引き受ける時に、「一個だけ挑戦したいことがあるんですが」とお願いして、試させてもらえるようにしていました。
このように挑戦を続けると、出来ることの幅が広がるし、新しい切り口や表現、自分たちだけの武器を見つけやすくなると思います。
― クライアントに「やったことのない仕事に挑戦したい」と言っても、過去に実績がなければ、任せてもらえないのでは?
自分たちで事前に実績を作ってしまえばいいんですよ。まさに自社作品とか。それならどんどん試すことができますよね。
わかりやすい例だと、自社採用の時につくったムービーはアニメーションと実写を合成してみました。じつはこれ、今までやったことがなかったんです。
「あ、神風動画さんってこういうことまでできるんだ」と思わぬところから仕事が発生することもあります。
アーティストのPVとか、キャラを考えてほしいとか、CGでリアルな実写に近い映像もつくれますか?とか。
考えなければいけないのは、自社作品を作るために、どう余力をつくるか。クライアントとの仕事に追われていたら自社作品は作れません。ただ、この余白づくりに命をかけていかないと、どんどん仕事は先細ってしまうと思います。
― 具体的な話になるのですが、仕事を「受ける」「受けない」のジャッジはどう行なうのでしょうか?
わかりやすいところでは、コンテのある仕事は引き受けないですね。コンテが空白で「とにかくカッコ良く」と書かれていれば引き受けます(笑)
たとえば、オープニングムービーにしても、何をコンセプトにして、モチーフはどうするか。どんなプロットにするか。企画やイメージボードからであれば、やらせていただきています。
ジョジョの仕事でいえば、ホントの初期段階で書いた企画書があります。
「現世代のジョジョファンよ、これが物語のルーツだッ!」これがメインコンセプトになっていますが、まあボツになりました(笑)
「逆再生演出」と方法の項目にありますが、ここは第1部オープンニング、最初のカットに名残が残っていますね。で、企画が決まったら、イメージボードをつくって、テイストやカメラワークも考えて。
― 『企画・演出・イメージボードから仕事を受ける』という部分には、特にこだわっているのでしょうか?
そうですね。神風動画を立ち上げる前に、ゲームやセルのアニメーションも作っていたのですが、CGクリエイターの仕事って結局、仕様書や原図に依存するところが大きく、自分で演出ができるわけではありません。
どうしても「CGで最後なんとかしておいて」と尻拭い役になってしまう。「CGスタッフに演出なんてできるわけない」と思われていたんです。その時すごく悔しくて「それなら自分でやってやる」と決めましたね。
― 企画・演出のフェーズをメインで引き受けるということですが、いきなり「やりたい」と思ってできることなのでしょうか?
センスによるところもあると思いますが、「演出をやっていい人」「やってはいけない人」という区分はないと思います。
むしろ、全くやったことのなかった人がものすごくいいアイデアを持ってくることもありますしね。
同じ人が同じような演出を続けても、新しいモノは生まれません。誰も見たことのないような映像をつくろうと思ったら、新しい人にどんどん任せてもいいですよね。
だから「若いうちから演出をやらせてもらえる」という土壌は大事なんです。
ところがアニメーションの世界だと、一般的には年功序列式になっていて、動画、原画、作家をそれぞれ数年間ずつやってから、やっと監督になれる。
20代前半からはじめても、結局30代になってしまいます。たとえば、20代前半のスタッフが演出をやってもいい。若い感性から今までにない新しい作品が生まれるかもしれません。
そうしていかないと、日本のアニメーションはすこし出遅れた演出が増えてくるのではないか?という危機感さえあります。
― 一方で現場を知らない若いスタッフが企画・演出すると問題も発生しそうですね。
もちろん、現場からの不満は増えるでしょうね。技術的にわからないことも多いだろうし。
ただ、それは仕切り方の問題だと思います。うまくコミュニケーションを図りつつ、謙虚な姿勢で、ビジョンを共有し、やりたいことが進むようにすればいい。だから、コミュニケーション能力ってすごい大事だと思いますね。
(つづく)
▼《神風動画》徹底解剖第3弾。
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[取材・文]白石勝也 [撮影]松尾彰大
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