CTOという仕事を「技術の分かる経営者」と定義し、自身を「役員型CTO」と位置づけるnanapiの和田修一さん。その考えの背景には、「優れたエンジニアである以前に、まず圧倒的に仕事のできる人でありたい」というかねてからの強い気持ちがあるという。
以前、nanapi代表の古川健介(けんすう)さんにインタビューした際、こんなことを仰っていた。
たとえば弊社のCTOはバリバリのインフラエンジニアなんですけど、ファイナンスや経営も自分で勉強したりしています。
人材育成とか組織論にも手を伸ばしているし、デザインもすれば、自らプレゼンもする。幅広くあらゆるものを学んでいるので、非常に対応力が高いんです。
―― nanapiけんすう氏へのインタビュー記事「優秀なエンジニアの定義とは?」―nanapiけんすうに訊く![1]
ここで言及されているCTOというのが、今回登場する和田修一さん。楽天で4年間インフラエンジニアとして活躍した後、学生時代からの友人であるけんすうさんと起業。CTOという立場で、nanapiの成長をリードしてきた人物だ。
エンジニア的なスキルと、経営者的な視点を兼ね備えた和田さんは、果たして、CTOという仕事をどのように考えているのだろうか?
― CAREER HACKではさまざまな会社のCTOの方に、ご自身の仕事についてお話を伺っているのですが、和田さんはCTOの役割をどう定義していますか?
私自身は、「技術が分かる経営者」だと考えています。いまエンジニアとデザイナー、ディレクターあわせて10名程度のチームを見ているのですが、組織の規模がこれくらいになって、改めて自分の役割は経営サイドだと考えるようになりました。
― 具体的にはどういった仕事を?
まず経営のビジョンなり戦略なり大枠のものを考え、そこから「こういうふうにサービスを作っていきましょう」という、サービスのアーキテクチャを考えます。それをもとに、
「このビジョンがあり、このアーキテクチャがあるから、うちのサービスが機能しているんだ」
という部分を、メンバーに浸透させていく。これが一番大きな仕事かなと思います。
― チームのリーダーやマネージャーとの違いは?
現場のリーダーやマネージャーだとどうしても現場の目線になってしまうことが多いんですよね。どのようにしてつくるのか、いつまでにつくるのかという点にどうしても意識が向いてしまう。
そこで私がやるべきことは、なぜそのプロダクトを作るのか、今作っているプロダクトは会社のビジョンとどうつながっているのか、という点をメンバーに伝えることです。こういった内容をきちんと現場に浸透させていくことができるのは、経営サイドに身をおく役員ならではだと思います。
― モデルケースとなるようなCTOの方はいらっしゃったんですか?
この人のようになりたい!という方は今のところはまだ見つかってはいません。取締役同士との関係性もあると思うので、ベストなCTO像って会社によって変わってくると思うんです。
ただ、いろいろなCTOの方のインタビューなどを見ていると「これはウチの会社ではやっちゃマズイな」と思うような部分も感じることはあります。反面教師というわけではないですが、うちの会社には合わない考え方だなとかそういった意味です。
やっぱり役員という立場である以上、自分がやりたいことだけをやるわけにはいきません。現場のエンジニアがやりたいことを実現できる組織を作ることであったり、 会社のすすむ方向とエンジニアがやりたいことを結びつけてあげることが、CTOとしての仕事だと思っています。
― 明らかに“経営”を意識していらっしゃるのが分かります。そもそも新卒で楽天に入社される前は、エンジニアリングとは無縁だったとか?
当時の楽天は総合職採用だったため、入社したときはどこに配属されるか分からなかったんです。特に開発に関しては、新卒の採用実績もなかったので開発にいくことはまずないかな、くらいには思っていました。
ところがフタを開けてみると開発配属のエンジニアで、しかもサーバの構築・運用を行なう部署に(笑)楽天の新卒エンジニアとしては、一期生になります。
初めに配属先を聞いた時には多少の抵抗感もありましたが、当時から、どんな仕事がしたいかよりも「仕事のできる人間になりたい」という気持ちのほうが強くありました。なのでどんな職種であろうと、みんなの倍働けばそのぶん仕事ができるようになるだろうと、単純に考えていましたね。
仕事ができるようになりたいという思いは、今でも全く変わりません。その中で「自分が最も価値を出せるのはどの分野なのか」を、常に考えていますね。
― そもそも、エンジニアという肩書きにはこだわっていないわけですね。そこから次に起業という道を選んだわけですが、自分は経営者だというマインドには、すぐにシフトできたんですか?
口ではそう言っていましたけど、実際には全くできていなかったです(笑)起業した当初はCTOというのも肩書きだけ。エンジニアは私しかいなかったので、とにかく現場の仕事だけで精一杯でした。最初の2年弱くらいは私一人ですべてのプログラムを書いていましたし。
でも、徐々に人数が増えてくると、マネジメントの必要が出てくるわけです。自分より優秀な面をもつエンジニアがメンバーに加わったりもする。それに会社のビジョンも、最初はそこまで強く固まってはいなかったものが、だんだんと明確になっていくんですね。
そうすると、エンジニアとしてやりたいことがある人たちと、こうなりたいという会社のビジョンとをつなぎ合わせる必要が出てきます。その必要性を感じた時点で、それは役員である自分がやるべき仕事、経営としての仕事なんだろうなと初めて実感しました。
もちろん技術は好きですし、一人のエンジニアとしていいものを作りたいという気持ちはあります。ただ基本軸として、私の場合は根がエンジニア気質ではないのかもしれませんね。
― とはいえ、エンジニアとしてもメンバーの尊敬を集める必要はありますよね?
もちろんです。ただ、全ての技術分野においてメンバーを引っ張り続ける必要はないと思っています。5人エンジニアがいれば、5人それぞれに得意な分野があるんですよ。それをちゃんと活かせる組織づくりをしてあげることが大切だと思う。
どんな人でも、広い技術分野においてパーフェクトであり続けることはすごく難しい。CTOが技術の分野すべてに関わり続けることで、メンバーが遠慮してしまったり、CTO以上の技術をもったエンジニアを採用できなくなる懸念もあります。そういった意味で、私自身がボトルネックにならないように、というのは常に考えている部分です。
― 組織づくりのカギは何でしょう。やはり人材採用ですか?
もちろん、採用は最も重要です。とはいえ、優秀な人間を採用し、それで組織を回していくには、予めきちんとした“下地”を作っておくことが必要です。
そういう意味では、会社が掲げるミッションを、すべてのメンバーにしっかりと浸透させることが大切だと思っています。全員が自分の言葉で会社のミッションを語れるチームが理想です。
例えばつい先日も、エンジニアとデザイナーが半日がっつり時間をとって、nanapiのミッションについてきちんと考え直すワークショップを行ないました。一見、時間がもったいないように思えるかもしれませんが、これをやることによって次からのアウトプットがガラッと変わります。チームでの議論が、極めて建設的なものになってくるんですよ。
こうした施策だけみると、CTO以外でも企画できるものだとは思います。しかし、ワークショップをやること自体はあくまで手段なんですよね。
重要なのは、そこで話した議論を普段の仕事につなげられるよう噛み砕き、継続的にフィードバックしつづけること。事業ミッションと現場、両方が分かっているからこそ伝えられることがある。そういう面でもCTOの存在意義はあると思います。
― なるほど、エンジニアがミッションを語れる状態を作れるのはCTOだと。一方で、そうした組織づくりは、規模が大きくなるにつれて難しくなることだとも思います。
仰るとおりです。だからこそ、今後を見据え、あえて今の段階でミッションを強く打ち出しているんです。
正直、今の組織規模であればここまでやらなくてもうまく回せると思います。ですが我々としては、事業の成長に応じて組織が成長できないという事態だけは絶対に避けたい。実際に、組織がうまく作れずに伸び悩んでいる企業はあります。
私自身は、楽天という大きな組織の中で育った人間です。大きな組織で働いていたという経験は、組織を作る上では強みになる部分だと思っているので、特に組織づくりに関しては今後も徹底的に考えて、積極的に動いていきたいと思っています。
― まさに、経営的な目線ですね。
ただ、こうしたことをお話しする機会が増えているせいか、nanapiのCTOは技術に興味がないって思われてるんじゃないかと不安です(笑)
― nanapiのインフラ部分は、今も和田さんがお一人で見ていらっしゃるんですよね?
そうですね。インフラ周りの設計・構築・運用は当然のこと、技術の検証なども積極的に行なっています。最近だとDevOps界隈で話題になっているChefを検証し導入しました。役員といえど、技術者としての強みは持っておかなければいけない。そのあたりは危機感を持って日々勉強しています。
― あくまでバランスをとりつつ、ということですね。
(つづく)▼《nanapi》CTO 和田修一氏へのインタビュー第2弾
技術の幅が問われる時代、生き残るのはフルスタックエンジニア―nanapi CTO和田修一氏に聞く。
[取材・文]上田恭平 [撮影]梁取義宣
編集 = CAREER HACK
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