単なるイラスト特化型クラウドソーシングサービスでなく、データの収集分析によってデザイン業務の可視化と効率化を図らんとするMUGENUP。彼らの取り組みはクリエイター自身にどのような影響を及ぼすのか?「クリエイターの学びと活躍の場となるプラットフォームの構築」を目指すと語る代表の一岡氏を直撃した。
▼MUGENUP代表一岡氏へのインタビュー第1弾
MUGENUPはクラウドソーシングの“先”に何を見ているのか?一岡亮大CEOの狙いに迫る。
イラスト特化のクラウドソーシングプラットフォームとして、1万人以上のクリエイターを抱え、高い存在感を発揮する《MUGENUP》。
しかし彼らの目指すところは、イラストだけに限らず、デザインが必要なあらゆる分野をカバーするプラットフォームの構築であり、属人性の高い”デザイン”という仕事を、より効率化することにあるという。
だが、デザインから属人性を排すことは、クリエイターの価値を貶めることにはならないのだろうか?
MUGEUNUPはクリエイターの未来をどう変えうるのか、同社代表一岡さんの考えに迫った。
― MUGENUPが目指しているのは、デザインという属人的なものを、データをもとに解析し、効率化することだと仰いました。一方でそれは、デザイナーの仕事にコモディティ化をもたらすようにも思えます。
いえ、必ずしもそうではありません。
我々も、クリエイターの持つクリエイティビティすべてを一般化することはできないと考えています。誰もが簡単にデザインの仕事ができるようになって、クリエイターの仕事の単価がいきなり下がるようなことはありません。
これまでMUGENUPをやってきた中で生み出せた最も大きなイノベーションは、“デザイン業務を分業化したこと”だと思っています。
分業化することで、クリエイターは自分の得意な工程、好きな工程、最もスピーディーに制作できる工程に特化して、仕事を請けることができます。そうするとより多くの案件をこなすことができるので、むしろ収入は上がるし、やり甲斐も向上します。自身の価値を最大化できるようになるわけです。
― なるほど、分業による効率化は、クリエイターにとってむしろプラスに働くと。
その通りです。そしてそれを実現するには、クリエイターと案件のベストマッチングが不可欠です。そもそもデザインって“人の好み”によって良し悪しの基準が大きく変わるもの。その“好み”を軸にした最適なマッチングなしに、質の高いデザインが出来上がることはあり得ません。
特に今は、その“好み”もさらに細分化しています。マスの好みに合わせてデザインすれば満足してもらえる時代ではないわけです。だからこそ、より細かなマッチングが重要になってくるわけで、それをMUGENUPで実現していければと考えているんです。
― その他には、クリエイター向けにどんな取り組みを行なっているんですか?
まず、「MUGENUP ボーナスステージ」という30万件以上の施設・サービスで特典を受けられる福利厚生プログラムを用意しています。
またMUGENUPを、単に仕事の受発注ができる場にとどまらず、クリエイターを成長させる場にすることも重要なポイントだと思っています。
CREATORS COLLEGEという教育プログラムはその取り組みの一つ。「一つずつプロになる」をテーマに、クリエイティブ制作を各テーマごとに分けて学習できるプログラムです。
MUGENUPは、クリエイターとどのような関係を築いていくべきか。ベンチマークとしているのが、実は“吉本興業”さんなんです。
吉本興業って、まずタレント志望者を募って養成所に入ってもらい、自分たちが運営する劇場で経験を積ませます。そこで充分な実力を身につけた人を、テレビなどのメディアに対して売り込んでいくんです。
それと全く同じことを、デザインという領域でやっていきたいんですね。言わば、クリエイターの発掘・育成とプロデュースを一貫して手がけるプラットフォームです。
― 既に実践できているんですか?
現時点で、“自分たちの劇場”は持っているんですね。それがMUGENUP STATIONです。ここではクリエイターのスキルにあった仕事の募集や毎月のコンペが開催されています。
次のフェーズとして、クリエイター一人ひとりに対し、それぞれの価値を最大限生かしてプロデュースできるようにしていきたい。こちらはまだ試行錯誤している段階なのですが、制作物の著作権がクリエイターに戻ってくる仕組みを整えたりすることも考えています。
現状、クリエイターが安く買い叩かれている分野も存在しています。なぜ、そういうことが起きてしまうのか。クリエイターと発注者との間で、適切なコミュニケーションがとれていないからです。そのため、結果としてお金を持っている発注者の立場のほうが強くなり、クリエイターの価値が相対的に下がっていってしまう。
この状況こそ、我々が最も問題視していることの一つです。MUGENUPが、発注者とクリエイターの間に入る理由もここにあります。
我々は、クリエイティビティとビジネス、両方を理解しているつもりです。だからこそ、我々こそがビジネスというフィールドの上で、クリエイターの価値を適切に示していくことができるんだと考えています。
エンジニアのような職種なら分かりやすいんです。GitHubなどを通じて、「自分はこれくらいのものがこれくらいのスピードで作れます」と目に見えて提示できる。なおかつ、プログラムはロジックで読み解けますし、実際に動くものです。
クリエイターは、自身の価値を証明するのがとても難しい。だけど、ただ好き嫌いで終わってしまう世界のままであってはいけない。例えば、一言「世の中でこれが売れていて、これができる人の価値が高い」ということが証明できれば、すごく分かりやすい世界になりますよね。そんな環境を整えることで、クリエイターの評価システムをリデザインしていきたい、これもまたMUGENUPが果たすべき使命の一つだと考えています。
― クリエイターにとって、これからのキャリアを考える上でも非常に参考になるお話だったと思います。ありがとうございました!
(終わり)
[取材・文] 松尾彰大 [撮影] 梁取義宣
編集 = 松尾彰大
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