エンジニアの供給不足が慢性化する中、中長期的な視野で見た小中学生を対象にしたプログラミング教育が注目を集めている。小学生向けのプログラミング教育事業を手掛けるCA Tech Kids代表の上野氏に、小学生にプログラミングを教える上での“勘所”を伺った。
慢性的なWEB・IT業界のエンジニア不足。成長を続ける業界全体として、エンジニアの早期育成は大きな課題でもある。
ただ、より長期的な視座を持つと、中学生や高校生、更には小学生に対するプログラミング教育に対する熱が、じわじわと高まってきている。
それは政府が掲げる成長戦略に盛り込まれた、IT教育、プログラミングの義務教育化の促進にも見て取れるのではないだろうか。
今回お話を伺ったのは、小学生向けのプログラミング教育事業を手掛けるサイバーエージェントグループ・CA Tech Kids代表の上野朝大氏。
今春設立されたばかりの同社は、既に小学生300人以上を動員し、iPhoneアプリや2Dゲーム制作のワークショップを開催しているという。
第一弾の本記事では、小学生を対象にプログラミング教育事業を始めたワケ、いかにして“小学生”にプログラミングを教えているのか、その具体的方法とそこから得られた小学生向けプログラミング教育の“勘所”について話を伺った。
― そもそもどうして、サイバーエージェントグループは小学生向けのプログラミング事業を始めたのでしょうか?
正直にお話すると、サイバーエージェントグループとして、当初から明確なガイドラインなどを作成して生まれた事業ではないんです(笑)
ただ、若年層へのプログラミング教育に対する社会的なニーズ・流れが間違いなく生まれてきています。
CA Tech Kidsは今年の5月末日に設立したのですが、ちょうどその1週間後に発表された、政府の成長戦略素案において、「世界最高水準のIT社会の実現」に向け、IT教育の推進、具体的には、プログラミングの義務教育導入を検討していくことが宣言されました。
また楽天の三木谷氏が会長を務める新経済連盟がプログラミングの義務教育化を提言していたり、海外でも10代の子どもにプログラミング教育を提供する事例も注目を集めています。
そこで、CAグループとしても一つテストケースとして、事業化を目指して「ひとつやってみるか」ということで設立されたのがCA Tech Kidsです。
― “小学生”相手にプログラミングを教えることは、かなりハードルが高いようにも感じます…。
「小学生にプログラミングを教える」ということに関しては私たち自身かなり試行錯誤している段階です。なにせ先行事例がほとんどないですからね。
実は、CA Tech Kidsはサイバーエージェントと、中高生向けのプログラミング教育事業を行なうLife is Tech社から合同で出資を受けているんです。
対象としている年代は違いますが、Life is Tech社のノウハウ提供を得つつ、改善を繰り返しながら運営しています。
― 具体的にどのような授業を行なうんですか?
この夏に開催したのはTech Kids CAMPと題し、郊外の大学を会場に、「ワークショップ」という形式で開催しました。
教材にしたのはiPhoneの占いアプリを作るというもの。当社のエンジニアが開発したものですが、「占い」というモチーフの選定や、プログラムの開発など、検討に検討を重ねました。
― 教材を作る上で、最も重要な点は?
いかに子どもたちに“楽しい”という感情を芽生えさせることができるか、という点につきます。これは教材にかぎらず、実際のワークショップの運営などあらゆる点で気にかけているところです。
教材を例えるならば、“ミニ四駆”と“その組み立て説明書”。ミニ四駆のキットを買うと、タイヤからシャーシ、シャフト、モーターなどが入っていて、説明書通りに工程をこなせば、とりあえず走る状態まで子どもでも組み立てられますよね。
この感覚を真似て、ワークショップではプログラミングの“取っ掛かり”の部分の障壁をいかに下げるか、つまずくポイントをできるだけ排除しながらモノづくりの楽しさを感じて貰える仕組みを整えています。実際、小学生の中にはアルファベットをキーボードで打つことにかなり戸惑いを見せる子もいます。そのため、キャンプで使用する教材では、難しい概念などは極力排除して、クリックとドラッグ&ドロップなどでアプリが完成する仕様になっているんです。ミニ四駆と同じように、説明書通りに作れば、誰でも自分で動くプロダクトを生み出せるワケです。
― なるほど。一度自分で動くものを作ると、カスタマイズしたくなりますよね。それこそ、モーターをより回転の早いものにしようとか、マシンを塗装してかっこ良くしたり、なるべく軽くしようとか。
仰るとおりです。例えば占いアプリでも、一度動くものを作ると「占い結果画面をこんなふうに変えてみよう」と子どもたち自身が、考えだすんですよ。
ある子は、単純な大吉・吉・凶が出る占いアプリを金運アプリに変えたり、選択肢をグー・チョキ・パーに変えて、じゃんけんゲームアプリに変えたり。頭からではなく、体でプログラミングを楽しんでもらうことをきっかけにまずは興味を持ってもらい、次のステップを踏めるようにしているんです。
― 楽しさを切り口にすることで、子どもたちが達成感を覚え、生まれる欲求を叶える実現手段を考え始める、ということですね。
(つづく)次回は明日16日更新予定。引き続き上野さんに、小学生のプログラミング学習から考える業界の未来像について伺います。
[取材] 城戸内大介 [文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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