今や『Qiita』『Kobito』を知らないプログラマはいないだろう。同サービスを開発したIncrementsのCEO海野弘成氏は自身がプログラマでもある。どんな問題意識からプログラマ向けサービスを開発するのか。海野氏が語ったのは「もっと楽しく、色々なモノが生まれる世界を作る」という野望だった。
日本における職業プログラマ人口は約40万人(※)。
その中で技術情報共有サービス『Qiita』のユニークユーザー数はもうすぐ50万人に到達するというから驚きだ。
また、2012年4月にリリースされたMac用技術情報記録ツール『Kobito』も利用者を増やし続けている。
同サービスを手がけるIncrementsは、国内最大級の総合プログラマコミュニティを生み出した、といって差し支えないだろう。
同社CEOの海野弘成氏は、自身もプログラマとして活躍する。海野氏は「プログラマの開発環境を良くすることで色々なモノが生まれる世界を目指す」と語る。
彼らのサービス哲学・開発思想からプログラマが直面している問題と、その解決の糸口を探る。
(※) 独立行政法人情報処理推進機構IT人材白書2012より、アプリケーションスペシャリスト+ソフトウェアデベロップメント+ITスペシャリスト=40万人と算定。
― さっそくですが、Incrementsはサービスを通じ、何を実現しようとお考えですか?
もっと楽しく、もっと色々なモノが生まれる世界にする、ということです。
WEBサービスやアプリ、スマートフォンはもちろん、電気・水道などのインフラ、自動車、家、保険など、今やあらゆるものにプログラミングが使われており、社会にとって欠かせない存在ですよね。
それらを作るプログラマが気持ちよく働けて、能率が1%でも向上すれば、出来あがるプロダクトの進化も加速する。それが世界にとって一番インパクトを与えられると思ったんです。
特にオープンな情報に抵抗がなく、生産性が高い「プログラミングが好きな人」に貢献できれば影響力は大きいはず。
ぼく自身、プログラミングで問題点にぶつかった時、ネットで解決策が見つけられないことも多かったんです。
誰かがハマった落とし穴に他の誰かがハマるのはとても非効率。だからこそ、あらゆる技術情報が最短で見つかる『Qiita』を作ろうと。
― 開発環境を良くして、プログラマの生産性を最大化させる。ここがテーマになっているんですね。
そうですね。
たとえば、チームで開発を進めていく時、決まった時間に会社へ出社して…という働き方もプログラマによっては非効率的だと思います。
「朝すごく眠いけど、会社にいかなければ」とプログラミングを始めたところで集中できず、生産性は低いまま。
たとえば、オンライン上で全てのやり取りが完結できれば、会社に出社しなくても働けます。
人によると思いますが、深夜のほうが集中できる、家のほうがアイデアが湧く、というのも往々にしてあること。「プログラマの生産性を最大化する」を目的にした時、働き方の選択肢を増やせたほうがいいですよね。
― Incrementsでは、実践できているのでしょうか?
京都や筑波の学生たちに、遠隔からプロジェクトに参加してもらったことはありますが、それぞれが好きな場所で…という部分はまだできていないんです。
ただ、オフラインだと「言った言わない」で認識がズレるので、オンライン上でのコミュニケーションはかなり多いですね。
チャットは『HipChat』、プロジェクト管理は『GitHub』、todo管理は『Trello』、開発系タスクの管理は『Tracker』、あとは『Qiita team』でコメントをやり取りして…あとは何を使っていたかな(笑)
― 『GitHub』の名前が出たので伺うのですが、『Qiita』は「日本版GitHub」と呼ばれることもありますよね。ベンチマークしているのでしょうか?
全くライバル視はしていなくて、両方活用することで上手く開発が進むようにしたいと思っています。
ぼくらのチームでも、コードレビューは『GitHub』で行っていますが、「なぜこのコードを使うに至ったか?」という情報が抜けてしまう。そこで、ヒアリングのメモやディスカッションは『Qiita team』で行っています。
『GitHub』がカバーできていないところを、『Qiita』でカバーしたほうが、プログラマにとってのメリットは大きい。
何より『GitHub』が使いやすいですし、『GitHub』のアカウントで『Qiita』にログインできる(笑)
同じところを解決してもしょうがないですからね。
― 海野さん自身プログラマでもあるので、ご自身が「問題だ」というところからサービスの着想を得るのでしょうか?
「これは非効率的だ」という思いから課題の仮説を立てることはありますが、それは自分が思っているだけかもしれません。
だから、「ユーザーにとって解決する価値のある課題か」検証することが大事。そういった意味で、つくる前のヒアリングはかなり細かくやっている方だと思います。
たとえば『Kobito』は、プログラマへのヒアリングから、見えてきた課題を解決するために開発したものなんです。
当時、ぼくたちは、どうすればプログラマの人たちが『Qiita』を使って、より情報共有してくれるか模索していました。
そこで、プログラマへのヒアリングを徹底して行なったところ、そもそもオンラインに公開する前段階、つまりローカルで記録するところに障害があったんです。多くのプログラマは、何か問題を解決したときに、その解決策を記録しておいたほうがいいと思っているけど、記録するツールがないと口を揃えておっしゃっていて。
実際、『Kobito』をローンチしてから、『Qiita』への投稿数が一段と高まりました。まだまだ手を付けられていないプログラマの抱える課題はたくさんありますが、一つ一つ解決して、プログラマの活躍をより支援できるサービスにしていきます。
― ヒアリングによって、間違いなくあるニーズを見つけ出し、それを解決するためのツールを狙って生み出すことができた、というワケですね。
(つづく)▼Increments CEO 海野弘成さんへのインタビュー第2弾プログラマは失敗すべき|『Qiita』開発者・海野弘成氏と考えるプログラマの幸せ。
[取材] 松尾彰大 [文] 白石勝也
今回お話を伺ったIncrementsでは、エンジニア・デザイナーの募集を行なっています。
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