2013.12.24
『まちつく!』『フォト蔵』そして『メルカリ』|山田進太郎に学ぶ、ヒットサービスの作り方。[前編]

『まちつく!』『フォト蔵』そして『メルカリ』|山田進太郎に学ぶ、ヒットサービスの作り方。[前編]

『まちつく!』『フォト蔵』そして『メルカリ』など、数多くのWEBサービスを世に生み出してきた、山田進太郎氏。彼は一体どんな軸を持って多様なサービスを生み出してきたのか?その秘密を探ってみた。

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ヒットメーカー山田進太郎の頭の中とは?

新作映画情報サイト『映画生活』、写真共有サービス『フォト蔵』、総ユーザー数が500万人超えのソーシャルゲーム『まちつく!』など。誰もが知るWEBサービスはすべて、山田進太郎という人物の頭の中から生まれてきたものだ。

山田氏は学生時代に楽天株式会社の『楽オク』の立ち上げに参加し、大学卒業後にウノウ株式会社を設立。その後、先に挙げたような数々のWEBサービスを開発し、ソーシャルゲーム制作会社のZyngaへ売却するなど、シリアルアントレプレナーとして数々の実績を持つ人物だ。

Zyngaを退職したのち、2013年2月に株式会社コウゾウ(現:株式会社メルカリ)を設立。そして満を持してリリースされた、CtoCのフリマアプリ『メルカリ』は、誰でも“安全”“安心”そして“簡単”に、フリマ感覚で出品、購買できるアプリとして、今巷で注目を集めている。


メルカリ


このようにして、ヒットサービスを連続で生み出してこれたのは、何故なのか。その秘密を探ることで分かったのは、山田氏のサービス開発に対する考え方だった。

山田氏が目指すのは、世界中で使用されるWEBサービス。

― 山田さんはこれまで、映画情報サイトや写真共有サービス、ソーシャルゲームと多様なサービスを生み出してこられていますね。どんな軸でサービスを企画開発しているのでしょうか?


ウノウもメルカリも同じく、「世界で使われるインターネット・サービスを創る」というミッションを掲げています。目標があって、それにあわせてテーマを選んでいく流れですね。例えば、ソーシャルゲームを作ったのは、当時、もっとも世界に近いだろうと思われるWEBサービスが、“ゲーム”分野だったから。そして日本では既に性能の高いモバイル端末が普及していましたが、今後は世界中でよりインターネットへのアクセスがPCからモバイルに移行する時代なるだろうと。そこで、モバイル×ゲームの軸でつくったのが「まちつく!」でした。


― なるほど。そしていま、フリマアプリ『メルカリ』が好調ですね。リリースからたった5ヶ月で、1日の出品数は1万件以上、累計出品数は100万点。そして、Google Playの「ベストアプリ2013」とiTunesの「今年のアプリ」をW受賞されたとか。そもそも、なぜCtoCサービスに着手したんですか?


これからのCtoC市場に、拡大の可能性を感じたからです。まず国内では、ご承知の通り、2014年4月から消費税は増税となり、消費税が掛からないCtoCサービスを選択する人が増えると予測しています。

また海外に目を向けると、途上国の経済が発展したとして、世界中の国が今の先進国のように、新品を買って使わなくなったら捨てるといったライフスタイルは不可能だと考えています。これからは、個人が自分の所有する商品を自由に売買していける場所が、世界的にもっと求められてくると考えています。


― スマートフォンの爆発的な普及で、インターネット環境が変わったのも、サービス開発に影響は与えましたか?


そうですね。スマホが普及して、本当の意味で、どんな人でもインターネットが気軽に使えるようになりました。現在、『メルカリ』の典型的なユーザーさんは、地方に住んでいるような若い女性なんです。そんなに可処分所得は多くなく、ブランドも地元では購入がしづらいから、ネットでの買い物に意欲的です。実は、CtoCマーケットは巨大で、eBayで月に6,000億円。ヤフオクも月に500億円の流通があります。スマホの普及で、発展はまだまだ続いていくと考えてもいいでしょう。



― では、『メルカリ』が世界中で使用されるサービスになるには、どうすればいいんでしょうか。


アメリカで成功することですね。グーグルもヤフーもアマゾンも、すべてアメリカで成功してから日本に来ています。逆に言えば、アメリカで成功すれば、どこの国でも成功するサービスになれる。

その理由は、アメリカが文化と人種の多様国家だということ。いろんな民族が住んでいて、いろんな文化や価値観があるためです。だからアメリカで受け入れられたサービスは、どこでも通用する可能性が高い。トヨタやホンダ、ソニー、任天堂といったメーカーもすべてアメリカで成功したからこそ、世界的なブランドになりました。『アメリカでの成功=ユニバーサル』であり、例えば東南アジアで成功を収めても、それはあくまで“ローカルな成功”と言っても過言ではないと思います。


― これまでに、世界的なヒットとなった日本発のWEBサービスってあるんでしょうか?


まだ無い、というのが現状です。例え、日本で成功していたとしても、アメリカで成功しなければ、ローカルなサービスにすぎない。だから私たちは、2014年中にアメリカでのアプリリリースも計画しています。アメリカの次はヨーロッパ、その次はアジアなどと世界へと拡げていくつもりです。


― これからの展開が非常に楽しみですね。しかし、いま、多くの競合企業がフリマやオークションのアプリを発表していますが…。


正直な話、開発当時はここまでレッドオーシャンになるとは思っていなかったです(笑)。しかし、自分たちの企画・開発力や経営力には自信もあるので、そんなに恐れてはいないです。これまではステルスモードであまりPRしていなかったのですが、日本最大級と言えるところまでは来たので、今後はPRにも力を入れていこうと考えています。

ヒット作の裏側に埋もれた、数々の失敗作もある。

― では、山田さんが数々のWEBサービスをヒットさせてきた秘訣とは何でしょうか?


実は、開発したアプリのすべてが、『フォト蔵』や『まちつく!』のように一定の成功を収めているわけではないんです。ここ数年間だけでも、多くの人たちに使われないで終わってしまったサービスは、10個以上はあると思います(笑)。


― 実際どのようなサービスがあったんですか?


1つ例を挙げるなら、人間以外のモノとモノをつなげて楽しむ、『タイルプレックス』というソーシャルネットワークサービス。例えば、ネットショッピングでiPhoneを買ったとするじゃないですか。その際、購入画面上に携帯ケースなどの関連商品が表示されるサービスです。そして、関連商品の中からキャラクターの携帯ケースを試しに選択したら、今度は、そのキャラクターに関する商品が表示されて…と、いろいろな関連商品を紹介してもらえるサービスでした。

インターネットは、目的を持って商品を探す時には便利です。しかし、CDショップや本屋のように、売場で思いもしなかった商品を発見するという楽しみがない。私はネットでも、思いがけない商品に出会える喜びを実現したいと思い、このサービスを企画しました。ただ、これは関連商品をユーザーさんに繋げてもらうサービスだったのですが、情報をなかなか入力してもらえなくて…結局、あまり上手くいきませんでした。

こんなふうに、いろいろと失敗を経験しながら、ノウハウを蓄積して開発を進めてこれたのが大きかったんだと思います。そうやってヒット作は作られてきたと、いまでは自信を持っています。


― 経験値を貯めていく、とでも言うのでしょうか。山田さんが手掛けたい、理想的なサービスって何なんでしょうか?


先ほどお話しした「世界で使われるインターネット・サービスを創る」というメルカリのミッション通り、特定の人だけでなく、不特定多数の人に使ってもらえるサービスをつくりたい、という想いがあるんです。「ちょっと便利だなー」でも、「少し楽しいなー」でもいい。夢のあるようなプロダクトをつくりたい。

理想的なWEBサービスのカタチを挙げると、『スカイプ』みたいなサービスですかね。世界中で使われていて、誰もが難なく、頻繁に使っている。「スカイプがあったから人生が変わった」という人も世の中にはたくさんいると思います。

プロダクトは当たり前のように使っているけど、それを作った開発者のことはまったく知らない。そんなサービスを作りたいんです。僕自身が有名になりたい、という想いはまったくありません。あくまでも世界で使われるようなサービスを開発したいんです。



(つづく)
▼メルカリ代表・山田進太郎氏へのインタビュー第2弾
ヒットメーカー・『メルカリ』山田進太郎のキャリア論 ~優秀なエンジニアには共通項がある~[後編]


[取材] 松尾彰大 [文] 白井秀幸



編集 = 松尾彰大


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