数々のWEBサービスをヒットさせてきた『メルカリ』山田進太郎氏へのインタビュー第2弾。15年以上に渡り、シリアルアントレプレナー・エンジニアとして業界の第一線で活躍してきた、彼のキャリアについて伺った。
▼『メルカリ』山田進太郎氏へのインタビュー第1弾
『まちつく!』『フォト蔵』そして『メルカリ』|山田進太郎に学ぶ、ヒットサービスの作り方。[前編]
エンジニアとして生きていくのであれば、当然、活躍できるエンジニアになりたいし、引く手あまたの人材として、重宝される存在になりたい。そう考えるのは、ごく自然なこと。キャリア志向があるとか無いとかは、関係ない話だ。
しかし、どのようにしてキャリアを築いていけばいいのだろうか。悩まれる人もきっと多いのではないかと思う。
数々のWEBサービスをヒットさせてきた、株式会社メルカリの山田進太郎氏。彼のこれまでの15年間のエンジニア・経営者人生を知ることで分かった、キャリアの築き方とは?
― 山田さんは、どのような考えの下で、キャリアを築いてきたんでしょうか?これまでの起業家・エンジニア人生について、お聞かせください。
僕はずっとインターネットが好きで、それに関わる仕事がしたかったんですね。だから学生時代(2000年頃)に、楽天に内定をもらい、インターンとして、オークションサービスの立ち上げに参加できたときは本当に嬉しかったです。
また当時は、楽天で働きながら、プログラミングも勉強して、自身の趣味だった映画のサイト『映画生活』を開発しました。サービスをイチから立ち上げる面白さを、日々実感することができたんですね。この頃から漠然とですが、WEBサービスをつくって、世界中の人に使ってもらいたい、という野望がありました。
― そして大学を卒業して、ウノウという会社を設立したんですね。
当時は、外部のプログラマと一緒にIT関連の仕事を受託で請けていました。まだインターネット・サービスを丸ごと受託できる会社があまりなかったので、多種多様なプロジェクトに参加させて頂いて。その頃だと、できたばかりのチームラボなんかともよく仕事をしていました。とても楽しかったです。
しかし、特に社員を雇っていなかった理由でもあるのですが、ネットビジネスが本当に自分のやりたいことなのか、心のどこかに迷いがあった。建築のリノベーションや飲食店経営などにも興味があったんです。そしてアメリカに行きたい!という想いが強く、たまたま応募したグリーンカードに当たったので、急遽、アメリカに移住することにしました。2004年のことです。
そこで出会ったのが、飲食店の経営で成功をしたけど引退を考えていたおばさん。自身の飲食店経営の夢を叶えたいということもあり、共同でお店を経営することになったのです。
― 飲食店の経営ですか?WEB業界で活躍されてきた山田さんからは、想像もつかないです(笑)
自分としては経営をやりたかったんですが、彼女に「レストランをやるってことは、あなたも最初はお店に出るのよね?」ということを言われて、はっと気付かされたんですね。
当時、リモートで運営していた『映画生活』の月のユニークユーザー数は100万近くだったと思います。でも、レストランなら月に多くても数千人くらいにしかサービスすることができない。もちろん濃さは違いますが。
多くの人にサービスを提供できるほうが自分は面白みを感じられると、その時に気付いたのです。ネットビジネスの世界でより多くの人に愛されるサービスをつくっていこうと決心し、レストランを出すのは辞めました。
― WEB業界とは異なる業界に寄り道をしたことで、自分がしたいことを再認識できたと。
そうですね。どのようにしてキャリアを築くかということよりも、自身の好きなことを見つけるほうが、大事なんです。「これは自身がやっていて満足感がある!」というものを見つけていくことが、結果的にキャリアを形成することにつながっていくんだと思います。
何かに迷っている人がいれば、「とにかく全部やってみて!」とアドバイスをしたいです。やってみると、自分がそれをどれくらい好きなのかが分かるようになりますし。僕もあの時に飲食店の経営に挑戦していなかったら、ずっと心のどこかで、あっちの業界の方が向いているのかも…と、不完全燃焼で仕事をしていたのかもしれないです。
― 実際、山田さんがこの業界に15年間ほど携わってきて、活躍しているエンジニア・クリエイターに共通することって何だと思われますか?
本質的には、さきほど私が答えたことに近いのですが、新しいものに対して試す、挑戦するといった好奇心があるかどうかは重要ですね。どんなに経験がある人でも、そのような姿勢がなければ、必ず廃れていきます。
例えば、今だとスマホのアプリやSNSなど、社会の変化と言いますか、時代の移り変わりについてこれない人は厳しいですね。積極的にいろんなアプリをダウンロードして、自分なりにその善し悪しの判断をしてみる。そして1年後にそれが予想通りになっているかどうかを検証する。そのようなことの繰り返しで、エンジニア・クリエイターとしての勘所はついてくるのはないでしょうか。
エンジニアであれば、自分の技術の幅を広げるために、iPhoneアプリの開発環境を触ってみたり、3Dプリンターでの出力を試してみたり。常に新しい技術に挑戦できる人こそが、自身でも新しいサービスを生み出せる人なんだと思います。
― 好きこそものの上手なれ、意欲は経験に勝る、といったところでしょうか。常にアンテナを張り巡らせて、最新技術の習得に貪欲な人が活躍できる、というのはとても納得度が高い話ですね。
実際、私もほぼ24時間WEBサービスのことを考えていて、もうちょっとこうしたほうが良いのかも?と、毎日100~200個はアイデアを考えています。しかし実現されるのは、その中から1個ぐらい。WEBサービスをよくしていくのは、簡単なことじゃないんです。
少し暴力的な言い方かも知れませんが、毎日就業時間の8時間だけ、コーディングをするという人では、いつまで経っても優秀なエンジニアにはなれないかもしれません。
優秀なエンジニアは、新たな技術の習得や開発に投入している時間も圧倒的に違いますし、結果的にスキルも伸びていくんだと思います。
― 現在、エンジニアを募集されているとのことですが、応募書類では、どのような点を確認されるのでしょうか?これまでの経験などは、なかなか言語化するのが難しいと思うのですが…。
私の考えとしては、エンジニアのスキルは、これまでに手掛けてきたWEBサービスやコードに全部出ていると思っています。そのサービスやコードを見せてもらい質問をすれば、どれくらい深く考えて設計してコーディングしており、どれくらい幅広い知識を持っているかは分かります。
特に飛び抜けたエンジニアは信じられないくらい幅広くて深い知識を持っています。スキルにはレベルがあって、上のクラスのエンジニアはジュニアなエンジニアのレベルを判定できますが、逆の場合はなんとなく自分よりできそうとしか分からない。
だから、今回会社を作る際は、まず日頃から優秀だと思っていたエンジニアに片っ端から連絡をして、こういうことをやろうと思ってるのだけど、どうだろうという話を相当な時間をかけてしました。
入社してもらうのに何ヶ月もかけて口説いたというエンジニアも何人かいます。いま何年かけてでも口説こうとしているエンジニアもいます。優秀なエンジニアの採用は、会社経営にとって、それくらいの価値があるものなんです。実際のところ、これはエンジニアに限った話でもないんですけどね。
― 経営陣が全員エンジニア経験があるメルカリだからこそなせることかもしれませんね!本日は興味深いお話、ありがとうございました!
(おわり)
[取材] 松尾彰大 [文] 白井秀幸
編集 = 松尾彰大
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