いかにコンバージョンを稼ぐか?WEB制作に携わる人にとっては頭の痛い問題だろう。一方でWEB制作業界の流れが『数値至上主義』に傾倒することで、デザインの可能性は狭まらないか。こういった問いをぶつけるべく、『スヌーピー展』のPRなどで知られるSemitransparent Designを取材した。
▼田中良治氏と菅井俊之氏へのインタビュー第1弾
スヌーピー展に見るデザインの捉え方 | Semitransparent Design[1]
「いかにコンバージョンを稼ぐか」WEB制作に携わる多くの方が常に頭を悩ませている問題だろう。
WEBデザイナーにしても、数値として成果が示されるが故に、あらゆる場面において『正解』が求められるようになってきた。
いわば『数値至上主義』ともいえる、この現状に弊害はないか。
このような疑問をぶつけるべく、『スヌーピー展』のプロモーションなどで知られるSemitransparent Design(通称セミトラ)を訪れ、田中良治氏と菅井俊之氏にインタビューした。
― デザインといってもWEBの世界だと、PVやコンバージョンなど、「数値」で評価が決まる傾向も強いですよね。こういった現状について、どう思われていますか?
田中
たとえば、クライアントに依頼されて、SEO対策などで数値を追わざるを得ないデザイン会社もありますよね。だから、ある程度は仕方のない部分もあると思います。
菅井
ただ、やはり皆ができることだと、どんどんインフレが起こっていく印象はありますね。
田中
少し前まで、僕たちも「SEO対策はしないんですか?」と言われることもありました。制作期間が短かったので「それよりも別のトッピックを先に話しあいましょう」と言っても、クライアントからは「知識がない」と思われてしまう。
菅井
確かに大切な事だと思いますが「どうスコアを稼ぐか?」という部分に目がいって、「人がどう思うのか」が置き去りのケースは多いです。
― 「感動してもらえるかどうか」は測定がしづらいので、クライアントとしては「正解」がほしいのかもしれませんね。
田中
それはそうですよね。相手が担当者だった場合、上に通さないといけないので。
だから、アイデアが通りやすいように「企画書映え」を考えるなど、戦略を練ることはあります。
ただ、やはり正解って簡単には見つからないものだと思うんです。
菅井
僕らが間違っていることもたくさんありますし、やりながら修正し、より正解に近づけていくこともあります。
やってみないと正解に近づけないから、いきなり完璧な何かを目指さずに、とりあえずはやってみませんか?という話もしますね。
田中
グラフィックのデザインだと、抽象的であったり、正解がわからなくても、上手くまわる部分はあるのかもしれません。
ただ、WEBで抽象的なことをやろうとすると大変なんです。クライアントから求められる商業的な表現と、可能性を探る表現は、どうしてもズレが出てくるので。
そういった中でも、いかにWEBのデザインで、ふわっとした表現ができるか。ここは意外と大事かもしれません。
菅井
数値を追っていくと、考える余白がなくなるんですよね。反射的に「じゃあSEO対策しよう」「モノを売るなら結構大きくECサイトでつくりましょう」という話になる。
田中
そうすると表現の可能性は止まってしまいます。ふわっとさせてつくったモノが「時代の本質を捉えている」と評価されることもあるわけで。
一番良くないのは「皆が同じことをやる」ということかもしれません。ある程度の基本を押さえつつも、差異を作っていったほうがいいとは思いますね。
― セミトラさんの場合は、良いクライアントを選んで、ふわっとしたWEBのデザインが実現できていると感じました。
菅井
そういっていただけるのは嬉しいのですが、じつはクライアントを選んだことはないんですよ。
田中
そういう誤解を受けることが多いですね。
菅井
断らざるを得ないとしたら、例えば依頼をいただいた時点で「納期まで1週間しかない」など、よっぽど無茶な要望をいただいた時くらいですね。
田中
選んでるうちはアマチュアですね…なんて言ったら怒られるかな。10年くらいやってきてわかったのは、クライアントを選べば、いい仕事ができるわけではないということ。
大事なのは「人」なんですよね。コミュニケーションでわかりあえることもありますし。
― 逆にわかり合えないのは、どういうケースなのでしょうか。
菅井
伝え方の問題があるのかもしれませんが、作るモノの面白さをなかなか理解してもらえないとか。
作ってみる前に口で説明するって本当に大変なんですよ。
たとえば、マウスオーバーして、キャラクターがぴょんと飛び出す動作があったとします。それを口で「ぴょん!と飛び出します」と説明をしても、全然面白いと思ってもらえない(笑)
触ってみたら面白さを感じてもらえるんでしょうけど…。どれだけ有名なディレクターでも、きっと同じ苦痛を味わっているはずです。
最後まで説明したとしても、「なんだかむずかしい」と偉い人に言われて撃沈してしまう。伝え方が一番むずかしいのかもしれません。
田中
分かり合えないのは、自分たちの力不足なんだろうと思いますね。
― ただ、いち消費者としては、やはり面白いものだったり、実験的なものが見たいという気持ちはある気がします。
田中
どうなんでしょう。もしかしたら、一般消費者もそこまで面白いものは求めていないんじゃないかな。
お金と気持ちに余裕がないと、どうしても、はみ出したモノへの興味を遮断しがちになる。
菅井
企業側もお金のかけどころが違うのかもしれません。日本ってモノにはお金を払うけど、アイデアにお金を払う概念って、そこまで強くはないですよね。
特にWEBだと設備投資が少なくて済みますし、クライアントとしては「無料で当たり前」と思ってしまうのかもしれません。発注前にお金がもらえて、試しに作ってみることができれば、また違うのかもしれませんが。
― WEBはなかなかお金をもらいづらい…と。どうすればきちんと対価が支払われるのでしょうか。
菅井
アイデアとか表現とか見えないものに価値を見出してもらえることじゃないですか。
田中
あとは作るものに込めたメッセージを受け手がどう感じ取ってくれるかですね。
― 現物ではないところに価値を生み出す。アイデアやストーリーの立ちあがるような表現で勝負できるかどうかが鍵を握りそうですね。
菅井
ただ、WEBだからといって僕らみたいに色々なことをやるべきかといえば、そんなことはないと思うんですよね。
ガラパゴス化して面白かった江戸時代のことを考えると、何かひとつのことだけにのめり込んでいてもいい。専門特化していたり、ひとつのことに執着しているほうが面白いこともある。もっと多様性があっていいのかもしれません。
専門特化している人達がいたり、逆にマルチにこなせる人達がいたり。どうしても似たりよったりになっている印象があるので、もっと色々なやり方があっていいのではないかと思います。
あくまでも、ひとつの事象として僕らがいるだけで、それが正当化されたほうがいいわけではありませんし、別に素晴らしいと言われたいわけでもないんですよ。
(つづく)
なぜ広告だけでなく、アートに挑戦するのか。 | Semitransparent Design[3]
[取材・構成・文] 城戸内 大介・白石 勝也
編集 = CAREER HACK
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