欧州の近代美術館『ポンピドゥー・センター』で展示を行なうなど、アートワークでも注目されるSemitransparent Design(セミトラ)。なぜ彼らは広告だけではなく、アートワークも手掛けているのか。そこには「0」から「1」を生み出す実験的要素が隠されていた。
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WEB、グラフィック、メディアアート、インスタレーションと、枠を越えた表現で知られるSemitransparent Design(セミトラ)。
クライアントワークのみならず、山口情報芸術センター(YCAM)や、クリエイションギャラリーG8で個展を開催。
欧州最大級の近代美術館『ポンピドゥー・センター』で展示を行なうなど、作品を発表し続け、常に新しいデザインや表現の可能性を模索する。
彼らにとってアートワークは、どのような意味を持つのか。菅井俊之氏と田中良治氏にインタビューした。
― セミトラさんでは、アートワークにも力を入れていますよね。
田中
そうですね。ICCやYCAMで展示を行なっています。あれは「自分たちが次にどういうことをしていけばいいか」という指針のようなもの。アートをやっているつもりはなくて、作っているうちにヒントが得られるので、プロトタイピング的にやっている部分はありますね。
― 作品にテーマはあるのでしょうか?
田中
『インターネット』を意識したもので、インターネットの存在がなければできないような表現を模索していますね。
菅井
「概念としてのインターネット」と言えるかもしれません。
― 「概念としてのインターネット」と言いますと?
菅井
インターネットというとWEBやネットワークを使って、オンスクリーンで…という印象がありますよね。
あくまでも一例ですが、オフラインで「インターネット的な考え方」を取り入れてみる、そういった試みはしています。
田中
たとえば、『田中一光とデザインの前後左右展』に出展した作品はわかりやすいかもしれません。ネットワークは一切使っていないのですが、インターネット的な作品だと思います。
「見る人が展示された画面の前を通過することで、オリジナル画像のイメージが改変される」という作品ですね。
インターネット上の現象をオフラインで示していて…
― すみません。もう少しだけわかりやすく説明していただけると…。
何となく、ネット上で画像が流通するプロセスに似てませんか?
たとえば、Tumblrなどを見ていると、オリジナルのイメージにグリッジノイズをかけたり、皆が勝手なことをしていって、ネタとして楽しんだりもします。
菅井
いつの間にかGifアニメとか、3Dになっていたり(笑)
田中
そうそう。
ネット上で見かける面白い現象を手がかりにいろいろなモノをつくってみるんです。
そうすることによって、ネットの周辺で始まりつつある新しい感覚を取り込んでいき、インターネット以降の表現を探る上でのヒントが見つけられるんです。
インターネットのポテンシャルを色んな角度で分析する、という感じかもしれません。それがヒントになり、広告にアイデアが反映できたりしますね。
菅井
もう「インターネットカルチャーを意識した何か」はWEBだけの特権ではないということかもしれません。
ファッションの世界で活躍している人たちが、オタクカルチャーにインスパイアされたり。Tumblrをイメージのソースにしていたり。
『インターネット』という言葉が持つ意味合いが、より広義になっていると感じます。
― 『インターネット』の意味が広がっていくなかで、新しい表現を生み出すためには、何が重要だと思いますか?
田中
技術的に何でも器用にこなせるというよりも、どうネタを見つけられるか、引っ張ってこられるか。ここが大事になってくる気はしますね。
菅井
もし、新しいネタや表現を生み出そうと思ったら、トレンドを追うだけでは、ダメなのかもしれません。表現や概念に言葉がついた時点で検索ワードになり、すぐに消費の対象になっていく。
トレンドワードをググって、専門家のふりをしようと思えばできてしまうんですよね。
「前から知っていました」といった顔をして。飯を食っていくという話なら、それもアリですし、正直、そういった人も多い気はします。
ただ、そういったやり方を決してバカにしているわけではありません。事実としてある。もしそのやり方が多数派なのだとしたら、観察の対象にして、自分たちが何をしたらいいか考えていく。
― そこで見つけたやり方がアートワークというわけですね。
田中
正解のない表現をしてみたり、謎を見つけにいったり、そういう表現をしてみないと、インターネット的な面白さに気がつけないですし、1歩2歩と遅れてしまうんですよね。
それこそ「1」から「10」にするのは、ググればできますよね。
菅井
たとえば、クライアントワークで「自由にやって」と言われ、それがラクかと言えば、逆に一番難しい。だいたいがロクでもないものになります。
その時の反射神経とか、「0」から「1」にするセンスは、アートワークのような活動で鍛えられると思っています。
田中
アートワークだと、自分たちでもよくわからないことをよくわからないまま出せるんですよね。そうすると、専門家の方が解釈や表現について批評をしてくれる。
それが新しいデザインのヒントになったりもするんです。クライアントワークのように「何がやりたいかわからないからダメ」とは言われませんから。
― たとえば、最新の技術を自社作品で試し、仕事に活かすということもあるのでしょうか。
田中
クライアントワークに活かせることもありますが、技術を試す、という目的でアートワークを行なうことは無いですね。
菅井
むしろ技術は仕事で掘っていくことのほうが多いかもしれません。多くの人が触っても、システム的に耐えられるのかどうかなど、きちんと勉強して作らないといけないので。
― その中でも、敢えてクライアントワークに活きてくることがあれば知りたいのですが…?
菅井
うーん…自分がクライアントになってみる、その視点がわかるっていう部分はあるかもしれませんね。
アートワークの場合、自分にお題を出し、目的やテーマの設定から考えないといけないので、目線が逆になるんです。
田中
トレンドを探すのとはまた違う作業なので、目的やテーマの設定で1ヶ月、2ヶ月と考えることもあります。そのプロセスでアイデアやヒントが見つかったりもしますね。
昔はもっと時間があったので、いろいろと考えられたんですけど…最近では、オファーされてから考えることが多くなってしまって。
考える暇もなく、動物的に仕事したりしていると、アイデアやヒントも見つけられなくなってしまう。
もう、歳をとるとダメなんですよ。実験の機会を敢えて作らないと、何も考えられなくなってしまうので(笑)
―「答えのないことを考える」ためにアートワークがある、と。WEBだと「正解を探す」といった実利が重視される風潮があるなかで、すごく面白いアプローチだと感じました。
本日はありがとうございました!
[取材・構成・文] 城戸内 大介・白石 勝也
編集 = CAREER HACK
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