インタラクティブデザインにおける草分け的な存在『イメージソース』。カンヌ広告祭などの受賞歴も豊富に持つ彼らは、どんな発想でオンラインとオフラインの垣根を超える“体験”を生み出してきたか。クリエイティブ業界の最前線に立ち続けてきた彼らが考える「明日のクリエイティブ」とは…?
広告の世界は急速に変化している。ソフトウェアとハードウェアを組み合わせた“体験”をデザインし、その感動がソーシャルで拡散していく。
こういったインタラクティブな表現における草分け的な存在が、イメージソースといえるだろう。近年では、自主制作プロダクトを発表する『オープンラボ』を開催。空間インスタレーション、実験的な体験デバイスなど、新たなクリエイティブの可能性を探求する。
デジタルクリエイティブ、インタラクティブコンテンツが全盛を迎える以前から、「体験」に力点を置いてきた彼ら。一体これからの時代、どのようなデザイン発想やクリエイティブが求められていくのか?そんな「明日のクリエイティブ」をイメージソース代表の小池博史氏と考えていく。
― テクノロジーの進化に伴い、クリエイターを取り巻く環境も大きく変わっています。1998年の設立で業界を草創期から牽引するイメージソースでは、昔から今に至るシーンの変化をどのように捉えていますか?
インタラクティブデザインやメディアアート的な作品に取りくみ始めたのは、今から7年ほど前ですね。当時、フリーで活動される方は多少いましたが、会社でやっているところはほとんどありませんでした。ただ、それがすぐにビジネスとして成立したわけではなく、音楽イベントなどに作品を出展していて。その「場」で得られるリアルな人の反応をWebの世界にも持ち帰ってみる、という試みをしていたんです。
― “体験”に焦点を当てるようになったきっかけは何でしょう?
僕らが通常取りくんでいたのはWebの仕事だったのですが、コーポレートサイトにせよ、キャンペーンサイトにせよ、オンラインで完結させるだけでは勿体ないと感じていたんです。Flashとか、JavaScriptとか、ブラウザ上の表現を二次利用しない手はないというか。その技術や発想を、たとえば、屋外に持っていった時にどういう効果があるのだろうか?新しい発見が得られるんじゃないだろうか?と。
ただ、最初は仕事に繋がらずに、ここ3、4年でようやく仕事としてお話をいただくようになった感じですね。
― 今、広告やクリエイティブの業界全体でも“体験”を軸としたデザインが求められているように感じています。
それはあるかもしれないですね。昔と違って物がそれほど売れる時代ではないですし、ワンビジュアル、ワンコピーで単にカッコイイとか綺麗というだけでは、みんな飽きてしまっていますよね。
それに、打ち上げ花火のような単発で終わる派手なキャンペーンは、費用対効果も良くないことがわかって。もっとジワジワとファンを増やすような「息の長いコミュニケーション」の在り方が必要になってきたのではないでしょうか。リアルな「場」で深い体験をして、それがSNSでシェアされる。そんな広告のトレンドも時代背景を表わしているのかもしれませんね。
― 業界全体にいえることだと思いますが、最近はクリエイターの自主制作も活発ですよね。その作品を企業側が発見して「おもしろいから、広告として何かできないか」と仕事が発生するケースもあるのでしょうか?
そうですね。インスタレーションに取りくみ始めた頃によく一緒に仕事をしていたRhizomatiksの真鍋大度さんもそういった風にして広告やプロモーションと上手く組んでいますよね。勝手な推測になってしまいますが、彼はアーティストなので最初から「広告やプロモーションに作品を」とは考えていなかったと思います。どこかで上手くマッチングしたといえるのかもしれません。
ただ、広告業界は良くも悪くも「新しいモノに食いついて、キャンペーンの打ち上げ花火として消費する」という側面もある。つくり手としてそこには気をつけるべきなのかもしれません。
もちろん、広告にしても、キャンペーンにしても、打ち上げ花火は、打ち上げ花火としてすごく重要だと思います。景気づけという役割もある。ただ私たちは、単に消費されて終わるではなく、長くみんなが楽しめようなソリューションを提案していきたいと思っています。たとえば、メディアやロケーションには捕らわれない、クライアントワークと自主制作に境界線を引かないようなクリエイティブを発信していきたいですね。
― これからの時代、クリエイティブの役割はどう変容していくか。イメージソースが思う理想はどういったものでしょうか?
普段は意識しないけれど、気がつけば自分も参加したくなるようなデザインであったり、生活に息づくようなコミュニケーションを生み出すということでしょうか。ふっと目に止まる、すっと入ってくる、デザインというか。
『Kinfolk(キンフォーク)』という雑誌があって、最近、その編集長とお話する機会がありました。あの雑誌は仲間内でつくられていて。その仲間同士がいつもランチやディナーなど同じ時間を過ごすそうなんです。
そこで気が付いたこと、考えていることを雑談して生まれるローカルな感じがある。でも決して閉じているわけではない。つくり手と読み手の意志が通じ合っているかのような優しい空気感が、写真にも、文章にも、レイアウトにも、すべてに出ていますよね。この押しつけがましくない“すっと入ってくる”感覚が、この時代に求められることなのかな、と個人的には感じています。
僕らにしても「最先端の技術を追い求めたい」とか「前衛的なアートをやりたい」と思っているわけではありません。生活の中に息づき、暮らしの新たなスタンダードになるようなモノをつくる。「これからのデザインやクリエイティブに求められる役割」というと少し大きな話ですが、少なくともイメージソースが目指すのはそういったものですね。
▼小池博史氏のインタビュー第2弾
「毎日の暮らしを見つめよう」イメージソースが日常の“ちょっと不便”をデザインで解決するワケ。
[取材]白石勝也 [文]黒川恵太
編集 = 白石勝也
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。