今、急成長をしているNagisaだが、彼らは一度大きな挫折を経験している。約2年前、メッセージアプリとして『Balloon』をリリース。約1億円の資金を調達したが、サービスをクローズした。そこから2年。一体どのような方向転換があったのか?彼らが見つけた自分たちの戦い方とは?
Nagisaは一度、大きな挫折を経験している。
2012年に『Balloon』をリリース。LINEに対抗するチャット・メッセージアプリとして注目され、約1億円を資金調達。しかし、LINEの急拡大といった背景もあり、『Balloon』をシャットダウンし、事業の転換を余儀なくされた。
その後、『SLIDE MOVIES』や日記アプリ『Livre』、その他カジュアルゲームなど続々とリリース。順調にユーザー数を拡大し、5月にはDonutsを引受先とする第三者割当増資(1億円)を実施し、話題となった。
提供するスマホアプリは累計900万ダウンロード以上。SNS 、CtoC、ファッションEC、ゲームなどスマホアプリを中心に、2016年3月末までに累計1億ダウンロードを目指している。
Nagisaが失敗から学んだこととは?そして、彼らが考えるスマホ時代の勝者とは?代表取締役、横山佳幸氏にお話を伺った。
― 『SLIDE MOVIES』が約7ヶ月で200万DLと、短い期間でスケールしていますね。すごい実績だなと。まずはNagisaの戦略というか、狙いについて伺いたいのですが…。
よく『SLIDE MOVIES』を注目していただけるのですが、じつはカジュアルゲームを含めて数十万ダウンロードされてるアプリが10個以上あるんですよね。
狙いはかなり明確で、AppStore、GooglePlayの全カテゴリーで上位にランクインするアプリを開発していくこと。ポートフォリオ、つまり全てのスマホにNagisaのアプリがダウンロードされた状態をつくっていくことです。
まずマクロ的な視点からお話したほうがいいと思うのですが、ユーザー獲得という観点で言うと、ASO(App store optimization:アプリストア最適化)が、これからSEOに取って代わる重要なキーワードになると考えています。
iOS8からSafariで【動画】とか【日記】と検索すると一番上にアプリが出てくるようになりましたよね。Nagisaが開発した『SLIDE MOVIES』や『Livre』も、その検索経由で1日1万から1万5000ダウンロードがあるんです。
App Storeって広告を大量に投下されて作られるマーケット。ただ、それだけではなく、検索タイミングでのトレンドワードがアップル側から提供されるようになりました。それは「広告によるランキング以外でユーザーとの接点をつくる」「良質なアプリと出会える機会を創出する」といった狙いなのではないか、と。
Webブラウザ中心の時代だったら、Yahoo!などポータルサイトで1つに集約されたものを使って、そこからSEOも進化していきました。で、スマホ時代になると、1アプリのアイコンが1サービスであり、1機能としてユーザーが捉えるようになっていく。一つのサービスに固執することもない。「ブックマーク」から「ホーム画面」に行動のベースが置き換わっている中で、僕らはその「ホーム画面上」でユーザーが叶えたいことを全て叶えたいと考えているのです。
― 少し前まで、面白かったり、便利だったり、そんなアプリで1発当てて…なんていうことも夢ではなかった気もしますが、そういった戦略はとらない、と。
そうですね。主軸事業を置かず、先ほどのポートフォリオ戦略で攻めます。継続的にダウンロードしてもらえて、半永続的にサービスを伸ばしていくためにも、単発でのヒットはそれほど重要ではありません。
厳しい事をいうと、いいチーム、ノウハウ、資本を持っていない会社が大ヒットして、長く使われるアプリを作るのはもうほとんど無理。特に、資本の勝負になって来ている部分がかなりある。また、ユーザー自身がどう探せばいいのか?どんなアプリを、どう使えばいいのか?アプリが多過ぎて、全くわかっていない状態です。
だから、資本以外の部分では、どうしてもApp storeの検索で上位に表示されるためのノウハウが必要で、そこもやりきらないと勝てないんです。結局、お金を掛けずにやれることが一番効率いいから、今、サービスが流行ってる会社を見ると、そこはしっかりとやってるという印象はありますね。
― ASOでは、具体的にどういったことをやっていくのでしょうか?
テキストや画像を最適化したり、レビューをちゃんと書いてもらえるようにしたり、だいたい調べたら出てくることなんですけど、ノウハウがあってやり抜いているところはまだまだ少ない。そもそもASOの重要さを分かってないのが現状かもしれませんね。
― 全方位型でアプリをリリースしていく。そういった戦略を取ろうと考えられた背景には何があったのでしょうか?
一番大きいのは『Balloon』というチャット・メッセージアプリで挫折した、というところが大きいと思います。そこにマーケットがあると信じていたし、そこで勝てると思って、資金調達もさせていただきました。でも、お金も、ノウハウも、人材も…あらゆるところで勝てませんでした。それが本当にすごい悔しくて。加えて、「ユーザーの視点」を意識したサービス創りが圧倒的に足りていなかった。
で、『Balloon』をシャットダウンして、そこからあるきっかけでピボットして「どんなキーワードで検索されても、ウチのアプリが出てくる状態にしよう」と戦略性を持ってリリースするようにしていったんです。
もうひとつ、「新しいものをどんどん作りたい」というメンバーが多かったというのもあり、戦略と組織が噛み合っていったのかもしれませんね。
もちろん、失敗だけではなくて、成功からも学ぶことが多くて。女子高生が「マカンコウサッポウ」と吹っ飛んで撮影するみたいなブームがあって、その時に作った『かめカメラ』っていうアプリがヒットしたんです。冗談で3日くらいで作ったんですけど、すぐに100万ダウンロードを越えることができました。じつは、「マカンコウサッポウ」をやっていた女子高生に直接ツイッターで連絡して、アプリの機能に意見をもらったりして。
― んなことも!冗談アプリなのに、なぜそこまでやろうと?
本当の意味でユーザーの気持ちに立つって凄い重要だな、と。たとえば、『かめカメラ』や『SLIDE MOVIES』だと、最終的にできあがった写真や動画を誰かに自慢したい物になるかどうか。「気持ち」を満たすものかどうか?というところですね。
極論をいえば、どれだけサービス設計がダメで、使いにくくても、めちゃくちゃユーザーに満足されるものってあると思うんですよ。サービスを作る上で重要なのは、デザインが格好いい事でも、機能が優れていることでも無い。ユーザーに真に求められるものかどうか。「僕らはユーザーの奴隷だ」「ユーザーは神様だ」って言ったりするんですけど。
結局アプリを作れる人ってたくさんいて、でも小さい単発ヒットにしかならない。圧倒的に欠けてるのがユーザーの視点だと思うんです。あとは「ノウハウ」、数十万人、数百万人に使われるサービスで、マネタイズを含めたサービス設計、実装まで一連が考えられるかどうか。僕らの武器は、その「ユーザー視点」一点突破といってもいいですね。
― 『Balloon』をシャットダウンして、そこからのリベンジといいますか、再び快進撃を続けていらっしゃいますが、その最も大きな要因はなんでしょうか?
会社が潰れそうになっても、サービスが流行らなくても、人がついて来てくれるかどうかってやっぱり大きくて。僕がここまで来れたのは…っていってもまだまだですが、苦しい時代を一緒に乗り越えたメンバーがいたからだと思っています。そこには、すごく感謝していて。いまでも貴重な存在ですね。
何というか、働きたい仲間と一緒に何かモノ作りをするって凄い楽しくて。「新しいモノ作りがしたい」と思う人がいたら、学生へのアドバイスでもあるんですけど、もう全員が起業したら良いんじゃないですかね(笑)。
起業することはそんなに難しくないですけど、続ける事、大きい会社にする事はやっぱり大変で。成功は確率論じゃないですけど、天才以外、みんな努力の積み重ねでしかない。僕も天才じゃないから、そういうタイプだと思っています。1年でも2年でも積み上げていくコトが成功に繋がると信じているし、そのためにも続けていくことが大事なのかな、と。とにかくしつこく、諦めずにやる。
― 最後に、今後の目標を教えてください。
最終的には、500万、1000万、1億人というユーザーが使ってくれるサービスをつくっていきたい思いはあります。それは『Balloon』で叶えられなかった目標でもあって。
そのために何をするか。「ASOでのユーザー獲得」を中心に、「会社の軸となる集中戦略事業の構築」「マネタイズツールとしてのアドネットワーク」「カジュアル&ソーシャルゲームアプリ」といった4つを柱にしていこうと考えています。で、ユーザープールを築いていきたいと思います。
どうしても流行り廃りに左右されるマーケットなので、そこに影響されない「データベース」を持つことが大事になってくる。コンテンツなのか、ユーザーなのか、いずれかのデータベースだと思うんですけど、PC、ガラケー、スマホ、ウェアラブルみたいに、メディアやデバイスが移り変わったしても、半永久的に伸びていくサービスをつくりたい。ここはこれからの大きな課題ですね。で、LINEやコロプラみたいな会社に出来れば嬉しいですね。というか、抜きたい。LINEもまだ2、3年の会社だし、まだまだチャンスはあると思っています。
― サービスをクローズし、その上で成長に持っていく。なかなかできることではないですし、貴重なお話を伺うことができました。今後も期待しています!本日はありがとうございました。
[取材・文]白石勝也
編集 = 白石勝也
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