早稲田大学のサイトリニューアルを担当したCINRAのエンジニア、濱田智さんにはもう一つの顔が!?渋谷タワレコで新アルバムが紹介されるなど、その音楽性が注目されるバンド『drawing4-5』のフロントマン。作詞作曲を手がける音楽家だ。濱田さんはなぜ仕事と並行して音楽活動を続けるのか。
▼濱田智さんのインタビュー 第1弾
早稲田大学サイトリニューアルの裏側とは?CINRAの開発責任者に訊く!
仕事とも、趣味ともつかない個人のプロジェクトを紹介していく『My PROJECT』企画。2014年にスタートした企画だが、立ち上げた経緯として「仕事」という軸だけでは、“これからのキャリアのあり方”を考えることが難しい時代になったと感じたからだ。
大企業でもいつ潰れるかわからない時代。今日あった仕事が明日にはなくなっているかもしれない。どう会社にしがみつくか、出世するか、上司に認められるか、そんなことよりも広い意味で“キャリア”を捉え、大切にすべきものがあるのではないか。
「どう生きていきたいか」
「何を大切にして暮らしていくか」
「どんな人たちと多くの時間を過ごしたいか」
こんな風に「仕事」や「働き方」は、どんどん「生き方」と近くなっている気がする。これまで『My PROJECT』で紹介してきた方々の活動に共通していたのも、「仕事」や「趣味」といった境界線はなく、生活の一部、ライフワークとして活動していることだった。
今回紹介するのもその一人。音楽をつくること、WEBをつくることを「ひとつのライフワーク」とするCINRAでエンジニア(テクニカルディレクター)として働く濱田智さんだ。
濱田さんは仕事と並行して音楽をつくり続け、drawing4-5というバンドのフロントマンとして活動。2014年12月には約6年間の制作期間を経て、3rdアルバム『Chimera, not dead』をリリースした。
仕事とは別に、本格的な音楽活動を続けていく―その根本には何があるのか?濱田さんの『My PROJECT』に迫った。
― もともと、Twitterで仕事と音楽についてつぶやいていましたよね。その内容がすごく面白いと感じたんです。「楽しいのは犯罪ぐらい」というのは過激ですが(笑)
俺にとって、音楽(創作)→仕事→生活→音楽…って循環しているものなので、「いい歳して音楽とかやってないで仕事しろ」とか全く意味不明だし、それを強要されるのはひたすら精神衛生上良くないし、仕事→生活→…というパターンになったら、楽しいのは犯罪ぐらいだろうなーってそういう話。
— mcatm / 濱田 智 (@mcatm) 2014, 11月 11
個人でバンドをやったり、音楽を作ったりは「音楽の歴史の一部になりたい」という感覚がモチベーションになっているんですけど、もしそれが無かったら、単に「仕事のための仕事」というか、「お金のための仕事」になっちゃって、仕事と生活を回す原動力が決定的に足りなくなってしまうんですよね。基本的には怠け者なので。
ツイートで「犯罪」という書き方をしてますけど、音楽をやってなかったら、酔っぱらってビルの窓ガラスを割るとか、そういうすごくつまらないものに衝動をぶつけちゃうだろうな、と。音楽があってホントに良かったです(笑)
― 音楽活動と仕事では、表現・発信することはやはり質として違うものですか?
違うものだと思います。音楽活動は、自分のわがままを突き通していて。昨年からメルマガをはじめたんですけど、深夜に一気に書いて、推敲せずに出すみたいな実験をしたり。それが許されるし、むしろパーソナルな部分にガッツリ絡んだ発信や表現が良い。そうしなきゃダメだと思っているんです。
CINRAで仕事をやる時はチームプレイ。その面白さが十分に発揮できる環境だから、どんどん推し進めていけたら、それはそれですごく楽しいですし。そういう意味でも、それぞれが循環していくことで、精神的なバランスを保てているといえるかもしれません。
― 濱田さんが担う役割は、バンドと会社でも大きく異なりそうですね。
そうですね。会社だと誰よりも効率を重視していて、「効率厨」みたいになってるかもしれません。音楽とは真逆の思考というか。
― プロジェクトを俯瞰し、仕組みを考えたり。それもテクニカルディレクター的な役割のひとつですよね。裏方というか。
0から1をつくる人はアーティストだと思うんですけど、アーティストって「効率」を嫌うじゃないですか。非効率でもいいからとことん突き詰めたい。だから、「非効率」でクリエイティブなことができるように、一方ではとことん「効率化」を考えていく。
たとえば、無駄な会議をどんどん減らすとか、機械ができることは機械にやらせるとか、そういったところがCINRAでの僕の役割でしょうか。そういう意味でもチームプレイですね。 逆に「わがまま」で非効率なことは、バンドのほうで思う存分やっているので(笑)
― 0から1を生むアーティストと、それを支える裏方。濱田さんは両方の役割を知っているのではないかと。その中で「音楽」と「仕事」を両天秤にかけて、どちらか一つを選ぶということはしなかったのでしょうか?
「音楽を諦めて、もうやらない」みたいな感覚が、僕はあまり分からないんですよね。そうなってしまうなら最初から音楽をやる意味があったのか…と個人的には思っちゃうので。
音楽に限らず、割と「通過儀礼的な諦め」ってありますよね。大学を卒業する時、教授から「もう音楽は卒業だね」って言われたんですけど、全く意味が分からない。「いやいや全く関係ないから」と。
“何かを卒業することが良いこと”みたいな無言の同調圧力とか謎の思考停止があって、それって全く生産的じゃない。僕にとっては音楽って、何かと引き換えにするようなものではなくて、もっとカジュアルで、だからこそ生活に根付いているものだという意識があって、それこそが一番重要なことなので。
― 「音楽」で食べていくことよりも、ということでしょうか?
そうですね。忙しいとか、結婚したとか、子どもが生まれたとか、どんどん音楽をやる機会が減ってくるし、やらなくなるという人もいると思うんですけど。根本的に音楽が必要ないなら、そもそもやらなければいいだけですし。
ただ、普通に考えたら諦める必要ないですよね。スパンは長くなったけれど、きちんとやり続けていく。それが保てるように、ライフスタイルに合わせてやれば良いだけだと思うし。
― よくあるストーリーかもしれませんが、「音楽に全てを賭け、挫折して、夢を諦める…その諦めたことがトラウマになって…」みたいな感覚もないのでしょうか?
一切無いですね。やっている音楽が関係しているかもしれませんが、90年代にアメリカで起こったLo-Fiムーブメントが個人的な原体験にあって。日記のように音を紡いでいく、そんな風に音楽をつくる人がたくさんいるんですよ。カセットテープに吹き込んだ鼻歌が、そのままCDになったりする文化。
ギターも弾けない、歌もろくに歌えていないのに、その音がものすごく胸に響いてきて。高校生の頃、そういう音楽にハマったので、ギターを借りて2時間後にはカセットテープに吹き込んで、曲ができたんです。
高校生だった僕は「こんな風なLo-Fiでいられるのは今だけで、将来ギターがどんどん上手くなっちゃったらどうしよう…ダメになってしまう」とか考えていて。
― Lo-Fiムーブメントの文脈だと、ギターを上手に弾くことより、Lo-Fiであることが大事だと(笑)
そうなんですよ。そういうところからスタートしているので、ギターが上手くなりたいとか思わないし、大衆に受け入れられて、お金を貰う感覚も無いし。そもそも絶対的に売れるわけがない音楽で。僕が考える美しい世界はそういうものなんです。ただ、誤算だったのは、20年くらい経っても未だにギターが上手くない…そこにはビックリしています(笑)
― 音楽活動が仕事に良い影響を与えたり、考え方が活きたり、両立することで得られるメリットがあれば教えてください。
かなりありますね。プログラミングの基本的な考え方はどこででも応用できますし、一応、バンドも組織運営なので、常に双方でフィードバックがある。そういう状態はすごくいいと思います。
そもそも、僕にとっては「WEB」「音楽」も「ものをつくること」の一部ですし、最初からひとつのことなんですよね。根本には「何をつくるか」「何がしたいか」だけなので。
学生時代、筑波大に通いながらバンドをやっていたんですけど、筑波大は「陸の孤島」と言われるくらい本当に何もないんですよ。どんどん閉じこもっていくし、こじらせていく。
だから、ちゃんと外にプレゼンする必要があって、自分たちでレーベルみたいなものを立ち上げて、WEBで宣伝や記録をしていくようになりました。デザインやライティングもやるし、物流の勉強をしたり、イベントを企画したり。このプロセスって「仕事」でも一緒ですよね。
逆に、CINRAはバンドで得てきたことが最大限活かせる場所でもあった。意見を出せば、社内できちんと検討されるし、思考停止しない。ダメならダメできちんと理由をみんなで考えていく。だからこんな僕でもやっていけているんだと思いますね。そして、カルチャーが根底にある会社なので、みんな趣味や個人活動の時間をすごく大事にするし、それが仕事に還元できる環境でもあります。
― 物理的にいえば、仕事と音楽を両立するのはラクではないですよね。どう両立していくか。どちらに重きを置いていくか。
「常識」「無言の同調圧力」みたいなものを取っ払って考えることが、すごく重要だと思っています。音楽は自分が好きでやることなんだから、どれだけ時間かかったって良いわけだし、やりたいことがあるから絶対に曲げない。
たとえば、今回のアルバムは制作に6年ぐらいかかってるんですよね。6年って音楽業界的なスパンで考えると、とんでもない時間で。レーベルに所属していたら絶対できないですよね。プロデューサーにどうこう言われるのも、そもそも人に受けるためにやってるわけではないので耐え難い。時間がかかっても、全て自分でやることにしか意味が無いと思っていたんです。
― やりたいことを貫くからこそ、音楽は仕事にしない、できない、という見方もできますね。
それはあるかもしれません。ただ、「仕事」をすごく非効率的にやる人もいるし、逆に「音楽」を工場のように効率的につくる人もいる。
クライアントから依頼されて作ったWEBサイトも、バンドの新しいアルバムも、当然、ある人からは「駄作だ」「クズだ」と言われるし、逆に「最高だ」「傑作だ」と思ってくれる人もいて。
そういう風に捉えると、アウトプットに至るまでのプロセス(過程)が違うだけで、仕事でWEBをつくることと、音楽をつくることは、どちらに優劣があるわけではなく、僕にとってやっぱり全く同じことなんだと思います。
― 仕事だろうが、音楽だろうが「つくること」へのフラットな視点、そして真摯な姿勢を感じることができました。「キャリアをどう築くか?」の前に「自分は何がしたいか?」ここと向き合うことが大切といえそうですね。本日はありがとうございました。
[取材・文]白石勝也
編集 = 白石勝也
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