総合職で入社しながら、2年目で専門職であるエンジニアへのキャリアチェンジを自ら志望したリブセンスの山浦さん。その思いに応え、会社は彼を全面的にバックアップし、わずか1ヶ月の超集中プロジェクトを実施したという。総合職からエンジニアという未知のキャリアチェンジの可能性を探ります。
「自らモノを作れるようになりたい」
そんな思いを抱えていたのが、リブセンスに新卒で総合職として入社し、約1年半ディレクターとしてキャリアを積んでいた山浦さんだ。
「本気でエンジニアなる覚悟があるなら賛成するよ」
と、上司から背を押された彼は、経営陣・同僚の手も借りながらたった1ヶ月間でエンジニアになるという超集中プロジェクトを実施。それまで持っていた業務から離れ、「職業エンジニア」になるべく、プログラミングの習得にすべての時間を費やしたという。
プロジェクトの実施は昨年10月。現在はリブセンス主力事業のエンジニアとして活躍している彼と、プロジェクト期間中に毎日メンタリングを行なった取締役の桂氏に話を伺った。
彼はなぜそれまでにエンジニアへのキャリアチェンジを渇望したのか?そしてリブセンスはなぜ、その思いを汲み、独学でも習得可能なプログラミングスキルの習得に対して全面的に協力したのだろうか?
総合職(ビジネスサイド)からエンジニアへのキャリアチェンジの事例は少ないいま、この新しいチャレンジの可能性を探ってみたい。
― 山浦さんは2013年に総合職で入社した後、WEBディレクターとして働かれていたと伺っています。そもそもどうしてエンジニアになりたいと?
山浦:
リブセンスに入社した理由でもあるんですが、もともと自分で事業やサービスを作りたいと思っていたんです。
入社してからは、担当サイトの成長をディレクターという役割で担ってきました。しかし、この業界においては、エンジニアこそ自分の手でイノベーション起こしてサービスを作っていける存在だと強く感じたんです。
もちろん、ディレクターで経験を積むことで事業を生み出せないわけではないと思います。ただ、モノを作ろうとしたとき、エンジニアに「依頼する」という手段しかないのは、すごく寂しいなと。
加えて、リブセンスにはエンジニアとして事業を創り成長させてきた人が多くいるんです。桂は創業メンバーでCTOのエンジニアとして、事業を作ってきたエンジニアリングのバックグラウンドを持つ経営者ですし、前CTOの平山も技術側の人間として事業を立ち上げてきた経験がある人間です。彼らが身近にいた事もあって、自分もエンジニアにキャリアチェンジしたいと本気で思うようになり、その思いを上長にぶつけました。
それから経営陣にも話が伝わり、桂自らメンターにつくという1ヶ月間の超短期プロジェクトがスタートした形です。
― 1ヶ月というのは、かなり無理のあるスケジュールじゃないですか?
桂:
最初は山浦が持っていた業務と並行して、6ヶ月くらいでエンジニアとして仕事ができるといいねという話をしていたんですよ。でもやる以上は、一気に時間を集中投下したほうがいいという事になって。
一番怖いのは、中途半端にダラダラ続けて、結局何にもならないこと。そういった形は絶対に避けたかった。山浦にとっても、会社にとっても、バシッと後ろを区切って少し無理のあるスケジュールを引いてでもやったほうがいいんじゃないかなと。
やっぱり、知識がほぼゼロの状態からまともなエンジニアになるって簡単な話じゃないんですね。覚えることも滅茶苦茶多いし、手を動かし続けないと得られないものもある。
― 一方で、プログラミングは独学で習得可能なスキルです。桂さんご自身も学生時代に独学でスキルを身につけた1人だと思います。にも関わらず、どうして勤務時間を使ってまで、このプロジェクトを実行しようと?
桂:
確かにプログラミングは独学で身につけられるスキルです。ただ、独学で学んできたからこそ思うのですが、とても効率が悪い習得方法だなと思っていて。やっぱりプログラムがうまく動かずに、30分以上悩んだ結果、「記号一つ抜けてただけでした」みたいな話って往々にしてあるんですよね。
その時間って無価値で、無駄だと思うんです。休日にプログラミングの勉強をしている社会人や、就職のためにプログラミングをちょっと学んでいる学生は多いですよね。僕はいわゆる教養としてのプログラミングという位置づけなら、それでもいいと思います。
ただ、本当に職業エンジニアとしてやっていくなら、早々にエンジニアになるべき。細切れでプログラミングを学んでも、職業エンジニアにいつかなれるなんてことはほとんどありません。間違いなく、誰かがついて集中して教えたほうがいい。そういった考えもあって、今回は僕がメンターとして、毎日必ず1時間以上時間を割いて山浦を育てていきました。
― 具体的に1ヶ月間でどんな事を行なうプロジェクトだったんですか?
山浦:
最初はPHPとデータベースからでした。まずドットインストール(※法人向けライセンス)を3周くらいみたあとに、分厚い英語の本を渡されて章を指定してもらいながらとにかくこなして。
それからすごろくのアプリケーションを作ったり、自社サイトの開発タスクを割り振ってもらいながら、桂に毎日レビューしてもらいました。
― 自社プロダクトを教材に使うほど実践的なものだったんですね。
山浦:
そうですね。いま思うと、もっと緊張感を持つべきだったのかも知れません(笑)。桂がかなりスパルタだったので、「おまえ、これ、本当にリリースするつもりなの?」「動くけどこれじゃあ、サービスとして継続していけないだろ」などと言われたことは何度もあります…(苦笑)
単にシステムが動くコードを書くだけでなく、サービス設計や思想まで考えることを指し示してもらう感じだったので、毎日自分の成長を実感できました。楽しいというよりは、とにかくやり切ることに必死だったのですが。
あと恵まれていたのは、同僚にも驚くくらい応援してもらえたことです。同期のエンジニアメンバーに相談したり、それまでの業務を抜けても問題ないように進めていただけて。みんなにはすごく感謝しています。
― 山浦さんと桂さんの1ヶ月プロジェクトはある程度成功したように感じます。実際に指導した桂さんに伺いたいのですが、このプロジェクトって誰にでも、どの会社にとっても再現性のあるものなんでしょうか?
桂:
いや、正直なところ「1ヶ月」という点で言えば、なかなか難しい話だと思います。ただ、総合職で入社したメンバーがエンジニアにキャリアチェンジすることに関しては、すごく可能性があると思っています。
今回、このプロジェクトを山浦が実行する事になったのも、彼の上長から「山浦ならいける」という判断をもらっていたからです。彼はプログラミングの知識はほぼゼロでしたが、単なる素人ではないし、エンジニアとしての頭の使い方というか、素養があることを会社は把握できていたんですね。
― 一緒に働いた経験があるからこそ、適性が見極められたと。
桂:
そうです。エンジニア以外の職種や総合職という括りでこの業界に入ってきた優秀な人って、働いてみて初めてエンジニアリングの必要性や重要性を理解することが多い。
新卒としてエンジニアリング未経験の人を大量に採用して、会社で教育することで職業エンジニアになるケースは多くありますが、中途や総合職採用の社員からエンジニアへの転向って、著しく少ないですよね。
エンジニアは慢性的に不足している状況が続いています。今後業界の中でも、こういったジョブチェンジの事例が増えてくると思うし、WEB企業・社員双方にとって成長の可能性が広がる選択肢なんじゃないかと思います。
― たしかにそうですね。総合職からエンジニアへの転向事例は、企業・従業員双方にとって新しいキャリアプランの選択肢の一つになるのではないかと思いました。ありがとうございました。
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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