DeNAのHR部門で採用活動に携わっていた下村さんがこの春、シンガポール行きを決めた。30歳というまさに働き盛り、そしてキャリアの分岐点で彼が下した決断から、現代の仕事観に迫る。
「30代を区切りにもう一度アクセルを踏み込みたかった」
「魅力的な人が多くいる環境に身を置き続けたい」
そう語るのは、DeNA本社で採用人事を務めていた「しもたく」こと、下村拓哉さん。
過去形なのにはワケがある。彼はこの4月から日本を離れる決断を下した。DeNAのアジアヘッドクオーター、DeNAシンガポールへ転籍するのだ。
下村さんのキャリアをざっとご紹介しよう。大学卒業後、人材紹介事業を手掛ける企業に就職。その後渡英し、ロンドンでドッグケアコンサルティング事業で起業。日本に帰国してからは、外資系大手検索会社日本法人での勤務を経て、DeNAのHR部門へ。約2年間、ダイレクトリクルーティングの導入とチームマネジメントに携わってきた。
彼のキャリアに対する考えから「グローバル」で生き抜く要件やモチベーションの源泉を探ってみたい。
― どんな経緯でシンガポール行きが決まったんですか?
僕は今年の1月に三十路を迎えたんですが、元々「20代のうちにバリバリ海外で働く」という個人的な目標を持っていて。でもその時点では、一切そういったチャンスや話はなく、「これはヤバイぞ」と思っていました。
そのとき、「いつか海外に行けたらな」という気持ちでこのまま働き続けてもダメだなと感じたんです。目標は20代の内だったけど、行動を起こすならもう今しかないと。30歳を迎えた数日後には、グローバルHRの室長と直属の上司に「日本を出てグローバルに行きます」と僕なりに強い覚悟を伝えたんです。
― それから4月のシンガポール行きが決まったんですか?かなりのスピード感ですね。
気持ちを伝えた時、上司たちに受け止めてもらえたんですね。日頃から何かとグローバルだとか、海外勤務などに対して、興味とやる気があることを言葉に出して伝えていたからかもしれません。
あと、「海外にこのタイミングで行けないのであれば、退職してでもその道を探る」という気持ちで僕も伝えたので、「こいつマジだ」と思ってもらえたのかもしれませんね(笑)。
もちろんタイミング的にもラッキーだったと思います。
シンガポールでHRが一人足りなくなるというような欠員補充的な背景ではなく、今後の拡大・展開を考えた時に「これぐらいのスキルと経験がある人が欲しい」という話がどうやら浮上していたらしく。「ああ、下村君、いいタイミングで言ってくれたね」っていう感じだったと思います。上司に思いを伝えた翌週明けにはオファーがきたので、本当に早かったですね。
― 下村さんは新卒で入社した企業が人材系ですよね。もともと人事や採用に興味があったんですか?
いや、全くなかったです(笑)。僕は昔から事業家が好きなんです。人材会社の営業だと、社長に直接会える機会がとてもある。それだけの理由でした。いまでも「人事」が大好きとか天職だなんて思っているわけじゃないです。
けど、いろんな経験をしてきて、人の行動や組織論などに面白み、そして仕事のやりがいはめちゃくちゃ感じています。
― やりがいを感じる理由は?
先ほど事業家が好きという話をしましたが、事業に寄り添った、事業をより成長させることにコミットして人事組織などを考えて動いていて。単なる人事ではなく、経営人事・戦略人事として裁量を持てているからですね。生意気なことを言っても、受け止めてくれるし信じてもらえる。もちろん、ただ言うだけじゃなくて、成果を出したり失敗を次に生かしていくことは必須ですが(笑)。
人事ってとにかく社内外の人と深く繋がる仕事なんですが、魅力的だなと思う人たちに自分が刺激を受ける機会がめちゃくちゃ多いんです。頻度で言うと1週間に1回は必ず。「すっげえ…この人、なんか一緒にやってみたいな」そう心から思える人が入社してくれたり、何かプロジェクトを始めたり。それらは代えがたいやりがいにつながっていると思います。
― 下村さんのキャリアで興味深いのは、渡英してWEBや人事とは畑違いのドッグケアという領域で起業経験があることなんです。
最初のきっかけはリーマン・ショックです。社会経済が世界規模で揺れ動いてた時に、僕は「めっちゃチャンスだ」「じゃあもうやりたいことやっちゃわないと損だ」って思って、ワーキングホリデーを使いイギリスに向かいました。
英語も会話程度しかできなかったので、まずは語学学校に通いました。その間、社会人経験で身につけたテレアポ力で仕事を探しをしていたら、とある動物愛護・保護団体にボランティアなら、と誘ってもらえたんです。
そこで、ドッグビヘイビアリングという犬の行動学を1年くらいつきっきりで学び、ロンドンで起業という流れです。
― お話を聞いていると、下村さんは本当に「行動派」なんだなと感じます。
思い立ったら即行動するタイプの人間ですね(笑)。ロンドン行き然り、起業然り、シンガポール行き然り。
振り返ってみると昔からそうでした。中学3年生の時も、関西の実家から自転車で四国に旅に出たり。お金はもちろんないので、そこで出逢った人にごはんを御馳走になったり、一晩泊めてもらったり。いま考えるといつ補導されてもおかしくないことですね(笑)。
― 「人との出逢い」という軸で考えると、そういった原体験が自分の人生に大きく影響しているのかもしれませんね。
たしかに。そうなのかもしれません。
今回シンガポール行きを決めたのも、これまでに出逢ったことのない、東京では出逢えないような魅力的な人たちに絶対に出逢えると思った、というのも理由の一つ。仕事のミッションも刺激的なのは間違いないのに、これを逃す手はないと。
僕の中で大切にしている言葉に、「拓哉という名前通り、いつだって自分で開拓していきなさい」という母から何度も言われてきたものがあるんです。
アントレプレナーシップみたいな心意気や態度も、この言葉にすごく影響を受けているのかもしれません。
― それでは最後に、下村さんにとってのキャリア選択の軸となるものってなんなんでしょうか?
ありきたりな言葉かもしれませんが、面白いと思ったものに飛びつく、ですね。これまでもあらゆるものに飛びついてきましたが、後悔したことってホントにないんですよ。逆に飛びつききれなかったことは、ずっとこころの中につっかかりが残る。
4月からシンガポールに向かいますが、あまり不安はありません。グローバルのフィールドが圧倒的に面白いのはイギリスに行って証明済みなので。
30歳になって最初の大きなチャレンジです。ココでもう一度アクセルを深く踏み込んで、世界の魅力的な人たちと多く出逢い、自分自身も人に刺激を与えていけるような魅力的な人間になっていければ最高ですね。
― 30歳を区切りに自ら新しいチャレンジをスタートさせる下村さんのお話は同世代の方々にとってもとても刺激的だったと思います。ありがとうございました!またお話お聞かせください!
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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