サイバーエージェント、DeNA、Gunosy、ウォンテッドリー、グッドパッチが語る、これからのUIデザイナーに求められる要件とは?UI Crunch #8「UIデザインに求められる実装スキルと考え方」をレポート。
UI Crunchのコンセプトは「UIデザインに関わるすべての人のためのコミュニティ」。デザイナーのみならず、エンジニアやディレクターなどあらゆる人が参加できる。毎回、「UIデザイナー不要説について語る」「スマートウォッチUIデザインの今」など話題のトピックスでWeb業界のトップクリエイターをゲストに迎え、UIにまつわるトークセッションが開催されている。
第8回目となった今回は「UIデザインに求められる実装スキルと考え方」について。デザインとテクノロジーの領域が融合し始めてきている昨今、業界でも注目のテーマ「デザイナーがデザインだけをやっていればいい」という時代ではなくなってきた今、どのようなスキルを身につけるべきか具体的な事例は少ない。今回のイベントではエンジニアリングとデザインの領域をまたにかけるテクニカルクリエイターたちが集結し、UIデザインに求められる素養について語られた。
120名の枠に対し、733名の応募と当選確率は6倍となったUI Crunch#8。UIデザインに携わる人が関心を寄せる、イベントの内容とはいかに。
デザイナーは静的なデザインだけを行うのではなく、UIアニメーションやインタラクティブな実装も行う必要が出てきた。いかに高度なアウトプットができるかが、今のネイティブアプリ市場では重要になってきている。(佐藤氏)
時代の変化をいち早く感じ取ったサイバーエージェントは、新しい職種を設けることに。それはデザインとプログラミングの両方の知識を持ち、その垣根なく開発実装を可能とする、「テクニカルクリエイター」というポジション。具体的な定義は下記の通り。
1、技術の垣根を越えて「テクニカル」に「クリエイティブ」できる人材
2、一人で領域を広くカバーしてハイクオリティなアウトプットができる人材
3、業界のトレンドに敏感で常に新技術を追える人材
「テクニカルクリエイター」というポジションを導入し、エンジニアとデザイナーの垣根を越えた結果、全員がアプリケーション一つひとつの動きにこだわってサービスを開発できるようになったと話す。具体例として、音楽配信アプリ《AWA》、インターネットテレビ局《AbemaTV》の開発ストーリーを話してくれた。
また、佐藤氏は「闇雲にスキルを身につけようとしても、器用貧乏になるだけ」と警鐘を鳴らす。まずはデザインとエンジニアリングのベーススキルを十分に身に付けることが大切だということだろう。
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非エンジニアでありながらXcodeでの実装に挑戦し、自らデザイナーの枠を超えてきたDeNA 成澤 真由美 氏。彼女がエンジニアリングを始めたのは、「バグだらけのアプリを2ヶ月で直す」というプロジェクトでの失敗がキッカケだ。
2ヶ月という限られた時間の中でアプリの作り直しに着手しなければならなかったため、UIデザインの実装を削ぎ落としてしまうことに。その結果、「文章が途中で見切れていて最後まで読めない」、「変なマージンが空いている」、「要素が変な位置にずれて表示されている」といった厳しい意見がユーザーから寄せられた。
この経験を通して、私は『デザイナーとして何ができていれば良かったのかな』と必死に考えました。それで分かったことが2つあって。一つは、ユーザー体験が損なわれず実装コストも下げられるUI変更ができず、エンジニアの負担を減らせなかったこと。もう一つは、リリースに最低限必要な期間を見積もれなかったこと。それがわかったときに、デザイナーとしての動き方を変えなければ、この失敗は繰り返し起こるなと。デザイナーが変わらなければ何も変わらないと思ったんです。(成澤氏)
プロジェクトの失敗から、デザイナーの領域を超える決意をし、同時に葛藤も抱えていたとのこと。周りにデザインとエンジニアリングを両立している人がおらず、始め方が全くの未知数だった。右も左も分からなかったが、「やってみなければわからない」という強い思いと会社のサポートもあり、今ではデザイナーの領域を超え、実装まで自分一人で出来るように。
その結果、高速プロトタイピングが実現できるようになり、企画プレゼンやユーザーテストによる課題の洗い出しも、より早く行えるようになったとのこと。
デザイナーが実装することは、デザイナー本人の学習コストが相当かかりますし、会社の理解も必要となってくるので、簡単に始められることではありません。しかし、非エンジニアだった私でも、ここまで出来ているので、『もし領域を超えてみたい!』と思ったら一歩踏み出してみてください。(成澤氏)
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「デザイナーも実装できるようになるべき」という流れに反し、「デザイナーがプロダクトの実装に関わらなくても大丈夫」という考えを述べたのが、 Gunosyの森 浩明 氏。その根拠とは一体何なのだろうか?
デザイナーがエンジニアリングにも携わることで、どうしても時間が足らなくなってしまったり、デザインの最新の情報をキャッチアップするのが難しくなってきたりしてしまう。デザイナーにとって、何より重要なのはデザイン。ここが疎かになってしまってまで、エンジニアリングをするのは少し違うんじゃないかなと思います。(森氏)
このように語った森氏だが、「絶対にコードを書くな」という考えの持ち主ではない。プロダクトに直接関わらない周辺の分野のコードであれば、積極的に書いていけばいいとのこと。まずはハードルを低くした状態で始めてみることがオススメだと言う。
その方法として、森氏が挙げたのは「自分が感じている問題をどのようなアプローチで解決するか考えたり、日々使っているツールを使ってみたりする」というもの。こうした取り組みから失敗を経験し、様々な学びを得られればいいのではないだろうか。
基礎体力がないまま、デザイナーが開発に直接コミットすることは非常に大変。いきなり直接コミットしようとするのではなく、プロダクト開発周辺のプレッシャーが少ない場所から関節的にコミットしていくことも領域を横断する一つの方法。まずは低いハードルを自分に課して、挑戦していけばいいのではないでしょうか。(森氏)
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僕はデザイナーがコードを書く意義は2つあると思っています。一つ目は技術によってしか到達できない表現があるから。例えば、インタラクティブな動きを表現したり、データを一つの絵にしたりするにはデザインとエンジニアリングの双方が必要になってくる。また、デザイナーもコードを書けることによって、チームでのプロダクト開発が効率化できる。(青山氏)
はたらくを面白くするビジネスSNS「Wantedly」を手掛けるウォンテッドリーは、社内のほとんどの人間がコードを書けるそう。そんな状況下で、どのように開発を進めていっているのだろうか?
ウォンテッドリーのサービス開発はシンプルそのもの。全員が「いち早くプロトタイピングを作り上げて、ユーザーテストを実施する。そしてユーザーからのフィードバックをもとにサービスをアップデートしていけば、自ずと最高のプロダクトが出来上がる」という考えのもと、開発を行っているという。
だからこそ、社内のほとんどのメンバーがコードを書けるウォンテッドリーでは、ワイヤーフレームの作成はエンジニアとのMTG中に済ませてしまうなど、開発プロセスを大胆に最適化しているという。デザイナーがコード上でコミュニケーションを行なうことで、プロダクトに直接反映できない前段階のプロセスを詰め、プロダクトの質にダイレクトに反映される部分に集中できるようになる。そうすることで、リリースまでのプロセスの選択肢を増やすことができ、最も良い進め方を選択し開発を行っていくことができる。
「なぜコードも書くのか?」という問いに対して、同社の若きデザイナーは次のように答えたという。
デザイナーが作りたいのは絵ではなくプロダクトだから、自分で書いた方が効率的に目的に近づけるのではないでしょうか?(19歳 デザイナー)
この言葉がとても印象的かつ会社のカルチャーを感じる一文だった。
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最後に登壇した、グッドパッチのCTO ひらいさだあき氏は”デザイナー”ではなく”エンジニア”の視点から、「デザインと技術をつなぐ」をテーマに語られた。
「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンのもと、UIデザイン・サービスデザインを主な事業にするグッドパッチはサービスの基本設計で重要になる要件定義の段階からエンジニアが関わることが重要であると考えている。
エンジニアがサービス開発の早い段階で関わらないと、『とりあえず試してみる』ということが難しくなり、開発が始まってからのプロトタイプが作りにくくなってしまう。(ひらい氏)
グッドパッチではAndroidデベロッパーがMaterial Designアドバイザーとしてプロジェクトに参加したり、iOSデベロッパーがUXデザイナーとしてプロジェクトに参加したりしているとのこと。Webアプリケーションもネイティブアプリのように設計する必要が出てくることに伴い、エンジニアもサービス設計の根幹から考える必要がある。
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5社の具体的な事例から、今後のUIデザイナーに必要な実装スキルが学べた本イベント。最後には、UI Crunchを代表してグッドパッチ代表の土屋尚史氏の、熱い言葉で締めくくられた。
デザイナーがコードを書く流れが、いよいよ日本にもやってきた。しかし、世の中にはまだまだイケていないプロダクトはたくさんある。だからこそ皆さんには、現場で実践してほしいと思っています。そうすれば良いプロダクトがたくさん生まれ、ユーザー体験が底上げされていく。ぜひ、学びを実践してください。(土屋氏)
デザインとテクノロジーの領域が融合し始めてきている今の時代、「デザイナーがデザインだけをやっていればいい」なんて考えを捨てられずにいれば、デザイナーとしてのキャリアが狭くなっていくだけだろう。今回の話を参考に、広範囲なスキルを有するデザイナーとしての道を歩み始めてみては?
(おわり)
文 = 新國翔大
編集 = CAREER HACK
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