無料のプログラミング学習サイト《ドットインストール》の運営者であり、人気ブログ『百式』の管理人でもある田口元さんへのインタビュー後編。プログラミングを、「投資対効果が高い“習い事”」だという田口さん。いまや小学生がアプリを開発する時代、プログラミングは“教養”として身に付けるべきスキルになる―。
プログラミングは最も“おトク”な習い事― ドットインストール 田口元氏の挑戦。[1]から読む
― 今後、プログラミングはあらゆる人が“学ぶべき”スキルになるとお考えですか?
プログラミングは“言語”なので、いろいろな意味で“英語”と似ているものだと個人的には思っています。「英語ができたほうがいいよね」というのと同じ感覚で、これからの時代は「プログラミングはできたほうがいい」となるのでは、と考えています。
― ある種“教養”になると?
そうですね。すべての人がエンジニアになるべき、とは思っていませんが、どんな職種であれ、ある程度プログラミングの基礎や、ウェブの仕組みなどを知っておいた方が、価値の高い仕事が出来るのでは、と思います。
― 文系の人がプログラミングできるような?
そうですね。
ただ、僕は《ドットインストール》を使ってもらうことで、すべての人にコードが書けるようになってほしい、とは思っていません。あくまで中学英語レベルの「教養」でいいと思っています。基本的な文法といくつかの単語がなんとなくわかっていて、もっと勉強したい時にどこを調べればいいのかを理解している状態です。
実際、ドットインストールのレッスンを作るときも、次の2点のみをカバーするように設計しています。
・その言語の基本的な枠組みをなんとなくつかめること
・困ったときに見る場所がわかること
この2つさえわかっていれば、いつかもっと興味が出た時に、必要な勉強をすることができるはずです。まずは興味を持ってもらうことが大事で、最初からすべてを網羅する必要はないのです。
また、プログラミングを教養として身に付けることには、「問題解決能力がつく」「英語を身近に感じられる」というメリットもあると思っています。
プログラミングの作業は基本的に問題解決のプロセスです。「これがやりたい!」を細分化して、そのすべてを「これぐらいなら出来る」で淡々と再構成していくことだからです。パズルのように楽しみながら自分の作りたいものを組み上げていくことで、「自分のやりたいことを、問題を解決しながら実現していける能力」を自然と身につけられるのでは、と考えています。
それから、プログラミングを勉強していると、英語も自然と覚えられると思います。命令自体も英語が多いですし、ちょっとした調べ物をしていくと英語のドキュメントにあたることもしばしばですから。まわりのエンジニアには、英語をうまくしゃべる自信はないけれど、読むだけならいける、という方も結構いますよね(笑)
― たしかに、「Hello World」ができただけでも、感動しますよね。
そうですね。そうやって、徐々にモノが作れるようになっていく過程を楽しめばいいと思います。実際、友人のお子さんが10歳くらいなのですが、お父さんの力を借りてAndroidアプリを作ったらしいのです。動物の写真が出てきて、タッチすると「ワンワン」とか「ニャ~」とか鳴き声がするだけのものなのですが、Google Playで配信したら、世界中からダウンロードされたみたいで。この経験だけでも彼の世界は大きく広がったのではないかな、と思います。こうした話を聞くと、近い将来には「自分のお小遣いはアプリの売上で稼ぐ」といった子供も増えてきそうな気がしますよね。
― なるほど、プログラミングを学ぶことでさまざまなものが得られると。田口さんが「投資対効果の高い習い事」と仰っているのもよく分かります。
ドットインストールだと、お金もかからないですしね。もちろんスクールに通ってもいいし、参考書で学ぶのも良いですが、スクールはわりと高かったりするし、時間や場所の制約もあります。また、初心者がプログラミングを参考書だけで学ぼうとすると、途中でつまづいてしまって苦手意識を持ってしまうことも多いのではないかと。
したがって、最初は“無料”の動画でちょっとだけ学んで、興味があればさらに突っ込んで勉強する、というのがいいのではないでしょうか。
ドットインストールでは、さまざまな言語のレッスンを用意しています。初心者が学びたい言語を学びたい時に、気軽に始められるための枠組みはすべて用意したつもりです。最初は広く浅く、いろいろやってみると良いのではないですかね。
― 初心者が、複数のプログラミング言語を学ぶメリットはあるのでしょうか?
得意な言語、興味がある言語があればそれだけ深めていってもいいと思います。ただ、僕自身の経験でもあるのですが、ある言語でいまいち理解できなかった部分が、他の言語を勉強した時に初めて理解できることもしばしばあります。継承や抽象クラスといったオブジェクト指向もそうでしたかね。まだ完全には僕も理解できていませんが(笑)
それから僕自身がやっていることとしては、その言語について必ずWikipediaで調べるようにしています。そうすると兄弟関係にある他の言語やその特徴、その言語が開発された歴史的な背景などが分かるようになります。そうすると理解も深まりますし、次にどういった学習をすべきかがわかってくるからです。
― 先ほど“英語”との類似点をお話いただきましたが逆に英語と全く異なる部分は?
人工言語であるということ、それ故にどんどん進化していく。新しい言語が生まれてくる。
― とすると、ドットインストールのプログラミング基礎講座の内容も変わってくると?
そうですね。10年後の初級レッスンは、今のものと全く別のものになるかもしれません。今は「まずはウェブの基礎ということでHTML・CSSから」といった感じですが、もっと進化した言語が現れる可能性は高いですよね。
― ドットインストールはプログラミング学習サイトの中でも非常に注目されているサービスのひとつだと思います。今後の展開は?
これまですべてのサービスを無料で提供してきましたが、先日、課金型の新サービスもローンチしました。一言で言えば「コードの通信添削サービス」です。
プログラミングの楽しさのひとつは、解決しようとしている課題に向かっていく道がいくつもあることです。初心者のうちは「仕様どおりに動けば基本的に正解」なのですが、「他にどういった書き方があるのだろう?」という疑問が浮かぶ人も多いと思います。こうした疑問に一方通行の動画コンテンツだけで対応していくのは困難です。
そこで今回、プログラミングの得意な人が“先生”のような立場になり、ドットインストールというプラットフォーム上で初心者とコミュニケーションをとりながら学習を進めていくという、インタラクティブなコンテンツを設けました。これはリアルに先生のコストがかかるので有料とさせていただいていますが、プログラミングをもっと勉強したい、という初心者の方には是非使っていただきたいと思います。そのために他スクールと比べ、ぐっと安価な価格設定にしています。
まだまだ試行錯誤中で、先は少し長いかも知れませんが、ドットインストールでプログラミングを学んだ人が、いずれは自分が学んだドットインストール上で“先生”として初心者のコードを添削する…そうしたこともあるのではないかと考えています。
もちろん、動画の視聴については今までどおり“無料”でいきますので、ご安心ください(笑)
今まで以上にコンテンツの拡充を進めて、“プログラミングを学んでみたい”という声に応えていきたいと思っています。
― 今後もすごく楽しみですね!本日はありがとうございました!
(おわり)
編集 = 松尾彰大
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