多くの企業の経営課題になっている雇用力。HR領域の最新テクノロジーは重要な意味を持ちます。戦略人事としてどのように最新テクノロジーを活用していくべきなのでしょうか。「HR Tech Kaigi #01」で、HR Tech領域のキーマンが語ったこととは?
CAREER HACKの読者のみなさん、はじめまして。現在Webマーケティング企業にて人事をしている勝股と申します。直近ではエンジニア組織での採用や組織組成にまつわる業務を担当しています。
職務の性質上、エンジニアのメンバーと一緒に仕事を進めることが多いのですが、彼らの業務効率化に対する姿勢には刺激を受けることが多々あり、その中でも業務効率を飛躍的に向上させるツールに対する意識が非常に高いように感じています。
一方、同企業で自身の人事領域に目を向けてみるとまだ多少クラシックな部分があり、より効果的な業務推進ができるようになる余地があると感じました。
「採用担当は採用実務だけでなく広報も出来たほうがいい」といったように、人事に求められる機能は増えてきており、その分必要なリソースも比例していく可能性が高いと考えています。
そのような背景もあり「多少の投資をしてでも、効率化が可能なものはしていくべきかもしれない」という力学が自分に働き始め、今回は「HR Tech Kaigi #01」に参加しました。
登壇されたのは、社会保険・雇用保険の手続きを自動化するクラウド労務ソフト《SmartHR》を展開するKUFUの宮田さん、クラウド型採用管理サービス《Talentio》を展開するタレンティオの佐野さん。モデレーターはヤフーの伊藤さんです。お三方がHR Techの未来について語ったトークセッションの様子をレポートします。
海外のHR Techが既に隆盛する一方で、日本ではまだそこまでの盛り上がりを見せていない。これは日本でHR Techという言葉を聞くようになってからまだ日が浅く、概念が浸透しきっていないからだという。
佐野:
いま海外のHR、特に採用周りのテクノロジーがかなり先行していますね。オープンイノベーション、オープンインテグレートという発想があって、色々なものとデータを繋げていこうとしている。この辺りは今の日本とは異なっているかもしれませんね。
日本のHR Techは、遅れてるっていうより黎明期っていう表現が適切かもしれません。これからのHR Techに関して思うのは、プロダクトを作る側ももちろん大事なんですが、使う側もどんどん活用してフィードバックを多く返すなど、使う側の歩み寄りも大事になってくると思っていますね。
宮田:
アメリカではHR Techの会社に投資が集まっていて、トップ10のうち半分くらいが労務系など業務効率化を支援するスタートアップです。 それらと比較すると、日本はまだHR Techのプレイヤーが少ないですね。なんで日本に浸透しないのか考えてみたんですが、2つくらい理由があるかなと思っています。
1つは、日本はまだ人事労務部門がコストセンターと考えられがちなのでそこへの投資が消極的なこと。もう1つは、従業員の方の個人情報をクラウドに保管することに抵抗があるのかなと。
Githubが出てきた頃には、「ソースコードをクラウドで管理するなんて!」って感じだったと思うんですが、今はもう浸透してますよね。日本の人事領域でもこの心理的な障壁は徐々になくなってきている感覚を持っています。
伊藤:
先日、TalentioとKUFUさんのSmartHRが提携を発表しましたよね。これは効率化だけが目的ではないと思っていますが、他にはどんな目的があるのでしょうか?
佐野:
入社が決まった候補者の情報を、Talentioからボタン1つでSmartHRに送ることが出来るようになりました。効率化は間違いなくテクノロジーが得意とする領域なので、まずはここをとことん追求していきたいと考えています。
あと他の目的についてですが、これは提携のリリースにも書いたことで「繋いでいくこと」と「予測」が今後のキーワードになってくると考えています。入り口は効率化なんですが、APIを繋いでいくことによって、色々なものとデータを紐付けることが出来るようになってくる。人を軸にあらゆるデータが溜まっていって、それらのデータを機械学習や深層学習などテクノロジーに学習させていくことによって、予測が出来るようになってくる。このあたりはやっていきたいですね。
HR Techは効率化だけでなく、機械学習等による「予測」が大きな意味を持つ。予測には解析や学習が必要で、解析や学習にはデータが必要になる。どのようなデータを用いて、どんな予測に役立てるのかが、HR Techでは重要な意味を持つことになるという。
伊藤:
人を切り口にデータを蓄積していくということなんですが、例えばどんなデータを貯めていくんでしょうか?
宮田:
例えばTalentioさん側で所持している採用経路などの候補者に関するデータ、SmartHR側で所持している入社後のデータなどがそれに該当すると思います。これらのデータを紐付けていけると、例えば「活躍している人はどの採用経路から入社した人なのか」といったデータが見えるようになってきます。
伊藤:
今は採用と労務ですが、今後は他にどんなデータが結びついていくんでしょうか?
佐野:
Talentioで言えば、媒体やエージェントさんといった「母集団を形成するサービス」との連携を検討しています。新規の流入をもっと簡単にすることはもちろん、企業側の「あるべき人物像」に対して候補者がどのように評価され、活躍したのかの情報を蓄積していくことのいより、「その会社にマッチするの人がどんな人なのか」がレジュメがアップされた段階で予測することが出来るようになりそうですよね。
宮田:
SmartHRで言うと「従業員のデータと何を結びつけるか」という話になるのですが、身近なところで言えば勤怠状況、評価システムあたりとの連携は可能性がありますね。
MITが研究しているそうなんですが、従業員にIDカードのようなデバイスを配布して、そのデバイスに発話の内容やトーンなどの情報を分析させて、パフォーマンスや退職の予測などをするらしいんですよね。そういった、生態データと紐付いたパフォーマンス分析みたいなものが出来たら未来的で面白そうだなと思っています。
佐野:
実際にとある会社さんでは、メールの文面を解析して退職の予測のアラートを出したりしますからね。
HR Techは、一見すると人事のためだけのテクノロジーに映ってしまうことがあるかもしれないが決してそうではない。人事のパフォーマンスが上がった先にあるのは、従業員の幸せであるという。
伊藤:
HR Techって、最終的には、監視しようとかコントロールしようというよりも、従業員の皆さんがより幸せになるために発展していく、ということですよね?
佐野:
そうですね。今後日本の労働力がどんどん減少していくなかで、一人ひとりがどれだけ生産性高く働けるかって大事になっていくんですよね。従業員が生産性高く働くことを、どの人事もきっと願っているじゃないですか。そういった環境をつくっていくために、何かを見える化したり、意思決定をしやすい環境に整備したり、そういった側面をHR Techが支援できればいいなと思っています。
宮田:
例えば自分が合わないなって思う会社に入ってしまったとして、自分の貴重な数年を賭けて勤め続けるのってけっこう大変だなって思うんですよね。望まない状況になることをテクノロジーで解決出来たらいいなって考えています。HR Techは人事だけのものではなくて、従業員の幸せにも大きく影響があると思っています。
伊藤:
この会場にいらっしゃる人事の皆さんは、今後HR Techを一緒に盛り上げていく仲間になっていくと思うんですよね。最後に、会場にいる皆さんに一言お願い出来ますか?
宮田:
日本は労働人口がどんどん減っていくので、人事の皆さんの仕事はより重要になっていくと考えています。そういった背景の中で、他の誰がやってもいいような業務を人事の方がやっているのは勿体無いと思うんですよね。誰がやってもいいような業務であれば機械に任せて、本来集中すべき業務に集中できる、そんな世界をHR Techを盛り上げることで実現できたらいいなと思っています。今日はありがとうございました!
佐野:
今日はたくさんの方々にお集まりいただき、本当にありがとうございます。冒頭にも申し上げましたが、まだまだ日本のHR Techは黎明期だと思っています。僕らはサービスをつくる当事者ですが、みなさんはHR Techを活用される当事者です。黎明期においては我々だけが頑張ってもいい未来はつくれないと思っています。サービスの提供者、利用者という垣根を超えて、一緒にHRの未来をつくっていきましょう!
今回こちらのイベントレポートを担当した私も、現職では人事を担当していて、HR Techの今後には明確に期待を寄せています。
直近開催された HR Technology Conference & Expoでは「employee」という単語が取り分けフォーカスされており、組織の変遷が話題になっていました。従来の「組織・集団」という粒度ではなく、従業員「個人」へのアプローチに重きを置いた組織運用が必要になってくるという内容です。わかりやすさ重視で色々なものを端折って言うと、「組織の多様化が進むと従業員全体に向けたコミュニケーションが機能しにくくなる」といったような話です。
労働人口の減少に紐付いた「人材獲得競争の激化」という採用領域に限らず、上記のようなより大きな影響範囲への取り組みがHRには必要になってきます。そうなった際に、KUFUの宮田さんが言っていた「本来集中すべき業務に集中できる」という状態は、「つくった方がいいもの」ではなく「つくらないといけないもの」であると個人的には認識しています。
そのためには「人がやること」と「機械がやること」を区分してくことが、今よりも更に大切になってきます。オペレーティブなものは機械に任せて、私たちはそのオペレーションの座組を組んだり、組織の運用を設計したり、人にしか出来ないことを担うのが目指すべき姿のように思います。
例えばアメリカには、求職者の動画を解析し、自社に合う人材なのかどうかを予測し、判断するプロダクトが既に存在しています。そして、このようなHRのオペレーションを担っていくプロダクトに出会った際に求められるのはユーザー、つまり人事のリテラシーです。どんなに素晴らしいプロダクトでも、ユーザーが使いこなせなければ本来の価値は得られにくいと思っています。
今回の「HR Tech Kaigi」に参加し、HR Techの黎明期にいる当事者として、よりモダンな人事へのアップデートが必要になってくると感じました。今後のHR Techを盛り上げる一端を担いつつ、価値を創造し続けられる人事になれるよう襟を正す気持ちです。
文 = 勝股修平
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