2013.01.17
「協調性」こそ日本人エンジニアの武器である―未踏エンジニア・堀田創のキャリア論[2]

「協調性」こそ日本人エンジニアの武器である―未踏エンジニア・堀田創のキャリア論[2]

大学院在籍中にベンチャーを立ち上げ、mixiへの売却に成功した堀田創さんのキャリア論・第二弾。さまざまな国籍のエンジニアと仕事をし、また海外視察や外国人エンジニアの採用を行なう中で見えてきた「グローバルマーケットで日本人が勝つ方法」に迫った。

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▼インタビュー第1回はこちら
「クリエイティブ供給過多時代」を勝ち抜く―未踏エンジニア・堀田創のキャリア論[1]から読む

日本人エンジニアは「マネジメント」で勝ち抜け。

― 堀田さんは、つい先日まで海外視察をされていたと伺いました。単刀直入に伺いますが、日本人エンジニアはグローバルマーケットで勝っていけるのでしょうか?


正直「コーディングができる」というスキルを単体でみれば、太刀打ちするのはどんどん難しくなっているとは思います。アジアだと、凄く高い能力を持ったジュニアクラスが月収400ドルで働いていたりするんです。

こういった状況を踏まえて考えると、日本人が圧倒的に優れている点の1つは、チームのマネジメントにあるのではないかと思います。


― なぜ「マネジメント」が勝ちどころになると?


アジアの成長国にいるエンジニアたちって、ものすごくコーディングのスキルはあるのですが、マネジメントに慣れていないんですよ。

「Rubyは書けるけど、アジャイルって何?」みたいな感じ。市場にマネジメントできる人が少ない今はチャンスですし、日本人の気質からもマネジメントは向いていると思います。



― 日本人の気質といいますと?


キレないことです(笑)個人的な印象ではありますが、海外だと我の強いエンジニアが多い。みんなすぐ怒るし、キレて帰ったりするんですよ。

日本人ってとにかく「和」を大切にするから、怒ってもキレたりはしない。協調性が抜群にあると思います。

だからこそ異なる文化がぶつかり合う多国籍なチームだと、日本人がリーダーシップをとりやすいはずなんです。


― どんな場面でリーダーシップが発揮できるのでしょうか?


たとえば、ベトナムのエンジニアと働いた時、進捗3割くらいの段階で、「完成しました」と持ってきたことがありました。まあ、ごまかそうとしているのか、本当にできたと思っているのかは分からないのですが…(笑)こういった時に、冷静に問題を分析して解決を図ろうという姿勢は日本人が得意なものだと思います。

あと気に食わないことがあると「I Don't Like You」とTwitterで送ってくるタイのエンジニアもいましたね(笑)それを電話してなだめたりしなきゃいけない。

揉めごとを嫌う日本人だと、辛抱強く真摯にこのあたりを吸収できることが多いですね。


― 欧米のエンジニアだと難しい?


欧米とアジアとのワーキングカルチャーの違いによって、うまくいかないケースも結構見てきました。

我の強いエンジニアが揃っていて、かつ文化も違う。なんだかんだ主義主張がぶつかることも多い中で、日本人はいい意味でも、わるい意味でも、自己主張が弱いし、協力しようと取り計らったりする。

コーディングひとつとっても、他の人がいじりやすいように変数名に気をつかったり、ファイル構成をまとめたり、自分のことよりも、どうすれば相手がやりやすいか?ここが考えられるのはだいたい日本人なんですよね。

よく外国人と働くときには自己主張が大事と言いますが、開発現場においては実力のあるエンジニアであれば腕で十分に自己主張できます。なので「協調性」のほうがより意識すべき事項に思えます。


― チームのハブ的なポジションが狙えるということですね。その他にも「日本人ならではの気質」が強みになることは?


うーん、悲観的であることですね。たとえば「バグがあるかも」と気になって眠れないとか。これはすごくいい事だと思いますね。チームの構成にもよるとは思いますが、几帳面で神経質な人が一人はいないと、うまくまわらないんです。


― 逆に日本人エンジニアにありがちなダメなポイントは?


あくまで個人的な印象で、良し悪しだとは思うのですが、無駄にクリエイティブなところがあって、個性的でありたいと考えがちなところですかね。

たとえば、アプリをつくっていて何か問題にぶつかった時、一般的な解法ではなく、難しい手法や斬新な方法をわざわざ選択しようとしたりする。

一緒に働いていたアメリカのエンジニアの場合だと「とにかくPHPでプログラムを緻密に組み直してみた」といったように、ストレートな道をごり押しして、解決しちゃったりするんです。発想がぶっ飛んでいるかというと、そんなことはない。そして、それが一番の近道だったりすることも少なくない。

経営する側としても、過度にクリエイティブを追求するよりも、正攻法の最短ルートを見つけてくれたほうがありがたいです。

エンジニアの仕事は消滅する?

― 先ほど「コーディングができることの価値が相対的に下がっている」というお話がありました。これから、エンジニアの仕事はどう変容していくと?


コーディング自体は、東南アジアのエンジニアを含め、世界中の沢山のエンジニアが既に手がけ、ノウハウを蓄積しています。なのでコーディング出来ることの希少価値はどんどん薄れています。

また、コーディング以外の作業についても、これまでエンジニアの仕事とされてきたことは、エンジニア以外の人ができるようになると思います。

別にコーディングができなくてもアジャイルのマネジメントはできるし、簡単なコーディングだったら勉強すれば誰でもできるようになります。現に、ちょっと勉強してスマートフォンのアプリを作っている人もたくさんいるわけです。



― というと「エンジニア」の存在価値は、どういったものになるのでしょう?


たとえば、いま流行っているソーシャルゲームだと、いかにスケーラビリティを担保するかという点は、ものすごく大事ですよね。どれだけがんばっても、セールスの人には絶対できないでしょう。また、アウトソースするにしても経験のないエンジニアにとっては非常に難しい事柄です。

このように、エンジニアリングを極め、高度な専門性と技術が要求される仕事を担うことで、価値を発揮する必要があると思います。

いま身につけるべきは、ビジネスレベルの英語力。

― これからのWEB開発は、国境を超え、ボーダレス化すると言われています。今、日本のエンジニアが学ぶべきこととは?


一番強くあるのは「英語」ですね。

単に話せる、書けるのレベルではなくて、普段仕事をする上ではストレスの全くないレベルで使えることが必須だと思っています。それがあるのとないのでは仕事の幅が大きく変わってくるでしょう。

エンジニアであれば何かしら、自分で書いたコードや、コントリビューションが世界で評価されることを願っているはずです。しかし、英語ができないというだけで、その可能性はグッと狭くなってしまう。

たとえばGoogleの試験を受けたとして、日本人にありがちなのは、「さぁ答えるぞ」という時に英語をしゃべるだけでいっぱいいっぱいになってしまうこと。

脳をCPUだとすると「英語を使う」ことに9割を使ってしまって、1割しか「思考」に使えない状況です。

他のエンジニアがストレスなくしゃべれている中で、自分ひとりが10分の1のスペックで戦わなければいけない。これでは、さすがに勝ち目はないでしょう。



すごく優秀だと思う日本のエンジニアでも、ミッシングピースとして英語が課題になっていることが多いように思います。

マネジメントならアジャイルを知らないエンジニアはいないし、Rubyでコードを書くといっても勉強すればすぐにできる。

でも、英語に関しては嫌いな人が本当に多い気がしていて、すごく優秀な大学を出ていたとしても、語学力にコンプレックスを持っていたりする。プライドやコンプレックスを捨てて、いま勉強すべきは英語だと思います。


― ある意味、いち早く英語力を身につければ価値はグッとあがる?


あがりますね。アジアでいえば日本よりも英語を話せる人は多いですが、ネイティブレベルかといえば、そんなことはありません。

細かい交渉ができるくらいの英語力があれば、アジアの「激安で開発できる」というリソースに対するバリアとして、国際的に見てもかなり有効だと思います。


― やりたいと思っている人でも、勉強できていない現状も多いと思います。国内にいながらにして英語力を磨くのはむずかしいのでしょうか?


うーん、どうでしょうね。国内にいてもちゃんと勉強すれば、身につくと思いますが、勉強が面倒なタイプだったら行ったほうがはるかに早いですね。「使わないとどうしようもない」という環境に身をおくのは有効だと思います。

(つづく)
▼インタビュー第3回はこちら
世界を見よ、そして自信を持て―未踏エンジニア・堀田創のキャリア論[3]


3名

[取材協力:『co-ba library』東京都渋谷区渋谷3-26-16 第5叶ビル6F]


編集 = 白石勝也


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