2017.09.07
ロックバンドのように、デザインで世の中に吠えていく。デザイナー 甲斐琢巳が「起業」を選択した理由

ロックバンドのように、デザインで世の中に吠えていく。デザイナー 甲斐琢巳が「起業」を選択した理由

ミクシィ、NewsPicksでデザイナーとして働き、2017年8月に新会社『MOSH』を立ち上げた甲斐琢巳さん(27)。なぜ彼は会社設立という道を選んだのか。そこには「課題解決のために事業からデザインしていきたい」という熱い思いがあった。

0 0 42 1

新会社『MOSH』に込めた思い。甲斐琢巳の挑戦

パンクなど激しいロック音楽のライブにいけば、あたり前のように見られる光景。観客同士が体をぶつけあわせる「モッシュ」が繰り広げられ、衝動に任せて動き回る。そして会場のボルテージは一気に最高潮に達する。

やりたいと心から思えるアクション、衝動に従う人たち、熱中できる瞬間を、世の中に増やしていく。そんな思いで命名され、スタートした新会社が『MOSH(モッシュ)』だ。

立ち上げたのはミクシィ、NewsPicksでデザイナーとして働き、2017年8月に独立を果たした甲斐琢巳さん(27)。

彼は、なぜフリーランスや転職ではなく、「会社設立」という道を選んだのか。その覚悟の裏側にあったのは「課題解決のために事業からデザインしていきたい」という思いだった。

事業からデザインしていく

甲斐さんの写真

― 「会社を設立する」というのは大きな決断だったと思います。なぜ、そういった選択をされたのでしょうか。


僕のなかで根幹にあるのが「デザイナーは何か課題を解決すべき存在」という言葉なんですよね。自分が考える「これは解決すべき世の中の課題だ」というものに対し、事業からデザインしていきたい。そう強く思うようになり、会社設立という道を選びました。


― 敢えて意地悪な質問をすると…『NewsPicks』は、何か課題を解決できるサービスだと思えなかったということでしょうか。


意地悪な質問ですね(笑)ただそこには明確な答えがあって『NewsPicks』はめちゃくちゃ課題を解決してるサービスだと思っているんです。というのも、情報収集している人たちにとって、Pickerのコメントは有益なプラスアルファな情報ですし、一次情報として入手ができる。

視座の高い方々がどうニュースを捉えているか。意見を持っているか。ここは世の中にあまり落ちていない情報なので、ものすごく世の中的に価値があると捉えています。特に経営層の方々など、ビジネスに対するアンテナが高い方にとって、すごく重要なサービスで。今でも大好きなサービスですし、画期的だと思っています。


― では、なぜ退職を?


デザイナーとして、そして「甲斐琢巳」として何をしていくべきか。解決したい世の中の課題があるというのが大きな部分です。デザイナーとして生きていくからには、自分が解決したいことにちゃんと向き合っていく必要があるんじゃないか。事業から作らなくちゃいけない。ここが一番コアな理由です。

じつは、2016年に『NewsPicks』のリニューアルを任せてもらったことがあり、それも考えたきっかけになっています。自分の持っているスキル・知識を120%出せたつもりだったのですが、全く想定した反応がもらうことができなかったんです。言ってしまえば、キレイなだけで、まったく使う側の立場が考えられていなかった。デザイナーとしての「目立ちたい」「良いねと言われたい」というエゴがあったのかもしれません。

こういった経験もあり、デザインは見栄えをつくるものではなく、そもそも事業からデザインしていくものなんだ、と思い知らされて。

ウェブの現場でいうと、ユーザー数が伸びないとか、課金が伸びないとか、いろんな課題がありますよね。もちろん重要な解決すべき課題なのですが、「単に数字を伸ばしていくのがデザイナーという役割」となるのは寂しい。…というか「もっとできるはずだ」という思いもある。それを証明したいという気持ちに近いかもしれません。

デザインの力が活かせる「場」を拡張できるんじゃないか。デザイナーという肩書きだからって、ものを作らないといけないっていうわけでもないんですよね。

自分を押し殺さずに生きられる、そんな世の中にしたい。

甲斐さんの写真

― 具体的には、どういったサービスを企画しているのでしょうか?


C2C領域のサービスですね。企画・設計・グラフィックまわりを担当しています。より細かい内容はリリースしてからのお楽しみですが…(笑)解決していきたい課題というのは、一人ひとりがやりたいことをやって生きられる世の中を作る、「生き方」を作っていくということ。そのためにデザインを使っていきたいと考えています。

あらためて僕自身が救っていきたいことを考えたとき、自分のやりたいことを押し殺して働いている人たち、やりたいことがあるけど、そのために十分な時間が使えていない人たちなんです。

たとえば、僕の地元の友達がいて。宮崎に住んでいるんですけど、毎週末、わざわざ福岡まで行ってダンスをやっています。かなり本気で練習したり、大会に出たりして。

もちろん趣味ではあるのですが、めちゃくちゃダンスが好きで。だけど、平日にやっている仕事はすごい嫌いだから、Twitterに毎朝「きょうも頭痛い」とか「だるい」とか書いている。すごくその気持ちはわかるけど、ちょっともったいなって思ったりもするんですよね。

一回きりの人生で、嫌いなコトを我慢しながら生きていくってどうなんだろう、と。そういう人たちが、もっとやりたいことでお金を稼げればいいと思うし、好きなことに熱中できる時間を増やしていきたい。こういった課題の解決は、今の自分にすごくフィットしていると思います。

ロックバンドのように、デザインで世の中に吠えていく!

― お話を伺っていると、ご自身が人生を通じて解決したいテーマ、「生き方そのもの」とデザインという仕事を直接つなげていく。そういった挑戦のようにも感じました。


そうですね。ただ、もちろんはじめから「事業をつくっていこう」と考えていたわけではありません。悩みに悩んだ末に決めたことでもあって。

ここまで築いてきた知名度だったり、キャリアを捨てるような感覚、もったいない感覚は…正直、すごくありました。たとえば、NewsPicksを知っている方には自己紹介などで良い反応をしてくださることは多いですし、それを失う怖さはありました。

ただ、今やっておかないとやれないことでもある。30歳を節目に考えていて、それまであと3年。今やるしかないという気持ちはありますね。


― 本日、一貫して「デザイナーは世の中や社会の課題を解決していく存在であるべき」というお話だったかと思います。そこには甲斐さんの原体験も?


原体験は、東日本大震災ですね。ボランティアにいったのですが、かなり悲惨な被災現場を目の当たりにして。でも、当時はデザインの勉強を始める前だったので、僕には何もできないし、だれも救えないと痛感して。何者でもない自分が許せないというか、苦しい時期でもあって。なにか武器を持たないと本当になにもできないまま終わってしまう。やばいなっていう強烈な危機感を持ったんです。

だから、デザインに出会ってから、もう無我夢中で。時間さえあれば自分のポートフォリオをつくったり、IT企業でアルバイトしたり、インターンしたり。

たぶんその経験が今につながっていて。自分が本当に解決したいと思える課題が目の前にある。今がそれに取り組む時期なんだって気づいた感じですね。

…中二病満載なんですけれど、中学からずっとロックバンドになりたいと思ってきて、今でも思っているのですが(笑)今、ある意味でようやくバンドを、ロックをはじめられたような感覚があるんです。

僕なりのロックバンドの定義って、自分たちの表現で、自分たちの価値観・考え方を、世の中に問う行為のことで。ロックバンドが叫んでいることって、社会に対するフラストレーションだったり、そうじゃないだろみたいな問題提起だったり。「こうありたい」を叫んでいく。めちゃくちゃカッコいいじゃないですか。

そこに感化されてきた人間だし、そういった意味でデザインでやろうとしていることはロックと全く同じなんです。気づいてしまった課題があるから、それに対して吠えていきたい。またそこから感化され、「事業からデザインしたい」というデザイナーを増やしたい。自分にとってデザインの在り方として、こっちのほうが正直で。良い意味でブレーキをかけず、魂をむき出しで「デザイン」をしていきたいですね。


文 = 野村愛


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから