DeNAのWebデザイナーとして活躍する”Pちゃん”こと藤原慎太郎さん(21)。過去には不登校、引きこもり、大学中退を経験。人とは少し違う道を歩んできたといっていい。キャリアのはじまりは、15歳。まったくの未経験から「Webデザインの世界」への扉を開いたことだったー。
学校に通わず、自ら学び、働き、生き方を決めていく。
「これからのキャリア」について考えるとき、こういった道があってもいいのだと思う。高校・大学への進学はあたり前? 大卒じゃないと一流にはなれない? みんなが思う「普通」は、本当にそうあるべきこと?
そんなことを、今回取材させてくれた「Pちゃん」こと藤原慎太郎さんは感じさせてくれた。彼は不登校、引きこもり、大学中退を経て、20歳でDeNAで働きはじめたデザイナー。現在、新規アプリのデザインを一任されるなど、若手有望株のひとりだ。
一見、逆境を乗り越えてきた苦労人、つらい過去を乗り越えて…というわかりやすい物語で括られてしまいそうな彼。ただ、歩んできた道を悲観したりはしない。何よりもただただ楽しそうに「デザイン」の仕事へと向かう。
彼はどのようにして「デザイナー」という生き方を見つけたのか。Pちゃんの足跡から、自ら生きる道を選び取るということ、一歩踏み出す勇気について考えてみたい。
― はじめに学校に行かなくなった理由から伺ってもよろしいでしょうか?
じつは…わかりやすい物語がなくてすみません(笑)。不登校といっても、いじめが原因ではないんですよね。若干荒れていた京都の学区だったんですけど、いわゆる不良みたいな人たちがクラスの中心にいるような学校だったんですね。彼らが醸し出す雰囲気にものすごくストレスがあって。不登校っていうか、学校へ行くことを辞めた。中3のときですね。
気持ち的にはラクになったのですが…実際に辞めてみると「社会のレールから外れてしまったかも…?」という気がして、やはりツラい部分がありました。
それまで成績は学年でトップクラス。唯一のアイデンティティであった勉強を失ったことで急に不安になってしまって。半年くらいは家に引きこもっていましたね。
その間やっていたことといえば、寝て、ネットやって、プラモをつくって、また寝る…という生活。まわりが「受験勉強」と騒いでいる時なのに、僕は勉強していないし、学校にも行ってないから内申点が低いんですよね。だから、高校進学も半ばあきらめていました。
結局、通信制高校へと進学したのですが、同じ地域なのでやっぱり学校が荒れている(笑)中学校と同じ理由であまり学校へ行かなくなるんだろうな…と考えていました。「だったら今のうちに、手に職をつけよう」と思ったんです。
― そのまま腐って引きこもらなかった…?
そうですね。どうやって生きていこうかな?と、わりと現実的に考えていたと思います。…で、何ができるか考えた時に「Webデザインがいいかもしれない」と思ったんです。
趣味でつくったプラモデルをネットオークションで売ったり、告知用にブログを運営したりしていたから、HTMLやCSSの基礎知識はあったし。何よりWebってすごく楽しいと感じていました。だから、Webデザイナーという選択は、すごく自然だったと思います。
ちょうど、地元で未経験OKのデザイナーを募集しているデザイン会社を見つけたので「僕を働かせてください」ってメールを送ったんです。高校にも通っていない15歳が応募してきたわけですから、むこうも驚いていましたけどね(笑)。調べてみたら15歳でも4月1日以降であれば働けるみたいで。向こうも「いきなりの正社員は無理だから、まずはインターンからどう?」ということで、さっそく働き始めることになりました。
― ちなみに、通信制高校は辞めてしまったのでしょうか?
いえいえ、籍はおきつつ、それなりに通っていました(笑)ただ、通信制高校って偏差値がつかないんですよ。偏差値ランキングを見ると、偏差値30の高校には「30」って書いてあるのに、通信制高校って「ー(ハイフン)」なんです。これじゃあ大学進学もムリだろうなと半ば諦めていましたね。
なので、高校2年くらいの時にはフリーのデザイナーとしても働いていた。「自分にはデザインしかない」と言えるくらいになりたかった。デザイナーとしてもっともっと経験値を積みたいと思っていましたね。
もちろん「お客様に恵まれたから」というのも大きくて。近所の歯医者さんとか商店街の花屋さんとかのホームページ制作を多く担当させていただけた。ありがたいことに、インターン先のデザイン事務所に「フリーでやりたい」と話をしたら、いろんなお客様を紹介してくれた。本当にありがたくて、いつかちゃんと恩返ししないとですね。
― 10代ですっかり自立していますね。当時、収入としてはどれくらいあったのでしょうか?
学校のテストのある月は5〜10万円くらい、がっつり働いた月は20〜25万円くらいですね。
― その頃にはもう「Webデザイナーとして生きていく」と決めていた?
そうですね。ちょうど高3のときにTwitter経由でJAYPEGというポートフォリオサイトを運営しているFICCという会社の人が声をかけてくれて。「よかったらウチでアルバイトしてみない?」って。めちゃめちゃ嬉しくて、迷うことなく決めました。
当時は今と比べてTwitterの投稿も意識が高くて(笑)技術情報とかネタをRSSで集めてTwitterでつぶやいていました。それが良かったのかもしれません。
― そこからは、Webデザイン1本で?
じつは大学にも一度、進学しているんですよね。大学主催のプログラミングコンテストで入賞した実績があったので、AO入試で。大学を卒業すれば、僕にとって「負の遺産」を帳消しにできる感覚があって。世の中的に最終学歴で見られるのは悔しい。
でもまあ…2年で退学してしまった(笑)。一番の原因としては勉強についていけず、単位が足りなかったんですよね。あとは親が離婚することになり、経済的な理由があったり、あまり大学の勉強がおもしろくないと感じていたりもして。40個近く必修科目のなかで、興味あるのは4〜5個くらい。通って意味あるのかなって。
当然、もったいない気持ちはゼロではありませんでしたが、勉強も性に合わないし、お金もない。しかも、仕事は相変わらずすごく楽しかった。腹を括って社会人として働くことを決めました。
― その後、FICCを経て、DeNAに入ったのが2016年10月ですよね。どういった経緯があったのでしょうか?
とても不思議なのですが、これもブログ経由で。実は親の離婚が少し関係しています。当時のモヤモヤや苛立ちをブログにぶつけたら、元FICCで現DeNAのフロントエンジニアの方がたまたま見て、声をかけてくれたんです。「社会人やるならDeNAでインターンしてみない?」って。
めちゃめちゃ嬉しかったですね。DeNAは最強のクリエイターたちが所属しているイメージが強かったから、声をかけてもらえて感激でした。まさか、と。
仕事も、事業会社でサービスデザインに関わることにすごく興味があった。願ってもないチャンスだと思いました。こう思うと、いつも人生の岐路はTwitterかブログですね(笑)。
― ちなみに、来年以降、同年代の方々が大卒でDeNAに入社してきたり、同じ土俵で仕事をしていくことになったり。違う道を歩んできた同世代と仕事をするわけですが、どう捉えていますか?
単純に、絶対に負けられないですよね。負けたらカッコ悪すぎる(笑)。この2年でできるだけ経験と実績を積み、同年代たちが入社したとき、手が届かないレベルにいたい。
大学卒業している人たちは「学問」としてプログラミングやデザインを学んできている。数年後に負けないように、今のスピードを緩めることなく、成長したいと思います。
もうひとつ「もっと成長していきたい」と思うのには理由があります。そもそも今いただいているお給料は、まだまだ自分の身の丈に合っていると思えなくて。ちゃんと会社で実績を残したい。それまではアパートにしても、家賃の安いところでいいし、勉強をしていく身だと思っています。
― ちなみに今の家賃でいうと?
3万円です。お風呂はなく、コインシャワー。…冬はめっちゃ寒くて、これからの季節ちょっと鬱ですね…。
― すごくストイックですね。余ったお金は勉強代に?
それもありますね。アルバイト時代よりもお金が自由につかえるようになって。技術書が気軽に買えたりするのは嬉しいですね。
― 最後に伺わせてください。自分の力でキャリアを切り拓くために大切なことは何だと思いますか?
発信し続けることだと思います。今の僕があるのは「インターネットがあったから」のひと言に尽きます。特に引きこもりになると、社会との接点がなくなってしまう。でも、インターネットを活用すればそれほど高いリスクはなく、外との接点を持つことができるわけです。
同時に、デザイナーの場合、いくらTweetがおもしろくても、アウトプットがイマイチだと評価が下がってしまう。本来なら自分のアウトプットをSNSに載せられればかっこいいんですけど…残念ながら僕はまだできていません。
それでもやっぱり発信したほうがいい。僕は普段どおりの自分でインターネットをやっていて、つながった人たちが引き上げてくれた。だから、別にカッコつけず、ありのままでいいんだと思います。
(おわり)
文 = 田中嘉人
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